Site Overlay

浸潤性小葉ガンについて

[管理番号:558]
性別:女性
年齢:48歳
 
 

質問者様の別の質問

質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。
質問者様の別の質問は下記をクリックしてください。
管理番号:948「術後骨転移の検査」

 
 
はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします。
1月に乳ガンと告知されました。
そのしこりは当初1.5センチで、温存手術でいきましょうと3月の手術に向けてCT,MRI,骨転移などの検査を行いました。
手術10日ほど前に術前最終確認のため受診した時に主治医が慌てた様子でもう一度エコーをとらせてほしいとのことで、診てもらいましたら、なんとあと一つしこりがあることを告げられました。
主治医もMRI画像でわかったようです。
手術の日も近く、先生も悩まれたようでしたが二個それぞれくりぬく温存手術をし、術後の病理結果もでましてリュープリン、タスオミンから初め、傷が落ち着いたので現在放射線治療ちゅうであと3回で終わります。
全部で25回照射です。
病理検査ですが、最初に見つかった1.5センチのしこり、あと一つのしこりはそれぞれ、1センチと2センチ。どちらもリンパ節転移0、エストロゲン受容体→高度陽性、プロゲステロン受容性→高度陽性、核異型度どちらも1、Her2→陰性、ki67→どちらも1%とのご説明でした。
わたしも、治療にも納得し5年局所再発は1.4%くらいとのことで、すっかり安心して元気にしでしたが何気なく手術をした病院との連携クリティカルパスの診療<文字化け>画書を詳しく見ましたらその中の組織学的分類に目が止まりました。
一つ目の1センチの方は、a1、二つ目の2センチの方はb3とありました。
自分で調べましたら浸潤性小葉ガンとわかり、予後が悪いようでお先真っ暗になりました。
長々と経緯を申し上げましたが、ここからがご質問です。
①浸潤性小葉ガンの場合でも、温存後→放射線で全摘と同等の効果はありますか?
②今からでも、全摘したほうがいいですか?
③放射線の追加はしたほうがいいですか?
④タスオミンが浸潤性小葉ガンにはホルモンタイプでも効果はあまり認められないとの文献がありましたが、先生のお考えはいかがでしょう。
⑤今の段階での予後や再発率、遠隔転移について先生のお考えはいかがでしょう。
以上について教えていただきましたら主治医にもっと深くお話できるのではと、お忙しいなか恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 「浸潤性小葉癌 invasive lobular carcinoma ILC」ですね。
 本日のQandAには「LCIS lobular carcinoma in situ」の質問もありました。
 ILCについては、大変な勘違いをされている様に思います。

回答

「一つ目の1センチの方は、a1、二つ目の2センチの方はb3」
⇒これで見ると、「あとで見つかったしこり」の方が「浸潤性小葉癌(以下ILCと略します)」だったのですね。
 ILCと解った時点で「担当医も悩まれた」とありますが、「多中心性発癌」についての話しはあったのでしょうか?
 つまり「今回は断端陰性」であったとしても「将来的に乳房内再発のリスク」は考えなくてはならないのです。
 「温存の適応が無い訳ではありません」が、「温存を勧めるためには、十分な説明」が必要です。
 
「浸潤性小葉ガンとわかり、予後が悪いようでお先真っ暗になりました」
⇒ILCは予後不良ではありません。
 ただ、(多中心性発癌による)乳房内再発(再発というか、正確には新病変ですが…)のリスクがあります。
 また、極めて低頻度とはいえ(乳癌の他の組織型では殆どみられない)腹腔内再発があります(もしかして、予後が悪いとの評判はここから類推しているのかもしれませんが、極めて低頻度です)
 
「①浸潤性小葉ガンの場合でも、温存後→放射線で全摘と同等の効果はありますか?」
⇒乳房内再発についてのリスクは「他の組織型と」同等ではありません。
 ILCでは、全摘の方が安全です。
 
「②今からでも、全摘したほうがいいですか?」
⇒そもそも1つの病変がILCという前に、「全く異なる乳管系ではない」多発である時点で「温存の適応には?」がつきます。
 その一方の病変がILCであることを考えると2重の意味で「全摘の方が安全」と考えます。
 ただ担当医は「直前まで、乳頭腺管癌の単発」という認識だったので「悩みに悩んで」温存を選択したのでしょう?
 勿論「その辺のリスクについては十分なコンセンサスが必要」ですが…
 
「③放射線の追加はしたほうがいいですか?」
⇒放射線の追加は全く無意味です。
 「放射線の追加」とは通常「腫瘍床(腫瘍がもともと存在していた部位)への追加」となりますが、今問題にしているのは「全く異なる部位」からの発癌です。
 腫瘍床への追加照射で解決する類の問題ではありません。
 
「④タスオミンが浸潤性小葉ガンにはホルモンタイプでも効果はあまり認められないとの文献がありましたが、先生のお考えはいかがでしょう。」
⇒もともと特殊型であるILCでの統計には無理があります。
 十分な症例数での「臨床試験」は無理であり、せいぜい「小規模での『こんな傾向です』評価」だと思います。
 私は「ILCはluminal Aである事が多く」(実際に、質問者もそうですが)ホルモン療法も効いている(予防投与であり、再発が殆ど無いので実感することは困難ですが…)と思っています。
 
「⑤今の段階での予後や再発率、遠隔転移について先生のお考えはいかがでしょう。」
⇒このまま温存後の放射線照射+タスオミン+リュープリンですね。
 (本来、年齢からもリスクからも適応外に近いリープリンも併用していることからも、担当医が乳房内再発を意識している事がうかがえます)
 ○予後は極めて良好です。 pT1c, pN0, luminal Aですから担当医のいう「5年局所再発は1.4%くらい(どこからのデータでしょうか?)」というのに同意します。
 ○再発率ですが、乳房内再発のリスクは放射線照射をしても高率となると思います。
  ILCのデータは無いですが、LCISの場合には30%程度で多中心性(多発)というデータがあります。
 ○遠隔転移については、「予後良好」と関係しますが、10年で5%程度だと思います。
 
◎多発(しかも一つはILC)との事で、「温存すべきか?」との議論があります。
 ガイドライン上は、
  「多発癌が異なる腺葉系に存在する」は『温存術の適応外』とされ、「ILCであること」は『温存の禁忌ではない』とされています。
 これをベースに「担当医と話し合われる」ことをお勧めします。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

性別:女性
年齢:48歳
先生、早速ご回答いただきましてありがとうございました。
今日、放射線の最終日でした。放射線科の先生にも追加照射について尋ねましたら、25回で十分ですよとのことでした。それは、私の二個の腫瘍の断端がマイナスだったこと。
例え、ミクロサイズのガン細胞があったとしても、25回の照射で死滅させきれていると考めますとのことでした。
帰宅後、田澤先生からのご回答を拝啓しまして私なりに理解しますと、やはり今からでも全摘したほうが今後安心して生活できそうだと思いました。
来週、乳腺科の先生の診察がありますので、主治医のお考えを聞いてきます。
放射線を終えたばかりですが、全摘の手術をするなら、1日でも、早いほうがいいですか?
猶予期間はどのくらいでしょうか。
正直、告知から、手術、病理検査結果、ホルモン治療、放射線と気が休まらなくて不安いっぱいな日々で疲れてます。
それから、ちなみに、二個目のしこりは、細胞針のみでした。
なので、術前は腫瘍のタイプは主治医はご存知ありませんでした。
田澤先生のホームページにもっと前から出会っていれば、手術日を延ばしてでも詳しく検査してもらえば良かったと、後悔しています。
それから、私のタイプで5年再発率はそのクリニックの<デ・u栫[タ:文字化け>とのことです。
来週、主治医からのお話を聞きましたらまた、ご報告させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 前回は「異なる乳管系での多発」「そのうち一つは浸潤性小葉癌」温存が妥当か?という内容でした。

回答

「やはり今からでも全摘したほうが今後安心して生活できそうだと思いました。」
⇒私もそう思います。
 
「全摘の手術をするなら、1日でも、早いほうがいいですか?猶予期間はどのくらいでしょうか」
⇒慌てる必要はありません。
 あくまでも「将来的な再発リスク」についての話であり、「すぐに起こりそうな事では全く無い」のです。
 放射線照射もしているので「再発リスクはかなり低下しているのも事実」です。
 ◎感覚的には、「半年以内」でしょうか。
 それ以上となると、「照射もしてるし、少し様子を見ようか」と気持ちがシフトしそうです。
★また質問ありましたら、いつでもどうぞ。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

お世話になりまして、ありがとうございます。
田澤先生から後押しで勇気をもって、診察の際に主治医へ「小葉ガンは局所再発が心配なので、いますぐでなくてもいいので全摘の手術を考えています」と話しましたら「まったく、必要ない!」と断言されました。
その理由としては、「まず、断端マイナスだったんだから、こんなにまで、心配しなくていい。
それに、もし再発しても術側でも対側でも見つかったときに再手術したらいい」とのことでした。
その時は自信たっぷりの主治医のお言葉に、じゃあ、様子見でいいかしらとおもいましたが、やはり悩んでしまいます。
再発しても主治医は治癒を目指せると話してましたが、田澤先生はどう思われますか?
家族は、私が神経質になりすぎていると言い、主治医の言うとおり放射線も終わったのだから少しガンから気持ちを離して趣味でも楽しんだらと言います。
しかし、当事者のわたしは、やるだけのことをやって、それでも再発や転移したならあきらめもつくような心境です。
今は、食事にも細心の注意をし、軽い運動をし、自分にできることは何でもやってるつもりの毎日です。
とりとめのない文章ですみません。
お優しい田澤先生に気持ちを吐き出してしまいすみません。
全摘の手術については時間をかけて納得いく結果を考えます。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 主治医の頭の中には
①「多発乳癌」と(ぎりぎりでとは言え、術前に)診断した上で「十分にコンセンサス」を得て行った手術である。
②手術でも「上手い事、それぞれを断端陰性」にできた
③放射線照射も行った(あと3回と言う事でしたが、もうそろそろ終了ですよね)あとである。
このような中で、「何を今更!」という気持ちがあるのでしょう。

回答

「再発しても主治医は治癒を目指せると話してましたが、田澤先生はどう思われますか?」
⇒その点では「主治医のいう通り」です。
 再発した時点で「迅速に診断して治療」すれば、その通り「治癒を狙えます」
 乳房温存術が「治療として許容されている」背景には「全身的な再発率は変わらない。局所再発したとしても、その後に切除すれば、最初から全摘と同様」という事実があります。
 確かに「理屈ではその通り」です。
 しかし、「2つの別々の乳管系から発生した乳癌であり、更に一方は(多中心性発癌を起こすリスクのある)小葉癌である」事から乳房内再発のリスクが高い事は事実です。
 それを危惧して「乳房内再発が怖いから、全摘したい」という患者さんの訴えを拒絶するのは、私は「誤り」だと思います。
 
 ○主治医が、どんなに大丈夫だと言っても「乳房内再発を迅速に診断する」ことに責任は持てない筈だからです。
 「再発のリスクを最小限にしたい」という要求に「医学的に誤りではない」以上、応えるべきだと私は思います。