[管理番号:5922]
性別:女性
年齢:70歳
突然で失礼します。
7年前に、左胸の乳がんで手術した母です。
硬ガン
リンパ節転移 1
IIbで、術前抗がん剤をして温存手術をし、5年間 アロマターゼ ホルモン服用後、今は無治療です。
9月にマンモの検査をしましたが、異常なしでした。
母の皮膚の症状は年明けの1月5日ぐらいから、右胸の下胸あたりに、かゆみのある湿疹のような物ができていて、皮膚転移なのか??
気になり質問させていただきました。
ジュクジュクはしていないそうです。
皮膚科に行ってもいいんですが、もしものことで皮膚の転移だと不安なので、画像を見ていただきたいです。
お忙しい中、申し訳ないですがよろしくお願い致します。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「皮膚転移」
昨日は木曜日(外来日でしたが)、偶然なのか「通院している患者さん2名」から「皮膚転移」について聞かれました。(同じ様な質問を2名から同日に聞かれるとインパクトがあり覚えているものです)
「最近のQandAで皮膚転移の方がいたが、私も皮膚に湿疹がでるたびにビクビクしている。そんなに心配しなくてもいいものなのか?」という感じです。
○私の見解
まず「皮膚転移」の「転移」という語句が誤解を与えています。
「皮膚再発」という表現をすべきでしょう。
私は今まで見てきた「皮膚再発」はすべて「手術部位が初発部位」です。(病勢の進行により、初発部位から「体側胸部」や「背側」「腹部」などへ拡がることはありますが、必ず初発は「手術部位(もと腫瘍が有った部位)」なのです。
今でも鮮明に覚えている「皮膚再発」の最初の経験は大学病院時代です。
もともと広範囲の乳癌だった患者さんに術前抗がん剤をして小さくなったからといって(今考えれば)「無理やり温存(患者さんの意思に反して無理やりという意味ではなく、医学的に)」した患者さんでした。
その方は術後(温存乳房)照射を(当然ながら)したのですが、(照射野を避けるように)その枠に沿って皮膚再発が起こりました。
まだ診療経験の浅い時代(今から20年くらい前)でしたが、「全摘していれば避けられたのでは?」という印象が強烈に残りました。
「皮膚再発」
手術の時点で(すでに)広範囲にすでに皮下に潜んでいた癌細胞が、(術後治療が終了し、効果が薄れてきたタイミングなどで)「皮膚浸潤し始める」というのが本当のところです。
実際に私はかなりの症例経験があるのですが、「皮膚再発」は数えるほどしか起こっていません。
そして、その症例を考察すると(手術をした時点で)「早期だった症例」は1例もなく、「手術した時点でかなりの進行(リンパ節転移とは無関係です、むしろ乳腺内の状況です)」しており「皮膚に潜んでいたのだな」という印象となります。
注)「乳腺内がかなりの状態」の方は「皮膚再発を良く起こす」という意味では全くありません。 (かなり少数の)ごく限られた皮膚転移を起こした患者さんをみると「乳腺内に腫瘍がかなり広範囲だった」という意味です。(前者と後者では全く意味が異なる事に注意してください:国語の問題です)
★このようなことを書くと「小葉癌」の方が「自分は浸潤径が大きかった。心配だ。」というかもしれませんが、それは全く違います。
小葉癌のように(画像ではあまり大きな印象は無かったのに)「顕微鏡で見ると意外と大きかった」というのではありません。(時々、そのような患者さんが心配するので、予めコメントしておきます)
「画像上、触診上」明らかに腫瘍が大きく広範囲で、しかも「進行が極端に(見るからに)早い」更に、そういう症例で「術前抗がん剤をして無理やり温存したケース(どうしても第1症例のインパクトが大きい)」が気になります。
♯何度も言いますが、そのような症例でも「皮膚再発を起こす確率は非常に低い」のです。(過度に心配なさらないように)
「左胸の乳がんで手術」「右胸の下胸あたり」「もしものことで皮膚の転移だと不安」
⇒上記内容を良く読んでください。
左乳癌で(左が大丈夫なのに)「右に皮膚再発がおこる」ことを考える必要はありません。