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センチネルリンパ節生検

[管理番号:2168]
性別:女性
年齢:48歳
「再質問管理番号」の入力がなかったので、新たな「管理番号」にしています。 ホームページ管理者
 
先日別の質問をさせていただいたのですが母の乳がん手術が終わり、説明を受けてわからないことがあったので質問させて頂きました。
母は手術前の検査では転移はなくしこりも1cm程度たと言われていました。
ですが手術中のセンチネルリンパ節生検の結果始めとった5つのつち1つに青い陽性が出ました。
なのでまた5つとり計10個とることになったそうです。
まだ残りの結果はきてないのですが、この場合抗がん剤をつかわなければいけなくなるのでしょうか?
硬がんだから1cmであっても転移病室にしてしまったのでしょうか?
がんの顔つき?などは○○日に分かるらしいのですが、母は抗がん剤はいやがっています。
先生が転移があったからほかにも飛んでるかもしれない。
と言うので私たちは不安です。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
メール拝見しました。
残念ながら「質問者は甚だ、無駄な心配」に曝されています。
失礼にあたる場合にはご容赦ください。
○その原因は「担当医の一言」です。「転移があったからほかにも飛んでるかもしれない」
 こんな「無意味なコメント」をするようでは、医師として失格と言えるかもしれません(あくまでも、私個人の感想です)
 
「手術中のセンチネルリンパ節生検の結果始めとった5つのつち1つに青い陽性が出ました。」
⇒「青い陽性」というのは質問者の勘違いですが(青く染色されるのは色素法でリンパ節が染まっているだけの話であり、染色されたリンパ節がセンチネルリンパ節であるというだけであり、転移の有無とは無関係です)
 術前画像診断で「転移は無いだろう」と思っても、ありえるのです。 逆に言えば、(画像上、リンパ節転移が疑われなくとも)「だからこそセンチネルリンパ節生検はすべき」となる根拠なのです。
 
「なのでまた5つとり計10個とることになったそうです。」
⇒その「リンパ節転移が肉眼的転移(>2mm)」ならば当然、追加郭清すべきです。
 
「まだ残りの結果はきてないのですが、この場合抗がん剤をつかわなければいけなくなるのでしょうか?」
⇒抗がん剤は「リンパ節転移」だけで決まる訳ではありません。
 サブタイプは解っていないのですね?
 「抗がん剤の適応」をザックリ言うと(江戸川病院の場合)
 ①ルミナールAの場合  リンパ節転移4個以上(St.Gallen 2015votingより)
 ②ルミナールBの場合  リンパ節転移にかかわらず
 ③トリプルネガティブの場合 リンパ節転移にかかわらず
 ④HER2タイプの場合  リンパ節転移にかかわらず。
◎サブタイプとは?
組織検査(針生検や手術標本)などで以下の3点を調べます。
・エストロゲンレセプターの発現(ER)
・プロゲステロンレセプターの発現(PgR)
・HER2蛋白の過剰発現の有無(HER2)
⇒これらの組み合わせで
●luminal type:(ER陽性、PgR陽性、HER2陰性) ホルモン療法が有効(更に増殖指数Ki67の値が低いAと高いBに分けます)
 ♯luminalA(Ki67低値)ではホルモン療法単独を、luminalB(Ki67高値)には(ホルモン療法に加え)化学療法も行う事が多い
●HER2 type:(HER2陽性のもの) ハーセプチンという分子標的薬と通常の抗癌剤の組み合わせを行う
●トリプルネガティブ:(ER陰性、PgR陰性、HER2陰性)通常の抗癌剤を行う
●トリプルポジティブ:(ER陽性、PgR陽性、HER2陽性)ホルモン療法と分子標的薬と抗癌剤の全てを行う
 ※正式名称はluminal B(HER2タイプ)と言います。
 
 
「硬がんだから1cmであっても転移してしまったのでしょうか?」
⇒組織型は無関係です。
 「硬癌」を「悪者」にする必要はありません。
 
「先生が転移があったからほかにも飛んでるかもしれない。」
⇒「遠隔転移」はありません。
 全く無用で(そして)有害なコメントと言えます。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

先日は詳しく教えていただきありがとうございました。
教えたいただいた中にセンチネルリンパ節生検のとこに青く染色されるのは色素法でリンパ節が染まっているだけの話であり、染色されたリンパ節がセンチネルリンパ節であるというだけであり、転移の有無とは無関係ですと先生は書いておられたのですが、他のリンパ節の色は普通の赤色で主治医の先生は青いところが転移のある部分ですとおっしゃっていましま。
私の説明不足だったのかもしれないのですが、色が変わるということは転移があるということなのでしょうか?
後、母の話ではサブタイプを調べる検査は痛いから手術の後で調べたほうがいいと言っていたらしいのですがもし悪い顔つきのがんであれば再手術で全摘をしなければならなくなるかもしれません。
そういうことを考えると手術前にわかっていたほうがいいと私は思ったのですが。
今更にはなりますが、手術後サブタイプを検査するのが普通なのでしょうか?
お忙しい中長文ですみません。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
色々勘違いがあるようです。
「教えたいただいた中にセンチネルリンパ節生検のとこに青く染色されるのは色素法でリンパ節が染まっているだけの話であり、染色されたリンパ節がセンチネルリンパ節であるというだけであり、転移の有無とは無関係」
⇒この通りです。
 
「他のリンパ節の色は普通の赤色で主治医の先生は青いところが転移のある部分ですとおっしゃっていました。」
⇒他のリンパ節は「センチネルリンパ節ではありません」
 「青く染色されたリンパ節のみがセンチネルリンパ節」です。
 「それ以外に摘出した(染色されていない)リンパ節」は「本来、センチネルリンパ節ではありません」
 今回は(本物の)「センチネルリンパ節だけが、転移陽性」であり、(それと一緒に摘出した)「(染色されていなかった4個の)リンパ節は非センチネルリンパ節であり、これらは転移が無かった」ということです。
 
「私の説明不足だったのかもしれないのですが、色が変わるということは転移があるということなのでしょうか?」
⇒無関係です。
 (本物の)センチネルリンパ節は「青く染色される」だけであり、それは「転移の有無とは全く無関係」です。
 色素は「癌細胞に染まる」訳ではなく、リンパ管を通って「最初に到達したリンパ節を染める」のです。
 
「母の話ではサブタイプを調べる検査は痛いから手術の後で調べたほうがいいと言っていたらしいのですが」
⇒つまり、「針生検は針が太いから」やらなかったという事ですね。
 麻酔すれば、大して痛くもありません。
 
 それよりも「組織診断の確定診断無しで」手術した後に「やっぱり癌では無かった」となるリスクは無視できません。
 
「もし悪い顔つきのがんであれば再手術で全摘をしなければならなくなるかもしれません。」
⇒これは「完全な勘違い」です。
 「顔つきが悪い=グレードが高い」とか「サブタイプがどうか」などは「再手術=局所療法」には全く無関係です。
 それらは、術後の「全身療法(化学療法やホルモン療法)」にのみ関係します。
 ○再手術が必要なケースは「乳房温存術(部分切除)で断端陽性」の時だけです。
 
「そういうことを考えると手術前にわかっていたほうがいいと私は思ったのですが。」
⇒「そういうこと」とは「再手術」ですか?
 全く無関係です。
 「グレードやサブタイプは局所療法(手術)とは全く無関係」です。
 あくまでも「術後の全身療法(薬物療法)」にのみ影響するのです。
 
「今更にはなりますが、手術後サブタイプを検査するのが普通なのでしょうか?」
⇒「誤診を排除する」という意味では「組織診は必須」です。
 それに付随して「サブタイプが解る」ということです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

こんにちは。
先日はお忙しい中詳しく教えて頂きありがとうございました。
母の乳がんの詳しい結果が出たのですがわからない部分があったので質問させて頂きました。
浸潤性乳管癌 乳頭腺管癌
T1N1M0 ステージ2
腫瘍の大きさ 0.9mm
悪性度 グレード1
ER 陽性 80%
PgR 陽性 60%
HER2 陽性 3+
細胞分裂 22%
脈管侵略なし
センチネルリンパ節生検
1/10 0.15mmの転移
という結果だったのですがこれからの治療は1年間のハーセプチンとホルモン治療を5年間と放射線を25回することになりました。
主治医が言うには母にはハーセプチンが80%効くらしいのですが、母のタイプは抗がん剤も普通はやるものだというのを聞きました。
ですが、母は初めから抗がん剤をするのを嫌がっていたので結局抗がん剤は使用しないことに決めたと言っていたのですがこの場合再発リスクが高くなるのでしょうか?
結果の紙には高リスクと書いてありました。
転移も1つあったので抗がん剤はやはりしたほうがいいのでしょうか?
たくさん質問をしてすみません。
よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
pT1mi(0.9mm), pN0(ITC), luminalB(HER2陽性)
まず、確認しなくてはならない事が2つあります。
①腫瘍の大きさは「0.9mm」で正しいですか? メール内容からは「9mm」のように思いますが…
②リンパ節転移も同様に「0.15mm」で正しいですか? 「0.15mmはITC isolated tumour cell clustersと呼ばれ、とても小さいので術中迅速診断では解らず、術後に判明することが多いです。しかもこれはpN0に分類され追加郭清の対象には到底なりません)
○ここでは仮に「腫瘍の大きさは9mm=pT1b」「リンパ節転移も1.5mm=pN1mi(微小転移)」として話を進めましょう。(もしも違う場合には訂正してください)
 そうするとpT1b(9mm), pN1mi(1.5mm), luminalB(HER2陽性)となります。
 これでも十分すぎるほど「早期」です。
 微小転移(pN1mi=リンパ節転移が2mm以下)は「リンパ節転移無」と予後は同等だということが解っています。
 つまり、「実質的に1期の乳癌、しかも腫瘍径が小さい」となります。
 
 ♯ちなみに「センチネルリンパ節生検での術中迅速診断で1.5mm(微小転移)だった場合には追加郭清は省略」する施設も多い(当院も含め)ですが、そこの施設では郭清省略しないのですね?
  結局(結果論ですが)「他の9個は転移無」となり、「無駄な郭清」となっています。
ただし、「HER2 3+」だから「抗HER2療法」をするべきです。
○抗HER2療法は「最も効果的な治療」なのです。
 
「これからの治療は1年間のハーセプチンとホルモン治療を5年間と放射線を25回」
「主治医が言うには母にはハーセプチンが80%効くらしいのですが、母のタイプは抗がん剤も普通はやるものだというのを聞きました。」
⇒その通りです。
 「ハーセプチン単独投与での有効性は証明されていません」
 本来、「必ず、ハーセプチンは抗がん剤と組み合わされて行われるべき」です。
 
「ですが、母は初めから抗がん剤をするのを嫌がっていたので結局抗がん剤は使用しないことに決めたと言っていたのですがこの場合再発リスクが高くなるのでしょうか?」
⇒(抗癌剤を併用しない)「ハーセプチン単剤」は適応外です。
 「ハーセプチン単剤治療での有効性は証明されておらず、本来行うべきではありません」
 適応外治療となり、「本来の抗HER2療法=ハーセプチン+抗がん剤」よりは劣ると思われます。
 
「結果の紙には高リスクと書いてありました。」
⇒意味不明です。
 「どこの、何を見て高リスク」と言っているのでしょうか?
 聞いてみてください。
 完全な「早期乳癌」です。
 「HER2陽性」自体は「抗HER2療法の出現」により「高リスクでは無くなりました」
 強いて言えば『HER2陽性なのに、きちんとした抗HER2療法(抗癌剤+ハーセプチン)を行わないことを高リスク』と言っているのかもしれませんが…
 ただし、(きちんとした抗HER2療法をやらないことは全く賛成しませんが)質問者(の母)が「高リスク」だとは到底思えません。
 
「転移も1つあったので抗がん剤はやはりしたほうがいいのでしょうか?」
⇒「微小転移(1.5mm)は、リンパ節転移無と予後は同等」です。
 担当医に、「微小転移の意味」をもう一度説明してもらってください。(センチネルリンパ節生検の色素の染まり方の誤解は解けましたか? 決して癌細胞が染まる訳ではないのです)
 ○今回「抗がん剤を進められている」のは(リンパ節とは無関係に)「抗HER2療法は浸潤径>5mmの場合には必ずおこなわれるべき」だからにすぎません。(決して高リスクだからではないのです)
 
 

 

質問者様から 【質問4】

抗がん剤をしないで、ハーセプチンもしないで、ホルモン治療と放射線だけなら再発率はどのくらいでしょうか?
ハーセプチンを抗がん剤と一緒にしないならやる意味はないのでしょうか?
今は抗がん剤も優しいものもあると聞いたのですが母のステージならどのくらいの抗がん剤を使うのが一般的なのでしょうか?
主治医に聞くのが一番なんですが、
次の診察で治療方針を決めなければいけないと言われているので先生に質問させて頂きました。
センチネルリンパ節生検の事ですが先生の回答を見て誤解は解けました。
ありがとうございました。
 

田澤先生から 【回答4】

こんにちは。田澤です。
「抗がん剤をしないで、ハーセプチンもしないで、ホルモン治療と放射線だけなら再発率はどのくらいでしょうか?」
⇒11%です。
 
「ハーセプチンを抗がん剤と一緒にしないならやる意味はないのでしょか?」
⇒エビデンスがあるのは、あくまでも「抗がん剤を併用したハーセプチン」なのです。
 
「今は抗がん剤も優しいものもあると聞いたのですが母のステージならどのくらいの抗がん剤を使うのが一般的なのでしょうか?」
⇒「非アンスラサイクリン系レジメン」と呼ばれるものです。
 これは「ゴールデンスタンダード」としての「アンスラサイクリン+タキサン+ハーセプチン」に対して、
 「アンスラサイクリンを使わない=非アンスラサイクリン」レジメンという意味です。
 この中には①「TC+HER(ハーセプチン)」 ②「PTX+HER」 ③「DTX+カルボプラチン+HER」などがありますが、最も副作用がすくないものは②です。
 
 

 

質問者様から 【質問5】

こんばんは。
何度も質問すみません。
先日回答して頂いた中にホルモン治療と放射線だけだと再発率は11%と仰っていたのですが、そこに抗がん剤とハーセプチンを入れると再発率は下がるのでしょうか?
母が一番抗がん剤で心配しているのは脱毛です。
母は人と接する仕事をしているので毛が抜けるという事は仕事をするのが難しくなると母は思っているみたいです。
抗がん剤での脱毛は必ず起こるものなのでしょうか?
先生はやはり抗がん剤はやった方がいいとお考えですか?
お忙しいとは思いますが意見をお聞かせください。
よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答5】

こんにちは。田澤です。
こんばんは。
「そこに抗がん剤とハーセプチンを入れると再発率は下がるのでしょうか?」
⇒抗HER2療法は再発率をそれ自体で「ほぼ半分」にします。
 
「抗がん剤での脱毛は必ず起こるものなのでしょうか?」
⇒標準治療で用いられる薬剤「アンスラサイクリン、タキサン」では必ず脱毛します
(例外はありません)
 内服やCMFなど標準治療ではない薬剤の中には脱毛しないものもあります。
 
「先生はやはり抗がん剤はやった方がいいとお考えですか?」
⇒やるべきです。
 抗HER2療法ほど「効果と副作用のバランスが優れている治療」はないと思います。