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トリプルネガティブ術後化学療法について

[管理番号:4062]
性別:女性
年齢:37歳
田澤先生
いつもこちらのQ&Aを参考にさせていただいています。
お忙しいところたいへん恐縮ですが、本日は質問のほう、どうぞよろしくお願いいたします。
現在37歳で、2016年9月末に乳がん告知、10月(下旬)日に右側・乳頭乳輪温存全摘手術をし、同時再建しました。
術前に、トリプルネガティブであることと、遺伝子検査の結果、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(brca1 の変異あり)であることがわかり、ステージ1でリンパ管(センチネルリンパ節生検済)と静脈侵襲はなく、腫瘍は2つか3つがくっ付いた様な状態であり、1番大きなものが1.2cm程でした。
術後の化学療法について、必要なのかどうなのか、ということで迷っています。
トリプルネガティブで核グレードが3、というところで、化学療法をしておいた方がよいとも思いますが、生存率としては数パーセントの違いとのことだったので、
身体に負担のある化学療法をそこまでして行うべきなのかどうか決断できず、また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群、ということも含め、化学療法はした方がよいのか、
先生のご意見をおききしたいのです。
また、術後の抗がん剤に効果があるか、ないか、というものは、わかりようがあるのでしょうか。
乳腺外科の医師は、化学療法をやらないよりはやった方が、予後は長い間よい状態をキープできるが、必須というわけではなく、決断するのは自身であるとのこと。
腫瘍内科の医師は、トリプルネガティブで1cm以上の腫瘍の場合、術後化学療法を”した方がよい”ということでした。
(乳がんのタイプと腫瘍の大きさから調べられる、米国のサイトを使っての判断で、1cm未満なら化学療法を"consider,考慮する"という結果のようでした。)
化学療法は、AC(3週に1回×4回) + パクリタキセル(毎週×12回)です。
化学療法を行なった場合と行わない場合の、5年/10年の生存率/再発率と、田澤先生の見解を教えていただけないでしょうか。
以下、病理組織診レポートとなります。
何卒よろしくお願いいたします。
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【病理組織診レポート】
Invasive ductal carcinoma, solid-tubular carcinoma, right breast, Bt+ SNB, area=lower-inner(B), 1.20×1.10×1.10cm, n(0/3, i-), margin close, NG(3), ER(0), PgR(3), HER2(0), g f, ly0, v0,
status: primary, UICC 7th:p T 1c pN0 M0 Stage ⅠA, Jap 17th:p T 1c pN0 M0 Stage Ⅰ.
WHO 2012: Carcinoma with medullary features.
検体:右乳腺 乳癌病巣数: 1病巣
切除術:Bt+SNB 13.5×13.0×1.8cm, 占拠部位:右lower-
inner(B)領域
腫瘍径:1.20×1.10×1.10cm, 腫瘍径 in situ ca含
む:2.70×2.20×1.40cm
組織分類:invasive ductal carcinoma, solid-tubular carcinoma
核異型スコア:3 核分裂スコア:3(15/10HPF), 核グレード:3
ER: Allred PS0 IS0 TS0, PgR: Allred PS1 IS2 TS3
HER2: score 0, 強陽性:0%, 中等度陽性: 0%, 弱陽性:5%
波及度:g f, リンパ管侵襲:ly0, 静脈侵襲:v0
断端: 皮膚側:close, 0.1mm in situ #13, 深部側:-,
側方:-, 乳頭側:-
in situ ca+, EIC-, 娘結節+, comedo-, 石灰化+, リ
ンパ球浸潤+++
前治療:なし, 区分:初発
リンパ節転移: 合計(0/3, i-)
SNB(0/3)
UICC 7版:p T 1c pN0 M0 Stage ⅠA, 規約17版:p T 1c
pN0 M0 Stage Ⅰ
組織学的には、クロマチン増量した大型類円形核, 核小
体を有するcarcinoma cellsが充実性に増殖する、浸潤
性乳管癌(充実腺管癌)です。
癌細胞周囲にリンパ球浸
潤が目立ちます。
周囲にsolid typeのductal component
を認めます。
main tumorから0.4cm離れて娘結節がみら
れます(#7).
WHO 2012のcarcinoma with medullary features(合胞
体性増殖, 高度異型, リンパ球浸潤, 管状欠如)に相当
すると思われます.
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田澤先生からの回答

今日は。田澤です。
「化学療法はした方がよいのか、先生のご意見をおききしたいのです。」
⇒トリプルネガティブは「抗ガン剤の絶対的適応」です。
 当然、推奨します。
「また、術後の抗がん剤に効果があるか、ないか、というものは、わかりようがあるのでしょうか。」
⇒勿論「解りません」
 ただ、質問者が敢えて「術後の」と付けているのは「術前抗がん剤は効果が解るのに」と理解されているようですが…
 ○それは「全くの勘違い」です。
 「術前抗がん剤」は、あくまでも(温存するために)「腫瘍を小さくしている」に過ぎません。『腫瘍が小さくなることと、再発予防に効果があるのかは全く別の話』なのです。
「化学療法は、AC(3週に1回×4回) + パクリタキセル(毎週×12回)です。」
⇒所謂「アンスラタキサン」ですね。
 トリプルネガティブの場合には原則として、それでいいと思います。
「化学療法を行なった場合と行わない場合の、5年/10年の生存率/再発率」

10年生存率 再発率
無治療 92% 20%
抗ガン剤した場合 95% 11%

 ♯5年生存率は不明です。  
「田澤先生の見解を教えていただけないでしょうか。」
⇒トリプルネガティブなのだから、「抗ガン剤は必須」です。
 
 ○トリプルネガティブは(予後不良因子ではなく)「治療選択として抗ガン剤をすべき」と解釈してください。