[管理番号:78]
性別:女性
年齢:50歳
はじめまして。
悪性葉状腫瘍の摘出手術を行って1年5ヶ月になります。
この間、再発も転移もありません。
先生がHPで悪性葉状腫瘍は初発治療から3年以内に転移が起こると書かれていましたが、3年経過したら遠隔転移の心配はないのでしょうか?
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
悪性葉状腫瘍で摘出手術経験がある方ですね。
悪性葉状腫瘍はかなり稀なので、情報量も限られており不安も多いと思います。
それでは回答します。
回答
3年経過したら、大丈夫だと思います。
悪性葉状腫瘍は世界的にも稀な疾患であり、統計的な情報はかなり限られています。
乳癌は性質が大人しいので「10年、15年経っても、ゆっくり再発」はあるのですが、悪性葉状腫瘍は「肉腫」なので、そんなに「ゆっくり」はしてくれません。
「3年も大人しく、じっとしている」ようなものではないので、「3年再発がなければ大丈夫でしょう」
参考にしてください
私が経験した「悪性葉状腫瘍」には完全に2タイプあります。
「あっという間に再発したケース」:術後30日で亡くなりました。
「全く、再発せずに根治したと思われるケース」:何年も異常ありません。
◎悪性葉状腫瘍の定義は(症例数が少ないが故に)それを診断する病理医により、かなり幅があります。
つまり、同じ症例でも「ある病理医は境界悪性とする」が「別の病理医は悪性とする」みたいな例が多々あります。
●悪性葉状腫瘍において、3年異常なければ、心配ないというのは妥当だと私は思います。
質問者様から 【質問2】
お忙しい中お返事いただきありがとうございました。
先生がおっしゃるように情報が限られているので、今回のお返事はとても嬉しかったです。
私の腫瘍は3cm以下で、細胞診で乳がんと診断され、温存手術を行い、術後の病理検査で悪性葉状腫瘍といわれました。
しかし細胞診の時から顔つきの悪いがん細胞だと言われ、術後の病理検査の話でも悪性度が高いようなことを言われていたので、再発や転移が気になっていました。
ところで、血液転移とはどのようなものですか?
転移するのに時間を要さないもになのでしょうか?
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
再度のご質問ありがとうございます。
悪性葉状腫瘍は非常に珍しい疾患です。
私のように2000件以上の乳癌手術をしている者でも「悪性葉状腫瘍の手術経験」は3例しかありません。
一般的な乳腺外科医では「悪性葉状腫瘍を手術した経験がない」者が大多数でしょう。
「細胞診で乳癌と診断され、術後に悪性葉状腫瘍との診断」
正直、びっくりしました。
細胞診だけで(針生検などの組織診断を行わずに)手術を行ったために、そのような事となったと思います。(組織診であれば間違うはずは無いからです)
悪性葉状腫瘍は「乳癌とは比較にならない位、完全切除(余裕をもった切除)が重要」となります。
もし術前に組織診断されていたら、(3cm以下と悪性葉状腫瘍としては小さいとはいえ)乳房全摘も候補に挙がったでしょう。(但し、乳癌以上の十分な切除マージンが確実ならば乳房温存でも大丈夫です)
きっと今回「センチネルリンパ節生検」をしたと思いますが、「転移は無かった」と思います。
※悪性葉状腫瘍はリンパ節転移はしないのです。
前回よりも詳細な情報をいただきうれしく思います。
それでは回答します。
回答
「細胞診の時から顔つきの悪いがん細胞だと言われ」
⇒「乳癌」と勘違いしていた時点でのコメントであることに注意してください。
核異型や核分裂など(乳癌とすれば、とんでもなく悪性度が高く見えたはずですが)「悪性葉状腫瘍としては、驚くようなものではない」と思います。
「術後の病理検査の話でも悪性度が高い」
⇒「核異型や核分裂など悪性度が高いから、悪性葉状腫瘍」なのです。
●特別「悪性度の高い」悪性葉状腫瘍という訳では無いと思います。
「血液転移とはどのようなものですか?」
⇒「血行性転移」の誤りだと思いますが、「リンパ行性転移」と比較しながら説明します。
腫瘍細胞(癌細胞であれ、悪性葉状腫瘍の細胞であれ)が周囲組織に浸潤した際には、(周囲組織の中に存在する)血管とリンパ管に入り込む可能性があります。
「血管に入り込み、血液の中を移動して骨や肺、肝などで増殖」することを「血行性転移」といい、「リンパ管に入り込み、リンパ管の中を移動しリンパ節で増殖」することを「リンパ行性転移」といいます。
●「乳癌は血行性転移(骨、肺、肝、脳)とリンパ行性転移(腋窩や鎖骨上下などのリンパ節)の両方をし易い」のですが、悪性葉状腫瘍は血行性転移(主に肺)をすることはあっても、リンパ行性転移は殆どない(極めて稀)であることが解っています。(腫瘍細胞の性質の違いでしょう)
「転移するのに時間を要さないもになのでしょうか?」
⇒(乳癌と比較すると)非常に早いです。
乳癌は(大人しい細胞なので)5年も10年も時には20年も、ひっそりと大人しくしていて、突然「10年後に再発」の様な事もしばしば経験します。
それに対して悪性葉状腫瘍は(肉腫細胞であり、乳癌細胞とは比較にならない程増殖が激しいので)乳癌細胞のように「3年も5年も大人しくしている」事はありません。
つまり、「もしも再発するなら」どんなに遅くとも3年以内となるのです。
逆に言うと、「3年大丈夫なら、再発のリスクは急速に低下」していきます。
※ここが10年以上経っても完全には安心できない乳癌との大きな違いです。
参考にしてください。
腫瘍が小さい事、故に完全切除されている可能性が高い事
術後1年5カ月、再発徴候が無い事
↓
根治する可能性も十分あります。
定期的な局所(術後創部)及び胸部レントゲン(肺)の検査を、まずは3年を目標に継続してください。
質問者様から 【質問3】
わかりやすく詳しくご説明いただきありがとうございます。
悪性葉状腫瘍も乳がんのように一生再発や転移を気にしなければいけないと思っていたので、3年がんばればいいと聞いて、ホッとしました。
手術はしっかりマージンをとって切除してもらっていて、術後の病理検査でも断端陰性でした。
今は半年に1度の通院となりましたが、肺と肝臓のレントゲンやCT検査も定期的に行っています。
ケロイド体質で傷がなかなか治らず、センチネルリンパ生検をやったことに少し不満はありましたが、乳がんと診断されていなかったら全摘してたかもしれないので、良かったのかなと思っています。
情報が少ないので、私のブログで、悪性葉状腫瘍は3年再発や転移がなければ、根治する可能性もあるということを紹介してもかまいませんか?
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
こちらこそ、悪性葉状腫瘍はめったにないので「術後1年5カ月、元気に過ごされている」生の声が聞けてうれしく感じました。
「解らない事からくる不安」は良くありません。正しい理解をすることが大事だと思います。
きっと、全国には「悪性葉状腫瘍」と医師から言われても、情報が少なく不安に思っている方もいらっしゃると思いますので、是非紹介してあげてください。