[管理番号:563]
性別:女性
年齢:27歳
質問です。よろしくお願いします。
まずは病状から説明させて下さい。
2014年11月に乳がん告知。
右乳房しこり2.7センチ リンパ節転移あり2~3個 ステージIIb
年齢が若いこと、リンパ節に転移があること、などを考慮して術前化学療法FEC×4ドセタキセル×4をしました。
術前化学療法後、完全奏効とはなりませんでしたが、しこり2.7センチ→0.7センチ、CTの結果リンパ節転移消失となり、温存手術が可能となりました。
また、リンパ節転移が見られなくなったということで、リンパ節郭清ではなく、センチネル生検(元々転移があったため多めの5、6個)をすると言われました。
まずここで疑問なのですが、術前化学療法でリンパ転移が消失したとしても、元々転移があったのだから、郭清をするのが標準治療なのではないのですか?
そしてセンチネル生検の結果転移なしということでやはり郭清はしなかったのですが、術後の病理検査結果では、一番手前のリンパ節に3ミリの転移が認められました。しかし、その奥のリンパ節4個については転移が認められなかったため、追加手術をする必要はないと説明を受けました。
リンパ節転移消失だと思っていたので、転移が残っていたことはショックでしたが、何より元々2~3個転移があったため、郭清をしていないことが不安です。これで再発リスクが上がるということはあるのでしょうか。
もう一つ、ずっと気になっていることが。
ドセタキセル4回目以降、ずっと背中(術側肩甲骨あたり、脇センチネルのすぐ近く)が痛いのです。それが、術後に痛みを増しています。主治医に何度訴えても、2月の骨シンチでは異常がないし、転移の可能性は100%ないと、あまり真剣に受け止めてくれません。
まだ若いので増殖率が高いのではないか、転移しているのではないかと不安です。
ドセタキセルの副作用や、温存手術やセンチネル生検で背中に痛みが出ることはありますか?また、転移の可能性はありますか?
教えていただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
術前化学療法が奏功して「術前化学療法の本来の目的」である「温存術」ができた事は幸いでした。
ただ、ご本人のご指摘の通り「術前化学療法後の手術術式の選択」は標準治療を外れています。
回答
「術前化学療法FEC×4ドセタキセル×4」
⇒サブタイプの記載がありませんが、(術後のホルモン療法の記載もないので)トリプルネガティブでしょうか?
「しこり2.7センチ→0.7センチ、CTの結果リンパ節転移消失となり、温存手術が可能となりました」
⇒これが幸いでした。
そもそもの「年齢が若いこと、リンパ節に転移があること」が理由であるとしたら「術前化学療法の適応」には?が付きますが、
結果として「温存」ができたのであれば、『術前化学療法をした意義が十分にあった』となります。
「術前化学療法でリンパ転移が消失したとしても、元々転移があったのだから、郭清をするのが標準治療なのではないのですか?」
⇒その通りです。
担当医は「勘違い」しているのか、「標準治療とは異なった独自の考え方」があるのか…
勿論、(質問者との)十分なコンセンサスがあれば、「全てを標準治療で行う」必要は無いのですが…
通常は「もともとリンパ節転移が存在していた」範囲は最低限郭清します。(本来センチネルリンパ節生検の適応はありません)
レベル1までで、いいのかレベルⅡまで郭清すべきかは(化学療法前の時点での画像で)判断します。
「センチネル生検の結果転移なしということでやはり郭清はしなかったのですが、術後の病理検査結果では、一番手前のリンパ節に3ミリの転移が認められました」
⇒「迅速病理診断」の精度にも問題ありそうです。
3mmというのは「macrometastasis=肉眼的転移」です。これを術中迅速で見逃すのは?がつきます。(micrometastasis=微小転移ならまだしも)
「何より元々2~3個転移があったため、郭清をしていないことが不安です。これで再発リスクが上がるということはあるのでしょうか。」
⇒「標準的な治療とは異なるため、データはありませんが」殆ど影響は無いと思います。
今回「センチネルリンパ節生検」とは言っていますが、実際に「5個」も取ったのであれば「実質的には郭清と大差ありません」
主治医の頭の中には(元々転移があったため多めの5、6個というコメント通り)「センチネルリンパ節生検とはいえ、転移のあった部位まで最初から郭清する」感覚だと思います。
「ドセタキセルの副作用や、温存手術やセンチネル生検で背中に痛みが出ることはありますか?」
⇒手術の影響だと思います。
腋窩郭清すると、郭清範囲は「実際は肩甲骨にかなり近い」ため「肩甲骨の裏側が痛い」というような訴えが時々あります。
今回も「センチネルリンパ節生検とは名ばかり」で「腋窩郭清となっていそう」なので、「腋窩の操作が原因」だと思います。
ドセタキセル終了後以降とありますが、「ドセタキセルの影響」については思いつきません。
「転移の可能性はありますか?」
⇒ありません。
そもそも最初の時点で「ステージ2b」であり、その後ケモも奏功しているこの時点で「骨転移を心配」する必要はありません。
手術(腋窩操作)の影響と思います。
質問者様から 【質問2 病理結果/再発について】
田澤先生、こんにちは。
先日は丁寧なご回答をありがとうおざいました。
標準治療からは外れているものの5個リンパをとっていることで郭清とは大差ないこと、再発リスクが上がるわけではないこと、そして背中の痛みについて転移の可能性がないとはっきり言っていただけたこと、大変嬉しく、安心しました。ありがとうございます。
サブタイプについて、今日病理結果が分かりましたのでご報告させていただきます。
ER 90% PgR 90%
HER2陰性
Grade1
リンパ管侵襲 ly0, 静脈侵侵 v0
ki67はまだ分からないのですが、グレードが1なので低いだろうとのことでした。
これから放射線治療、ホルモン治療に入ります。
前回質問させていただいた背中の痛みのように、体に普段はない痛みや違和感があると、すぐに再発転移を疑ってしまいます。まだ手術したばかりだというのに、怖くて怖くて、毎日つらいです。
術後の病理ではki67やグレードは低かったですが、これは、術前化学療法の結果、低いものだけが残ったということですか?
半年前の告知時、細胞診の結果、ki67が高いと言われたことを覚えていて(当時は何が何だかさっぱり分からず聞き流していましたが)、本来はki67もグレードも高い癌だったのだろうなと思います。
このようなことや、温存手術であること、リンパへの転移、サブタイプ、年齢などを全て含めた上で、私の再発リスクは高いのでしょうか。
35歳以下の乳がんは増殖スピードが速い、再発リスクが高い、などとネットで見ることが多く、とても不安でいます。
田澤先生、大変お忙しいかと思いますが、またご回答いただければと思います。
よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「luminal type」だったのですね。
「様々な症状が、全て転移なのでは?と気が気でない」というのは皆さん共通の感覚です。
時が解決するのですが、暫くは仕方が無いとは思います。
回答
「術後の病理ではki67やグレードは低かったですが、これは、術前化学療法の結果、低いものだけが残ったということですか?」
⇒その通りです。
術前化学療法後には、しばしば見られます。
「温存手術であること、リンパへの転移、サブタイプ、年齢などを全て含めた上で、私の再発リスクは高いのでしょうか」
(化学療法前)cT2(27mm), cN1(2~3個), cStageⅡA ⇒(化学療法後)ypT1b(7mm), ypN1a(1個), luminal A ですね。
⇒それほど高くはありません。
きちんと(化学療法により)ダウンステージしているし、luminal typeです。
「35歳以下の乳がんは増殖スピードが速い、再発リスクが高い、などとネットで見ることが多く、とても不安でいます。」
⇒ネットの情報には不正確や「真実のごく一部」しか(意図的かどうかは別として)伝えていないものが多く注意が必要です。
現在の考え方では「若年者乳癌が予後が悪い」訳ではなく、若年で発症するものの中に『予後不良群であるBRCA変異乳癌(家族性乳癌)が含まれているから全体として数字が下がっている』と解釈されています。
実際にBRCA変異乳癌は「家族性乳癌の大部分」を占めており、「トリプルネガティブである事が多い」事が解っています。
その意味では質問者の場合は「27歳ですが、luminal type」であり、「BRCA変異など予後不良群には該当しない」と思います。
質問者様から 【質問3 リンパ節転移の数について】
田澤先生、いつも丁寧なご回答ありがとうございます。
励みになっています。
今月の半ばから放射線治療が始まります。
先日、放射線科の先生と今後の治療の打合せを行ったのですが、そこでショックなことを知ってしまいました。
先生が「あなたの場合はの腋窩リンパ節の転移が多かったので、鎖骨にも放射線を当てましょう」とおっしゃったのです。
私は術前化学療法前のリンパ節転移は2~3個だと思っていた(そう主治医から聞いていた)ので大変びっくりし、転移数を聞いたところ、CTの画像で見る限り、少なくても4個あったと言われました。
これまで2~3個だと思っていたの が、「少なくても」4個と聞き、とても落ち込みました。今となっては、本当の数は分かりませんが…
主治医は、私が落ち込まないよう、少なく見積もっていたのでしょうか。それとも、主治医と放射線科の先生とのCT画像の見方(?)が違ったのでしょうか。
リンパ節転移数によって再発率が変わる、しかも1~3個の場合と4個以上だと再発率がぐんと上がるという情報をネットでよく見ます。実際、転移数3個までと4個以上の再発率はそんなに違うのでしょうか?
また、CTの画像で確認できる転移数と、実際開けてみたときの転移数とで違うことはあるのでしょうか?(CTの正確性をお聞きしたいのです)
それともう一つ、私は放射線は胸と脇に当てると思っていましたが、 脇には当てず、鎖骨に当てると言われました。センチネルや郭清をした脇には放射線は当てないものなのですか?また、それはなぜでしょうか。
たくさん質問してしまいました。
お忙しいところ申し訳ありません。
よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
術前化学療法前の時点で「リンパ節転移がいくつあったのか?」
意外と評価は困難です。
「CTでの評価なのか?」「超音波なのか」定められた基準は存在しません。
回答
「主治医は、私が落ち込まないよう、少なく見積もっていたのでしょうか。それとも、主治医と放射線科の先生とのCT画像の見方(?)が違ったのでしょうか。」
⇒(想像でしかありませんが)
「見方(評価)」が異なっていると思います。
「腫れている」リンパ節が「転移なのか ?それとも反応性なのか?」判断は(微妙なものは)医師によって異なります。
「転移数3個までと4個以上の再発率はそんなに違うのでしょうか?」
⇒一般的には、そこで区切ります。
ただし、3個と4個で違いがあるわけではなく「どこかで線引き」をしなくてはならないのです。
「CTの画像で確認できる転移数と、実際開けてみたときの転移数とで違うことはあるのでしょうか?」
⇒あります。
「反応性腫大」と「転移性の腫大」の区別は画像診断では困難なのです。
○術後の病理診断でのコメントは無いのでしょうか?
通常「もともと転移が存在⇒化学療法により転移が消失」したリンパ節は「顕微鏡」でみればわかります。
親切な「病理医であれば」そのようなコメント「化学療法の影響で転移が消失したと思われるリンパ節が○個あります」をするのですが…
「私は放射線は胸と脇に当てると思っていましたが、脇には当てず、鎖骨に当てると言われました。センチネルや郭清をした脇には放射線は当てないものなのですか?また、それはなぜでしょうか。」
⇒腋窩には通常照射はしません。
腋窩は「手術で摘出=郭清」が原則だからです。
腋窩に照射する場合がある とすれば、「転移したリンパ節が残存している可能性を考えた場合だけ」です。」
♯腋窩に照射すると「浮腫」や「神経障害」など後遺症の問題があるからです。
○かけるべき部位は「乳腺(全摘後なら)胸壁」+「鎖骨上リンパ節領域」です。
♯ 質問者のいう「鎖骨」とは「骨にかけるわけではなく」鎖骨上という意味です。
これは、(リンパ節を摘出した)『その先を照射する』という目的です。