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トリプルネガティブ乳がん術後治療について

[管理番号:7411]
性別:女性
年齢:77歳
病名:乳がん
症状:

こちらのサイトを拝見させていただいております。

初めて質問させていただきます。

私の母が77歳という高齢で乳がんに罹患してしまいました。

今年3月に温存手術を受けました。

術後病理検査の結果は以下のとおりです。

ステージ2a
センチネルリンパ生検陰性
トリプルネガティブ
核異形度グレード3
Histological grade3
Labeling index70%
Surgical margin 皮膚側 +
Ly1
V1

5月(下旬)日まで放射線治療を受け6月2週目から抗がん剤パクリタキセルを週に一度12回、その後3週間に一度EC90 ×4コースという治療を予定しております。

沢山の患者さまを診てこられた先生の経験則からご意見頂ければ幸いです。

①病理検査の結果を見ると、ガンの悪性度が相当高く再発や転移の可能性が限りなく100%に近く感じるのですが、抗がん剤治療を受けた場合の再発や転移の可能性はどの位まで抑えられるとお感じになりますか?
②リンパ管侵襲や静脈侵襲があるようですが、目に見えないガンがもうすでに身体の中を巡ってしまっているのでしょうか?
③術前針生検ではルミナールaとの説明を受けましたが術後の病理検査ではトリプルネガティブという結果でした。
サブタイプが変化することはよくあることなのでしょうか?
④先生ならどのような治療方針を立てられますか?

どうしようもなく不安になってしまい勉強不足のまま質問文をお送りしてしまうことをお許し下さい。

よろしくお願いいたします。

 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。

新しい情報があると、つい人間は「頭でっかち」となりがちです。
「トリプルネガティブ」「Ki67が高値」「核グレード3」などなど…

そのような頭でっかちとなっている医師は、えてして「ステージは何のためにあるのか?」という基本に立ち戻る必要がありそうです。
★ステージは何のためにあるのか?
 それは「予後を予測するため」です。(それ以外にステージをつける理由はないのです)

「①病理検査の結果を見ると、ガンの悪性度が相当高く再発や転移の可能性が限りなく100%に近く感じる」
→「頭でっかち」の最たるものです。

  ステージ2Aで「再発率が100%」など、到底あり得ない話です。

「抗がん剤治療を受けた場合の再発や転移の可能性はどの位まで抑えられる」
→そもそも、(私なら)「抗がん剤をすべきか?」というところに論点があると感じます。

 70歳以上では「抗がん剤を行うことで、予後が改善される」というエビデンスは確立されていないのです。(高齢になればなるほど、「治療による有害事象」によるダメージと、「他病死の可能性」があるからです)

 ★ただ、「ご本人が元気」で「是非とも頑張りたい」となれば、無論「抗がん剤の適応」自体はあります。
  結果として抗がん剤すれば再発率は20%以内となるでしょう。(抗がん剤をしなくても、30%以内だとは思いますが)

「②リンパ管侵襲や静脈侵襲があるようですが、目に見えないガンがもうすでに身体の中を巡ってしまっているのでしょうか?」
→考えすぎ。
 根拠のない怯えからは、何も生まれません。
 
「③術前針生検ではルミナールaとの説明を受けましたが術後の病理検査ではトリプルネガティブという結果」
→これは問題があります。(実はルミナールだけど、「手術標本の取り扱い」による染色性の低下でそう見えているだけという可能性など、検討すべきでは?
 それとも検討したうえでの結論なのでしょうか?)

「④先生ならどのような治療方針を立てられますか?」
→上述のとおり…

 患者さんご本人も家族も「積極的」ならば、抗ガン剤を行います。(その場合には
「減量投与」を考慮します)
 ★そもそも80歳以上なら「術後補助療法としての抗がん剤の適応なし」なのです。

術後補助療法として抗がん剤を行うのと、(実際に再発してから)「再発治療として」抗がん剤を行うのとでは意味合いは全く異なります。
80歳以上でも(再発ならば)「抗がん剤使用に躊躇はしません」が、(術後補助療法としてならば)「抗がん剤は(希望されても)原則、お断り」しています。