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乳がんの抗がん剤治療について

[管理番号:1877]
性別:女性
年齢:43歳
独身。出産経験なし。
33歳の時に右側乳房を温存手術しました。
ステージ1で、放射線治療と抗がん剤治療しました。
ホルモンはマイナスだったため行っていません。
今回、左側乳房の乳腺乳管癌と診断されました。まだ検査が終わってないためステージは分からないと言われました。腫瘍の大きさは2cmくらいだと言われています。
今回の癌は、右側乳房の癌とは全く違う癌らしく、ホルモンはブラスでグレードは1だったので、先生は優しい癌ですよと言われました。
前回の治療の抗がん剤治療の際、吐き気がひどく水も飲むことができませんでした。
白血球もさがり、注射をうってもさがるため入退院を繰り返しました。
そして何よりつらかったのが脱毛です。そんなマイナスイメージしかないので、抗がん剤治療が必要となった時に、頑張って治療
しますとは言えません。
10年前より良い薬はたくさんあるよと言われたのですが、正直やりたくありません。
ただ、その治療をしなかったために、またこんな思いをするのも嫌です。
矛盾していますよね。正直、心の整理もなかなか難しい状態なのですが、抗がん剤治療に関する知識は得たいと思います。
先生、現在の抗がん剤治療について種類と副作用を教えていただければと思います。
お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
まずは「異時性両側乳癌」といいます。
全く新しくできた(右とは無関係の)左乳癌であることは間違いありません。

回答

「ホルモンはブラスでグレードは1だった」
⇒術後補助療法として「抗がん剤は不要」となる可能性がかなり高いと思います。
(ホルモン療法単剤)
 
「10年前より良い薬はたくさんあるよと言われた」
⇒抗がん剤自体ではなく、「制吐剤の改善」が著しいのです。
 
 
「現在の抗がん剤治療について種類と副作用を教えていただければと思います」
⇒術後に行う(適応のある)抗癌剤は限られています。
 「アンスラサイクリン」と「タキサン」です。
 質問者は(10年前だと)おそらく『FEC療法』を行ったのだと想像します。(脱毛とあるのでCMFでは無い筈です)
 
ルミナールタイプで行う可能性が有る抗がん剤のレジメンはハイリスクには「アンスラサイクリン」+「タキサン」
それ以外には「TC療法」
 
「アンスラサイクリン+タキサン」はEC+DTX、AC+DTC、EC+weeklyPTX、AC+weeklyPTXのどれかになります。
 ECもACも(質問者が10年前に行った)FECと同様ですが、「制吐剤の著しい改善により」吐き気は「相当改善」されています。
 DTXは「筋肉痛」「痺れ」「浮腫み」「全身倦怠感」
 PTXは「痺れ」
 
「TC療法」はDTX+エンドキサンとなります。
 副作用はDTXによるもので、上記のDTXと同様となります。
 
○実際のところ質問者は「ルミナールAの可能性が高く、化学療法の適応外」となりそうです。
 万が一「化学療法の適応」となった場合にも「腫瘍径20mm」からはTCが選択されることになるでしょう
◎サブタイプとは?
組織検査(針生検や手術標本)などで以下の3点を調べます。
エストロゲンレセプターの発現(ER)
プロゲステロンレセプターの発現(PgR)
HER2蛋白の過剰発現の有無(HER2)
⇒これらの組み合わせで
●luminal type:(ER陽性、PgR陽性、HER2陰性) ホルモン療法が有効(更に増殖指数Ki67の値が低いAと高いBに分けます)
 ♯luminalA(Ki67低値)ではホルモン療法単独を、luminalB(Ki67高値)には(ホルモン療法に加え)化学療法も行う事が多い
★質問者はグレード1ということなので「Ki67が低値」となる可能性が高いです。
・HER2 type:(HER2陽性のもの) ハーセプチンという分子標的薬と通常の抗癌剤の組み合わせを行う
・トリプルネガティブ:(ER陰性、PgR陰性、HER2陰性)通常の抗癌剤を行う
・トリプルポジティブ:(ER陽性、PgR陽性、HER2陽性)ホルモン療法と分子標的薬と抗癌剤の全てを行う
 ※正式名称はluminal B(HER2タイプ)と言います。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生、こんにちは。
先日はお忙しい中、質問に丁寧にお答えいただきありがとうございました。
再度、質問させていただきます。
私は異時性両側乳がんと言われましたが、まさか全く違うタイプのガンが逆側にできるとは思っていなかったので、とてもびっくりしてなかなか主治医の先生の話が頭に入ってきませんでした。
このようなガンになる人の数は多いのでしょうか。
私のガンのタイプはルミナルタイプAの可能性が高いため、抗がん剤治療の適用外になる可能性が高いとのことで少し安心しました。
腫瘍の大きさが20mmをこえていても適用外になる可能性が高いでしょうか?
というのも20mmと思っていたのですが、25mmぐらいのようです。
脱毛の副作用が本当につらかったので、適用外になることを祈るしかないのですが、脱毛しない抗がん剤はないのでしょうか?
私のガンのタイプはホルモンプラスでグレード1ということしか分からないため、なかなか難しいと思うのですが少しでもお答えいただければ助かります。
よろしくお願いします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「私は異時性両側乳がんと言われましたが、まさか全く違うタイプのガンが逆側にできるとは思っていなかったので、とてもびっくりしてなかなか主治医の先生の話が頭に入ってきませんでした。このようなガンになる人の数は多いのでしょうか」
⇒質問者は勘違いしています。
 乳腺に「左右の繋がり」はありません。
 左右別々は「当たり前」のことです。
 
「腫瘍の大きさが20mmをこえていても適用外になる可能性が高いでしょうか?」
⇒腫瘍径は無関係です。
 治療法はサブタイプによります。(前回のサブタイプとは?を参照してください)
 
「脱毛しない抗がん剤はないのでしょうか?」
⇒脱毛しない抗がん剤はあります。
 
 ただ、薬剤には適応があり、適応外の治療は行えません。
 標準療法としては「アンスラサイクリンとタキサン」であり、これらは脱毛します。
 ♯標準療法からは外れますが、「術前術後に適応がある薬剤(勧められませんが)として脱毛しない」ものにはUFT(傾口)やCMFがあります。
 
 
 

 

質問者様から 【質問3】

田澤先生、こんにちは。
先日から質問に詳しく、分かりやすくお答えいただきありがとうございました。
12月16日に無事手術いたしました。
手術前の乳腺MRIで、2個腫瘍が見つかりました。
主治医が当初予定していたのは、部分切除だったけど扇型に切りましょう。
全摘という選択肢もあるけど、今回は温存でいきましょうと言われ無事手術は終了しました。
病理結果は
1.3cm大の浸潤性乳管ガンを認める。
乳頭腺管ガンの成分も見られるが、硬ガン成分が優位のため、全体としては硬ガンの診断名になる。
腫瘍は末梢神経に浸潤しており、またリンパ管侵襲も見られる。
中等度の乳管内進展を伴っている。
断端に露出する像は認めないが、剥離面から0.2mmのところまで浸潤成分がたっしており、また乳管内成分は内側断端から1mmのところまで達している。
免疫染色では、
er陽性率60
pgr陽性率95
her2 1+
mib25%
6mm大の浸潤性乳管ガンで、乳腺組織に限局しており、軽度の乳管内進展を伴っている。
断端は陰性。
2個目は8mm大の非浸潤性乳管ガンである。
断端に近接しているが、標本上断端への露出は認めない。
当院では、20%以上になると抗がん剤をすすめています。
ただ、した場合としない場合とで、再発率は変わらないんだけど、どうしますか?と言われ、資料を見せていただくとしない場合は12%、した場合は8%だったので、抗がん剤治療はしないことにしました。
先生もホルモン治療はしっかりやっていきましょうと言われましたので、ホルモン治療をしっから頑張っていこうと思います。
手術前検査より後の結果で腫瘍の大きさも小さかったですし、他の腫瘍も小さい状態で見つかり、メインの腫瘍の近くにあったので、扇型切除をすることができました。
良いタイミングで手術できて良かったと前向きに治療に励みたいと思います。
田澤先生のこのQ&Aのおかげで、主治医の話を落ち着いて聞けましたし、色々な知識を得ることができました。
本当にありがとうございました。
田澤先生のご健康とご活躍をお祈り申しあげます。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
無事に手術が終了し、「納得のいく術後療法を選択ができた」事、大変良かったです。
このQandAが、それらに幾らかでも貢献できたとすれば何よりです。
ホルモン療法頑張ってください。