[管理番号:4468]
性別:女性
年齢:55歳
はじめまして、よろしくお願いします。
3週間前に、乳がん手術(乳房温存術+センチネルリンパ節生検)を受け、昨日検体の病理結果が出ました。
今後の治療方法として、放射線療法は適応し、加えてホルモン療法か、化学療法+ホルモン療法かを患者側で決めろと言われ、悩んでいます。
病理結果は:
浸潤性硬癌 大きさ2.2 x1.5×1.0 ステージ2
切除断片の状態:陰性で癌は取り切れている
リンパ節1個切除、転移なし
リンパ節侵襲なし
静脈侵襲なし
グレード1
ER100% PgR70%
Her2蛋白の発現なし 2+
Ki-67 10%
ハーバード大学のデータベースによれば、私の癌の15年後再発(死亡)率は
放射線療法のみ 13.2%
+ホルモン療法 9%
+化学療法とホルモン療法 6%
と告げられたうえで、治療方法の選択をまかされました。
まず病理結果についての質問ですが、
硬癌は乳頭腺管癌よりたちが悪いようなことを読みましたが、現状で取り切れているのなら、気にする必要はないのでしょうか。
Her2蛋白の発現なしなのに、2+とありますが、これはFISH法で陰性だったということで、
単純になしと解釈していいのでしょうか。
まず、これらの疑問を解決したいです。
私のようなケースはホルモン治療のみなのかと思っていたので、日本人のデータではないにせよ、化学療法を選択することによる再発率-3%というデータを見せられ、動揺しました。
ガイドラインではどうなっているのでしょうか。
ご所見お聞かせいただきたく、お願い申し上げます。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
pT2(22mm), pN0, luminalA
これで「化学療法を提案」する事自体「完全な誤り」です。(どこを、どう探しても「化学療法を勧める根拠」が全くありません)
○その医師は「客観的データ」をしめして、治療法は「患者の自由意思を尊重する」という「一見、スマートなスタイル」のつもりなのでしょうが…
どう考えても「無責任」です。
きちんと、「ガイドラインなどで推奨される治療」を示してあげるべきです(誰が、どう考えても「ホルモン療法単独」で、迷う要素がありません)
♯放射線照射は、局所療法だから(全身療法とは別に)「温存だから必須」となります。
「と告げられたうえで、治療方法の選択をまかされました。」
⇒冒頭でコメントしたように(一見、自由意思を尊重するスマートな医師のように見えるかもしれませんが)「裏を返せば、全くの無責任」です。
「硬癌は乳頭腺管癌よりたちが悪いようなことを読みました」
⇒全くの誤りです。
そもそも乳癌を「組織型で区別」する事自体、全く無意味ですが、話を絞ると…
乳癌の7割を占める「浸潤性乳管癌(2a)」は3亜型(2a 1乳頭腺管癌、2a 2充実腺管癌、2a 3硬癌)に分類されますが、それらに『予後の違いなど、全くありません』
「Her2蛋白の発現なしなのに、2+とありますが、これはFISH法で陰性だったということで、単純になしと解釈していいのでしょうか。」
⇒まさに「その通り」です。
「私のようなケースはホルモン治療のみなのかと思っていた」
⇒100%その通りです。
「化学療法を選択することによる再発率-3%というデータを見せられ、動揺」
⇒3%自体「動揺する数字」ではないと思いますが…
それ以上に、どうしても疑問ならば「OncotypeDX」してみましょう。
実際は「上乗せ0」となる確率が高いと推測します。
「ガイドラインではどうなっているのでしょうか。」
⇒ホルモン療法単独で間違いありません。
♯どんなに(製薬メーカーの回し者のような)「化学療法好きの医師」であっても、この病理結果で「化学療法を勧めることはない」と断言します。
質問者様から 【質問2】
田澤先生、先日は早速のご回答ありがとうございました。
抗ガン剤治療はしない意志を担当医に告げました。
その際確認の意味で、Her2蛋白出現なしなのに2+というのはどういうことかを尋ねたところ、最初は問題ないと放射線治療の手続きに入りかけたのですが、呼び戻され、今再確認したらFISH法で2.02で陽性だったと言われました。
ひどいです。
よって病理結果は:
浸潤性硬癌 大きさ2.2 x1.5×1.0 ステージ2
切除断片の状態:陰性で癌は取り切れている
リンパ節1個切除、転移なし
リンパ節侵襲なし
静脈侵襲なし
グレード1
ER100% PgR70%
Her2蛋白の発現あり FISHスコア2.02
Ki-67 10%
医師に抗ガン剤+分子標的治療薬投与+放射線治療+ホルモン治療を勧められ、その方向で進んでいます。
しかし、まだ心底納得できていないのです。
質問1:私の病理結果から、抗ガン剤は必要でしょうか。
質問2:医師には抗ガン剤投与の期間は6ヶ月と言われました。
薬の種類については次回腫瘍内科医師から説明があるということでしたが、何を使うのでしょう。
長いです。
Her2陽性(でも±ぎりぎりの2.02)意外の指標は
私のがんは比較的おとなしいことを示しています。
他に選択肢はないのでしょうか。
このまま流されるように治療に入りたくありません。
どうぞよろしくお願いします。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
質問者のケース
質問者の疑問「Her2陽性(でも±ぎりぎりの2.02)意外の指標は私のがんは比較的おとなしいことを示しています。他に選択肢はないのでしょうか。」
⇒これは2013にASCO/CAPガイドライン改訂に伴い2015にHER2検査ガイド第4版として改訂された新基準に基づいています。
○逆にいうと、それまでの基準では「equivocal」とされて「再検査が必要」な値であり、「本当に陽性なのか?」という疑問が(私にも)湧きます。
特に質問者のケースでは「ルミナールタイプ・NG1・Ki67=10%」という3条件が全て揃っており、(ガイドラインでは陽性とはなるが)本当は陰性である可能性も考えていいと思います。
「質問1:私の病理結果から、抗ガン剤は必要でしょうか。」「他に選択肢はないのでしょうか。」
⇒ひとつの可能性としては、「OncotypeDX」を行う方法があります。
♯一応の適応基準では「HER2陰性」がありますが、レポートでは「HER2遺伝子の発現量」もでてきますので「本当にHER2遺伝子の過剰発現があるのか?」
も(レポートされるので)判明します。
ただし、もしも「結果としてHER2遺伝子の過剰発現が有った場合」には、
「OncotypeDXの結果が全く参考にならない=抗HER2療法の適応になる」ことも了承しておかなければなりません。
この件については担当医と話し合う必要があるでしょう。
もう一つは「FISHの再検査」ですが、(こちらも)保険適応外となりそうです。
「質問2:医師には抗ガン剤投与の期間は6ヶ月」「何を使うのでしょう。」
⇒6ヵ月の抗癌剤は「アンスラサイクリン(AC,EC,FECなど)+タキサン
(パクリタキセル、ドセタキセル)」しかありません。
しかし、質問者は(HER2陽性だと仮定しても)「low riskとして非アンスラサイクリンレジメンが適当」と思います。
★ ポイントは「HER2の過剰発現が本当にあるのか?」をどこまで追求するのか?です。
従来の基準では「HER2/CEP17は1.8~2.2をequivocalとして再検査の対象」としていました。
新しいガイドラインでは「再検査の対象ではない」ことを承知の上で、考えてみてください。
質問者様から 【質問3】
田澤先生、以前Her2蛋白2+の後FISH法スコア2.02陽性で、医師から抗がん剤治療を勧められ、ご相談した者です。
その節は、丁寧なご回答をありがとうございました。
考えた末、オンコタイプDXをお願いし、結果を待っているところで、それをどのように判断したらよいかを考えています。
この検査が21種の遺伝子群の発現状態からスコアを導き出しているものであることはわかっています。
が、私の場合はHer2が陽性か陰性かを確かめるのが主な目的で受けており、もしHer2がpositiveと出た場合
は、腫瘍の大きさが2.2cmと小さくないので、スコアに関わらず、抗がん剤+分子標的治療+放射線治療+ホルモン療法すべてをやるべきだろうかなと思っています。
negativeだった場合は、スコアが30を越えなければ、放射線治療+ホルモン療法のみを選択します。
まず、ここまでの考え方は妥当でしょうか。
残る可能性はequivocalなのですが、FISHスコア2.02だったことからも、そうなることもあると思われます。
この場合は単にオンコタイプのスコアから判断するべきなのでしょうか。
この場合もスコアの境界線は30でしょうか。
それともpositiveとほぼ同じとみなして、スコアがい
くつであろうと抗がん剤+ハーセプチンもやるべきなのでしょうか。
もしかしたら、全く予想外の結果が出るかもしれないのに、スコアの導き出し方の計算法など眺めつつ、勝手に思いを巡らせてしまっています。
どうぞよろしくお願いいたします。
病理結果:
浸潤性硬癌 大きさ2.2 x1.5×1.0 ステージ2
切除断片の状態:陰性で癌は取り切れている
リンパ節1個切除、転移なし
リンパ節侵襲なし
静脈侵襲なし
グレード1
ER100% PgR70%
Her2 陽性 FISHスコア2.02
Ki-67 10%
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「もしHer2がpositiveと出た場合は、腫瘍の大きさが2.2cmと小さくないので、スコアに関わらず、抗がん剤+分子標的治療+放射線治療+ホルモン療法すべてをやるべきだろうかなと思っています。negativeだった場合は、スコアが30を越えなければ、放射線治療+ホルモン療法のみを選択します。まず、ここまでの考え方は妥当でしょうか。」
⇒その通りです。
「残る可能性はequivocalなのですが、FISHスコア2.02だったことからも、そうなることもあると思われます。この場合は単にオンコタイプのスコアから判断するべきなのでしょうか。この場合もスコアの境界線は30でしょうか。それともpositiveとほぼ同じとみなして、スコアがいくつであろうと抗がん剤+ハーセプチンもやるべきなのでしょうか。」
⇒遺伝子発現さえもequivocalであれば…(その可能性は高くはないと思います)
その時には
21遺伝子発現の結果を優先して「OncotypeDXの結果に従うべき=(質問者のいうように)境界線は30でいい」と思います。
質問者様から 【質問4】
田澤先生、先日はOncotypeDX結果についての考え方をアドバイスいただき、ありがとうございました。
先週末に結果がわかり、判断のポイントとなるHer2が10.4で陰性、トータルの再発スコアも8と出ました。
よって、化学療法はせず、ホルモン療法と放射線治療を開始することになりました。
先生にもご相談させていただき、Her2が陽性と出ていたら
いたで、ハーセプチンが効くのは幸運だと受け取って化学療法を受け入れる心の準備はできておりました。
この検査を受けて本当に良かったと感じています。
アロマターゼ阻害薬の服用を始めました。
昨日放射線科の医師の診察を
受け、連休明けに治療開始の予定です。
線量については通常分割照射
2Gy x 25 days = 50Gyまたは寡分割照射2.66Gy x 16 days =
42.56Gyの2通りから選べますと言われました。
次回位置決めCTを撮る
ときに返事をするのですが、医師の説明を聞いた限りでは、副作用も効果も同等とのことで後者のデメリットが1つも見えず、それならなぜ前者がいまだに通常治療で、患者に選択を委ねるでしょう。
やはり日本人のデータがまだ少ないとか定着していないからなのでしょうか。
総線量が少ない寡分割を選択しようと思っていますが、問題はないでしょうか。
よろしくお願いいたします。
田澤先生から 【回答4】
こんにちは。田澤です。
OncotypeDXして良かったですね。
St.Gallen2017でも、どんどんOncotypeDXの価値が上がってきている事を感じます。(日本では国民皆保険であるが故に、尚更Oncotype
DXの負担を重く感じます)
「副作用も効果も同等とのことで後者のデメリットが1つも見えず、それならなぜ前者がいまだに通常治療で、患者に選択を委ねるでしょう。やはり日本人のデータがまだ少ないとか定着していないからなのでしょうか。」
⇒まさにその通りです。
一度標準治療が決まると、それが覆るには「かなり慎重にならなければならない」のです。
「寡分割照射は現在、日本では多施設共同試験中」なので、まだまだ標準治療とするには時期尚早なのです。
「総線量が少ない寡分割を選択しようと思っていますが、問題はないでしょうか。」
⇒問題ありません。
質問者はASTRO:American Society for Radiation Oncologyのガイドラインで「通常照射と同等」とされている基準に合致しています。