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小葉癌について

[管理番号:2886]
性別:女性
年齢:38歳

田澤先生。
お世話になります。
○○と申します。

このQ&Aを時間のある限り拝見させて頂き、大変勇気づけられ、また勉強になりました。
感謝しております。
妻の乳癌についてご質問をさせて下さい。

妻は現在38歳で乳癌になりました。
3/(下旬)に告知され、5/(中旬)に手術予定です。
針生検の結果は浸潤性小葉癌でした。
腫瘤の形成が3つあり、1.7、1、1センチ程度です。
腫瘤から腫瘤までの長さを足すと3.8センチになるようです。
ホルモン受容体はエストロゲン、プロゲステロンともに80%で陽性です。
her2は2+でfish検査中となります。
核グレードは1でした。

核グレードが低いのでfishは陰性になるのではという希望的推測をしております。
画像診断でリンパの腫れがあり、細胞診をしましたが陰性でした。
リンパ細胞診結果前の主治医の所見ではt2n1m0でした。

以下、質問をさせて頂きます。
質問1
her2が2+でfish陰性とher2が0の場合、違いはないのでしょうか?
2+という事はタンパクの過剰発現が少なからずあるという解釈をしているのですが、それにもかかわらずハーセプチンが効かないという事は悪いように感じてしまいます。

質問2
小葉癌ですので、手術後の病理によっては腫瘍の大きさが5センチ以上になる事が想像できます。
この場合、ステージは3でしょうか?
ステージ2と3では予後が結構違うようなので、懸念しております。
ただし、妻の場合、癌の体積はそんなに多くないと思いますので、(腫瘤形成がそれぞれ2センチ以下のため)、あまりステージは気にしないようにしようと考えております。

質問3
リンパの画像所見では転移疑いで、細胞診陰性の場合、転移していると考えるのが妥当でしょうか?
丸くなっており、反対側のリンパと比較するとサイズが大きかったです。

質問4
ホルモン受容体が80%とはどの程度の感受性なのでしょうか?
高めのように感じますが、100ではないので…
血行性転移をしていた場合、ホルモン療法を実施すると癌の8割に効くけど、残りの2割には効かずに徐々に増加する認識で合ってますでしょうか?

質問5
小葉癌にはタモキシフェン耐性ができやすい等の傾向はありますでしょうか?
小葉癌は短期予後(5年程度)は良好ですが、長期予後(10年以降)は乳管癌に比べて不良という情報を見て不安に感じております。

質問6
術後の補助療法として、よくわからない民間療法をやるつもりはないですが、適度な運動と食生活の見直しをストレスにならない範囲で実施する所存です。
控えた方がいい食材や摂取が望ましい食材など、何か傾向として参考になる情報がございましたらご教示頂けますと幸いです。

長々と質問させて頂き恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。
手術後に病理結果が出ましたら改めてご相談させて頂きたいと思います。
よろしくお願い致します。

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。

「腫瘤の形成が3つあり、1.7、1、1センチ程度です。腫瘤から腫瘤までの長さを足すと3.8センチになる」
⇒この記載からは、「3つの腫瘍」は有る程度近接しているようなので「温存の適応外とは言い切れない」ですが、小葉癌であり「多中心性発癌」も考慮して「術式は慎重に考える」べきです。

「ホルモン受容体はエストロゲン、プロゲステロンともに80%で陽性」
「her2は2+でfish検査中となります。核グレードは1」
⇒典型的な「大人しい小葉癌」です。

「核グレードが低いのでfishは陰性になるのでは」
⇒その通りだと思います。

「質問1 her2が2+でfish陰性とher2が0の場合、違いはないのでしょうか?」
⇒違いはありません。

「2+という事はタンパクの過剰発現が少なからずあるという解釈をしているのですが、それにもかかわらずハーセプチンが効かないという事は悪いように感じてしまいます。」
⇒それは考え過ぎです。
臨床的には、そのような事実はありません。

「質問2 小葉癌ですので、手術後の病理によっては腫瘍の大きさが5センチ以上になる事が想像」「この場合、ステージは3でしょうか?」
⇒リンパ節転移がなければ「ステージ2b」となります。

「あまりステージは気にしないようにしようと考えております。」
⇒小葉癌の浸潤径は「大きく」でますが、その意味では「乳管癌の浸潤径と同等」に考える必要はありません。

「質問3 リンパの画像所見では転移疑いで、細胞診陰性の場合、転移していると考えるのが妥当でしょうか?」
⇒腋窩の細胞診は「上手くできない医師が多い」ので注意が必要です。
いずれ、「センチネルリンパ節生検で確認」となります。

「質問4 ホルモン受容体が80%とはどの程度の感受性なのでしょうか?高めのように感じますが、
100ではないので…血行性転移をしていた場合、
ホルモン療法を実施すると癌の8割に効くけど、残りの2割には効かずに徐々に増加する認識で合ってますでしょうか?」
⇒十分な感受性です。
あくまでも数値は参考程度にしてください。(ホルモン療法の効果とは相関しません)

「質問5 小葉癌にはタモキシフェン耐性ができやすい等の傾向はありますでしょうか?」
⇒ありません。

「小葉癌は短期予後(5年程度)は良好ですが、長期予後(10年以降)は乳管癌に比べて不良という情報を見て不安に感じております。」
⇒誤った情報です。
特殊型の予後データは「大規模臨床試験ができない」ので、「少数例での信頼度のない」データです。

「控えた方がいい食材や摂取が望ましい食材など、何か傾向として参考になる情報がございましたらご教示頂けますと幸いです。」
⇒アルコールや喫煙は控えるべきです。
その他は…
心身ともに健全にいきましょう。

質問者様から 【質問2】

田澤先生
お世話になります。
○○と申します。以前、管理番号2886でご相談させて頂いた件の継続のご相談です。
先日はお忙しい中でご回答を頂き、ありがとうございました。

5/(中旬)に全摘手術が終わり、病理結果が出ましたので今後の治療方針についてご相談させて下さい。
6/(下旬)or6/(下旬)に治療方針を決定する状況です。

病理の結果は以下の通りです。
所見
左乳房切除検体(本体180mm大、追加切除部35mm大)。
肉眼的にはCD領域に不形成で境界不明瞭な病変を認めます。
組織学的にはCD領域に48×45x25mmの範囲で浸潤性小葉癌を認めます。
小型円形均一な異型細胞が腺腔を形成せず、充実性、索状、孤在性に浸潤します。
主として充実性の形態を示す乳癌内病変を認めます。
追加切除部に癌の進展を認めません。
切除断端は陰性です。
腋窩郭清検体には20個のリンパ節が含まれます。
いずれも転移はあきらかではありません。
免疫染色(ck cam5.2およびck ae1/ae3)による検討では、ck cam5.2陽性
細胞を散見しますが、HE染色所見と併せると明らかな癌細胞とは言えません。

病理診断
breast, L:Invasive lobular carcinoma.
Lymph nodes:No evidenece of metastasis,0/20
腫瘍径:48x45x25mm
組織学的波及度:f
組織学的分類:浸潤性小葉癌
各グレード:grade 1(核異型スコア1点、核分裂スコア1点)
脈管侵襲:v(+)、ly(+)
リンパ節:センチネル1/3、0/20
切除断端:陰性
TNM分類:pT2
なお、針生検時にサブタイプの調査をしているため、
術後検体による再評価はしていないようでした。

針生検時のデータは以下の通りです。
免疫染色
ER:j-score 3b >=80%
PRG:j-score 3b >=80%
HER2 ASCO/CAP score 2+ >=10%
弱~中程度の完全な細胞膜の陽性
fishスコア 1.31 陰性

所見
標本は左乳房腫瘤の針生検3本。
組織では、3本のうち2本に異型小型から中型の上皮細胞のindian file型の増殖浸潤を線維化と共に認めます。
乳管内にはlobular hyperplasia あるいは lobular carcinoma in site がみられます。
線維化が強く、挫滅もあり、分かりにくいが、類円形の核小体
不明瞭な比較的揃った細胞が一列縦列でみられます。
脂肪が散在していて、脂肪浸潤がある可能性があります。
核異型度は軽度から中程度で、
分裂像はki67標識率からは少なく、30個/HPFまではいかず、0-1/HPFで、核異型度は1(2-3=1+1-2)と考えます。

追加報告
免疫染色のki67を数値で表して欲しいということです。
場所による差異があり、意味不明ですが、殆どないところ、数%以下から、最大10%程標識されるところがみられます。

以下、質問をさせて頂きます。
質問1
針生検のみでのサブタイプの評価は妥当なのでしょうか?
針生検で採取できる細胞は病変の一部であると考えられるため、術後検体で再評価されていない事にいちまつの不安を感じます。
(特にkiとher2)
ただ、術後の病理診断でも核グレードは1なので、どの道ルミナルAになる可能性が高いと考えてはおりますが…

質問2
主治医からはホルモン療法に化学療法を追加するかどうかを検討するように言われています。
強く化学療法を進める状況ではないため、化学療法を行う場合、TC
3w×4のレジメンを提案されております。
また主治医からはリンパ転移数が4個以上か別のサブタイプの場合、EC
3wx4 DOS 3wx4を提案すると言われました。
他のqaを拝見する限り、化学療法はあまり薦められる状況ではないと思うのですが、再発率を下げることを優先に考えた場合、化学療法を実施するという選択肢は妥当でしょうか?
また、化学療法を実施する場合に可能性のある後遺症について教えて下さい。
(リンパ浮腫のリスク増大やホルモン量が低下した状態での脱毛によって、綺麗に髪の毛が生えないなどの可能性はあるかもしれないと考えております)
脈管侵襲のv(+)がありますので、科学療法の回避に対して不安があります。

質問3
今回の病理診断から考えられる10年生存率と無病生存率をご教示頂けますとありがたいです。
ホルモン療法のみ(TAM10y+LHRHアゴニスト5y)と化学療法を追加した場合の数値がわかると嬉しいです。
LHRHアゴニスト5yはまだエビデンスがない旨の説明を主治医より受けております。
2年投与と3年投与の再発率の差異は乳癌学会2014の情報を参照して把握しました。
3年以内には5年投与の比較結果が出そうですので、3年完遂時に継続するか検討しようと思います。

質問4
病理診断の追加切除部におけるリンパ節転移0は信頼できる判断でしょうか?
「ck cam5.2陽性細胞を散見」の文言が気がかりです。

質問5
卵巣摘出+AI剤+TAMという選択肢はやりすぎでしょうか?(主治医から提案はされておりません)
どの道、長期的にホルモン分泌を抑制しなくてはならない状況ですので、治療完走後は自然閉経している可能性もありますし、選択肢としてありならば検討したいと考えております。
私に専門知識はないですが、閉経+AI剤が小葉顔の再発予防に有効ではないかと考えたためです。
((BIG)1-98試験を参照しました。
試験の前提
は閉経後早期乳癌ですが、ハイリスクであるほど、有効性が高いように感じました。
ただし、閉経前LHRHアゴニストの使用時と閉経後AI剤使
用時の体内ホルモン量に差があるのかを把握できておりません。
さらに閉経前のTAM単剤とLHRHアゴニスト併用時の比較結果を把握できておりません。
そもそもが検討違いでしたら、申し訳ございません。)
また卵巣摘出が保険適用にならないのであれば、治療の選択肢からは外します。

質問6
質問5に関連する内容ですが、閉経前にLHRHアゴニストの長期的投与で
ホルモン分泌を抑制した場合、
アンドロゲンがアロマターゼと結合して
エストロゲンが生成されるような状態になるのでしょうか?
上記のような変化が発生しない場合は質問5の選択肢は外そうと思います。
以上、質問が多くて恐縮ですが、よろしくお願い致します。

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。

「質問1針生検のみでのサブタイプの評価は妥当なのでしょうか?
針生検で採取できる細胞は病変の一部であると考えられるため、術後検体で再評価されていない事にいちまつの不安を感じます。(特にkiとher2)ただ、術後の病理診断でも核グレードは1なので、どの道ルミナルAになる可能性が高いと考えてはおりますが…」
⇒まずER, PgR, HER2は針生検で十分です。
Ki67は(質問者がおっしゃるように)病変全体で評価すべきものですが…
どう考えてもKi67は低値です。
luminalAであることに何の疑問もありません。

「質問2主治医からはホルモン療法に化学療法を追加するかどうかを検討するように言われています。」
⇒全く問題外です。
どう考えても「化学療法の適応外」です。
明らかなルミナールAであり、「腫瘍径もリンパ節転移の有無も化学療法に感受性が無い」ことは明確にエビデンスがあります。

「他のqaを拝見する限り、化学療法はあまり薦められる状況ではないと思うのですが、再発率を下げることを優先に考えた場合、化学療法を実施するという選択肢は妥当でしょうか?」
⇒全く「無駄な治療」です。
ためしにOncotypeDXをしてみるとわかりますが、「化学療法による上乗せは0」とでると思います。

「また、化学療法を実施する場合に可能性のある後遺症について教えて下さい。」
⇒化学療法を勧める根拠が全く不明です。

「質問3今回の病理診断から考えられる10年生存率と無病生存率をご教示頂けますとありがたいです。」
⇒かなりいい値となると思います。
◎小葉癌の場合「浸潤径が大きく」出ますが、それでNeoAdjuvant.comを用いると不当に再発率が高く出ます。
正確な値とはとても思えないので敢えてここではだしません。
もしも興味があるのであればOncotypeDXをするとでてきます。
おそらくタモキシフェン単独で「再発率は一桁」となりそうです。

「質問4病理診断の追加切除部におけるリンパ節転移0は信頼できる判断でしょうか?」
⇒信頼できます。

「質問5卵巣摘出+AI剤+TAMという選択肢はやりすぎでしょうか?」
⇒適応外診療です。
私は決して「適応外治療」は行いません。
「LH-RHagonist+AIはあくまでも海外での臨床試験のみのデータ」であり、日本での「閉経前のAIは適応外」です。

質問者様から 【感想3】

田澤先生
こんにちは。
お世話になります。
○○です。
管理番号2886の件のお礼です。
明確なご回答を頂き、ありがとうございました。

科学療法の実施有無やホルモン療法についてずっと悩んでおりました。
田澤先生から頂いたご回答によって科学療法はせずに標準的なホルモン療法単独で行くという決断をできました。
素人故に不安になり、色々な文献を読んで点々とした中途半端な知識が身につき、迷走しました。
しかし、高い知見をお持ちの田澤先生からビシッと断言して頂くことで今後の方針を迷いなく決めることができました。
本当に感謝しております。
ありがとうございました!
当初の質問でご回答頂いた、心身共に健全に…を心掛けて今後を過ごしたいと思います。
重ねてになりますが、本当にありがとうございました。

 

 

 
 


 

質問者様から 【結果4 】

経過報告
性別:女性
年齢:43
病名:浸潤性小葉癌
田澤先生の診察:[診察なし]
田澤先生の手術:[手術なし]

管理番号2886でご相談させて頂いた者です。
現在のところ再発はなく、元気に過ごせております。
もうすぐ手術後4年半になります。
一度酷い肩こりが原因で頭痛→嘔吐があり、その時は脳転移を覚悟しましたが、検査したところ問題なしでした。
腰痛などを乳癌の再発と結びつけて心配したりすることもなくなりました。

<Q&A結果>