[管理番号:4696]
性別:女性
年齢:50歳
田澤先生
はじめまして
妻が乳がんの恐れありと診断されてから、こちらで学ばせていただいております。
大変お忙しい中、真摯に回答する姿勢にいつも感服しております。
お伺いしたいことは、妻のこれからの治療についてです。
現在に至るまでの流れとしては
昨年10月ごろ、本人が右乳房にしこりの様な物を見つける。
今年に入り、急に大きくなっているように感じ3月中旬に近隣の乳腺科受診。
この際、マンモと細胞診を行った模様。
(私が付き添っていないので詳細はわかりません。)
2週間後、右乳房に最大50mmあたりの影といくつかの小さな影があること
右腋のリンパ節にも複数見られること
細胞診の結果、おそらくがんであると告げられ他の病院を紹介される。
さらに2週間後
県内で最多手術数の総合病院で、エコー・骨シンチ・MRI・CT・組織診を2週間かけて行い
すべての結果が出る前に、ステージ3c以上なので化学療法を先行して行うことを決める。
アブラキサン+ハーセプチン 1回投与後、MRIの結果がでて、肝臓に何箇所か影が映っているとのこと。
さらに詳しく調べるため腹部にエコー(このエコーについては、検査を終えただけでまだ何も聞かされていません。)
次回からのアブラキサン+ハーセプチンをとりやめタキソテール+ハーセプチン+パージェタを3週に1回半年間に切り替える。
手術・放射線治療は、行わないということでした。
ER:-
PgR:-
HER2:3+
Ki-67:70%
腫瘍の大きさ:51mm×25mm
腋窩リンパ節・右鎖骨上にも数箇所転移あり
骨には転移なし
「病理レポートは渡していない」とのことでもらっていません。
田澤先生にお聞きしたいことは・・・
1.妻の様な状況で積極的に(手術・放射線治療等で)治癒をねらっていくのは、本人に負担をかけるだけで 避けるべきことなのでしょうか?
2.Q&A[管理番号:3193]で
「抗HER2療法」⇒「肝転移の消失」⇒「乳癌の手術」⇒「ハーセプチン単剤+ホルモン療法」による維持が「最も理想的な流れ」となります。
もしも抗HER2療法で「肝転移の消失が得られなかった」
場合には、放射線照射による局所療法の併用(手術ではなく)も考慮すべきです。
とありますが、なぜ手術という手段は選択されないのでしょうか?
乳がんからの肝転移に対し、肝切除とMCNを単独あるいは併用した外科治療を行っている病院もあるようですが、先生はどのようにお考えですか?
3.上記2の場合、肝転移の消失が得られないうちに(小さくなったとしても)、乳癌の手術をすることは意味の無い事なのでしょうか?
4.上記2の場合、放射線治療はトモセラピーでしょうか?
非常にご多忙とは思いますが、回答をいただければありがたいです。
よろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
もしも肝転移があるとしたら、そこには標準治療が存在しないので担当医に「きちんとビジョンを示してもらう」必要があります。
「1.妻の様な状況で積極的に(手術・放射線治療等で)治癒をねらっていくのは、本人に負担をかけるだけで 避けるべきことなのでしょうか?」
⇒トータルとして考えることです。
もしも肝転移が本当にあるのであれば「全身療法による肝転移のコントロール(間違いなく、同時に鎖骨上リンパ節や原発巣も同様な効果があります)」が先決となります。
HER2タイプは、まさに画像上(肝転移を含めて)complete response:CRを狙えるサブタイプの代表と言えます。
抗HER2療法で「病勢のコントロール」⇒(全身療法の一つとして、またQOL改善としての)「局所療法(この場合は手術+鎖骨上領域への放射線照射)」(これが第1段階)
★その後は「第2段階」(維持)となりますが…
あまり「先の先」まで考えるのは止めましょう。 「step by step」それが重要です。
そのために最も重要なのは「担当医のビジョン」なのです。
♯ビジョンもなく、「この状況では、この化学療法をしますね。その後? その後はまた別の化学療法をします」では…
「なぜ手術という手段は選択されないのでしょうか? 乳がんからの肝転移に対し、肝切除とMCNを単独あるいは併用した外科治療を行っている病院もあるようですが、先生はどのようにお考えですか?」
⇒今までのQandAの中でも同様の質問がありましたが…
肝転移とは(通常)多発なのです。
肝切除という「高侵襲の手術」をせっかくしても、「肝の別の部位にまた出てくる(モグラたたき状態)」ということがあり適応外となります。
「肝転移では唯一大腸がんだけ」が手術適応となります。(単発の可能性があるからです)
「3.上記2の場合、肝転移の消失が得られないうちに(小さくなったとしても)、乳癌の手術をすることは意味の無い事なのでしょうか?」
⇒コントロールされれば、(全身療法の一つとして)手術をすべきだと思います。
「4.上記2の場合、放射線治療はトモセラピーでしょうか?」
⇒その通りです。
リニアックではリスクが高すぎます。(正常な肝へも照射されてしまうため)
質問者様から 【質問2】
今後の治療について
性別:女性
年齢:51歳
田澤先生
お世話になります。
以前 管理番号4696 で回答をいただいた者です。
前回の回答で
「HER2タイプは、まさに画像上(肝転移を含めて)complete
response:CRを狙えるサブタイプの代表と言えます。」
とおっしゃっていただいたき、、初めてがん治療を受ける家内、そして
私達家族にとって大変心強く感じられました。
あれから5ヶ月が過ぎ、治療を続けた結果
ある程度の効果が得られましたので
今後の具体的な治療についてご教示ください。
前回の質問以降の経過です。
タキソテール+ハーセプチン+パージェタ3週に1回を、現在までに6回
行う。
(家内は、副作用も比較的軽く、投薬前とさほど変わらない生活をしております)
5回目の後、エコーとMRIで効果を確認。
その結果
・乳房の腫瘍は、明らかに小さくなっている。
・鎖骨上下のリンパ節に認められた腫瘍は(画像上)消滅。
・腋下リンパ節のものは、小さくなっているが認められる。
・肝臓にあった影は1箇所になり、かなり小さくなっている。
というものでした。
主治医は、8回目の投薬を終えた後(10月中旬)もう一度検査をして、今以上に効果が確認できれば原発巣の手術も考えましょうと、言ってくれています。
ただし、放射線照射等の肝臓への治療は、一切触れてくれません。
田澤先生にお聞きしたいことは
1.原発巣の手術と肝臓への放射線照射、どちらを優先的に行うべきでしょうか?
主治医のいる病院ではないのですが、近隣にがんへの放射線治療を専門に行い、高精度放射線治療装置を3種類導入している病院があります。
乳がんの肝転移も受け入れてくれるそうなので、放射線治療を優先的に行うときは、この病院に紹介状を書いてもらおうかと考えています。
2.原発巣の手術を行うとすれば、田澤先生に執刀していただくことは可能でしょうか?
可能な場合(現在の病院での投薬なども含め)どのような流れ・段取りになるのでしょうか?
主治医にはまだ、他院での手術を希望しているとは伝えていません。
非常にご多忙とは思いますが、回答をいただければありがたいです。
よろしくお願いいたします。
田澤先生から 【回答2】
今日は田澤です。
Pertuzumab+trastuzumab+docetaxelが良く効いて、本当に何よりです。
こうなってくると重要なことは
1.上記3剤併用療法をいつまで継続するか?
2.手術をいつするべきか?
3.肝転移へのradiationはいつか?
上記3点に絞られてきます。
○一番はっきりしているのは、「3は1と連動している」ということです。
つまり「抗癌剤が良く効いて、(しかも)認容性も良好」であれば、(1を中止して)敢えて3を行うべきではない。
○次に2ですが、これはタイミングを相談すべきです。
1が良く効いているからと言っても(有効な治療手段の一つとして)手術はどこか
に入れるべきなのです。
現状、「8回目の後に評価して手術を考える」となっていますが、そのように(十分に1の効果があるうちに)[区切りを決めて」ささっと行ってしまうべきです。
(手術は全ての治療の中で最も短期間に終り楽な治療だという認識が必要です)
「1.原発巣の手術と肝臓への放射線照射、どちらを優先的に行うべきでしょうか?」
⇒当然「原発巣の手術」です。
「肝臓への放射線」は、(あくまでも)「抗癌剤をそろそろ休もうか?」となった際に(次善の策として)行うべき治療です。
☆つまり抗癌剤が放射線より優先するという大原則を守ってください。
抗癌剤は「何年も継続」できるものではありません。
いつかは「そろそろ休もうか?」となるのです。放射線はその時期に行うべきです。
「.原発巣の手術を行うとすれば、田澤先生に執刀していただくことは可能でしょうか?」
⇒可能ですが…
主治医が頑なに「ステージ4では手術はしない」というわけではなく、「手術しようか?」という姿勢のようです。
その意味では(手術する気、満々のところを)がっかりさせる事の無いように配慮すべきようにも思います。
☆同様のケースでも「主治医が手術してくれない」という理由で「当院で手術」⇒「術後の化学療法は地元」というパターンは結構ありますが、「主治医が手術する気満々」な場合には「術後の治療のことも含めて相談」してみましょう。