[管理番号:5931]
性別:女性
年齢:71歳
田澤先生
はじめまして。
母が乳がんになってしまい、色々とネット検索をしていたらこちらにたどり着きました。
よろしくお願いいたします。
母は9月に乳がんと診断され、12月上旬手術で部分切除しました。
術前の診断では、非浸潤ガンでステージ0、CT等の検査でも転移ナシとのことで安心していました。
ところが術後の病理検査で浸潤部分が見つかり、ステージ1、トリプルネガティブとの診断を受けました。
病理検査の結果は以下のとおりです。
・浸潤ガン ステージ1、浸潤径1×0.5センチ(非浸潤3.5センチ)(左乳房下外側部乳癌とあります)
・ホルモン どちらも陰性
・HER2 陰性
・リンパ転移 なし
・MIB-1 19%
・断端陰性
・核グレード2(ただし、主治医が言うにはほとんど3に近い2とのことです)
・術後治療 TC療法 点滴4回(ドセタキセル、エンドキサン)
先生のご意見をお伺いしたいのは次のことについてです。
1,ステージ1との診断ですが、浸潤1×0.5センチは大きいですか?
2,核グレードについて、病理検査の結果の紙には「g, ly0, v0 核グレード
グレード分類:atypia:3, mitosis:1, Grade2」との記載があります。
核異型が強いということでしょうか?そのためほとんど3に近いのでしょうか。
核異型が強いことは一番よくないのでしょうか。
3,病理検査の結果の組織所見欄に、「細胞質は豊富で好酸性、核小体をを伴い異型の強い核からなる細胞癌でapocrine分化が多少とも窺われます」との記載があります。
これはどのような意味でしょうか?
(私は遠方で母と主治医の面会に同席できなかったため聞けませんでした)
4,術後の治療はTC療法 点滴4回です。
先生から見てTC療法は適切だと思われますか。
5,上記の抗がん剤治療後、母の体調は元に戻るのでしょうか。
高齢のためがっくり弱ってしまわないか心配です。
髪の毛についてはチリチリにしか生えないかも・・・と聞いています。
6,主治医によると、術後2年までは再発率が高くて、5年再発がなければその後は再発しないだろうとのことです。
先生もそうのように思われますか。
7,この症状で、再発率、10年生存率はどのくらいだと思われますか。
以上、たくさん質問してしまい申し訳ありません。
お忙しいとは思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
きっと「トリプルネガティブ」という言葉に過剰に心配されているのでしょう。(今すぐ忘れましょう)
世の中「知ったかぶり」をする連中が多く、そういう連中に限って(実情も知らないのに)「トリプルネガティブは最悪だ!」みたいな戯言をネットに載せたりしています。
実際に沢山の診療をしていると解りますが…
やはり、予後は「ステージ」なのです。
(ほんの20年前…)
サブタイプの無い時代には、「1cmの乳癌で再発するなど、誰も思っていなかった」のです。
結果的に、その「1cmの癌」の10人に2~3人はトリプルネガティブだったかもしれませんが(そんなことは知らずに)当然、術後抗がん剤もしませんでしたが、「何事も無かった」のです。
★変に「トリプルネガティブだから」みたいな知識があると、(本来、抗ガン剤が不要な超早期乳癌まで)「無駄な治療と無駄な心配」をすることになっているのが現状です。
サブタイプは「治療法とのみ関連付ける(トリプルネガティブはホルモン療法が効かないから、抗癌剤をする)」シンプルに考えましょう。
「1,ステージ1との診断ですが、浸潤1×0.5センチは大きいですか?」
⇒1cmが大きい???
常識的に考えましょう。
「超早期癌」です。
「 核異型が強いということでしょうか?そのためほとんど3に近いのでしょうか。」
「 核異型が強いことは一番よくないのでしょうか。」
⇒核異型など忘れましょう。(全く無意味)
「これはどのような意味でしょうか?」
⇒アポクリン化生は特に意味がありません。(病理医にとってのみ意味のあることです)
「先生から見てTC療法は適切だと思われますか。」
⇒私は「70歳以上の超早期乳癌では抗癌剤はしません」
無治療です。
「5,上記の抗がん剤治療後、母の体調は元に戻るのでしょうか。」
⇒当然です。
術後補助療法は「それが大前提」です。
「高齢のためがっくり弱ってしまわないか心配」
⇒それはないでしょうが…
それが心配なら「術後化学療法はすべきではない」
「6,主治医によると、術後2年までは再発率が高くて、5年再発がなければその後は再発しないだろうとのことです。 先生もそうのように思われますか。」
⇒一般論としてはそうですね。
「7,この症状で、再発率、10年生存率はどのくらいだと思われますか。」
⇒NewAdjuvant.comを用いると…
再発率は10%
10年生存率は76%(ただし他病死が20%、乳癌による死は4%) 71歳からの10年では(当然)別の要因で死亡する確率の方が圧倒的に高いのです。
★上記ソフトでも「抗癌剤をしても10年生存率は僅か1%しか上がらない」のです。
高齢になればなるほど(現代の71歳は高齢とは言えませんが)他病死の確率が増加するので、「抗癌剤をすることによるメリット」はかなり薄れます。