[管理番号:555]
性別:女性
年齢:52歳
4月2日に温存で手術を受けました。
最終病理診断では
腫瘍径11mm.核異型度グレード1脈管浸潤なし.進行度1.ER95%
PgR95%.Ki67 10%.浸潤性乳頭乳管癌.HER2陰性で、術後現在放射線治療中です。その後ホルモン治療の予定でしたが術前の生検では実はHer2が+3の陽性でした。
今日の主治医の診察で最初陽性だったので抗がん剤もしましょう。と言われ、私としましては抗がん剤の副作用を考えて抗がん剤はしたくない治療法です。
その旨を伝えるとどうしてもしたくないのならハーセプチンとホルモン療法だけも考えられるけど、ハーセプチン単独のデータがない。と言われました。抗がん剤をしなければならないのでしょうか?
出来ればハーセプチン+ホルモン療養でいきたいです。又、陽性から陰性に変わることってありますか?
(2015年6月の質問)
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
メール内容からすると「術前化学療法をしていない」と思いますが正しいでしょうか?
とすると、(術前針生検で)「HER2 3+」が(手術標本で)「HER2陰性(0? 1+?)」と言うのは、いくらなんでも不自然です。
回答
「陽性から陰性に変わることってありますか?」
⇒(術前化学療法などをしていない限り)「変わる事はありません」
今回の結果となった原因を考えてみれば
①手術標本の固定が悪く(管理が悪く)染色強度が著しく落ちてしまい(本来は3+であるのに)「染まらなくなってしまった」
②術前の針生検で採取した組織の部分が「たまたま、HER2陽性の部分」であったが、「病変全体としてはHER2陰性の癌が大多数を占めていた」
③検体の取り違え
♯③は無いとは思いますが①の可能性はあります。
「それでは、どちらが正しいのか?」
⇒これは実は難しい
一度「HER2陽性」と出てしまっているものを「実は陰性」とするのは結構困難です。
①のように「たまたま、標本処理が悪く」(本来陽性なのに)『陰性と出てしまった』事は良くある事ですが、逆(本当は陰性なのに、陽性とでること)は殆ど無いのです。
ただし、今回の所見では「核グレード(NG)1」「Ki67=10%」という『本当にHER2陽性?』と思えるような「大人しいタイプ」となっています。
「NG1, Ki67=10%であれば、luminal type(つまり、HER2は陰性)」の方がぴったりときます。
「抗がん剤をしなければならないのでしょうか?出来ればハーセプチン+ホルモン療養でいきたいです」
⇒ハーセプチンを行うのであれば、本来は「化学療法」をしなければなりません。
主治医のいうように(化学療法抜きの)「ハーセプチン単剤での有効性」は証明されていないのです。
◎私であれば、「化学療法をしたくない」 のであれば「luminal Aとして」ホルモン療法単剤とします。(化学療法抜きのハーセプチンはしません)
★化学療法を希望しない場合にはpT1c(11mm), pN0(おそらく), NG1であれば、(術後病理結果から)HER2は陰性と考え、luminalA(Ki67=10%)相当とし、ホルモン療法単剤という方法もありなのです。
質問者様から 【質問2】
迅速なご回答ありがとうございます。
又、主治医に聞けないことへのご回答も感謝致します。
先生の仰る通り、術前化学療法はしておりません。
生検でHer2陽性、18日後の最終病理診断の結果の際にはHer2発現のところは『要精密検査』となっており、2週間後に結果を聞きに行った時に『陰性なのでこれから放射線治療、ホルモン療法でいきましょう』と言われましたが生検の時の陽性が気になり『最初陽性だったのに抗がん剤はしなくても大丈夫ですか?』とお聞きすると『病理の先生ともう一度相談します』と言われ、先日『抗がん剤+ハーセプチン、そしてホルモン療法をしましょう』に変わりました。
私は何も言わなかったらそのまま抗がん剤は無しだったような感じです。先生の仰る①だったとしても抗がん剤の必要性は低いと考えて宜しいですか?
また、①の場合患者に説明はしてくれないものなのでしょうか?
素人の考えですが陽性?陰性に変わることの要因に癌細胞が死滅している為検査不可能ってことはあり得ますか?
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「術前針生検のサブタイプ」の結果と「術後病理結果でのサブタイプ」の結果は
「術前化学療法なし」で自然と「癌が死滅して」陽性が陰性に変わることは無いと思います。
回答
『病理の先生ともう一度相談します』
⇒病理医の判断で、「HER2陽性」と最終診断となったのですね。
○生検でのHER2 3+との診断結果は妥当か?
○手術標本で陰性となった原因
これらを病理医が判断しての結果であれば信頼すべきだと思います。
「先生の仰る①だったとしても抗がん剤の必要性は低いと考えて宜しいですか?」
⇒①とは『手術標本の固定が悪く(管理が悪く)染色強度が著しく落ちてしまい(本来は3+であるのに)「染まらなくなってしまった」』の事ですね。
つまり「真の陽性でも抗がん剤の必要性は低いか?」という質問に置き換えられると思います。
⇒「核グレード(NG)1」「Ki67=10%」という要素から「比較的低い」と思います。
♯但し、あくまでも「HER2陽性でのハーセプチンを含めた補助療法が優れた治療法」であることを否定はしません。
「①の場合患者に説明はしてくれないものなのでしょうか?」
⇒担当医は質問者に指摘されるまで「不一致」に気付かなかったのではないかと思います。
その上で「病理医の解釈」を聞いていないのかもしれません(つまり、不一致について深くは考えていない可能性はあります)
「陽性?陰性に変わることの要因に癌細胞が死滅している為検査不可能ってことはあり得ますか?」
⇒冒頭でも記載したように「術前化学療法でもしない限り」無治療で「死滅する」ことはありません。
違うと思います。
◎標準療法は「抗HER2療法」です。
あくまでも「HER2陽性でのハーセプチンを含めた補助療法が優れた治療法」であることを理解した上で、それでも「化学療法はしたくない」のであれば、それも許容できる
と言う事だと思います。
その根拠として(HER2陽性なのか?と思えるほど)増殖指数が低い「核グレード(NG)1」「Ki67=10%」ので「ホルモン療法単剤でも効果は期待できる」と考えます。