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頭蓋骨転移の治療方法について

[管理番号:3408]
性別:女性
年齢:58歳
初めて質問させていただきます。
術後16年目にして骨転移が判明した58歳の地方の乳がん患者(女性)です。
この度、額に小さなたんこぶのようものが出現し、脂肪腫だろうということで形成外科のクリニックで手術を受けたことがきっかけで再発がわかりました。
PETCTでわかる範囲では、転移箇所は、頭蓋骨(右前頭部)と右腸骨です。
事故的に生検みたいなことをし
てしまったので、病理結果がわかっています。
転移腫瘍はER50パーセント以上(スコア7)PGR10パーセ
ント以下、Ki67=20~25%でした。
HER2は陰性です。
初発はステージII、ERとPGRがともに10パーセ
ント以下だったため、当時の標準治療にしたがい、化学療法(FEC)のみ行い、以後無治療でした。
質問させて頂きたいのは、頭蓋骨への転移の局所治療についてです。
頭蓋骨が溶けて穴が開き、そこから癌の塊が外に出てこようとしていたわけですが、MRIの結果、骨内に31×19ミリの腫瘤、硬膜下に25×14ミリの腫瘤があることがわかりました。
硬膜下の腫瘤は脳にめり込んでいるようにみえます。
レポートには、
「接している脳に軽度の浮腫があるが、強い組織的変化はなく、庄排だけによるものと思われる。
状況を考慮すると、骨転移を疑う。
診断:頭蓋冠転移疑い。」
とあります。
すでに主病院から提示されたリニアック25分割照射を行っております。
脳転移ではなく、頭蓋骨転移だからこの方法ということです。
治療は終わってしまったのですが、大きな癌の塊が硬膜を破って脳にめり込んでいるのだし、とても手術しやすそうな場所にあるのだから、治療の難しい脳や髄液などにがん細胞が散らばる可能性をできるだけ低減するためにも、スパッと外科的に切除して放射線をかけた方がよかったのではないか、あるいは、それと同等の効果がある高線量を一回でかける外科的放射線治療の方がよかったのではないかという思いが消えません。
なお、病院側からは全くそういった選択肢の提示はありませんでした。
そこで質問させてください。
①脳転移ではなく、頭蓋骨転移ならば、硬膜下に大きな癌の塊があっても、開頭して切除し、その後放射線という方法は不適切なのでしょうか?つまり、やりすぎでしょうか?
②先生ならどのような治療をなさいますか?
③今後、頭の中の腫瘤が再び増悪して来たら、どんな治療があるのでしょうか?
④フェソロデックス+ゾメタで全身的な治療を受けています。
フェソロデックスは脳関門を通過しないということですが、頭の中の癌を少しでも長く制御するために何か予防的に使えるお薬がないかと考えています。
例えば、タモキシフェンは脳に働きかけると読んだことがありますし、アロマターゼ阻害剤が脳脊髄転移または髄膜播種に対して効果があるかの検討もされていると認識しています(横浜市立大学)。
硬膜下にできている腫瘤も頭蓋骨転移が進展したものだから、今の全身的治療が効果を発揮すれば、制御できると期待していいのでしょうか?
⑤頭蓋骨の穴は開いたままです。
放射線の後、修復するだろうといわれています。
素人考えですが、今後、
増悪したときに脳圧を逃してくれるだろうということや、フェソロデックスが、この穴を通って、頭の中に少し入りやすくなるかなという期待もあり、それなりにメリットもあるのではないかと思う反面、このままでいいのだろうかという不安もあります。
先生ならどのような処置をなさいますか。
20㎜×10mmくらいの穴です。
以上、お忙しいこととは存じますが、先生のお考えをお聞かせください。
無報酬で見ず知らずのもののために時間と体力と専門知識を提供してくださる先生の貴いお気持ちに深く感謝します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
再発治療では「ゴールデンスタンダード」など存在せず、病状に適したオーダーメード治療となります。
様々な経験の中で、同様なケースは多々あります。
その中で私の経験からのコメントをします。
「①脳転移ではなく、頭蓋骨転移ならば、硬膜下に大きな癌の塊があっても、開頭して切除し、その後放射線という方法は不適切なのでしょうか?」
⇒頭蓋骨転移で手術的に摘出したことはありません。
 外科的に手術したからには「マージンをとりたい」ところですが、「大きなマージンを取ると、脳保護の上で極めて不利な状態」となります。
 骨転移では「放射線照射が第1選択」であることは間違いありません。
「②先生ならどのような治療をなさいますか?」
⇒放射線照射です。
 全農照射を予防的にするわけにはいかないので、「トモセラピー」で「頭蓋骨転移に接した部分の脳も照射野に入れる」ことを検討(放射線科医と)します。
「③今後、頭の中の腫瘤が再び増悪して来たら、どんな治療があるのでしょうか?」
⇒定位照射です。(トモセラピーの他にγナイフやサイバーナイフなどもあります)
 ただし、多発ならば「全脳照射」も視野に入ります。
「硬膜下にできている腫瘤も頭蓋骨転移が進展したものだから、今の全身的治療が効果を発揮すれば、制御できると期待していいのでしょうか?」
⇒そういうことです。
 局所は「局所療法(放射線)+全身療法」で行い、骨転移は(多発する可能性も考えて)「全身のケアも重要」なのです。
「頭蓋骨の穴は開いたままです。放射線の後、修復するだろうといわれています。」
⇒それをまずは期待して様子をみることです。
「先生ならどのような処置をなさいますか。」
⇒骨欠損については「放射線の効果による自然治癒を期待」して様子をみます。
 放射線については(通常の)リニアックよりは「定位照射(トモセラピー)」を選択します。
 全身療法としては術後補助療法としてアンスラサイクリン(FEC)のみしか行っていないことから、私であればタキサン(できればbevacizumab併用で)を投与します。
 
 骨転移は「life-threateningでは無いから、ホルモン療法から」みたいなアルゴリズムがありますが、私の経験からは「再発は小さいうちに化学療法で叩き、のちにホルモン療法で維持」の方がいいと思っています。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

管理番号:3408
田澤先生、お返事大変ありがとうございました。
お蔭様でこのサイトにたどり着き、先生のコメントを頂いて、私の住む地域で可能な最善の治療だったのだと思えるようになり、やっと落ち着きました。
抗がん剤についても情報を下さり、ありがとうございました。
Hortobagyiのアルゴリズムとは別の意見があること、認識しております。
再発が小さいうちに抗がん剤で叩いて、維持という考えには、希望を感じます。
その場合、エンドレスではなく、術後補助療法と
同じように、回数をきめてやるのですね。
私は今、症状も副作用も全くなく、とても元気な状態です。
それだけに、治療をしていても、今後いろいろな症状がでてくるのかと考えると、本当に憂鬱です。
もし、最初に頑張って厳しい治療をやった方がたとえ再発でもそれなりに予後がいいのなら、やりたいです。
もうすぐ治療2か月目の効果の判定のような機会がありますので、その時の判断の参考にさせて頂きます。
ありがとうございました!
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「再発が小さいうちに抗がん剤で叩いて、維持という考えには、希望を感じます。その場合、エンドレスではなく、術後補助療法と同じように、回数をきめてやるのですね。」
⇒その通りです。
 Bevacizumab+paclitaxelであれば、(3投1休)を4クールやりたいところです。
 ちなみに4クールだとpaclitaxelとして12回となり、通常のタキサンの補助療法と同量となります。