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線維腺種のはずが葉状腫瘍

[管理番号:102]
性別:女性
年齢:30歳
5年ほど前から乳腺繊維腺種の経過観察をしていました。
組織診で線維腺種(ただし葉状腫瘍の可能性もないことはない)と言われていました。
 
右側のしこりが5センチほどになったため、先日手術で摘出しましたが、線維腺種ではなく、葉状腫瘍との診断が出ました。
「異型性に乏しい釣鐘型細胞を含む間質が見られ、その中に変形した入管が散在している」「悪性所見なし」とのことですが、医師は線維腺種のつもりで手術を行ったため、マージンをとらずに手術をしてくださっています。
 
その場合、再発防止のための再手術は必要かと質問したところ、「再発の可能性は低いと思われるため、そこまでする必要はない」「仮に再発したとしても、すぐに処置をすれば(きちんと経過観察していけば)命に関わる問題ではない」「つるっと、きれいに取れましたし」と仰っていましたので、追加切除せず、経過観察をしていくことになりました。
 
「線維腺種を摘出した結果、葉状腫瘍であった」というケースはわりと頻繁にあるとうかがいましたが、追加切除をする・しないは、医師によって判断が異なるそうです。
どういった基準で決めているのでしょうか? 
また、追加切除を強く希望した方がよかったのでしょうか? 
再発すると悪性化するケースがあるそうなので、心配です。

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 「摘出してみたら葉状腫瘍だった」
 おっしゃるように、日常診療ではよくある話です。
 そのようなことが無いように、私は「線維腺腫」を疑っても必ず針生検を勧め、
 更に、腫瘍が3cm以上ある場合には、摘出を勧めるようにしています。
 それでは回答します。

回答

「追加切除をする・しないは、医師によって判断が異なるそうです。どういった基準で決めているのでしょうか?」
⇒葉状腫瘍の悪性度です。
 葉状腫瘍は摘出した場合には必ず「良性」 「境界悪性」 「悪性」 と3つに分類されます。
 以下に基準を示します。

良性 この場合には、「病理学的に(顕微鏡レベルで)露出していない」であればOKです。
境界悪性 この場合には「マージンは1cm以上」欲しいところです。
悪性 この場合には「乳房全摘も候補」に挙がります。
但し、十分なマージン(乳癌に準ずると2cm以上を確保)します。

 
「追加切除を強く希望した方がよかったのでしょうか?」
⇒質問者の葉状腫瘍の悪性度によります。
 「異型性に乏しい釣鐘型細胞を含む間質が見られ、その中に変形した乳管が散在している」「悪性所見なし」 というので「悪性葉状腫瘍ではない」ことは解りますが、「良性なのか、境界悪性なのか?」が記載されていません。
 一度、主治医に確認してください。
 
また、「つるっと、きれいに取れました」という表現が曖昧です。
⇒今回、腫瘍を摘出しているのですから「必ず病理学的に断端陰性であるか、断端陽性であるか?」の判断があるはずです。
 

  • 「良性であり、病理学的に断端陰性であった場合」
    追加手術は不要です。
     
  • 「良性であり、病理学的に断端陰性とは言い切れない(たとえ、術者がつるっと取れたと言ったとしても)場合」
    追加手術した方がいいでしょう。
     
  • 「境界悪性の場合」
    (術者がマージンを取らずに手術している以上、病理学的に断端がどうであろうとも)追加手術するべきです。

 
◎質問者が良く理解されているように、葉状腫瘍は万が一再発すると「悪性化する可能性」があります。
 私には、5㎝というサイズが気になります。そのサイズであれば、きちんと基準に従い「確実な対処」をした方がいいと思います。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

 
田澤先生、お返事ありがとうございました。
恐れ入りますが、重ねて質問させてください。
病理検査の結果、私の腫瘍は「境界型」ではなく、「良性」です。たしかに主治医も「境界型であれば迷わず追加手術をするところだが」と前置きしていました。
ただし、断端陽性・陰性という言葉ははじめて知りました。病理検査のレポートには載っていません。
病理検査の正確な内容は、
「表面平滑、境界明瞭、白色、弾力性硬。割面乳白色、多結節性。組織学的に葉状腫瘍、異型性に乏しい釣鐘型細胞を含む間質が見られ、その中に変形した入管が散在している。悪性所見なし」の葉状腫瘍(良性)とのことです。
断端陽性であるか陰性であるか、この文章からは推測できないと思われますが、これから主治医に問い合わせれば分かるものでしょうか?
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 「病理レポート」の正確な内容、ありがとうございます。
 それでは回答します。

回答

 ⇒確かに、「表面平滑、境界明瞭、白色、弾力性硬。割面乳白色、多結節性。組織学的に葉状腫瘍、異型性に乏しい釣鐘型細胞を含む間質が見られ、その中に変形した入管が散在している。悪性所見なし」という中には断端の記載はないようです。
 
●「病理学的に断端検索をする場合」には、摘出標本全体を病理医に摘出し、全ての部分を隈なく検索する(これを全割標本といいます)必要があります。
 しかし、断端検索は自動的に行われるものではなく、摘出した医師が病理医に「断端検索を依頼」して始めて行われます。
 ※乳癌の部分切除などでは、(病理医の常識として)自動的に全割が行われ「断端検索」もしてくれますが、「乳癌以外」では、通常は「断端検索依頼をしない限り」断端評価は行われません。
 
 
 ⇒今回はおそらく「線維腺腫のつもりでマージンを取らずに切除」と質問者のメールにあることより、
 「断端検索の依頼」はしていないものと思われます。※病理医によっては「執刀医から断端検索依頼が無くても」(必要性があると判断した場合には)コメントしてくれる場合もありますが…
 
 そうなると、臨床的判断しかありません。
 良性であり、「表面平滑、境界明瞭」との記載もあるので、執刀医が「腫瘍細胞を露出することなく(線維性皮膜で覆われた状態で)摘出した」と判断していれれば経過観察でいいと思います。
 
 

 

質問者様から 【感想3】

 
田澤先生、再度のお返事ありがとうございました。
 
断端陰性・陽性について理解できました。
たしかに5センチは少し大きいのかもしれませんが、全体が膜のようなものできれいに覆われていたそうなので、おそらく経過観察で問題ないのかなと思います。
 
主治医の判断を疑ったわけではないのですが、自分の体のことなので、納得がいくまで調べようと思い、質問させて頂きました。
言葉の説明では理解しにくい場面があるため、このように文章でやりとりさせていただくことができると、非常に助かります。分かり易く説明していただき、感謝いたします。ありがとうございました。
 
経過観察はしっかり行いたいと思います。
 
 

 

質問者様から 【質問4】

田澤先生、こんにちは。
葉状腫瘍について質問をさせて頂きます。
私は一年ほど前に良性の葉状腫瘍(5センチほど)を大学病院の乳腺外科で摘出しました。
5センチといえども急に大きくなったわけではなく、はじめは3センチほどの大きさのまま3~4年が経過、その後、半年で1.5センチほどの増大が見られたので、全身麻酔で摘出しました。
摘出後の腫瘍は、表面は平滑であり、境界も明瞭、膜に包まれたままするりと摘出できたそうです(異型性に乏しいとの記載もありました)。
それほど悪いものではなかったのだと理解していますが、ひとつ気になっているのが、術前の針生検では繊維線種の診断だったため、マージンをとらずに手術をしていることです。
こちらのホームページでも以前質問をさせて頂き(管理番号:102)、その後主治医にも確認しましたが、再手術の必要はないと言っていました。
その節は本当にありがとうございました。
その後、経過観察は半年に一度のペースでしてもらってきました。
術後一年間、再発の兆しはありません。
ちなみに、左右どちらの胸にも、1センチ未満の繊維線種やのう胞などが多発(1ミリ未満が15個以上)していますので、こちらも一緒に診てもらっています。
①今後、いつまで経過観察を続けるべきなのでしょうか? 
というより、いつまで再発を気にしていなければいけないのでしょうか。
何年くらいという目安はありますか?
②いつもエコーのみの検診ですが、31歳という年齢を考えると、そろそろマンモグラフィも必要でしょうか? 希望するべきだと思われますか?
③葉状腫瘍は良性~悪性の境界があいまいで、病理医によってその判断が異なるという話を聞いたことがあります。
たとえば私は良性と言われましたが、別の方が見たら実は境界悪性(もしくは悪性)だった、ということもありうるのでしょうか?
④良性や境界悪性の葉状腫瘍は原則的には遠隔転移しないということですが、再発時に稀に悪性に変化するとのことです。
それと同時にすぐに転移が確認されるということもありますか? 
これは場合によると思うので意味のない質問かもしれませんが、
友人が悪性葉状腫瘍で再発を繰り返して亡くなってしまい、転移すると治療が難しいことを知っています。
私と同じように不安に感じている方も多いのではないかと思います。
⑤葉状腫瘍は原因不明とされていますが、やはり女性ホルモンが関係しているのでしょうか? 
再発させないために、自分の力で何かできることはありますか?
⑥自分のホームページで、葉状腫瘍に関してとりあげています。
同じ病気の方からの
コメントも時々頂きます。
私のホームページで、この質問と先生からのお答えを、
紹介させて頂いても差し支えないでしょうか?
質問が多く申し訳ありません。
あまり気にしすぎもよくないのですが、よく分からないからなんとなく不安に感じている部分があります。
ほかの方の参考にもなればと思い、質問させて頂きました。
恐れ入りますが、宜しくお願い致します。
(急ぎの質問ではないので、ほかの方の質問を優先して下さい)
 

田澤先生から 【回答4】

こんにちは。田澤です。
管理番号102ですね。
管理番号が2500を超えることが有ろうとは想像していなかった時代。なつかしく感じます。
「5cmの良性葉状腫瘍を(術前診断で線維腺腫だったため)マージンをつけずに摘出」ただ、(臨床的に)「断端は陰性と判断」し経過観察としたとのことでした。
 
「①今後、いつまで経過観察を続けるべきなのでしょうか? というより、いつまで再発を気にしていなければいけないのでしょうか。何年くらいという目安はありますか?」
⇒悪性葉状腫瘍ならば(経過が早いので)「2年」というところですが、「良性なので」5年経てば安心と思います。(仮に、5年以上で出た場合には、再発なのか新規なのか解釈が難しくなるでしょう)
 
「②いつもエコーのみの検診ですが、31歳という年齢を考えると、そろそろマンモグラフィも必要でしょうか? 希望するべきだと思われますか?」
⇒葉状腫瘍のフォローとしては、マンモグラフィーは不要ですが
 (一般論として)30歳を超えたら、「一度くらい」マンモを撮影してみてもいいでしょう。(気になる石灰化がないかどうか)
 ただ、一度撮影したら「暫くは超音波だけで」OKです。
 
「③葉状腫瘍は良性~悪性の境界があいまいで、病理医によってその判断が異なるという話を聞いたことがあります。
たとえば私は良性と言われましたが、別の方が見たら実は境界悪性(もしくは悪性)だった、
ということもありうるのでしょうか?」
⇒内容からして
 それは「なさそう」です。
 
「④良性や境界悪性の葉状腫瘍は原則的には遠隔転移しないということですが、再発時に稀に悪性に変化するとのことです。それと同時にすぐに転移が確認されるということもありますか?」
⇒「良性の場合はない」と断言してもいいと思います。
 「良性の場合」は(もしも、局所再発するとしても)せいぜい「境界悪性」どまりだと思います。
 その時点で「遠隔転移」は「ほぼ考えなくて良い」と思います。
 ○実際のところ、「10cm以上(もしくは、それに近い)腫瘍径で境界悪性」として再発した場合には「遠隔転移」は気になります。
 ただ、「放置しないかぎり」こんな大きさで「再発として発見される」ことは無いです。
 
「⑤葉状腫瘍は原因不明とされていますが、やはり女性ホルモンが関係しているのでしょうか?」
⇒関係しているとは思います。
 根拠は年齢です。
 ○高齢者の「葉状腫瘍」はめったに見ません(私の記憶にはありません)
 葉状腫瘍は線維腺腫よりも「年齢層が高い」とは言っても、「せいぜい閉経後数年のレベル」です。
 少なくとも「葉状腫瘍の発生にはエストロゲンはかかわっている」と思います。
 ただし、「その後の、爆発的増大はエストロゲンのコントロールを失っている」のだと思います。(それで、年齢層が線維腺腫よりは高めとなるのだと思います)
 
「再発させないために、自分の力で何かできることはありますか?」
⇒きちんと「超音波での検診を受ける」以外にはありません。
 
「⑥自分のホームページで、葉状腫瘍に関してとりあげています。同じ病気の方からのコメントも時々頂きます。
私のホームページで、この質問と先生からのお答えを紹介させて頂いても差し支えないでしょうか?」
⇒是非、載せてください。
 少しでも「葉状腫瘍なのに誤った診療がされない」ことになれば幸いと思います。