[管理番号:1042]
性別:女性
年齢:55歳
はじめまして、田澤先生。
乳がんの場合、抗ガン剤治療が必要になることもありますが、
それは、大きさ、ステージ、グレード、リンパ等への転移など、
どんな場合から受けるべきなのでしょうか?
ちなみに、腫瘍は1.5cmです。
皮膚の凹みがそこしありますが、腫瘍が小さくても凹みがあると
結構進行しているということですか?
抗ガン剤の副作用はホルモン治療よりも強そうですし、抗ガン剤のせいで、
良い細胞まで弱ってしまったり、免疫力が下がって逆にガンが増殖したり、
ガンと戦える体でなくなるのでは?と心配です。
必要がないなら、なるべくなら受けたくはないのですが、
受けないと再発のリスクはどれくらい高まるのでしょうか?
本で『オンコタイプDX』や『マンマプリント』という検査を知りましたが、
この検査は受ける意味はありますか?
この検査で高リスクと判断された場合のみ、化学治療を受ければ大丈夫ですか?
中間リスクや低リスクでもリスクはリスクなので、念のため抗がん剤をやった方がよいのであれば、高い検査なので検査をせずに治療に入ったほうがよいですよね?
また、この検査はどの段階で受けるべきですか?
近々、大きな病院で細胞を注射器で採って調べてもらいますが、
どのタイミングで検査してもらうべきですか?
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
術後治療に関しては、「大きさとかリンパ節の程度(これでステージが決定します)」でも「グレード」でもなく、あくまでも「腫瘍の性質=サブタイプ」で決めます。
◎サブタイプとは?
組織検査(針生検や手術標本)などで以下の3点を調べます。
・エストロゲンレセプターの発現(ER)
・プロゲステロンレセプターの発現(PgR)
・HER2蛋白の過剰発現の有無(HER2)
⇒これらの組み合わせで「大きく4つのタイプ」に分けます。
①luminal type:(ER陽性、PgR陽性、HER2陰性) ホルモン療法が有効(更に増殖指数Ki67の値が低いAと高いBに分けます)
①-a luminalA(Ki67低値)ではホルモン療法単独が原則
①-b luminalB(Ki67高値)には(ホルモン療法に加え)化学療法も行う事が多い
②HER2 type:(HER2陽性のもの) ハーセプチンという分子標的薬と通常の抗癌剤の組み合わせを行う
③トリプルネガティブ:(ER陰性、PgR陰性、HER2陰性)通常の抗癌剤を行う
④トリプルポジティブ:(ER陽性、PgR陽性、HER2陽性)ホルモン療法と分子標的薬と抗癌剤の全てを行う
※正式名称はluminal B(HER2タイプ)と言います。
この中で①-a「ルミナールA」だけが、基本的に「抗がん剤の適応がない」のですが、
唯一『リンパ節転移4個以上の場合には、このタイプでも抗がん剤の適応がある』と考えていただいて結構です。
回答
「腫瘍が小さくても凹みがあると結構進行しているということですか?
⇒この「凹み」は「腫瘍が(皮下に浸潤し)クーパー靭帯(皮膚と乳腺を繋ぐ線維)を引っ張り込む」際におこります。
これは「進行度とは無関係」であり、「浸潤癌である以上あってもおかしく無い」所見です。
「抗ガン剤のせいで、良い細胞まで弱ってしまったり、免疫力が下がって逆にガンが増殖したり、ガンと戦える体でなくなるのでは?と心配」
⇒このように考えたくなるのも理解できるのですが…
この手の考え方には注意が必要であり、「この隙間に入り込む」のが「免疫療法などの代替療法」です。
「抗がん剤は副作用が強いだけで、正常な免疫力を奪うだけの治療法である。 私が発見した、このキノコの方が体に優しいし、良く効きます」みたいな商売です。
(参考までに)
標準治療を行っている医師の立場からコメントします。
「免疫療法」は以下の①②③、 「代替療法」は以下の①②④ です。 区別をしてください。
①客観性に欠けている:
科学的なデータを無視している
②本当の診療の経験にかける:
実際に治療をしていると「抗がん剤が効く様子」を実感できます。
そのような経験無しで「副作用だけ」を見て語っている
③自分の研究を盲信している:
これは「免疫療法」についてです。
確かに理論的に「癌細胞を自己の免疫機能を高める」ことで「癌を攻撃」する。
素晴らしい考え方です。もしかして「来世紀には実用化」するかもしれません。
「実用化には全く程遠い」状態にも関わらず、「免疫療法こそ、理想だ」という盲信から「他の治療を受け入れられない」のです。
④金銭的利益:
これは「代替療法」についてです。
どこまで「自分の考え出した治療」を本気で信じているのか(全く)怪しいものです。
「藁をもすがる」思いの方の心情に「つけ込む」「詐欺」としか思えないものもあります。
○「標準治療」である「ホルモン療法」や「抗がん剤」に世界の「研究者」と「製薬会社」のどれだけの「労力」と「費用」と「時間」が費やされているのか?想像してみてください。
「個人の思いつき」で「それらを否定すること」が如何に無意味か納得できる筈です。
人類の叡智なのです。
「受けないと再発のリスクはどれくらい高まるのでしょうか?」
⇒これは「サブタイプによって異なります」です。
一般に「大人しい癌(先に挙げた①-a luminal A での(抗がん剤投与による)再発防止効果は低い」し、「②③④などのタイプでは(抗がん剤投与による)再発防止効果は高い」のです。
♯①-b luminal Bでは、その中間です。
「この検査は受ける意味はありますか?」
⇒これは本来「抗がん剤を受けるべきか迷うケース」に用いるべきです。
つまり①-aや①-bなど「抗がん剤をするべきか?」と迷う際には行ってもいいでしょう。
逆に、上記サブタイプ②③④では「『オンコタイプDX』や『マンマプリント』とは関係なく」抗がん剤を受けるべきです。
「この検査で高リスクと判断された場合のみ、化学治療を受ければ大丈夫ですか?」
⇒そうは思いません。
上記②③④のサブタイプでは「抗がん剤を受けるべき」です。
「中間リスクや低リスクでもリスクはリスクなので、念のため抗がん剤をやった方がよいのであれば、高い検査なので検査をせずに治療に入ったほうがよいですよね?」
⇒まずは「サブタイプを調べてから」です。
再三コメントしているように上記サブタイプ②③④であれば、「迷わず、抗がん剤を行うべき」です。
①-aや①-bの場合で「化学療法をすべきか迷う場合」にのみ行うべきだと思います。
「この検査はどの段階で受けるべきですか?」
⇒サブタイプが決まり、術後病理結果が判明してからがいいと思います。
その上で「方針に迷う場合」に行えばいいのです。