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ルミナールタイプで抗がん剤をする理由

[管理番号:749]
性別:女性
年齢:47歳

質問者様の以前の質問

質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。
質問者様の以前の質問は下記をクリックしてください。
管理番号:741「術前抗がん剤か全摘手術か」

 
 
田澤先生
さっそくご回答くださりありがとうございます。
素朴な疑問が湧いてきてしまいました。
「ルミナールタイプでは抗がん剤の効果がそれ程高くない」とのことですが、それでも「術後に抗がん剤はしたほうがいい」のはなぜでしょうか?
リンパ節に転移があるから、と主治医には言われましたが、効果がそれほど高くないのなら、率直に言って「術後に抗がん剤」もあまりやる意味はないのではないでしょうか?
また、他の方からのQ&Aのご回答で「リンパ節転移からの遠隔転移はない」とありました。では何故リンパ節郭清しなければならないのでしょうか?
リンパ節郭清によるリンパ浮腫などの後遺症のリスクと、リンパ節郭清をしないことによるリスクはどちらが大きいでしょうか?
仕事上、腕が自由に動かせないのは困りますので、後遺症のリスクを最小限にとどめる治療法などがありましたら教えてください。
初歩的な質問で恐縮ですがご回答いただけると幸甚です。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 非常にいい質問だと思います。
 多くの方の漠然とした疑問の解消にきっと役立つと思います。
 ありがとうございます。
 私は質問者のように「理路整然とした」疑問を歓迎します。

回答

『「ルミナールタイプでは抗がん剤の効果がそれ程高くない」とのことですが、それでも「術後に抗がん剤はしたほうがいい」のはなぜでしょうか?』
⇒これは2つの事実があるからです。
①「術前化学療法の完全寛解率(pCR)のデータ」です。
・HER2タイプ:67%
・トリプルネガティブタイプ、トリプルポジティブ:35%
・ルミナールタイプ:13%
○このデータをみると、確かに「ルミナールタイプでは抗がん剤が効きにくい」事が解ります。
 
 
②ただ一方で「ルミナールタイプでも」化学療法を(術前にしろ、術後にしろ)行う事で「明らかに予後を改善する群がある」ことも解っています。(これはAdjuvant!Onlineなどで調べれば解ります)
 その「効果のある群」と「あまり無い群」を区別する方法が「Ki67によるルミナールAとBの分類」なのです。
 
○ここで「術前化学療法の(小さくして温存する目的」と「術後補助療法としての予後改善目的」が微妙に異なることに注意してください。
○術前化学療法の目的は
「小さくして温存」…ある程度の「強い効果」が必要
「効かなかった場合には(腫瘍を放置する事と一緒であり)腫瘍を体においておく事で病状が進行していまう可能性(つまりマイナスになる可能性)がある」…確実に効果があることが必要
術後化学療法の目的は
「5年先、10年先に、(抗がん剤をやっておくことで)少しでも予後を改善させたい」…必ずしも「劇的に」効かなくてもいい(幾らかでも上乗せ効果があれば良い)
                                         結局効かなくても許容される(腫瘍は無い状態なので、マイナスにはならない。ゼロになるだけ)
 
★つまりルミナールタイプに対する化学療法の考え方は
「劇的には効かない」「術前に行うと(効かない場合には、腫瘍を残しておく事で)マイナスとなるリスクがある」という『術前化学療法には向かない』事実の一方で、
「長い目でみると、予後を改善させるデータが存在する」「もしも効かなくても(上乗せがゼロとなるだけで)マイナスにはならない」という『術後補助療法としては、推奨される』事実があるのです。
 
『「リンパ節転移からの遠隔転移はない」とありました。では何故リンパ節郭清しなければならないのでしょうか?』
⇒「リンパ節郭清の意義」については「生命予後を改善させない」というのが結論です。
 その意義としては、「リンパ節転移個数を評価することで、最適な治療方針をたてるため」とされています。
 これは、(例えばルミナールBでリンパ節転移4個あれば)「抗がん剤」も「放射線照射」もした方がいい。となるのです。
 ここで「リンパ節転移が4個あっても、そこから遠隔転移がおきなければ」どうして化学療法をする理由となるのか?という疑問がわくかもしれません。
 それは、『転移したリンパ節が直接生命を奪うのではなく、リンパ節転移4個の場合には(確率的に)血行性転移が将来起こるリスクが高いと(統計学的に)解っているから』というのが答えです。
 
 その他には当然「局所コントロール目的」ということもあります。(生命予後の改善効果はないのですが)リンパ節転移が増大することで「患肢浮腫や、胸壁浸潤による皮膚潰瘍形成など」QOLを損なうのです。
 
「リンパ節郭清によるリンパ浮腫などの後遺症のリスクと、リンパ節郭清をしないことによるリスクはどちらが大きいでしょうか?」
⇒「転移したリンパ節が増大」することで起こす様々な浮腫や神経障害は「診たものにしか、解らない」でしょう。
 リンパ節郭清しても「リンパ浮腫などの後遺症リスク」は回避できますが、「転移したリンパ節によるリンパ管や神経障害」はかなり強烈です。
 それを知っている者には「転移しているリンパ節をそのままにする」事は絶対に勧められません。
 
「仕事上、腕が自由に動かせないのは困りますので、後遺症のリスクを最小限にとどめる治療法などがありましたら教えてください。」
⇒「精度の高い」リンパ節郭清をする事です。
 リンパ節郭清の手術技術は「術者の技量によって」差がとても大きいところなのです。