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転移性乳がんの治療方針について

[管理番号:5540]
性別:女性
年齢:52歳
はじめて質問させていただきます。
左胸にしこりがふれていた為、9月2日に乳腺科を受診しました。
マンモ・エコーなどで検査したところ、乳がんの可能性が高いとの事で同日針生検をしました。
9月(中旬)日、乳がんで確定したと告げられ、浸潤がんであるとの事で、スケジュールを組んでいただき、CTやPET・MRI検査を行いました。
そして、検査結果の説明が10月(上旬)日だったのですが、PET検査にて胸骨転移の疑いがあり、更に背骨の1箇所にも小さく転移の疑いが見られます…との事でした。
その他の臓器等に転移は見られないようでした。
主治医はステージIVだから手術はせず、生活の質を下げないようにがんと付き合っていきましょう、と仰っていました。
今後の方針は(閉経しているため)レトロゾールの服用と、歯科で検診を行った後でランマークを投与しましょうとの事でした。
レトロゾールは(中旬)日から服用しています。
また、抗がん剤は使わない予定ですとの事。
また、希望するなら治す目的ではないが1年程したら、胸の手術も検討しましょうとも仰っていました。
検査結果表を転記↓
左 浸潤性乳がん
しこりの大きさ およそ60mm
乳がんの広がり およそ60mm
リンパ節転移あり
ER 陽性 PgR 陽性 HER2 陰性
ki-67 >30% 核異型 2
質問は治療方針についてなのですが、やはり主治医が言うとおり根治に向けては取り組まず、延命目的の治療を行っていくしかないのでしょうか?
無知なため、何が最善なのか分からず日々不安です。
転移がなければ手術して腫瘍を切除しましょうと、準備をして頂いてたこともあり、こういう結果になってしまったことに落胆しています。
原病巣をそのままにしておくのも不安ですし、治せる見込みが少しでも
あるのならどんな事でも取り組みたいと思っています。
ご意見頂ければと思います。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
「PET検査にて胸骨転移の疑いがあり、更に背骨の1箇所にも小さく転移の疑い」
⇒「疑い」とありますが…
 本来ならMRIで確認すべきです。
◎以降は「骨転移有」と仮定した上での話です。
無論、「転移性乳癌」の治療については、(医師によって)様々な意見があります。
 それに、そもそも(その転移の程度により)「転移性乳癌」と一括りにできないことを理解できない医師も多い(この辺りになると経験量の違いとなります)
質問者に理解してもらいたいことは「積極的治療」と「消極的治療」という観点です。(いずれ、今週のコラムで取り上げたいと今、思いました)
1.積極的治療
 (遠隔転移を)抗癌剤で積極的にコントロールして、その時点で「手術」⇒(その後は)「ホルモン療法や(時には)抗癌剤の再登場などで長期維持を図る」
2.消極的治療
 (どうせ、何をしても予後は変わらない。←本当??)とした考え方から、患者にとっても(医師にとっても??)負担のかからない治療(まずはホルモン療法)をして、(それが駄目なら)次第に「負担のかかる治療」へ移行していくもの
  
私は2を完全に否定しているわけではありません。
 ただし、最初に弱い治療をすることで病勢の進行が決定的となり、手術不能となってしまうリスクがあることを、正しく患者側へ伝えるべきだと思います。
 「超高齢」であったり、「命にかかわるような高度の転移」であれば、2を提案しますが、私から2を提案することは皆無です。
☆背景には「手術」に対する認識の違いがありそうです。
 私にとって「手術」は(あらゆる乳癌の治療の中で)「最も楽な治療」という認識がありますが、それら「消極的治療に傾きがちな医師達」は「手術は大変なもの」という認識があるようです。(手術時間が無駄に長かったり、入院期間が長いため)
「今後の方針は(閉経しているため)レトロゾールの服用と、ランマーク」「抗がん剤は使わない予定です」
⇒典型的な「消極的治療」です。
 胸骨と椎体(1箇所)位なら(無症状なようですし)消極的治療を選択する理由がありません。(患者さん自身が「できるだけ楽な治療」との希望出ない限り)
「また、希望するなら治す目的ではないが1年程したら、胸の手術も検討しましょうとも仰っていました。」
⇒ホルモン療法だけでは「原発巣の増悪」によって(現時点では手術可能でも)「手術不能状態まで追い込まれる」リスクがあります。
「根治に向けては取り組まず、延命目的の治療を行っていくしかないのでしょうか?」
⇒(骨転移があるとすれば)「根治を目的」とすることはできないかもしれません。
(一般に遠隔転移での根治は数パーセント未満となります)
 
  第1の目標を「最良の状態(癌が最も少ない状態)」とすること。
  そして、(第1の目標を達成したら)第2の目標として「その状態を(副作用を最小限として)できるだけ維持すること」とすべきです。(そして、その先には根治があるのかもしれません)
「ご意見頂ければと思います。」
⇒私なら…
 積極的治療とします。
 まずは(最強であり、副作用が最小である)抗癌剤「bevacizumab + paclitaxel」とします。
 これで(原発巣及び骨転移?のコントロールを図り)3カ月~6ヵ月で 手術とします。
 術後に「抗癌剤をするか、どうか」は、その時点での(骨転移の)状況によりけりです。
 ここから先は(骨転移の状況を見ながら)「ホルモン療法±(時々)抗癌剤」でQOLを維持しながら「長期維持(その延長線上に根治?)」を目指します。
 
 
 

 

質問者様から 【質問2】

転移性乳がんの治療方針
性別:女性
年齢:52歳
田澤先生こんにちは。
以前Q&Aで質問した者です。
(患者ID:○○)質問後、江戸川病院に
て手術を受けさせていただき、ありがとうございました。
術後の調子も良好で、手術前と変わらないくらい腕も動かすことができます。
(周囲の人も驚く程です)田澤先生に手術していただけて本当に良かったと感謝の気持ちでいっぱいです。
術後の治療は、遠方に住んでいるため地元の○○病院を紹介(抗癌剤+デノスマブの依頼)していただき、12/○○に受診して参りました。
そこでは、「貴方は転移性乳癌ですので、完治は困難です。今後の治療目的は、①日常生活の維持②症状緩和③生存期間の延長の3点になります。」というお話をされました。
私は抗癌剤⇒トモセラピーを考えていたので、「抗癌剤をしていただきたいのですが…」と話したところ、「ステージⅣの患者に抗癌剤をするのは標準治療ではありません。
まずはホルモン療法をして、その後胸水が溜まったり、癌が進行して悪くなってから抗癌剤をします。
この方針が嫌ならうちでは受け入れできません。」と言われてしまいました。
デノスマブはしますとの事でしたが、抗癌剤の件はどう質問しても標準治療ではありません、と取り合ってもらえず…。
トモセラピーの件も言い出せませんでした。
積極的に治療していきたいと考えていたので、心のない対応に正直悲しくなりました。
前置きが長くなってしまったのですが、質問させてください。
①抗癌剤なしのホルモン療法単独でも予後は望めますでしょうか?(レトロゾール±イブランスと提案されました)
②抗癌剤をしないと言われましたが、その場合はトモセラピーも諦めないといけないのでしょうか?その場合、予後は変わってきますか?
③レトロゾールは14ヶ月しか効果が継続しないが、イブランスを使用することで効果が倍になると言われました。
(但し、1回か2回目の薬剤どちらかと併用する)その点についてはどう思われますか?
以上になります。
ご多忙のところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答2】

今日は。田澤です。
「ステージⅣの患者に抗癌剤をするのは標準治療ではありません。」
⇒そもそも、標準治療「そのもの」が存在しないのです。
 つまり「抗癌剤をしないこと」も、また標準治療ではないのです。
 これは、各医師のセンスと(それを受け入れる)患者さん側の合意のもとで行われるべきものです。
 私が見る限り「骨転移(しかも胸骨に極めて限局)のみ」であるわけだから、(抗癌剤で)「強力に抑え込む」⇒(可能な限り病変の無い状態の)「長期継続」を狙えると考えます。(経験上)
 
「①抗癌剤なしのホルモン療法単独でも予後は望めますでしょうか?(レトロゾール±イブランスと提案されました)」
⇒ルミナールAだから、有る程度の奏功は期待できますが…
 所謂「消極的治療」と言えます。
「②抗癌剤をしないと言われましたが、その場合はトモセラピーも諦めないといけないのでしょうか?その場合、予後は変わってきますか?」
⇒ホルモン療法を選択した場合は…
 トモセラピーの適応が難しくなります(疼痛の原因となっているとか、骨折のリスクなど)
 抗癌剤⇒トモセラピーの場合には、「抗癌剤を半年など、区切りとしてトモセラピーで仕上げる」という考え方なのです。
「イブランスを使用することで効果が倍になる)その点についてはどう思われますか?」
⇒その通りです。
 ただ、それは「抗癌剤できちんと抑え込んでから」がいいと考えます。