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ステージⅡ乳がんの治療

[管理番号:1082]
性別:女性
年齢:47歳
はじめまして。
7月末に乳がんと診断されてから、このQ&Aを知り勉強させていただいています。
10月上旬に手術を受ける予定で、その後抗がん剤治療をすることになっていますが、手術までの期間が長くいろいろ心配な事があります。
約2年半前の検診で乳房の石灰化と言われ、約半年ごとに経過観察していましたが、今年7月初め10カ月ぶりのマンモグラフィーとエコーで変化があり、MRIとエコー下針生検を受け、7月末に右乳房の浸潤性乳管癌と診断されました。その後、造影CTとPET検査を受けました。
(診断結果)
右の乳房の乳頭の真下あたりに3センチ近い腫瘍。
ホルモン感受性あり。HER22+。Ki-67 26%。
造影CTとPET検査の結果から、ステージⅡA。
医師の説明では、たちの良いがんとは言えない(去年からの変化も早いようなので)、どちらかといえは術前薬物療法をしたあと全摘手術をするのがよいと思うとのことでした。
その後、手術の症例が多い別の病院へ行くことにしました。
(病状と治療の説明)
前の病院での検査の結果から説明を受け、手術は10月初めになりました。
病状 右乳がん(硬がん)、25mm大の腫瘍、リンパ節腫大なし、肝、肺、骨への転移なし、癌の広がりは約50mm大、ステージⅡA
ホルモンレセプター 陽性、HER22+(FISH +)、MIB-1 26%
手術 乳房全摘出、センチネルリンパ節生検の予定。
化学療法については、詳しい説明はまだですが、抗がん剤(6カ月)のあとハーセプチン(1年)、その後ホルモン療法(5年間)というような説明がありました。
術前薬物療法については、乳房温存できる状態ではないこと、明らかなリンパ節の腫れ?がみられないこと、薬物療法中に腫瘍が進行する恐れもあることから、行うメリットはないと言われました。手術までの期間が長いことが心配でしたが、この程度なら問題ないとの返事でした。
前の病院で変化が早いと言われたことが気になり、術前化学療法をすぐに始めたほうがよかったのではないかと落ち込みましたが、こちらのQ&Aを読むうちに手術が先の判断でよかったと思えましたが、いろいろ不安があり質問させていただけたらと思います。
手術前の検査から手術まで2カ月近い期間がありますので、手術の結果、ステージⅡAより進んでいたということになるのではと不安ですが、その期間の長短にかかわらず、手術前の診断と手術後の診断結果が違うことはあるのでしょうか。
また、手術後の抗がん剤治療の副作用が、どのくらいつらく日常生活に支障をきたすのか(仕事をどの程度休むことになるのか)今のところわからず心配です。(前の病院では最初の抗がん剤治療は1カ月ほど仕事を休んだほうがいいと思うと言われました。)
手術を受ける病院でいただいた資料には、抗がん剤については、「FEC(5-FU、ファルモルビシン、エンドキサン)、タキサン(タキソテール、タキソール)などを使用 1回/1~3週間 約6カ月」とあるのですが、こちらのQ&AではFECという言葉をあまり見ないのですが、副作用や効果についてどのような特徴がある薬なのでしょうか。
お忙しい先生に拙い質問をお送りし大変申し訳なく思いますが、アドバイスいただけることがありましたらお願いしたいと思います。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 cT2(25mm), cN0, cStageⅡA, luminalB(HER2陽性)
 最初の病院の「術前薬物療法をしたあと全摘手術をするのがよいと思う」というのには全く賛成できませんが、
手術する病院での「乳房温存できる状態ではないこと 薬物療法中に腫瘍が進行する恐れもあることから、行うメリットはない」というのが正しいと私は思います。
 ♯ただ「リンパ節転移は無関係」です。
 結局「術前化学療法で縮小しても」郭清する範囲は同じなのです。

回答

「その期間の長短にかかわらず、手術前の診断と手術後の診断結果が違うことはあるのでしょうか」
⇒あります。
 ステージは「浸潤径」と「リンパ節転移の有無(個数)」で決まります。
 具体的には「25mmの腫瘍」でも「浸潤部分が20mm以下」ならば1期となりますし、「リンパ節転移が陽性」ならば「ⅡB期」となる事もあります。
 
「手術後の抗がん剤治療の副作用が、どのくらいつらく日常生活に支障をきたすのか」
⇒レジメンにもよります。
 提供されている術後療法はどうやら「アンスラタキサン」のようです。「FECx4⇒DTXx4」(6ヵ月)
 アンスラタキサン+ハーセプチンが標準であることは事実ですが、質問者がcN0である事を考えれば「非アンスラサイクリンレジメン」も十分考慮すべきです。
 非アンスラサイクリンの抗HER2療法(副作用が楽です)
 ①パクリタキセルとハーセプチンを毎週投与(12回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
 「最初の12回の毎週通院」は「通院は大変」ですが、「副作用は格段に楽」です。 その後のハーセプチン単剤には副作用はありません。
 
 ②タキソテール+エンドキサン+ハーセプチン(4回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
 これは、「全て3週毎通院」となります。
 ①と比較すると「通院回数が少ない」ことが利点ですが、「副作用は①よりは、やや強い」と言えます。
 効果に関しては①との直接比較はありませんが、「パクリタキセル(毎週12回)=ドセタキセル(3週投毎投与4回)」と考えると②の方が「エンドキサン分」上乗せが期待できます。
 ③タキソテール+カルボプラチン+ハーセプチン(6回)⇒ハーセプチン単剤(12回)
 乳癌治療で唯一「カルボプラチンが承認」」されているレジメンです。
 
「こちらのQ&AではFECという言葉をあまり見ないのですが、副作用や効果についてどのような特徴がある薬なのでしょうか。」
⇒FECは「F:5Fu(ファイブエフユー), E:epirubicin(エピルビシン), C:cyclophosphamide(サイクロフォスファマイド:エンドキサンともいう)の3剤併用療法です。
 
 Key drugはアンスラサイクリン系であるE:エピルビシンです。
 
 「アンスラサイクリン系」は歴史的に「乳癌治療の中心薬剤でした」が、(心臓病の多いアメリカでは)「非アンスラサイクリンの流れ=タキサンを中心」が台頭しています。
 副作用は「吐き気」「食欲不振」「脱毛」などがあります。
 FEC(6回)がAC(4回)と同等との試験結果がでてからは、急速に「ACやEC(AとEは同等のアンスラサイクリン系)」が行われるようになってきています。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

以前、乳がんの手術を受ける前に質問させていただいた者です。
(管理番号:1082 ステージⅡ乳がんの治療)10月に手術を終え、その後10月末から1月にかけて抗がん剤
(TC4回)を終了しました。
前回質問した際には、丁寧な回答をいただき大変感謝しております。
このQ&Aのおかげで手術までの不安な気持ちがずいぶん解消され、その後の抗がん剤治療も特に問題なく終える事ができました。
2月から、ホルモン剤(タキシモフェン)を服用しています。
現在は抗がん剤の副作用もほとんど気にすることなく、治療前と同じように生活していますが、
少し気になることがあり再度質問させていただきたいと思います。
10月の手術後に次のような病理結果の説明を受けました。
(病理結果)
腫瘍の大きさ 浸潤部 35mm×22mm×25mm
全体で 35mm×35mm×28mm
腋窩リンパ節転移 計 0/3 センチネルリンパ節 0/3
脈管内(静脈)侵入 あり
核グレード分類 3(核異型度 3+)、核分裂像 22コ/10HPF)
ホルモンレセプター 陽性 ・エストロゲンレセプター  + 60%
・プロゲステロンレセプター -
ハーセプテスト 1+
MIB-1 31.1%
病理結果の説明を受けた際には、手術前の針生検(別の病院で受けた)の結果がHER
22+(FISH +)との診断だったのが、陰性に変わっていることに驚き、少しショックでもありました。
(ハーセプチンで効果的な治療ができるものと考えていましたので)
主治医に尋ねたところ、そのことにはじめて気づいたようでしたが、全体としては陰性だからというような答えであったと思います。
また、HER2陽性でないほうが良い結果であるというような返事でした。
なぜこのような違いが起こるのか疑問に思いながらも、主治医があまりその点を気にされない様子だったので、手術後の病理結果を重視して今後の治療が決まるのだと理解しました。
その後の治療はTC4回とホルモン剤治療5年(もしくはそれ以上)ということになりました。
抗がん剤治療中は、当初の予定より短く3ヵ月で済んでよかったと思っていましたが、
こちらのQ&Aで、同じように針生検と手術後の結果でHER2陽性から陰性になった方のケースなどを読み、
ハーセプチンの治療をしなくてもよかったのか気になってきました。
私のような場合、ハーセプチンの治療の適応となるのでしょうか。
それとも必要ない治療でしょうか。
ほかにも手術前の診断と相違点がいくつかあり、腫瘍の大きさが大きく
(25mm→35mm)、悪性度もより高い(核グレード(2→3)、MIB-1(26%→
31.1%))結果でした。
手術前よりも、腫瘍の大きさ、核グレード分類などが悪い結果となりましたが、抗がん剤がTC4回ということは、リンパ節への転移がなかったため、低リスクということでしょうか。
それと、脈管内(静脈)侵入ありというのは、どういうことなのでしょうか。
あまり考えすぎずに過ごしたほうがよいと思っているのですが、少し気になってきましたので、先生のお考えをお聞かせいただきたく再度質問いたします。
よろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「針生検(別の病院で受けた)の結果がHER22+(FISH +)との診断だったのが、陰性に変わっている」
⇒これについてのガイドラインは存在しません。
 当院での「同様なケース」でもそうですが、一度「針生検の病理標本」を取りよせて、(その目で)再度(手術時の)「標本全体」を評価し直す事です。
 やはり、「病理医に(主治医が)協力を求める」ことが唯一の解決策と考えます。
 
「私のような場合、ハーセプチンの治療の適応となるのでしょうか。それとも必要ない治療でしょうか。」
⇒病理医としての見解を求めるべきです(上記コメントのように)
 
「ほかにも手術前の診断と相違点がいくつかあり、腫瘍の大きさが大きく(25mm→35mm)」
⇒これは「画像診断」と「顕微鏡による診断」なので、仕方がないことです。
 
「悪性度もより高い(核グレード(2→3)、MIB-1(26%→31.1%))結果でした。」
⇒これは針生検があくまでも「サンプリング検査」だから「不可避」なのです。
 
「手術前よりも、腫瘍の大きさ、核グレード分類などが悪い結果となりましたが、抗がん剤がTC4回ということは、リンパ節への転移がなかったため、低リスクということでしょうか。」
⇒その通りです。
 
 低リスクです。
 「luminal typeでの化学療法」は、基本「TC」なのです。
 
「それと、脈管内(静脈)侵入ありというのは、どういうことなのでしょうか。」
⇒これは、大した意味はありません。
 癌組織の病理組織標本で「血管に癌細胞が入り込んでいる像」があったということです。
 「血液内に癌細胞が存在するかどうか」とは無関係です。