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術後9年半を経て異時性両側乳癌。抗がん剤治療は必要でしょうか。

[管理番号:8672]
性別:女性
年齢:48歳
病名:浸潤性乳管がん(硬癌)
症状:胸のしこり
投稿日:2020年6月23日

術後9年半を経て対側乳癌になり、抗がん剤治療をすべきか悩んでいます。

現在48歳です。
39歳時、左胸乳がんを部分切除し放射線治療を受けました。

初発時は非浸潤性乳管がんで、主治医からは術後は放射線治療のみで良いと言われたので、術後9年以上ホルモン治療は全くしていませんでした。

術後9年たち(48歳、閉経していません)、一年に一度、検査に通っていたのですが、昨年晩秋頃の検査の際に「対側(右)に気になる部分がある」と医師から言われて半年後の受診を指示され、今春受診したところ、対側も乳がんになっていました。

初発年齢が若く、異時性両側乳がんでもあるので、今回、BRCA1、BRCA2の遺伝子検査を受けましたが、異常はありませんでした。
先日、全摘手術を受け、術後の病理診断の結果は、浸潤性乳管がん(硬癌)、浸潤径12×8×5mm、ER陽性(ほぼ10
0%)、PgR陽性(5%)、HER2陰性(score0)、リンパ節転移なし(sn:0/2)、リンパ管侵襲あり(ly1)、 静脈侵襲は明らかでない(0)、Ki67:10%、核異型度1,組織学的異型度2でした。

主治医からはサブタイプの説明はありませんでしたが、自分ではルミナルAタイプなのかなと思いました。

今回、医師からは、タモキシフェン服用(5~10年間)のみの術後治療を提案されています。

術後のホルモン治療で再発率が20%から10%に下がり、抗がん剤を加えた場合ではそれがさらに8%程度に下がるとのこと
で、あまり効果がないとの説明でした。

そこで、お教えいただきたいのは、
(1)抗がん剤は不要でしょうか?
   手術前は、脈管侵襲が少しでもあれば抗がん剤治療を受けようと決心していたのですが、入院中に一晩中激しく嘔吐している患者さんの声が聞こえてきたことが何度もあり、また医師からは抗がん剤はあまり効果がないようなことを言われ、決心が鈍りました。

また、がんの性質が比較的おとなしいルミナルAと思われていた患者の中に、10~20%程度、ホルモン治療だけでは予後不良な患者がいて、実は抗がん剤の効果があるタイプがいるという記事を見たのですが、自分がこのタイプかどうかはオンコタイプDXをするしかないのでしょうか。

(2)リュープリンは効果がなく不要なのでしょうか?

(3)プロゲステロン陽性率の低さは、術後治療方法の選択に影響しますか?

(4)オンコタイプDXという検査を受けてみようかと検討していますが、再発リスクがいくつ以上だったら抗がん剤をした方が良い、という一般的な基準はあるのでしょうか?また、抗がん剤治療は術後何日以内までに始めると良いという基準はありますか。
検査結果が出るまで3~4週間以上かかるようなのでこの点も心配しています。

 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。

「初発時は非浸潤性乳管がんで、主治医からは術後は放射線治療のみで良いと言われた」
⇒全く、正しい。

「今回、医師からは、タモキシフェン服用(5~10年間)のみの術後治療を提案」
⇒100%賛成です。
 perfect!

「(1)抗がん剤は不要でしょうか?」
⇒不要です。

「(2)リュープリンは効果がなく不要なのでしょうか?」
⇒48歳。
 勿論、不要です。

「(3)プロゲステロン陽性率の低さは、術後治療方法の選択に影響しますか?」
⇒無関係

「(4)オンコタイプDXという検査を受けてみようかと検討していますが、再発リスクがいくつ以上だったら抗がん剤をした方が良い、という一般的な基準はあるのでしょうか?」
⇒RS>25で抗がん剤をしましょう。(Ki67=10%であれば、その心配は殆どないでしょう)

「また、抗がん剤治療は術後何日以内までに始めると良いという基準はありますか。」
⇒ありません。
 ご安心を。

 
 

 

質問者様から 【質問2 】

オンコタイプDXの結果と術後の抗がん剤治療について
性別:女性
年齢:48歳
病名:浸潤性乳管がん(硬癌)
症状:
投稿日:2020年9月7日

先日は質問にお答えくださりありがとうございました。

オンコタイプDXを受けた結果、再発スコア31だったので、抗がん剤をすることにしました。

なお、オンコタイプDXの、再発スコア以外の結果は以下のとおりです。

9年遠隔再発率 TAM単独19%
RS群における化学療法の上乗せ効果(平均) >15%
8.3 ER   陽性 
4.4 PR  陰性
9.9 HER2 陰性

抗がん剤治療を受けるにあたり、手術を受けた病院から大学病院に転院したのですが、
大学病院での病理診断でHER2が2+という診断が出てしまい、さらにFISH法で検査して陽性か陰性か調べ、その結果を見てから抗がん剤の治療方針を決めることになりました。

大学病院での病理診断結果については、HER2以外については医師からざっくりとした説明しかなされず、ホルモン陽性、Ki67は12%ということでした。

医師の話では、Ki67が高くはないので、さらに検査をしてもHER2が陽性と出る可能性はほとんどない、1%程度しかないと思うが、念のため調べるとのことでした。

結果が出るまでまだ2週間ほどある状況です。

そこで、お教えいただきたのは、
【1 HER2について】
  (1)オンコタイプDXでのHER2についての検査と、今回大学病院でやってもらっている検査は、調べる方法が違うのでしょうか。

  (2)オンコタイプDXでHER2陰性となっていても、今度の検査で陽性という診断がなされることがあるのでしょうか。

(3)その場合、どちらの検査結果を採用するべきなのか。

医師の予想通りに陰性の結果が出るようであれば問題ないのでしょうが、もし違う結果が出たら?と心配です。

【2 オンコタイプDXのホルモンレセプターの数値について】
(1)術後の病理診断ではPGRが陽性(ただし5%と低い)だったのですが、オンコタイプDXでは「4.4 PR 陰性」と出ました。
PR=PGRということで良いのか、また、これは、PGRが4.4%で低すぎるから陰性とみなすということなのでしょうか。

(2)ERについても、「8.3 ER 陽性」というのは、ERの陽性率が8.3%ということなのでしょうか。

(3)術後の病理診断では、ERは「ほぼ100」と出ていたので、オンコタイプDXでの「8.3」が%なのだとしたら、ずいぶん低く出たなと思います。

病理診断の結果では再発スコアが高くなる要素が特になかったにもかかわらず、再発スコアが高く出たのは、オンコタイプDXではPGRが陰性で、ERも陽性ではあるけれど低いからなのでしょうか。

ERが高くても、PGRが低かったり陰性だったりすると、ホルモン療法の効果が比較的出にくいというような記事を何件か見ており、それが、私がそもそもオンコタイプDXを受けようと思ったきっかけだったのですが、ERも8.3%だとしたら相当低いと思いますし、ホルモン療法の効果はあまり期待できないのかなと思っています。

(しかしながら、効果は小さくてもゼロではないでしょうから、ホルモン療法を受けないという選択肢はないと思っています)

【3 抗がん剤治療について】
(1)HER2陰性の場合は、医師からはTC療法を提案されています。

    これは妥当な選択でしょうか。

    アブラキサンという抗がん剤の記事を見かけ、効果が高いと書いてあったので、気になっています。
副作用として、しびれなどの末梢神経障害が出やすいとは書いてありましたが、私自身は、とにかく再発予防効果の高い治療法を選択したいと思っています。

(2)HER2陽性だった場合、アンスラサイクリン系を3週間ごとに4回、その後タキサン系を3週間ごとに4回、それに加えハーセプチンと言われています。

   これも妥当な選択でしょうか。

たくさん質問してしまい恐縮ですが、先生のご見解をお聞かせいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは田澤です。

「  (1)オンコタイプDXでのHER2についての検査と、今回大学病院でやってもらっている検査は、調べる方法が違うのでしょうか。」
⇒違います。
 OncotypeDXでは遺伝子の「発現量」を見ているのに対し、(大学でやっている)FISHでは「遺伝子のコピー数」を見ています。

「  (2)オンコタイプDXでHER2陰性となっていても、今度の検査で陽性という診断がなされることがあるのでしょうか。」
⇒無いでしょう。

「(3)その場合、どちらの検査結果を採用するべきなのか。」
⇒OncotypeDX(発現量)です。

「(1)術後の病理診断ではPGRが陽性(ただし5%と低い)だったのですが、オンコタイプDXでは「4.4 PR 陰性」と出ました。
PR=PGRということで良いのか、また、これは、PGRが4.4%で低すぎるから陰性とみなすということなのでしょうか。」

⇒病理診断は「免疫染色(タンパクの発現)」であり、OncotypeDXは「遺伝子の発現」を見ています。

 結果が微妙に異なるのは仕方がないことです。(そもそも差異はあまりないようです)

「(2)ERについても、「8.3 ER 陽性」というのは、ERの陽性率が8.3%ということなのでしょうか。」
⇒違います。
 発現レベルを「スコア化した値」なので陽性率とは全く違います。

「病理診断の結果では再発スコアが高くなる要素が特になかったにもかかわらず、再発スコアが高く出たのは、オンコタイプDXではPGRが陰性で、ERも陽性ではあるけれど低いからなのでしょうか。」
⇒全く違います。

 OncotypeDXは16もの癌関連遺伝子の発現をスコア化して計算してRSとしています。
 PgRは、その内の1つにすぎません。

 『今週のコラム 98回目 ♯このグレーゾーンを「AとBに分ける」ためにOncotypeDXがあるのです。』の中に以下の計算式を示していますが、PgRの値が「どの程度、RSに影響してくるか?」理解しましょう。
 PgRは(無論)下記のEstrogen groupに属します。

 RS = 0.47 x HER2 group score – 0.34 x Estrogen group score + 1.04 x proliferation group score + 0.10 x invasion group score +0.05 x CD68 – 0.08 x GSTM1 – 0.07 x BAG1

「ERも8.3%だとしたら相当低い」
⇒全くの誤解
 解りましたね?

「HER2陰性の場合は、医師からはTC療法を提案されています。
    これは妥当な選択でしょうか。」

⇒その通り。

「アブラキサンという抗がん剤の記事を見かけ、効果が高いと書いてあったので、気になっています。」
⇒論外!!
 ★アブラキサンの添付文章をよく読んでください。

 (以下、抜粋)
効能又は効果に関連する使用上の注意

1. 本剤の手術の補助化学療法における有効性及び安全性は確立していない。

「(2)HER2陽性だった場合、アンスラサイクリン系を3週間ごとに4回、その後タキサン系を3週間ごとに4回、それに加えハーセプチンと言われています。
   これも妥当な選択でしょうか。」

⇒その通り。