[管理番号:12633]
性別:女性
年齢:47歳
病名:浸潤性小葉癌
症状:全摘手術後2週間であるが経過は順調
投稿日:2025年04月12日
【はじめ】
はじめまして。乳がん罹患して依頼、田澤先生のこちらでのご意見を沢山読ませて頂き、エビデンスに基づいた明確なアドバイスを参考にさせて頂きながらいつも勇気づけられています。今回、薬物療法の方針を決めるにあたりぜひ先生のアドバイスを頂きたいと思いますのでどうかよろしくお願い致します。
【経緯】
① 2025.1月中旬 昨年10月に健康診断の乳腺超音波で左乳腺C領域に10mmの腫瘤像指摘され要精
密検査となる。近医受診し組織針生検実施。以下病理結果。
『小型の異形細胞が索状、小胞巣状に増殖しています。E-cadherin陰性であり、Invasirt lobar carcinomaです。脂肪組織に浸潤しています。神経周囲浸潤を認めます。?』
核グレード Grade1(核異形スコア2点、核分裂様スコア1点)?
ER 85%、JSCORE:Score 3b? Allred Score TS8=PS5+IS3?
PgR 85%、JSCORE:Score 3b????? Allred Score:TS8=PS5+IS3??
HER2 1+?
Ki67 20-30%(hot spot)
② 2025.1月下旬 胸腹部造影CT、乳腺造影MRI検査実施? 以下結果
胸腹部造影CT:遠隔転移なし。腋窩、胸骨、鎖骨下、鎖骨上リンパ節の腫大なし。
乳腺造影MRI:左乳腺:超音波で指摘された部位に径約10mmの濃染像を認める。また、乳頭側にも径約5mmの濃染像を認める。
さらに、微小濃染像が複数個認められる。右乳腺:微小濃染像が複数認められる。
③ 2025.2月中旬 MRIで指摘の乳頭側約5mmの腫瘤像に対し針生検をすべくsecond lookとして乳腺超音波を試みるも同定出来
ず(検査技師実施)。
④ 2025.3月中旬 セカンドオピニオンした病院で左乳房全摘術実施。センチネルリンパ節転移が認められ、第1領域腋窩リンパ
節郭清実施する。以下手術標本の病理結果です。
(主治医記載事項)
1.病変size 5.0×4.0×1.3cm
2.浸潤径 1.0×0.6×0.5cm
3.広がり 乳腺-脂肪
4.リンパ管侵襲 0
5.脈管侵襲 0
6.リンパ節転移1/12
7.断端(取り残し)(-)
8.核異型度 1
9.ER (+++)
10.PgR (+++)
11.HER2 (-)
12.ki67 5%
(主治医説明)
手術標本の黒丸(PC上の病理画像に黒丸で囲まれている箇所)は転移する能力の無い癌の部分、赤い丸( 同:赤丸で囲まれている箇所 )が浸潤という転移する能力のある癌である。転移する能力のある癌はとても小さい。黒丸部分の範囲は5×4×1cm。赤丸部分の範囲は1cm、0.6cmと二つだけ。小さいので腫瘍径ステージT1ということになる。癌のタイプは術前と変わらない。
Ki67が今回5%なのは減ったというわけではない。全体の平均が5%ということ。浸潤癌の高いところもあるが全体としては5%。基本一番高いところでみることになっているが、術前の針生検では取ったところが特殊なところだったようだ。手術標本では全般的に5%であった。迷うのであればオンコタイプDXを行ってもよい。全身療法についてはホルモン療法は必須として、抗がん剤については閉経前の人は腋窩リンパ節に転移があったらやっといた方がいいかなというのが一般的な見解ではあるが後日腫瘍内科と相談して決めて下さい。
結果としてオンコタイプDXを実施することになり、4月下旬にその結果とともに抗がん剤について腫瘍内科専門医と相談することになった。因みにオンコタイプDXについて医師は当初乗り気ではなかったようだったが、セカンドオピニオン時および初診時にこちらから希望はその都度伝えていた。
放射線治療についてはリンパ節転移1個、そしてリンパ管および血管侵襲がないのでいらないと考える。意義があまりない。
【質問.1】MRIで指摘の右乳腺の微小な濃染像について
担当医からは現状では針生検もできないが、ホルモン療法によって癌化が50%減る可能性はある。また、
抗がん剤は反対側乳房の局所再発には効かず、遠隔転移を抑える効果があるとの解説であったが、ステージは違うが反対側も再発ではなく同時期のがんだとしたら抗がん剤も奏功するのではないのかと思ってしまいます。どうなのでしょうか。HBOCは陰性ですが、浸潤性小葉癌ということもあり反対側の乳がんが心配です。今後のフォローとしてどういった検査をどのぐらいの頻度で受けたらよいのか知りたい。
【質問.2】ki67数値の乖離について
数値の乖離の原因として考えられること。また、手術標本ではhot spotではなく平均値を数値として採用するのか。
【質問.3】放射線治療の適応について
リンパ節郭清は第1領域までとなっており、それ以外は取ってもあまり意味がないと言われた。転移は1個。よって、第2領域と第3領域のリンパ節の転移有無は不明である。状況から転移の可能性は低いかもしれないがとても不安です。そういった観点から放射線治療の適応について知りたいです。
【質問.4】ホルモン療法薬、抗がん剤について
抗がん剤の使用に関してはオンコタイプDXに委ねるつもりでいます。今後始める全身治療として①適切なホルモン療法の薬剤について ②抗がん剤適応の判定が出た場合の適切な抗がん剤の種類について ③ホルモン剤により強制的に閉経に向かうと思うが、それでも現状が閉経前であると抗がん剤が推奨されるのか。
最後に、新薬のダトロウェイは過去にルミナルタイプで化学療法を実施した再発乳がん症例と手術不能症例に限定されているようであり、初発の私には使うことができないようである。なぜ限定されているのでしょうか。
質問が多くなってしまい大変申し訳ないのですが、ご教授のほどどうぞよろしくお願い致します。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「新薬のダトロウェイは過去にルミナルタイプで化学療法を実施した再発乳がん症例と手術不能症例に限定されているようであり、初発の私には使うことができないようである。なぜ限定されているのでしょうか。」
⇒根本的に抗癌剤の「適応」についてきちんとした理解が必要です。
薬物の適応には、「臨床試験で(それを使用することにより)十分な効果がある:平たく言えば使わない群VS 使用した群で有意差を持って有効性が証明される」ことが必須条件となります。
そのために臨床試験を組むわけですが、
想像してみてください。
術後補助療法での使用は(そもそも)その薬剤を使用しなくても再発しない群が「かなりの%」で入ってくるので、「その薬剤を使ったから再発率が下がった」という証明するのは至難の業です。
それに対し「手術不能、再発乳癌」は「そこに病変がある人」に対して使用するので、その差が出やすい
↑
と、いうことで(そもそも)「術後補助療法としての臨床試験」は大変だし、(大変な思い⁺お金)をかけて行ったとしても「有意差が出ない=結局、術後補助療法としては承認されない」ことになりがちなわけです。
乳癌での術後補助療法での適応薬剤は「anthracycline]と「taxane」だけなのは、そのような事情があるわけです。
♯厳密に言えばHER2陽性では分子療法薬として「trastuzumab][pertuzumab」また(HER2陽性限定の)carboplatineやトリプルネガティブで(前使用限定での)pembrolizumabもありますが、それは「サブタイプ限定」です。
【質問.1】MRIで指摘の右乳腺の微小な濃染像について
担当医からは現状では針生検もできないが、ホルモン療法によって癌化が50%減る可能性はある
⇒癌化と言う言葉自体「誤り」です。
抗がん剤は反対側乳房の局所再発には効かず、遠隔転移を抑える効果があるとの解説であったが、ステージは違うが反対側も再発ではなく同時期のがんだとしたら抗がん剤も奏功するのではないのかと思ってしまいます。どうなのでしょうか。HBOCは陰性ですが、浸潤性小葉癌ということもあり反対側の乳がんが心配です。今後のフォローとしてどういった検査をどのぐらいの頻度で受けたらよいのか知りたい。
⇒そもそも「反対側」は癌と言う診断ではないのだから「そのために」という発想自体ナンセンス
それよりも「ホルモン療法で3か月に1回通院」しているわけだから、その度にエコーしてもらうことですね。
【質問.2】ki67数値の乖離について
数値の乖離の原因として考えられること。また、手術標本ではhot spotではなく平均値を数値として採用するのか。
⇒可能性は2つ
1.手術標本は(針生検の標本よりも)当然大きいので、固定が上手くされずに「Ki67抗体に対する」免疫能が失活して「数値が小さく出ている」可能性
2.手術標本での「切り出し部位」と針生の際の「採取の部位」で「たまたま大きく性質が違っていた」
【質問.3】放射線治療の適応について
リンパ節郭清は第1領域までとなっており、それ以外は取ってもあまり意味がないと言われた。転移は1個。よって、第2領域と第3領域のリンパ節の転移有無は不明である。状況から転移の可能性は低いかもしれないがとても不安です。そういった観点から放射線治療の適応について知りたいです。
⇒腋窩照射ですか? 無論、不要です。 リンパ節は郭清して(結局)センチネルリンパ節にしか転移が無かったのだから「取ってない部位にあるかもしれない」などと言う不安はナンセンス。それよりも「無駄な」照射により患肢浮腫のリスク上昇を避けるべきと思います。
【質問.4】ホルモン療法薬、抗がん剤について
抗がん剤の使用に関してはオンコタイプDXに委ねるつもりでいます。今後始める全身治療として①適切なホルモン療法の薬剤について ②抗がん剤適応の判定が出た場合の適切な抗がん剤の種類について ③ホルモン剤により強制的に閉経に向かうと思うが、それでも現状が閉経前であると抗がん剤が推奨されるのか。
⇒OncotypeDXの結果に厳密に従いましょう。
①無論、閉経前なのだからtamoxifenとなります。 ただしリンパ節転移陽性の場合にはLH-RHagonistも推奨されます。
②TC療法4回
③そもそも「リンパ節転移陽性、閉経前で抗癌剤推奨」自体が単純に「誤り」ですよ。
最後に、新薬のダトロウェイは過去にルミナルタイプで化学療法を実施した再発乳がん症例と手術不能症例に限定されているようであり、初発の私には使うことができないようである。なぜ限定されているのでしょうか。
⇒冒頭で詳細しました。
よく理解しましょう。
***
再質問をする場合、下記日付以降にしてください。
(回答が公開されてから2週間後)
2025/4/29
***
質問者様から 【質問2】
ルミナルタイプ 全身療法について(オンコタイプDXの結果をふまえて)
性別:女性
年齢:47
病名:
症状:
投稿日:2025年04月30日
前回はご丁寧な回答ありがとうございました。大変参考になり何度も読み返しております。
オンコタイプDXの結果が出まして、再度先生にお聞きしたいことがあり、前回の引き続きでご質問させて頂きます。
オンコタイプDX結果
再発スコア(RS):7
5年遠隔再発率(ET単独):3%
化学療法(CT)の上乗せ効果(RS 0-13):2.3%
悪性度としては低い結果となり、その点はほっと致しました。
主治医と腫瘍内科の医師の経験上の推奨では、抗がん剤について、少しでも再発率が下がることは明確なのでやっておいた方がいいと思うという意見でした。もちろん決めるのは患者自身でそれぞれの状況や考えでやる人もやらない人もいると伝えられました。
私自身悩んでおりますが、オンコタイプの結果から読み取る内容でいくつか疑問がございます。
①先生が前回の回答でおっしゃっていた「オンコタイプの結果に厳密に従いましょう」というご意見は、私の結果であれば「上乗せ効果なし」ではないので、2.3%の上乗せ効果があるという点で自身がそれを求めるか求めないかで決定する、ということになりますでしょうか?
オンコタイプの結果用紙には「抗がん剤必要・不要」などの具体的な記載がないので「結果に厳密に従う」という先生のお言葉の意味を考えて込んでしまっております。
②今頃になってですが、センチネルリンパ節転移陽性の場合、田澤先生の執刀であればレベル2(第二領域)まで郭清すると乳がんプラザのサイトで拝見しました。私の受けた手術ではレベル1までの郭清なので、転移は1/12でしたが田澤先生のお考えにあてはめるとレベル2まで郭清した方が良かったのでしょうか?
つまり、先生がオンコタイプの上乗せ効果が低い場合に抗がん剤を不要と判断するには、センチネルリンパ節転移があればレベル2まで郭清していることが前提になっての判断なのでしょうか?
(前回の質問で「放射線治療」を検討するのはナンセンスとのご意見は承知しておりますが、「抗がん剤治療」についてはレベル2を郭清していない点を鑑みて効果を検討すべきか?お聞きしたいです)
上記のとおり(レベル2までの郭清が前提)ですと余計心配になりはやはり抗がん剤をやった方が良いという結論に自分のなかでは向かってしまいます。また、こちらのサイトでもオンコタイプのRSが低めで抗がん剤を見送ったけれどその後遠隔転移となった方のケースを拝読しました。確率の問題ですが、可能性がゼロでないこと実感しました。最終的には「神のみぞ知る」領域になってしまうと思いますが、、、。
③希望した場合、先生のところで追加手術でリンパ節レベル2の郭清を行ってもらうことは可能なのでしょうか?(可能な場合、抗がん剤投与後でもできるのでしょうか?)
④私のオンコタイプの結果から抗がん剤の上乗せ効果を差し引くと5年遠隔再発率は3-2.3=0.7%になると思います。この結果から、抗がん剤をすれば5年以内の再発は限りなく0に近づきほぼ無いとは思うのですが、10年以内の再発率やそれに対する上乗せ効果は計算で割り出すことはできるのでしょうか?(5年再発率×〇〇%など)
かつてのオンコタイプDXの結果の見方をサイトで見ると、9年遠隔再発率が記載されていますが
現在は5年になっていて、どうして変わってしまったのだろうと感じます。患者としてはより長い期間の再発率を知りたいところなので、何か割り出す方法があれば教えて頂きたいです。
長くなり申し訳ございませんが、ぜひ先生のご見解をお伺いしたいので、どうかよろしくお願い致します。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
low risk 良かったですね。
その結果には厳密に従いましょう。
1.RS=7なので当然抗癌剤不要 タモキシフェン+LH-RHagonist
2.レベル1までの郭清とはいえ、(結果として)1/12なのだから(レベル2の追加郭清は)不要と思います。
3.ホルモン療法だけで再発率は3%
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再質問をする場合、下記日付以降にしてください。
(回答が公開されてから2週間後)
2025/5/27
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