[管理番号:171]
性別:女性
年齢:44歳
教えて下さい。
毎年11月に乳がん検診を受けています。
昨年も異常なしで安心して過ごしていたところ、先日から、右胸の上にしこりを見つけ、触れると痛みがあります。
心配になり、病院を受診しました。
マンモ、超音波、細胞診の検査を行いました。
検査結果は、はっきりわからないので、先日MRIと太い針で再度、細胞診検査を行いました。
結果待ちです。
MRIの結果では、血管からのしこり?で血が溜まっていると言われました。
細胞診の結果待ちですが、診察した医師は、あまり良い印象の返答ではありませんでした。
乳がん検診を受けていて、なんの指摘もなく、急にしこりがあり、痛みも生じる乳がんもあるのでしょうか?
しこり=血 なのか?よくわかりませんが、不安でしかたありません。
(2015年3月の質問)
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「検診異常なしから僅か4ヶ月でのしこり」と言う事ですね。
状況確認の上、回答します。
状況確認
「MRIの結果では、血管からのしこり?で血が溜まっていると言われました。」
⇒この表現が「正確では無い可能性」があります。主として2通り考えられます。
-
本当に「血管からのしこり」である場合
⇒血管由来の腫瘍、血管腫(良性)と血管肉腫(悪性)があります。
血管肉腫は非常に稀です。原発性(放射線歴無)となると0.0005%と限りなく稀です。
※血管肉腫については、トップページの「乳癌以外の腫瘍」を参照してください。
これは乳癌では無く(乳癌は上皮性腫瘍です)、非上皮性腫瘍の中の「軟部腫瘍」に分類されます。 - 「血流が豊富=造影効果が強い」な腫瘍である場合
⇒乳癌が代表格ですが、線維腺腫など良性腫瘍でも「血流が豊富」な場合があります。
「血流が豊富」なだけでは、「診断の足し」にしかならず確定診断の意味はありません。
回答
「乳がん検診を受けていて、なんの指摘もなく、急にしこりがあり、痛みも生じる乳がんもあるのでしょうか?」
⇒「乳がん検診の内容」によっては、「検診から4カ月後の腫瘍指摘」も十分にあることです。
検診内容が「マンモグラフィーのみ」の場合には、「44歳で比較的高濃度=乳腺が豊富」な場合には「小さなしこりは周辺の乳腺に隠されてしまい」見つけられなかった可能性があります。
逆に検診内容が「超音波のみ」の場合には「超音波は検査術者の技量によって検出精度の差が大きい」ので「見逃された」可能性があります。
※マンモグラフィーと超音波(エコー)の違いは、トップページの「皆が気になる質問」の「マンモグラフィーとエコーの違い」を参照してください。
◎上記のように「検診で検出できなかった」場合が多いですが、中には「4カ月で急速に増大する腫瘍」もあります。
葉状腫瘍や肉腫系(血管肉腫も含む)などです。
※前述したように「(原発性)血管肉腫は非常に稀ですが」葉状腫瘍は、それほど稀ではありません。
「痛みも生じる乳がんもあるのでしょうか?」
⇒あります。(少ないですが)
乳がんの「しこり」は通常「痛くない」ものが多いのですが、私の診療経験でも「ごくたまに」痛みを伴う乳がんもあります。
※比較的若年(30歳代~40歳代)の場合が多いようです。
「しこり=血なのか?」
⇒そうではありません。
血(=血液)そのものが増殖している訳ではありません。「しこり」はあくまでも「細胞の増殖」です。
(増殖している)細胞の種類は「状況の確認」でも示したように2つの可能性があります。
- 血管腫や血管肉腫の場合
血管を構成する細胞が腫瘍化したものであり、「中の血=血液」が腫瘍化したものではありません。
- 「血流が豊富=造影効果が高い」腫瘍の場合
腫瘍細胞(癌にしろ良性腫瘍にしろ)が増殖する際に周囲から栄養(=血液に溶けている)を取り込むために「血流が豊富」となるのです。
私の感想
「細胞診の検査を行いました。検査結果は、はっきりわからないので先日MRIと太い針で再度、細胞診検査を行いました」
⇒乳癌でないような印象です。
もし乳癌であれば「最初に行った細胞診」で結果が解る筈です。(単に下手だった可能性もありますが)
注意してください。診断に妥協してはいけません。
「MRIの結果では、血管からのしこり?」
⇒この表現が非常に気になります。
前述したように単に「血流が豊富=造影効果が高い」通常の腫瘍であれば診断は容易ですが、(文字通り)「血管からのしこり=血管腫もしくは血管肉腫」であった場合には正確な診断は困難です。
「(原発性)血管肉腫は非常に稀」であり、通常の乳腺外科医では「診た事がない」者が大部分でしょう。
◎「太い針で再度、細胞診検査」⇒これは「針生検」の事でしょう。
(万が一、血管肉腫であった場合には)「針生検で採取した組織を顕微鏡で判定する病理医」も診断を誤る可能性があります。それくらい稀なのです。
◎もし「針生検で確定診断が得られない=誤診の可能性がある」場合には腫瘍を(マージンをつけて)摘出することを是非勧めます。
「肉腫は怖い病気」です。経過観察はリスクがあると思います。
質問者様より 【質問2】
丁寧に回答していただきありがとうございます。
その後、太い針で検査した胸は内出血斑となっています。結果待ちの状態で不安な毎日を過ごしています。
先生からの回答は、わかりやすくありがたいです。
感謝申し上げます。
追加の質問ですが、
MRIで造影されるということは、癌の可能性が高いのですか?
検診で指摘がなかったマンモグラフィーは、再度撮影しても写らなく、連写?とかで撮影したら、なにか写っているようでした。エコーでは何かが写っていました。マンモで撮影した時、圧迫により乳頭から出血したのも不安です。
しこりの部分が限局して痛いもので、出血?と考えたのでした。
結果はまだですが、細胞診の結果を待ちたいと思います。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
前回の質問内容からは「血管からのしこり?」との表現が気になり「血管肉腫」という大変稀な腫瘍も考えました。
本日の内容からは「必ずしも血管肉腫」のような特別なものではないように思いました。
それでは回答します。
回答
「MRIで造影されるということは癌の可能性が高いのですか?」
⇒(前回の回答通り)MRIで造影されるということは、血流が豊富であることであり、(良性腫瘍よりは)乳癌の可能性が高いです。
しかし線維腺腫(良性腫瘍)でも造影されることも珍しくありません。
※MRIはあくまでも「画像診断の一つ」に過ぎず、確定診断には何ら意味がありません。(腫瘍の広がりなどを見るのが本来の役割です)
あくまでも組織検査「針生検」の結果が絶対なのです。
「検診で指摘がなかったマンモグラフィーは再度撮影しても写らなく、連写?とかで撮影したらなにか写っているようでした」
⇒「連射」とは「トモシンセシス:tomohynthesis」の事でデジタルマンモグラフィーでの「方向を変えた」連続画像の事でしょう。
※角度によっては、「何かが写る」程度の所見であるとの事です。
このようにマンモグラフィーは「万能の検査」ではありません。映らない腫瘍も沢山あるのです。
「エコーでは何かが写っていました。」
⇒もちろん、エコーで「確認された」から「腫瘍と認識できる」のです。
触診で「しこりのように感じ」たとしても、もし「エコーで確認できない」のであれば、それは正常乳腺なのです。
「マンモで撮影した時、圧迫により乳頭から出血した」
⇒これは、針生検する前でしょうか?
- (もし針生検する前であれば)乳癌の可能性が高くなります。(乳管内乳頭腫の可能性もありますが)
「血性分泌を伴う」場合には「癌からの出血」が疑われるからです。(診断の参考になります)
- (針生検した後での圧迫の場合)針生検すれば、乳頭から「血性分泌」するのは珍しくありません。
この場合の「血性分泌」は単に「針生検による出血」にすぎません。(診断の参考にはなりません)
参考にしてください
「昨年11月に検診を受けて正常」ということは、今回もし「結果が癌であったとしても」間違いなく早期です。
その場合には目を背けることなく「前向きに治療に臨んでください」
★早期発見に勝る治療は無いのです。