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Ki67と抗がん剤治療について

[管理番号:597]
性別:女性
年齢:30歳

以前の質問はこちら

内容が新規のため、新規番号にしています。
管理番号587 若年性乳がん(トリプルネガティブ)の予後

 
この度も迅速に回答してくださり、本当にありがとうございます。勉強になります。
主治医に聞くべきなのでしょうが、なかなか診察時には躊躇してしまい聞けず、田澤
先生に甘えてしまっております。(主治医は70歳近くで、経験は豊富のようですが寡
黙なので何となく聞きづらいのです)
また質問させていただきたいのですが、
①病理結果でki67が10~20%だったのですが、トリプルネガティブにしては低すぎる
かな?と思っています。これは術前の針生検の結果なので、たまたま針で刺した所の
数値が低かっただけで、全体の数値はもっと高いのでは?と思っていますが、いかが
でしょうか?
②仮に本当に20%程度だったとしたら、行ってきた化学療法はほとんど効いていない
のでは?と不安になっていますが、どう思われますか?化学療法はKi値が高いほど奏
功すると思うのですが…
③そもそも、術前に化学療法をした方が良かったでしょうか?
主治医には、化学療法をすることは絶対なのだから、術前でも術後でも構わない。ま
た、どちらでも予後は変わらないと説明を受けました。
私は悩みに悩みましたが、
・今の状態でも温存できる大きさである。
・完全奏功できた場合は万々歳だが、あまり効果なし又は全く効果なしの場合、手術
前に転移するリスクがあるのでは?
・仮に奏功したとしても、術後の病理結果で少しでもガン細胞が残っていた場合、私
の性格上、どん底まで落ちるだろうなと想像できる。(ネットでトリプルネガティブ
の場合は完全奏功以外は、再発転移は免れないと書かれてあったため)
以上のことを考え、先に手術することにしました。
ですが、今になって
・術前に化学療法をして、全身に広がっているかもしれないガン細胞を、少しでも小
さいうちから叩いておいた方が良かっただろうか?
と思ったりもします。
術後の抗がん剤治療は効いているのか効いていないのか分からないまま行うので、副
作用が酷い時期には「どうしてこんな思いをしなければならないのか。この治療は意
味があるのか。もうやめたい。」と自暴自棄になっていました。
④術後の化学療法が効いたとして、全ての微小転移に対して効果があるのですか?例
えば、肝臓の微小転移には効いて無くなったが、肺の微小転移には効かなかったとい
うこともありえるのでしょうか?
⑤乳がんは早期の時点で、すでに全身にガン細胞が散らばっていると考えられている
と見た記憶があるのですが、本当でしょうか?
だとすると、ホルモン療法ができる方はそれによって抑えられるが、化学療法しか手
がない私のようなタイプは完全奏功しない限りは、やはり予後不良なのかなと落ち込
みます。
もう手術も抗がん剤治療も終わっているのに、調べれば調べるほど頭がぐちゃぐちゃ
してきます。
主治医にも、あまりネット検索するのは精神的に良くない。辛い治療は終わったのだ
から、もう病気のことは忘れて生活した方が良いと言われています。
ですが、自分の病気のことはどんな事でも知っておきたいのです。
田澤先生、お忙しいと思いますがいつでも構いませんので、ご回答してくだされば嬉
しいです。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 トリプルネガティブで治療も終了していますね。
 ステージはpT1c(1.5cm), pN0, pStage1期でした。
 今回は、「治療を振り返ってみて」の検証となります。

回答

「①病理結果でki67が10~20%だったのですが、トリプルネガティブにしては低すぎるかな?と思っています。これは術前の針生検の結果なので、たまたま針で刺した所
の数値が低かっただけで、全体の数値はもっと高いのでは?と思っていますが、いか
がでしょうか?」

⇒それ程の違いは無いと思います。(術後、病変全体での評価はしていないのです
ね)
 (腫瘤非形成性病変のように)病変が一様では無い限り、それ程大きな値の違いは
無い筈です。
 特に質問者の場合は腫瘍径15mmと言う事だから、殆ど均一と考えるべきです。(針
生検で10-20%ならば、病変全体の評価で30%以上と言う事は無いでしょう)
 
 ♯江戸川病院では「針生検標本ではKi67測定せず、手術標本のみの測定」なのです
が、「仙台時代は必ず両方で測定」していたので、実際のところを知っています。
 
 
「②仮に本当に20%程度だったとしたら、行ってきた化学療法はほとんど効いていな
いのでは?と不安になっていますが、どう思われますか?化学療法はKi値が高いほど
奏功すると思うのですが…」

⇒理論的に言えば、その通りだと思いますが、実際には(例えばluminal Aでも)化
学療法は「劇的ではないにしろ」効果がある事の方が多いのが事実です。
 「Ki67が低い=細胞分裂の時期の細胞が少ない=化学療法のターゲットの細胞が少
ない」とはいえ、「正常細胞に比較すると、やはりターゲットとなる」のです。
 ○ある程度の効果があった。というのが事実だと思います。
 
「③そもそも、術前に化学療法をした方が良かったでしょうか?」
⇒これには反対です。
 私の今までのQandAの回答を見てもらうと解りますが、「術前化学療法の絶対的適
応」は『腫瘍を小さくして温存する』です。
 最初から「温存できる」質問者の場合には全く当てはまりません。
 参考までに、そのあたりの考え方について記載します。

術前化学療法の適応

◎術前抗癌剤の絶対的適応は①「術前抗癌剤で腫瘍を小さくして温存手術を行う」で
す。
 これにあてはまるには『今の時点で腫瘍が(温存するには)大きい』『温存手術を
希望している』この2点を満たしている必要があります。
 ⇒そもそも「腫瘍が、最初から小さい」とか「温存は希望していない」場合には、
この理由は全く当てはまらなくなります。
○次に挙げる2つは、実は「根拠薄弱」であり「術前抗癌剤を勧める根拠とはなりま
せん」
②「術後にどうせやるのだから、術前にやった方が良い」
⇒化学療法は「術前にやっても、術後によっても予後は同等」なのです。
 「術前にやった方がいい理由にはなりません」●術後でいいのです。
   
③「抗癌剤は術前にやると(効くか、どうかの)効果判定ができる」
⇒このような理由を言う医師も散見されますが、私は全く反対です。
 術前抗癌剤での効果はあくまでも「腫瘍が縮小するか?」で見ています。
 これが、「化学療法本来の目的である、再発予防に効果があるか?とは相手の
大きさが異なります」
 「術後の再発予防目的」では(目に見えない)「小さな相手に対する抑制効
果」なので、「大きな腫瘍に対して縮小効果が乏しいとしても、再発予防効果に乏し
い」とは限らないのです。

術前化学療法を安易に勧めない理由

◎化学療法は「皆さんに必ず効果がある」とは限りません。
 効果の無い化学療法を行っている間に、「転移」したり「腫瘍が増大」する可能性が
あります。
 「術前抗癌剤」中に「腫瘍が増大」して、『慌てて手術へ変更』する事も私は何度も
経験しています。
 本来、術前化学療法の絶対的適応は『小さくして温存』であり、もしも今回最初から
術前化学療法で『小さくなっても乳房切除』という方針ならば、「術前化学療法は不要だった」という意味です。
 ◎結局「術前化学療法をしても、手術は乳房切除に決まっている」ならば、術前化
学療法の意味は無いのです。
 その場合は手術を先行して「術後の化学療法」が本来の姿です。
 ♯ 術前化学療法が「本来の適応」を見失って、安易に「どうせ抗がん剤をやる
なら、術前に。とか、術前に抗がん剤を使用すれば効果が解る」という用いられ方を
されています。
 
「術前に化学療法をして、全身に広がっているかもしれないガン細胞を、少しでも小
さいうちから叩いておいた方が良かっただろうか?」

⇒そのような事を(術前化学療法へ誘導するために)言う医師がいますが(私もかつ
ては、そのような事を言っていました。反省してます)その意見には(今では)反対
です。
 「机上の空論」です。
 「化学療法は術前に行っても、術後に行っても予後は変わらない」という事実が、
物語っています。
 それよりも恐ろしいのは、「化学療法が効かなかった場合に、癌が拡がる」リスク
なのです。
 「目に見えない癌細胞」などという事を心配する前に、「現実に塊として存在する
癌細胞を確実に除去する」これが確実なのです。
 
「④術後の化学療法が効いたとして、全ての微小転移に対して効果があるのですか?
例えば、肝臓の微小転移には効いて無くなったが、肺の微小転移には効かなかったと
いうこともありえるのでしょうか?」

⇒微小転移は「そもそも見えない」ので「その効果を確認することは不可能」です。
 実際にある「多臓器転移での化学療法の効果」は「脳以外」では全て一緒と考えて
結構です。(私の経験です)
 ♯脳は「blood-brain barrier」のために、薬剤が効きにくい(到達しない)ので
す。
 
「乳がんは早期の時点で、すでに全身にガン細胞が散らばっていると考えられている
と見た記憶があるのですが、本当でしょうか?」

⇒そのような事を言う者が居る事は承知しています。
 無論、そのようなケースを想定して「術後療法が推奨」されている背景がありま
す。
 ただ、本当に全てがあてはまるのかというと、現実に「術後全く無治療」の方がい
らっしゃいます。(化学療法をしたくない。とか持病などの理由で)
 
 実際に、そのような方も多く診療している私は「無治療でも、再発しない人も多
い」事を実感しています。
 ○実際のところ3つのグループに分けられると考えられています。
①(術後療法などしなくても)再発しない群
②(術後療法をすれば)再発しないが、(術後療法をしなければ)再発する群…おそらく10%前後
③(術後療法をしても)結局再発する群
 術後療法は実際には②の群のために行われているのですが、現代医学では『この
①②③の判別方法が無い』のです。
 ♯サブタイプやステージによって①~③の割合が異なる筈です。
⇒質問の答えに戻りますと、『本当ではありません』根拠は上記①が存在するからで
す。
  
「主治医にも、あまりネット検索するのは精神的に良くない。」
⇒その通りです。
 『実際に再発しない方の方が圧倒的に多いのに、「乳癌は全身病だから治らない、い
つか必ず再発する」と思わせるようなネットの情報は犯罪にひとしい』事を明記して
おきます。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

たくさんの質問に、とても分かりやすくご丁寧にお答えしていただき、本当にありがとうございました。どれも納得しました。
今まで疑問に思っていたことがはっきりと分かり、とてもスッキリしました。
告知されてから今日まで、ネット検索しては落ち込む日々でしたので、最初から田澤先生に質問すれば良かったと思っています。
結局は、どのような方でもこの先再発転移するかは「神のみぞ知る」ところなのでしょうが、病気を正しく知ることは、不安や恐怖を和らげると思います。
分からないからこそ怖いのです。
全国にはたくさんの医師がいますが、知識や技術も様々だと思います。また、医師により人間性も様々でしょう。
田澤先生のような医師がたくさんいてくれたらいいなと思います。
私は勝手に田澤先生も私の主治医の一人であると思っています(お気を悪くされましたら、申し訳ありません)
今後また疑問に思うことが出てきましたら、質問させていただきたいです。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 沢山の質問をありがとうございました。
 回答している中で、「同じような悩みを抱えている方」にとっても参考になりそうだと思っていました。
 特にネットではびこっている「悲観論?」について、私なりのコメントをさせてもらいました。
 やはり「診療していての実際の姿」とあまりにもかけ離れた「ネットの情報」には「一言」言いたくなるのです。
 今後もご質問がありましたら、「もう一人の主治医」として回答させてもらいます。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

こんにちは。
田澤先生、何度もすみません。
また一つお聞きしたいことが出てきました。
それは、更なる抗がん剤治療の追加についてです。
というのも、以前ブログで(またブログの話で申し訳ありません)、トリプルネガティブで術前抗がん剤(AC4回→タキソール12回)をしてある程度効果はあった(大きさ7センチが3センチほどになった)方が、術後にも抗がん剤治療をして手術から10年再発無く元気に過ごされているというのを読んだためです。
その方は、主治医から半分の大きさになったぐらいで、しこりは残ってしまい術前抗がん剤の効果はいまいち(術後の病理でも癌細胞は残っている)なので、術後にも抗がん剤をしてみないかという提案があった様です。
抗がん剤の種類としては、ゼローダを1年続けたとのことでした。
術前抗がん剤をして完全奏功にならなくても、10年再発転移無く過ごされている方がいることは、私にとって羨ましい限りです。
私は術後の抗がん剤治療でしたので、奏功したのかは分からないですが、今後再発転移率が1%でも下がるのであれば、他の種類の抗がん剤も追加で受けたいと思うのですが、全く不要で意味が無いでしょうか?
経口抗がん剤などの追加で、再発転移率が下がるというエビデンスは今のところ無いのですか?
ちなみに、私は今後万が一転移することがあれば、抗がん剤治療は一切受けないことを決めています。
完治は望めないのに、辛い抗がん剤治療をエンドレスで続けることは私にとって辛すぎるし、抗がん剤の副作用で体調の悪い期間が続くぐらいなら、短い命でも元気に活動できる時間を大切にしたいのです。また、治療が長引けば長引くほど、最終的に転移箇所が増える?(脳転移など)ような気がするのです。誤った認識でしたら、申し訳ありません。
話が脱線してしまいましたが、よく、使える抗がん剤はなるべく残しておいた方が良いというようなニュアンスのことを見ますが、私の場合は転移後の抗がん剤治療はしない方針なので、今のうちに効果がありそうな物は使い切っておきたい気持ちもあります。
その上で転移してしまったのなら、「これだけの治療をしても、転移するのだから仕方ない」と諦めがつく様な気がするのです。
もし今のままの状態で転移したら、「あの時、経口抗がん剤でも受けていたら結果は変わっただろうか」と思いそうな気がします。
田澤先生、以上の私の考えについて、いかが思われますか?
きっと間違った認識である箇所もあると思いますので、ご指摘下されば幸いです。
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 「術前術後の化学療法」で用いる事のできる薬剤と「転移再発でないと使用できない」薬剤があります。
 これは薬剤には適応症として記載されているものであり、それを無視する場合は「適応外使用」となります。
 薬剤は「効きそうなものは何でも、やっていい」というものでは無いのです。

回答

「術後にも抗がん剤をしてみないかという提案があった様です。抗がん剤の種類としては、ゼローダを1年続けた」
⇒これは「誤った」治療法です。
 明らかな「適応外使用」となります。
 
 ○ゼローダの適応症は「転移・再発乳癌」です。
  決して「術前術後の化学療法として」用いてはいけません。
 
「術前抗がん剤をして完全奏功にならなくても、10年再発転移無く過ごされている方がいることは、私にとって羨ましい限りです」
⇒「術前抗がん剤で完全寛解とならなかった」方で、10年無再発生存は「それ程珍しく」はありません。
 もしも、「術前化学療法で完全寛解とならなかった」=「将来再発」と考えているとしたら大変な誤解であることを明記しておきます。
 
「他の種類の抗がん剤も追加で受けたいと思うのですが、全く不要で意味が無いでしょうか?」
⇒これは本来行ってはいけない事です。
 標準治療では許されていない範疇です。
 これを許してしますと「国の医療経済が破綻」します。
 ○自費診療で行う「免疫療法」などは個人の勝手(お金をかける価値があるかは別として)ですが、保険診療の7割は国からの補助(限度額申請などでは、更におおく)で成り立っています。
 きちんと「国から許された範囲」で診療はすべきです。
 効果が証明されてもいない「治療」を保険診療で行うのは問題なのです。
 
「経口抗がん剤などの追加で、再発転移率が下がるというエビデンスは今のところ無いのですか?」
⇒ありません。
 そもそもUFTのみが「術後補助療法としての適応」がある薬剤で、この薬剤も「術後のCMFに対して同等」というエビデンスしかないのです。
 つまり、「UFT」も「標準療法の代替」としての使用であり、「上乗せ」では無いのです。
 (参考に)luminal typeで「標準治療」に対する「TS-1投与(1年)による上乗せ効果」をPOTENT試験では行っています。
 
「きっと間違った認識である箇所もあると思います」
⇒転移・再発してしまったら(倫理上)あらゆる薬剤を「保険診療」で行う事は許されていますが、「術前・術後の」抗がん剤で「何でもあり」としてしまうと「保健医療は崩壊」してしますのです。
 
 適応外使用は厳に慎むべきです。
 
 

 

質問者様から 【質問4】

ご回答ありがとうございました。
なるほど、今回もよく分かりました。
術前化学療法では、特にトリプルネガティブの場合、完全奏功以外は必ずいつか再発転移するものと思っておりました。
またUFTも考えていたのですが、標準治療の代替であり上乗せではないのですね。
ゼローダなどの抗がん剤は再発転移の場合のみ使用できることは知っていましたが、術後の再発予防としての上乗せ治療として使った方がいるのを知り、そういった治験があるのだろうか?また使用できる特別な基準でもあるのだろうか?(例えばトリネガの方のみ使える、医師が必要と思えば使えるなど)と思い質問させていただきました。
その方は、単に許されていない「適応外治療」を行ったに過ぎないのですね。
たくさん誤った認識をしており、お恥ずかしい限りです。
正しい情報を知ることができ、よかったです。
ありがとうございました(^^)