[管理番号:225]
性別:女性
年齢:38歳
初めまして。
術前化学療法についてのところを読み、ぜひお知恵をと思い質問しました。
右乳浸潤性乳がんと診断され、その後PETとMRIでステージⅢaと昨日診断されました。リンパ節転移あり、遠隔転移無しです。
医者からは、手術、抗がん剤、放射線治療と言われましたが、術前化学療法についても説明されました。
どちらでも良い、というお医者さんの回答で、決めきれず困ってます。
メリットとしてあげられたのは、抗がん剤が癌に対して効果があるかないかが分かるとのことでした。再発の確率は変わらないと。
私としては、この診断が出るまで1ヶ月半を要してます。早く切れるものなら切ってしまいたい。
と思うし、全身に見えない散らばった癌に効果があるのでは?と期待もしてしまいます。
どちらの方が体に負担が少ないのか?とも。
判断材料が少なくてすみません。
よろしければご回答の程よろしくお願いします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「術前化学療法」ですね。
世の中の趨勢があり、「数年前までは(暫くの間)術前化学療法全盛期」ともいうべき状況がありました。(抗癌剤メーカーの影響もありそうですが…)
私も例外ではなく、(数年前までは)まず「術前化学療法の適応があるか?」を考えて、「術前化学療法の適応が少しでもあれば、とにかく術前化学療法」を勧めていました。
「術前に化学療法をやると、腫瘍が目に見えて小さくなる事が解り、モチベーションが上がる」という理由をつけていましたが、今考えると「根拠に乏しい」感があります。
そのような経験から随分学んできました。
世の中も例外ではなく、結局「化学療法は術前でも術後でも予後は同等」という事から、今では「手術先行」が盛り返してきていると思います。
(私個人の感想を挟むと)「リンパ節転移があれば、とにかく化学療法」という時代からサブタイプの時代「luminal type(特にA)では(例えリンパ節転移があっても)化学療法は無効」への変遷が背景にはありそうです。
「とにかく化学療法」という時代では無くなっている事は間違いありません。
状況の確認
ステージⅢaという事ですが、「N2(リンパ節同士が癒合して固着)=リンパ節転移が高度」なのか、「腫瘍が5cm以上であり、N1(リンパ節転移は明らかだが、高度ではない)」なのか、で幾らか「術前化学療法の推奨度」は変わってきます。質問者はどちらなのでしょうか?
サブタイプはどうでしょう? Luminal typeなのか、HER2 typeなのか、tripple negativeなのかで変わってきます。
※サブタイプについては、トップページの「乳癌の分類」を参照してください。
回答
- 「術前化学療法を(強く)勧める」ケース
⇒(ステージⅢaでも)N2(リンパ節ががっちり固着している)の場合(以下のサブタイプに関係無く)
手術による「取り残し」のリスクがあります。
- 「術前化学療法してもいい」ケース
⇒HER2 type
このタイプでは化学療法の感受性が相当高いので、安心して化学療法を行えます。(安心してとは、腫瘍が増大するリスクは少ないという事です)
- 「手術先行を勧める」ケース
⇒luminal type
このタイプでは化学療法の感受性が低い(特にluminal Aでは化学療法自体の適応がありません)
術前化学療法中に「化学療法中に腫瘍が増大⇒これが本当に大変なのです。 急遽手術のタイミングを見なくてはなりません
⇒tripple negative
このタイプは「化学療法感受性が高い」ものもあるのですが、「化学療法に全く反応しないもの」が含まれています。
Luminal type同様に「化学療法中に腫瘍が増大する可能性」があります。
その場合、(luminal typeとは違って)打つ手が無くなってしまいます。
※非常事態に備えて、「手術」だけでも「できる内にやってしまう」方が安心なのです。
「どちらの方が体に負担が少ないのか?」
⇒体の負担は、結局(術前にしろ、術後にしろ)化学療法をするのだから同等となります。
ただ、(これは私の主観ですが…)
術前化学療法をやると、「最初に、(副作用による)体のダメージ」があるので、「手術までの間」に「精神的にも肉体的にも」ストレスが持続します。
これに比べると、「取りあえず手術をしてしますと」(ゴールが見えてくるので)「術後の化学療法も頑張れる」ように思います。
質問者様から 【質問2】
少ない材料から、的確な回答とこれから考えるべき方向までご回答くださりありがとうございました。私の主治医が話した理由が、先生の回答でその意味がようやく分かり、夫と二人でものすごく腑に落ちました。
再質問というより、現時点で分かっていることをお伝えしたいと思いました。
○腫瘍は、大きな塊として認識されるのものではないのですが、だらだらと繋がっているようで、全長6センチです。
○リンパ節転移はPETで確認してます。広範囲な印象でした。癒着までは指摘されてません。エコーではリンパ節転移はないとの所見だった ので、転移があったことに主治医も想定外なようでした。(私自身は右手に痺れを感じていたので、やっぱりかという感じでした)
明日病院に、
①type
②リンパ節癒着や状況
について聞きたいと思います。
あと、検査結果をコピーしてもらえるかどうかお願いして、判断材料を増やしたいです。
あまりに丸腰な状態で質問してお恥ずかしい限りです。
真摯にご回答くださり、本当にありがとうございました。またよろしくお願いいたします。
田澤先生から 【回答2】
こんばんは。田澤です。
この回答が「明日の」受診に間に合えば。と思い今返信しています。
今回の情報で私が判断したこと
「全長6センチ」「リンパ節転移はPETで確認してます。広範囲な印象でした。癒着までは指摘されてません。エコーではリンパ節転移はないとの所見」
⇒この情報からはステージⅢaでも、 T3N1(腫瘍が5cm以上で、リンパ節転移陽性だが高度ではない)事が解りました。
「エコーでリンパ節転移なしの所見」からはN2(高度のリンパ節転移=リンパ節の癒着)では無いこともはっきりしました。(PETでのリンパ節診断は偽陽性もあるのでT3N0の可能性もあります)
◎是非「サブタイプ」については聞いておいてください。
もしKi67(増殖指数)も調べていたら教えてもらうといいと思います。(Ki67はluminal typeをAとBに分けるのに用いられます。)
あと「PETで陽性なのは、レベルⅠだけなのか、ⅡやⅢはどうか?」も聞いてみて下さい。
★検査結果「針生検の病理報告書」はもらえるはずです。(今時、渡せないなどという医療機関は無い筈です)
質問者様から 【質問3】
本当にご丁寧で迅速な回答をありがとうございました。間に合うように、という先生のお気持ちが大変嬉しかったです。お忙しい中ありがとうございました。
そして、すみません。病院へ行くのは◎日になります。
手術か術前化学療法かの決断がつかず、とりあえず◎日入院で、電話で答えをということになっていました。
相談センターに問い合わせたのですが、検査結果等は◎日にお医者さんに交渉になりました。
そして、私の選択は手術にしたのですが…
なんと職場でインフルエンザB型にかかってしまったらしく…。
引き継ぎや片付けをしていたのですが、ものすごく関節が痛く、先ほど熱を測ると38度…。
手術延期でしょうか。
泣き面に蜂とはこのことで、本当に自分にがっかりです。
とりあえず明日近くの病院に行き、がんセンターに連絡したいと思います。
予約がなかなか取れないところなので、ステージが上がってしまったらどうしよう…と不安です。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
事情は良く解りました。
せっかっく、「手術先行」を選択したのに、「インフルエンザ?」とは…
ただ、「もしインフルエンザ検査が陰性」であれば、解熱すれば「ぎりぎりセーフ」となります。
万事うまくいくように願っています。
質問者様から
【質問4 今後の治療について。】
性別:女性
年齢:38歳
こんばんは、ご無沙汰してすみません。
先の丁寧で迅速なご回答ありがとうございました。
結局インフルエンザB型で、一週間伸びました。
手術を○○日にしました。胸の奥まで切ったらしく、ステージはⅢcとなりました。(術前はⅢaでした)
①手術内容
レベル3
小胸筋の内側縁より内側 鎖骨下のリンパ節
②サブタイプ(針生検の結果です)
ルミナルA(手術先行で良かったです)
一ヶ月後に病理検査を元に治療方針が決まります。予定では抗がん剤、その後放射線、ホルモン剤となります。
現段階や今後の注意点、聞いておくべきことはありますか?
何度もすみません。よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答4】
こんにちは。田澤です。
御無沙汰してます。
「結局インフルエンザB型で手術が1週間延期(1週間で済んで良かったです。)」○○日に手術が終わったとの事。
手術前の焦燥感が無くなり、まずは一安心というところでしょう。
状況の確認
術中に「ステージがⅢCとなった」との事ですが、ⅢCということはN3という判断となります。
⇒この判断はあくまでも仮の判断となります。(術中肉眼所見による仮のステージ分類)
「術中にレベルⅢ(鎖骨下リンパ節転移)陽性」との判断だとは思いますが、「まさか、術中にレベルⅢリンパ節の迅速病理診断をしている訳ではありませんよね?」(通常は行いません)
「術中にレベルⅢが腫大して硬かったから、(肉眼的に)転移と判断して、レベルⅢまで郭清した」というのが真相だと思います。
この場合の「ステージⅢCはあくまでも仮診断」です。
細かい事をいうと、ステージ分類には(画像診断での)臨床病期と(術後病理診断での)病期分類と2つに分けられます。
臨床病期(clinical stage:cStage)は cT3, cN1, cStageⅢA となり、(術中所見からのN3の判断はあくまでも仮診断です)
最終的に病理組織検査結果でレベルⅢリンパ節の転移が証明されて初めて、病理診断による最終病期(pathological stage:pStage)がpT3, pN3, pStageⅢCとなります。
※これはあくまでも病理結果でレベルⅢ転移が証明された場合です
回答
「一ヶ月後に病理検査を元に治療方針が決まります。予定では抗がん剤、その後放射線、ホルモン剤」
⇒1カ月後というのは随分長いですね。(通常なら2週間でしょう。)5月の連休を考慮してもせいぜい3週間だと思いますが…
それでは回答します。
(実際にレベルⅢに転移が確認されたと仮定しますが)
- 放射線照射は必要です。
(この場合には胸壁に加えて「SC:鎖骨上」も照射野に含まれます。SC照射の場合には通常照射であるリニアックよりもIMRTであるトモセラピーの方を勧めますが)
- ホルモン療法が最も重要です。
ルミナールAであれば、(38歳という年齢を考慮すれば)当然タモキシフェン+LH-RHアゴニストの併用が重要と思います。●豆知識
昨年12月にサンアントニオ(国際会議)で報告されたSOFT試験でLH-RHアゴニスト併用の有用性についての重要な報告がありました。
「閉経前患者全体」ではLH-RHアゴニスト併用の有用性は証明されませんでしたが、「35歳未満」に絞った解析では有用性が示されています。
質問者は38歳ではありますが、やはりLH-RHアゴニストの恩恵を得ると思われます。 - 化学療法
⇒これが問題です。
本当に必要でしょうか?
ルミナールAでも「レベルⅢが陽性だから…」みたいな「あいまいな根拠」で予定されているように思えます。(化学療法のベネフィットはルミナールAには証明されていないのです)
※38歳という年齢から考えると、もし「化学療法の上乗せ効果」があるとしたら、それは「化学療法による卵巣機能抑制」が大きく関わっていると考えられています。
つまり「化学療法による卵巣機能抑制がLH-RHアゴニストによる卵巣機能抑制よりも優れている」とはとても思えないのです。
「現段階や今後の注意点、聞いておくべきことはありますか?」
⇒
- (病理結果がでたら)実際にレベルⅢリンパ節に転移があったのか確認してみてください。
- ホルモン療法について タモキシフェンにLH-RHアゴニストを加える予定かどうか?
- 放射線照射にていて 胸壁に加えて鎖骨上リンパ節にも照射予定かどうか?(照射がリニアックなのかトモセラピーなのか? もしリニアックなら、それで効果的な照射が可能なのか)
- 化学療法について 本当に必要なのか?
◎以上につき、(もう退院されていると思いますので)外来受診の際にでも聞いてみるといいと思います。
ひとつひとつ「きちんと」説明できないようでは、問題があります。
「受け身」ではなく、「積極的に」担当医と話し合う態度が重要です。