[管理番号:1488]
性別:女性
年齢:54歳
どうしたらよいかわからず悩んでいた所、先生のサイトにたどりつ
きました。お忙しい中、質問させて戴く機会を頂いたことに心より
感謝いたします。どうぞご意見をお聞かせくださいませ。
右胸 右上部に5㎝の腫瘍です
8/18 カテゴリ-5乳がんの疑い 紹介状を書いて頂く
9/ 2 初診 超音波・デジタルマンモグラフィ
9/ 9 針生検
(主治医の初診が9/25の為、先にCT,MRI検査を依頼)
9/11 造影CT
9/18 造影高分解能MRI
9/25 針生検結果・告知・HEAR2のみFISH法にて再検査
10/16 FISH法検査結果・今後の治療方針決定
10/27 腫瘍内科受診予定
11/ 5 第1回目 抗がん剤投与開始予定
☆針生検結果
・硬がん 一部微小乳頭がん
・サブタイプ
エストロゲンレセプタ- 99% 陽性
プロゲステロンレセプタ- 20% 陽性
Ki-67 30%
HEAR2 2+
→HEAR2FISH法で再検査
☆FISH法検査結果(HEAR2 陽性)
HISHスコア 2.01
平均HEAR2 4.53
(陽性判定基準)
HISHスコア ≧2.0
平均HEAR2 ≧4.0
☆今後の治療方針
化学療法(TCタキソテ-ル、エンドキサン)と
坑HEAR療法(ハ-セプチン)を3週間毎6サイクル
3回目の化学療法後に効果を確認
↓
手術
↓
抗HEAR療法(ハ-セプチン)12回、ホルモン療法、
±放射線療法
※10/16どうするかの選択に、術前化学療法を選択しました。
☆その他
・腫瘍の大きさ 触診2.5㎝、超音波5.1㎝
・あえて言うなら ステ-ジ2B
・超音波等で見た限りではリンパの腫れもひどくない。
転移の診断を言う理由は見られず。
但し切って見ないとわからず。
(超音波で右胸寄りの脇にありましたが
私も見た時形は二つに割れ掛かったものが1つ見えました)
・術前化学療法のメリット
腫瘍があると薬が効くかどうかの確認ができる。
効かない時は手術や薬の変更ができる。
腫瘍が小さくなれば温存も可能。
・術前化学療法のデメリット
腫瘍が大きくなっても手術や薬の変更ができるので特になし
・術後化学療法のメリット
なし
・術後化学療法のデメリット
腫瘍を取ってしまうので薬の効果が確認出来ない。
・HRAE2陽性の場合は術前術後どちらでも投薬する薬は同じ。
・同じであれば薬の効果が確認できる方がよい。
術前術後どちらを選択してもHEAR2陽性の場合、
同じ薬を投与するのだから術後に投与して効果がなかった場合
再発の可能性がでる。
でも術前であれば先に投与して効くか効かないか確認して
効かなかった時は対処ができる。再発の可能性が減らせる。
・今殆どが術前療法でうちの患者さんは大体術前療法です。
☆私の希望
再発しないための治療を受ける事が一番の目的で、その為胸はまっ
たくこだわらず温存せずに全摘手術をしてから化学療法等を行うの
が希望です。何カ月も大きい腫瘍があるのは不安でリンパ節への転
移も不安でとにかく全摘希望なので早く手術してしまいたいです。
主治医にもお話ししました。
以上、あまり上手くまとめられずにすみません。
①「☆その他」の主治医の先生の説明について田澤先生のご意見を
お聞かせ下さい。
②術前化学療法について
薬は効くことが前提として投与するので、術後療法でも良いと思っ
ていました。でももし、もしも効かなかった場合は術前療法なら対
処できるので、私のサブタイプ ルミナルB(進行度)という事を考
え、少しでも長生きする事を考え、術前療法を選択しました。しか
しながら術後療法の選択肢も捨てきれず、もやもやしています。
術前療法で腫瘍拡大とリンパ節転移の危険性、術後療法で薬が効い
ていなかった場合(たんぽぽの種を消せなかった場合)の再発の危
険性、この二つを天秤にかけた場合どちらが良いのか、考えれば考
える程混乱して眠れなくなってしまいました。
仮に術後療法に変更する場合、これから主治医の予約を取り(1~
2週間かかる)術後療法の依頼をして、手術の予約(6週間かかる)
をすると12月初め頃に手術となります。今の状態では11/5から
抗がん剤開始予定です。1ヵ月違います。この短い期間で私なりに
悩み勉強してきたつもりですがそれでも決断はとても難しいです。
田澤先生ならばどちらの選択をされますか?
③リンパ節への転移の個数によって余命(再発率?)が違ってくると
本で読んだのですが、主治医からは転移の事は気にしなくて良いよ
と言われました。気にしなくてよいのでしょうか?
④術前化学療法のお薬の選択について田澤先生のご意見をお聞かせ
ください。TCは予後療法に選択され再発防止に効果のあるお薬と
の印象があったのでお聞きしました。
⑤この腫瘍の大きさとルミナ-ルBでは根治の可能性はあるので
しょうか? あるとしたら目安は何%くらいでしょうか?
以上、長くなってしまい申し訳ありません。
今はとにかく治療に安心して専念できたらと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「主治医の初診が9/25の為、先にCT,MRI検査を依頼」という記載をみると「どこかの大学病院か○○センターのような病院」のようですね。
そのような病院を選択する方には、もしかすると私の考えは受け入れられないこともあるかもしれません。
その場合には、私の回答は参考にされずに、「担当医の言う事」を尊重してもらえれば幸いです。
非常に驚いた事に『今殆どが術前療法でうちの患者さんは大体術前療法』というよう
な病院で治療をしているのですから、「私のコメントは無駄に不安を煽るだけ」かもしれません。
以下の回答は、「そのような病院で治療されることになる」質問者には参考にはならないかもしれないことを、予め断っておきます。
○まず超えを大にして言いたいのは『術前化学療法のデメリットは特になし』として
いるところです。
是非、管理番号「990:AC療法が効きませんでした」「1002:術前抗がん剤中の準緊急手術」「1349:術前抗がん剤中鎖骨上リンパ節転移」をみてください。
術前化学療法が「リスクを背負う治療」であることを「一言も触れない」ことには
全く賛成できません。
何故、そうまでして「術前化学療法」をしたいのでしょうか?
まず、「術前化学療法のメリット」とやらですが…
「腫瘍があると薬が効くかどうかの確認ができる」
⇒「確認」してどうするのですか?
「効かなければ、辞めるのですか?」再発予防としては本来やるべきものは「再発予防として」きちんとやるべきです。
「効かない時は手術や薬の変更ができる」
⇒薬の変更はできません。(術前術後療法として使える薬剤はアンスラサイクリンとタキサンだけなのです。もちろんHER2タイプの方ではハーセプチンもですが)
効かないからと言って適応外の薬剤への変更(bevacizumabとかnab-PTXなどは使用
できないのです)
結局似たような薬剤への変更(PTX⇒DTX)となりますが、無意味です。
「手術への変更」とありますが、これが問題です。
抗がん剤が効かない際の「準緊急手術」は「腫瘍が増大しているのに、抗がん剤投与後3週間は(副作用により)手術できないジレンマ」が発生します。
「腫瘍が小さくなれば温存も可能」
⇒これ「のみ」が、本来の術前化学療法の適応です。
質問者が「温存を望んでいないのなら」全く無意味と言えます。
「術前化学療法のデメリット 腫瘍が大きくなっても手術や薬の変更ができるので特になし」
⇒「何だこりゃ?」です。
ふざけているのか?といいたくなります。
「腫瘍が大きくなっても」とありますが、「場合によっては、手術不能となるケース」はあります。
「薬の変更ができる」とありますが、「全て適応外」だし、「その変更した薬剤が、効果がある」と保証できるのでしょうか?
○「腫瘍が大きくなる」ということは「抗がん剤が効いていない間に、腫瘍を体に放置していた」事と同等となります。
それは(その担当医には痛くも痒くも無い事かもしれませんが…)患者さんにとっては「体に残してある腫瘍からの新たな転移の可能性」があるのです。
「腫瘍を取ってしまうので薬の効果が確認出来ない」
⇒「腫瘍が小さくなるかどうか」がゴールではありません。
初期治療における抗がん剤の意義は「術後に再発が無い事」なのです。
「術前抗がん剤で腫瘍が小さくなった=再発無」と思いますか?
そういう「目に見える効果」のために、抗がん剤は行うのではありません。あくまでも「再発させないために、(効果は見えなくても)最大限の治療を行う」ことが重要だと言うポリシーです。
「でも術前であれば先に投与して効くか効かないか確認して 効かなかった時は対処」
⇒どう対処するのですか?
適応外の薬剤を使用するのですか?(そんなものは効きません)
腫瘍が「目に見えて小さくならなかった」と言う理由で「本来投与すべき薬剤(アンスラ、タキサン)」を投与しないことが「再発予防に悪影響を与えない」と言えるのですか?
回答
「①「☆その他」の主治医の先生の説明について田澤先生のご意見をお聞かせ下さい。」
⇒冒頭でコメントした通りです。
全く「見解を異」にしています。
「田澤先生ならばどちらの選択をされますか?」
⇒私は「手術先行」を勧めます。
「主治医からは転移の事は気にしなくて良いよと言われました。気にしなくてよいの
でしょうか?」
⇒ステージを知るためには必要です。
更に言えば、「手術時に問題」となります。
「術前抗がん剤をしてしまう」と「リンパ節転移の程度が不明」となってしまいます。
♯「術前抗がん剤で無くなったのか?」、「最初から存在していなかったのか?」
必ずしも術後病理では解らないのです。
その意味では「本来ならセンチネルリンパ節生検で陰性となり、腋窩郭清を省略す
べき」症例の多くが「無駄に腋窩郭清される」ことも多いと思います。
「術前化学療法のお薬の選択について」
⇒私は、質問者のケースでは「術前化学療法は選択しません」が、やるとすれば確実
に効果が期待できる「アンスラサイクリン」⇒「タキサン+ハーセプチン」となりま
す。
♯術前抗がん剤で中途半端な治療をして「増大してしまう」リスクは極力減らさなくてはなりません。
「この腫瘍の大きさとルミナ-ルBでは根治の可能性はあるのでしょうか?」
⇒「根治の可能性が無い」と本気で思っているのですか?
乳癌で「根治の可能性が無い」ものは「ステージ4だけ」です。
ステージ4でも根治するケースはありますが…
「あるとしたら目安は何%くらいでしょうか?」
⇒不明です。
再発率の推定には「最大浸潤径」と「核グレード」と「リンパ節の状況」が必要です。
今回はその情報がないことと、「術前化学療法をすると、最大浸潤径やリンパ切除の(本来の)情報がうしなわれてします」ことになります。
質問者様から 【質問2】
田澤先生からの回答を見つけた瞬間、思わず涙が
こみあげてきました。どこにも聞く機会も得られ
ず本当に悩んでおりました。「術前化学療法のデ
メリットは特になし」についてのご回答はとても
有難かったです。デメリットはあったのですね。
怖ささえ感じました。
お忙しい中での、迅速かつ丁寧な先生のご回答
ありがとうございました。再度質問をさせていた
だく事をどうぞお許しください。
①「術前抗がん剤で腫瘍が小さくなった=再発無」と
思いますか?そういう「目に見える効果」のため
に、抗がん剤は行うのではありません。あくまで
も「再発させないために、(効果は見えなくても)
最大限の治療を行う」ことが重要だと言うポリシ
ーです。
→「再発させないために(効果は見えなくても)
最大限の治療を行う」ことが重要だと言うポリシ
ーです。
ここが術後療法でとても大切なことだと思いまし
たが申し訳ありません、もう少し掘り下げて田澤
先生のお話をお聞かせ下さい。
単純に「腫瘍」と「身体に飛び散ったかもしれない
タンポポの種」には抗がん剤が与える効果は同じで
あると思っていました。その為
「術前抗がん剤で腫瘍が小さくなった」イコ-ル「タ
ンポポの種も消滅する」と思い、無再発に近づける
のでは?と単純な考えでしかありませんでした。
先生のポリシ-は治療に対する心構えの上でもとて
も大切な事で是非勉強したいと思いました。
②くどいようですが、術前化学療法を起こなった場合
「腫瘍」と「身体に飛び散ったかもしれないタンポポ
の種」に抗がん剤が与える効果は同じなのでしょうか?
③「腫瘍が「目に見えて小さくならなかった」と言う
理由で「本来投与すべき薬剤(アンスラ、タキサン)
」を投与しないことが「再発予防に悪影響を与えな
い」と言えるのですか?
→化学療法(TCタキソテ-ル、エンドキサン)と坑HEAR療法
(ハ-セプチン)を3週間毎6サイクル3回目の化学療法後
に効果を確認する予定ですが、ここでもし化学療法が
効かずに手術する事になった場合残り3回分の投与が
中止になってしまう。その為、再発予防に悪影響を与
える可能性がある、という考え方であっていますか?
④[管理番号225:術前化学療法が先か、手術が先か。]
の中での回答の中に「術前化学療法してもいい」ケ
-ス⇒HEAR2typeこのタイプでは化学療法
の感受性が相当高いので、安心して化学療法を行え
ます(安心してとは腫瘍が増大するリスクは少ない
という事です)という記述がありました。
術前療法選択の選択肢の一つとして私をあてはめて
考えてみてもよいのでしょうか?
⑤造影CT、造影MRI、超音波、デジタルマンモで腫瘍は
5.1㎝あります。現在の病院で手術を希望した場合、
12月下旬~1月上旬になります。腫瘍が増大して
手術不能になる可能性はありますか?
こんなに時間かあいても大丈夫なのでしょうか?
又、現在リンパ節転移はないだろうと言われています
が、転移の心配はかなりあるのでしょうか?
以上 どうぞご意見をお聞かせくださいませ。
田澤先生から 【回答2】
こんにたは。田澤です。
『くどいようですが、術前化学療法を起こなった場合「腫瘍」と「身体に飛び散った
かもしれないタンポポの種」に抗がん剤が与える効果は同じなのでしょうか? 』
⇒それは不明です。
ただ、抗がん剤は「術前に行っても、術後に行っても効果は同じ」です。
更に、術前術後の用いる抗がん剤は決まっている(アンスラサイクリンとタキサン)
つまり(術前にしろ、術後にしろ)「やるべき抗がん剤をやる(アンスラサイクリ
ンとタキサン)」事が正しい。
どうせ手術で摘出する「腫瘍に対する反応」など見ても仕方がない。
例えば「術前」化学療法と「術後」化学療法を例にとりましょう。
①最初のアンスラサイクリンで「腫瘍が1/3となった」⇒タキサンへ変更したら
「腫瘍が少し大きくなった」⇒4回やるべきところを2回で終わらせて、慌てて手術を
した。
②これに対し、同じ人が「手術先行」して⇒(術後)アンスラサイクリンとタキ
サンを4回やりきった。
○これらのどちらが、予後がいいと思いますか?
①の場合では「途中で辞めざるを得なかった」タキサンの2回が「腫瘍のよう
な大きな塊には効果がなかった」としても「再発の芽となるような小病変に無効」と
いいきれますか?
また、
③最初のアンスラサイクリンで「腫瘍が1/3となった」⇒タキサンへ変更して
「腫瘍が無くなった(完全寛解)」⇒手術をした
④これに対し、同じ人が「手術先行」して⇒(術後)アンスラサイクリンとタキ
サンを4回やりきった。
「腫瘍に対して明らかな効果がない」ことと「再発予防には意味がない」こと
とは一致しないのです。
○③のように「術前化学療法で腫瘍が完全寛解した」場合には「予後良好」であ
ることが解っています。(当たり前な事です)
それでは④では、どうですか?④も「同じ抗がん剤をしている」のだから④で
も予後良好です。
「→化学療法(TCタキソテ-ル、エンドキサン)と坑HEAR療法 (ハ-セプチン)を3週間毎6サイクル3回目の化学療法後に効果を確認する予定ですが、ここでもし化学療法が効か
ずに手術する事になった場合残り3回分の投与が 中止になってしまう。その為、再
発予防に悪影響をえる可能性がある、という考え方であっていますか?」
⇒その通りです。
「術前療法選択の選択肢の一つとして私をあてはめて考えてみてもよいのでしょうか?」
⇒その通りです。
ただし、(当たり前の事ですが)効果を100%保証するものではなく、「あくまで
も確率の問題」です。
「5.1㎝あります。現在の病院で手術を希望した場合、12月下旬~1月上旬にな
ります。腫瘍が増大して手術不能になる可能性はありますか?」
⇒2カ月以上空けば「あり得る」と思います。(可能性はそれ程高くはありません)
「現在リンパ節転移はないだろうと言われていますが、転移の心配はかなりあるので
しょうか?」
⇒やはり、2カ月以上空けば「あり得ます」