[管理番号:628]
性別:女性
年齢:46歳
質問者様の別の質問質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。 |
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田澤先生
はじめまして。
このQ&Aを拝見させていただき、先生のご丁寧な回答を色々と参考にさせていただいております。
この度、乳癌という診断を受け、このQ&Aの中では探せなかった内容があり、質問させていただくことにしました。
宜しくお願いいたします。
針生検及びMRIの検査結果は以下の通りです。(CTはまだ行なっていません)
病理組織診レポート
Invasive ductal carcinoma,left breast,needle biopsy
area=upper-outer(C),NG(1),ER(8),PgR(8),HER2(1),Ki-67(14.0%)
核異型スコア2、核分裂スコア1(1/10HPF),核グレード1
ER:Alired PS5 IS3 TS8,PgR:Allred PS5 IS3 TS8 HER2:score 1,強陽性0%,中等度陽性0%,弱陽性10%
Ki-67:14%
波及度:g,f in situ ca-,石灰化-
組織学的に異型細胞が不定形の胞巣状性、主に索状に間質浸潤する所見を認めます。
ごく一部ですが脂肪織浸潤を認めます。
MRIレポート
左乳房上外側C領域に、約1.7×1.4×1.1cmの不整形腫瘤を認める。境界不明瞭でリング状濃染を呈し、fast-persistentパターンをとる。DWIでもリング状に高信号を呈する。2年前よりしこりを自覚していたと言う点は気になるが、MRI上は浸潤癌の像である。
この腫瘤の乳頭側主体に結節状の染まりが多数連なっており、区域性分布を呈する。最大のもので約1.0×0.7×0.6cm。一部はDWIで高信号で、fast-plateauパターンを取る。娘結節や乳管内成分を見ていると考える。全体ではおよそ2.6×4.1×3.5cm、放射状方向に4.8cmほどの範囲である。MIP増正面で見ると乳頭を中心に40°ほどの広がりである。乳頭までは十分保たれている。
撮像範囲内に優位なリンパ節腫大は認めない。
質問①
サブタイプはルミナールAということになりますか?
質問②
担当医からはおとなしい癌と言われましたが、娘結節部分を含めると5cmくらいの広がりのようですが、おとなしい癌なのに、こんなに広がるものなのでしょうか?
ステージを決める際のしこりの大きさは5cmと考えるべきですか?
転移の可能性もありますか?
質問③
今後の治療について、大きさから全摘及び再建を考えていますが、抗がん剤の必要性はあると思われますか?
質問④
勤務地から近い病院で上記の結果となったのですが、その病院では7月末手術となります。
しかし、術後の通院(万が一抗がん剤となった場合)を考えますと家から通いやすい病院の方が良いと思い、別の病院での診察を考えています。そうなると手術日が先になってしまうと思うんですが、癌の広がりはどのくらいの期間で進行するのかが不安です。
先生のご意見をお聞きしたいです。
突然たくさんの質問で申し訳ありませんが、宜しくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
詳細な針生検のレポートとMRI所見のお陰で、私には「手に取るように」状況が解りました。
「ごく一部ですが脂肪織浸潤を認めます」
⇒(この表現は)裏を返せば、「殆どが(脂肪織まで浸潤せずに)乳腺内に留まっている」という事です。
回答
「サブタイプはルミナールAということになりますか?」
⇒その通りです。文句なしのルミナールAです。
ER陽性、PR陽性(どちらもAllred scoreで満点)、HER2陰性
Ki67=14%
♯何処から、どう見てもluminal Aです。
「担当医からはおとなしい癌と言われました」
⇒大人しい癌です。
大人しい癌の理由は
・核グレード(NG)1である。
・luminal Aである。
「娘結節部分を含めると5cmくらいの広がりのようですが、おとなしい癌なのに、こんなに広がるものなのでしょうか?」
⇒「大人しい」ことと、「拡がる」ことは全く別次元の言です。
つまり「大人しくても」時間をかければ「広範囲」に拡がるし、
逆に、「激しくても」最初の段階で見つかれば「小範囲」となります。
○「癌細胞の性質(大人しさ)」と「進行度(ステージ)」は全く無関係なのです。(大人しくても時間をかければ進行するし、激しくても早く見つかれば早期となるのです)
○ただし、今回の質問者の状況が「進行している」訳ではありません。
あくまでも「非浸潤癌」として(長い時間をかけて)ゆっくりと『乳管内を拡がった』と思われます。
その過程で、ところどころが「浸潤している」状態です。(例えれば、木々が芽を出すような感じです。 枝が非浸潤部分で芽が浸潤部分のようなイメージ)
○まだまだ「最大浸潤径」は小さく、「十分に早期」です。
○質問者の癌は「非浸潤癌として乳管内をゆっくり比較的広範囲に」拡がった上で、ところどころで浸潤巣を形成
この浸潤巣はmain tumorである1.7×1.4cm(この全てが浸潤とは限りませんが…)の他に「全体ではおよそ2.6×4.1×3.5cm、放射状方向に4.8cmほどの範囲」に娘結節として存在している訳です。
♯ 娘結節とはmain tumorと全く別の腫瘍ではなく、非浸潤癌(乳管内病巣)として(main tumorと)連続している筈です。
「ステージを決める際のしこりの大きさは5cmと考えるべきですか?」
⇒違います。
「全体ではおよそ2.6×4.1×3.5cm、放射状方向に4.8cmほどの範囲」というのは、あくまでも「非浸潤癌(乳管内病変)」としての拡がりの範囲です。
ステージを決める際の「腫瘍径」とは「浸潤部分の大きさ=最大浸潤径」となります。
質問者の場合はmain tumorである17mmが今のところそれに該当します(最終的には、病理診断で最大浸潤径として記載されます)
「今後の治療について、大きさから全摘及び再建を考えていますが、抗がん剤の必要性はあると思われますか?」
⇒全摘出は賢明な判断だと思います。
抗がん剤の必要性はありません。
おそらく、pT1, pN0, luminalAであり、ホルモン療法単剤の適応です。
「癌の広がりはどのくらいの期間で進行するのかが不安です。」
⇒心配はありません。
質問者の場合は「極めてゆっくりとした進行」のものです。
全く問題ありません。
質問者様から 【質問2 同時再建について】
田澤先生
検査結果についてのご丁寧な回答、有難うございました。
わからなかった部分を理解することができたことと、田澤先生からも大人しい癌であるというお言葉をいただき、気分がすっきりしました。
(4.8㎝の広がりということが頭から離れないでおりました。。。)
追加で質問させていただきたいのですが、同時再建と2次再建について、悩んでいます。
同時再建、2次再建のメリット・デメリットを教えていただきたく、形成外科の範疇になってしまうのかもしれませんが、田澤先生のご意見をお聞かせいただけませんでしょうか。
よろしくお願いいたします。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「乳管沿いに比較的広範囲の乳管内病変を主体とした拡がりをもつ、大人しい(NG1, luminal A)乳癌」で全摘を選択されていると思います。
回答
「同時再建、2次再建のメリット・デメリット」
今回は「シリコンインプラント」による再建を前提としてお話しします。
○同時再建のメリット
・手術回数を1回減らせる(乳癌手術と組織拡張器留置を今回同時に行うので、次回はシリコンインプラントへの入れ替えができる)
・乳房の喪失感が(やや)緩和される(術後最初から、膨らみがいくらかある)
●同時再建のデメリット
・治療が制限される 「リンパ節転移があった場合に、放射線照射をしたくても、できない」★
○2次再建のメリット
・治療に制限がない(放射線照射など必要な治療を全て行える)
・再建の仕上がりに満足し易い(一度、膨らみの無い状態を経験するため、再建後の仕上がりにも満足し易くなる)
●2次再建のデメリット
・手術回数が1回多い(乳癌手術⇒組織拡張期留置⇒シリコンインプラント入れ替え)
・乳房喪失感を暫く味わう事となる。
★については、組織拡張器の状態では放射線照射はかけないが、「数か月(おおよそ8カ月位)」して「シリコンインプラントへの入れ替え後」に放射線照射をしている施設も増えてきています。
放射線照射が結果として数カ月(8カ月)遅れることのデメリットについては確かなエビデンスはありません。
「術後放射線照射が必要なケース」は「術後化学療法を行うケース」が多いので、「放射線照射開始の遅れ」はそれ程は無いとも言えます。
○「同時再建」のキモは「放射線照射の可能性=リンパ節転移の可能性」を術前画像診断で予測する事です。(質問者の場合には、超音波でどうなのでしょうか?)
質問者様から 【質問3 術式について】
田澤先生
こんにちは。
先日は再建についての回答ありがとうございました。
家から通いやすい病院に転院し、以前の病院で行っていない検査を何項目か行いました。
今のところリンパへの転移は無いということですが、エコーで反対側に6ミリほどの何かがあり、細胞診の結果待ちです。
結果が問題なかった場合は手術先行と言われています。
ここまで来て少々考えさせられることがありまして田澤先生のご意見をいただければと思いメールさせていただきました。
以前の病院で、私の、癌は取りやすいところにあるから全摘出ではなく温存で行けると言われました。転院先でも温存可能と言われました 。
しかし、広がりが大きいことと、良性とはいえ石灰化があることから、全摘出という方向でも考えたいと主治医に伝えました。
次回、すべての結果が出るときまでにがんがえましょうということになっていますが、
おとなしい癌だからといって、再発リスクが低いとは言えないですよね?
反対側に何もなかったとしたら、全摘出後、ホルモン療法しながら再建を考えるという選択はどう思われますか?
喪失感がどのくらいのものなのか計り知れませんが、癌宣告や再発転移宣告の方が辛いと思うんです。(癌宣告後の、ストレスからか生理が遅れていますし)
長々すみませんが、自分の決断がサバサバしすぎなのか不安になりました。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「術式」についてですね。
回答
「全摘出後、ホルモン療法しながら再建を考えるという選択はどう思われますか?」
⇒賛成です。
局所再発に対するリスクや、術後放射線の回避などを優先するのであれば 「乳房切除」の選択は間違っていません
○自分にとって「本当に再建が必要か?」をじっくり考えてらの再建(2次再建)には賛成です。
本来「治療」と「美容」は目的を異とするものなのです。
質問者様から 【質問4】
田澤先生
こんにちは。
針生検の結果について教えてください。
転院し、以前の病院からプレパラートを持って行き再度調べていただいたところ、
以前の病院の結果と異なる結果が出ました。
以前はHER2(1)となっていたのですが、今回HER2 2+となりました。
Ki67は以前は14%、今回は5%でした。
ホルモン感受性は両方とも90%でした。
ルミナールAと思っていたのが、Bになってしまったのかとショックを受けています。
主治医曰く、以前の病理結果と違っているが、術後の病理検査で再度確認しましょうと
いうことです。
同じ組織でも異なる結果が出ることってあるのでしょうか。
抗がん剤無しで行けると思っていたのでショックです。
田澤先生から 【回答4】
こんにちは。田澤です。
「同じプレパラート」であっても、それを見る「病理医」によって評価が多少異なるのは仕方が無い事です。
回答
「ルミナールAと思っていたのが、Bになってしまったのかとショックを受けています」
⇒何か勘違いをされている様です。
メール内容から判断すると、ご本人が「そのように思った」理由は「以前はHER2(1)となっていたのですが、今回HER2 2+となりました」という点ですか?
これは「誤り」です。
HER2 2+は「FISHで確認が必要」です。(おそらく増幅無し:ネガティブとなるでしょう)
♯今回、担当医がそれをやらない理由は「術後の病理検査で再度確認しましょう」という事のようです。
もしも、「術後の病理結果でもHER2 2+であったなら」今度は間違いなく「FISHをする筈」です。
○Ki67も低値だし、質問者は(現時点では)ルミナールAのままです。
「同じ組織でも異なる結果が出ることってあるのでしょうか」
⇒病理医によって、「ある程度の差」があるのは珍しくありません。
特に「免疫染色の評価(今回でいえば、HER2とKi67)」は「病理医によって多少は判定が異なる」のが普通です。(器械では無く、あくまでも人間の目での評価なのです)
質問者様から 【質問5】
田澤先生
本日、術後の病理結果が出まして、検査時の結果とはかなり違っていたため、少々ショックをうけました。
しかし、結果が出た以上はやるべき治療をやろうと前向きに考えることにしました。
全摘を考えていましたが、優柔不断になり、温存しました。
結果ですが、硬癌 NG2 T2 N0 ly0 v0 断端陰性 ステージⅡA (最大浸潤径は37㎜)
ホルモンは両方90% HER2はFish検査中 KI67 50%
でした。ルミナルBですよね。(もしかするとハーツータイプ)
グレードとKI値が生検の結果より悪くなりました。
提案された治療はFEC×4回、放射線、ホルモン療法5年と言われました。Fishの結果と抗がん剤投与可能かどうかの検査(心臓等)後に今後の方針を決めることになっています。
おとなしいと思っていたものが、ヤンチャだったことはショックですが、転移が無かったということを良しと考えて治療にあたろうと思っています。
この治療内容の提案はどう思われますか?
田澤先生おすすめの治療はありますか?
治療後の再発率はどのくらいになりますか?
お忙しい中恐れ入りますが、よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答5】
こんにちは。田澤です。
術前針生検の結果と術後病理結果での相違点は
NG1⇒NG2
Ki67 5%⇒Ki67 50%
○これは「針生検があくまでもサンプリング検査であること」に依ります。
やはり、Ki67は「術後に病理標本で全体の中で評価すべき」であることが、わかります。
回答
「FEC×4回、放射線、ホルモン療法5年」
⇒ルミナールBである以上、化学療法はした方がいいでしょう。
ただしFECx4回というのは、やや意外でした。
FECの(E:ファルモルビシンはアンスラサイクリン)ですが、現在では「アンスラサイクリン単独」はあまり行われないように思います。
TC(タキサン系)もしくは、EC(アンスラサイクリン)+DTX(タキサン)が用いられることが多いです。
私であれば、TCを選択するでしょう(EC+DTXはハイリスクor トリプルネガティブに選択)
○(温存乳房)照射もホルモン療法(タモキシフェン)5年も当然行います。
「治療後の再発率はどのくらいになりますか?」
⇒16.4%です。
化学療法による「上乗せ」も14%程度ありますから、頑張ってください。
質問者様から 【質問6】
田澤先生
こんにちは。
回答ありがとうございます。
「あまり数字に振り回されないように」と先生が何人かの方に回答されていましたが、やはり気になって質問してしまいました。。。
ひとつひとつ治療をこなしていきたいと思います。
また、お忙しいのに連日の質問ですみません。
抗がん剤の種類について当サイトで探しきれなかったので質問させていただきます。
FECがやや意外とのことですが、TCと比較した場合、何が異なるのか教えて頂けますか?
それと、もしFISH陽性だった場合、現在提案されている治療(FEC→放射線→ホルモン療法)にハーセプチンが追加になるだけなのか、違う抗がん剤もプラスされるのか教えて頂けますか?
よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答6】
こんにちは。田澤です。
回答
「FECがやや意外とのことですが、TCと比較した場合、何が異なるのか教えて頂けますか?」
⇒有効性が違います。
以前、私がコメントした下記を参照してください。
アンスラサイクリンとして歴史的には、かつてFEC(100)x6が全盛期を迎えた事がありました(それで、いまだにFECをやる施設や文件では多く登場します)
以下の2つの臨床試験の結果が大きく潮流を変えたのです。
①TCx4 > ACx4 ○TCの方がACより優れていた(USオンコロジー9735)
②ACx4 = FECx6 ○AC4クールとFEC6クールの比較では同等であった(NSABP B-36) ♯しかも副作用はFECが強い
この結果より、わざわざFECを6回する必要があるでしょうか?
この潮流は、アメリカを主とする「脱アンスラサイクリン」が影響しています。
(心臓病がもともと多いアメリカ人にとって心毒性のあるアンスラサイクリンを避ける動きは明白で)「脱アンスラサイクリン⇒タキサン中心への流れ」ができています。
ただ、「アンスラサイクリンが未だにタキサンと並ぶkey drugである」事も事実です。
副作用については、「一長一短」があり、どちらが楽とは言えないかもしれませんが…
吐き気が無い分、TCが楽かもしれません。
「もしFISH陽性だった場合、現在提案されている治療(FEC→放射線→ホルモン療法)にハーセプチンが追加になるだけなのか、違う抗がん剤もプラスされるのか教えて頂けますか?」
⇒ハーセプチン自体に「心毒性(こちらは可逆性ですが)がある」ので、組み合わされる薬剤としては「タキサン抜き」はほぼ無くなります。
- パターン① 「ドセタキセル+カルボプラチン+ハーセプチン」→放射線→ハーセプチン(単剤) ホルモン療法併用
- パターン② 「ドセタキセル+エンドキサン+ハーセプチン」→放射線→ハーセプチン(単剤) ホルモン療法併用
- パターン③ 「パクリタキセル+ハーセプチン」→放射線→ハーセプチン(単剤) ホルモン療法併用
- パターン④ 「ECもしくはACもしくはFEC」→「ドセタキセル+ハーセプチン」→放射線→ハーセプチン(単剤) ホルモン療法併用
上記①~③は「非アンスラサイクリンレジメン」であり、④は「スタンダードなレジメン」となります。