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リンパ節郭清省略の際の術後治療

[管理番号:2017]
性別:女性
年齢:36歳
お世話になります。
片側乳房全摘手術をしています。
術後の治療で迷っており、相談を書かせていただきました。
お忙しいところに大変恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
【術後の病理結果】
浸潤がん・一般型(乳頭腺管がん)、
リンパ節転移:あり1個 :リンパ節郭清省略
※リンパ節の術中迅速診断
・OSNA(1/4):SN1(-):<1,SN2(-):<1,SN3(++):190,000,SN4
(-):ND
・組織(0/0)
ER(+)PS5 IS3, PgR(+)PS5 IS3, Her2(0)
波及度:f(++)
癌の浸潤径:病理結果では1.6cm×0.7cm
ただし、執刀医からはサイズは測定した位置によるため、手術時の見た
目からは2cm強かと思うと言われています
組織型a3
脈管侵襲:なし
核異形度:1 NA2:MC1=NG1
Ki67は不明です
Adenocarcinoma scirrhosum of the right breast, with moderate fat
infiltration Carcinoma metastatic to a node (1/4=1/4+0/0+0/0) In situ(+):
Solid,Cribriform 
Bt+SNB→OSNA:Ca(+)→Ax省略
Needle scar (+)
現在、治療方針の第一候補として挙がっているのが、再発率が最も下がる抗がん剤6カ月(AC3か月+パクリタキセルかドセタキセルを3か月)さらにその後、ホルモン剤をするです。
年齢が30代半ばであることから、再発率は高めで30-40%だろうと言われています。
なお治療開始したのは36歳ですが、しこり発見は2年程前なので若年性乳がんにやや近いです。
1.センチネル生検では、1個転移(OSNA(1/4)SN3(++)190,000)がありました。
センチネル生検で転移1個ならばリンパ郭清はしない、ことに術前に決めており、リンパ郭清はしていません。
ただ、今は、もし郭清しなかったリンパ節に癌が存在していたら怖いと感じています。
またSN3(++)190,000はマクロ転移だと聞きました。
このサイズはかなり大きいでしょうか、そして術後治療の考慮する際にも影響しそうでしょうか?
 日本乳がん学会のページサイトを見ると、リンパ郭清を省略する場合、術後治療は必須と書かれていました。
術後治療とは抗がん剤を指すのでしょうか?それともホルモン剤単独もあり得るのでしょうか?勝手な想像ですが、手術で取らなかったリンパ節に癌が残っていたら、抗がん剤のような強い薬でその残りを消滅させるのかなと考えています。
それがホルモン単独でも可能ならいいのですがどうでしょうか。
※参考にした日本乳がん学会のリンパ郭清省略のページです
http://www.jbcsftguideline.jp/info/revised1.html
2.先生でしたら私へはどの治療方法をお勧めでしょうか?リンパ郭清省略したこと、センチネルにマクロ転移(++)、年齢等から抗がん剤をお勧めでしょうか?また、
1)抗がん剤とホルモン剤の組み合わせ、
2)ホルモン剤単独5年間の治療、
もしくは3)他に先生の治療案がございましたらそれも含めまして、
それぞれの治療方法での再発率低下はどれぐらいだと先生はお考えでしょうか?
アドバイス頂ければ幸いであります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT1c(16mm), pN1, pStage2A、luminalA相当(MC1より推定)ですね。 
十分な「low risk」と言えます。
「現在、治療方針の第一候補として挙がっているのが、再発率が最も下がる抗がん剤6カ月(AC3か月+パクリタキセルかドセタキセルを3か月)さらにその後、ホルモン剤」
⇒私であれば「化学療法はせず」ホルモン療法単剤とします。(St.Gallen 2015votingより)
 
「日本乳がん学会のページサイトを見ると、リンパ郭清を省略する場合、術後治療は必須と書かれていました。術後治療とは抗がん剤を指すのでしょうか?それともホルモン剤単独もあり得るのでしょうか?」
⇒勿論、ホルモン療法単剤も「立派な」術後治療です。
 
腋窩郭清については、ここ「QandA」の場で再三解説しています。
①SLN(センチネルリンパ節)に転移を認めない場合には「腋窩郭清は省略」する
 これについては「疑問の余地」はありません。
 世界のスタンダードと考えていただいて結構です。
 もしもいまだに「日本の地方のどこかで(ひっそりと)明らかなN0症例に対して、センチネルリンパ節生検をせずに腋窩郭清をしている(一般)外科医が居るとしたら、非難されるべき時代」と言えます。
②SLNに微小転移(2mm以下)を認めた場合
 これについても「腋窩郭清は省略する」でほぼ意思統一されている。と考えて結構です。
 IBCSG 23-01(臨床試験)で934症例での「微小転移症例の非郭清と郭清群との比較」で「生存率も再発率も差がない」ことが証明されています。
 これを受けて「乳癌診療ガイドライン」でも「腋窩郭清の省略が勧められる」乳癌ガイドライン推奨グレードBとなっています。
 ♯Bとはなっていますが、内容的にはAと思います。
③SLNに肉眼的転移(>2mm)を認めた場合
 ここが、正に「議論の多い」ところです。
 ・SLN転移陽性患者の約半数は非SLN転移を有していない
 ・ACOSOG Z0011(臨床試験)では、以下の条件
  「腫瘍径5cm以下で画像上リンパ節転移を疑わない」「SLN転移2個以下」
「温存手術(術後照射を行う)」「術後薬物療法あり」を満たす場合には「郭清の有無で生存率も再発率も差がない」との結果
 ・2014のASCOガイドラインでは「照射を行う温存手術」であれば「2個までの転移」であれば、腋窩郭清を省略すべき
 これらの中で「適切な基準に基づいて腋窩郭清省略を考慮しても良い」乳癌ガイドライン推奨グレードC1となっています。
 この「適切な基準」というのが各施設で様々なのが現状です。
質問者はこれらのうちの③に相当します。
施設により基準が統一されていないのが現状と言えます。
質問者の施設では「(肉眼的)転移1個までは省略」としているようですが、他に「適切な基準」というものがあるのでしょうか?
 
「2.先生でしたら私へはどの治療方法をお勧めでしょうか?」リンパ郭清省略したこと、センチネルにマクロ転移(++)、年齢等から抗がん剤をお勧めでしょうか?また、1)抗がん剤とホルモン剤の組み合わせ2)ホルモン剤単独5年間の治療、もしくは3)他に先生の治療案がございましたらそれも含めまして、それぞれの治療方法での再発率低下はどれぐらいだと先生はお考えでしょうか?」
⇒年齢はあまり意味がありません。
 「肉眼的転移陽性」での省略も「実際のところ、照射などすれば」あまり影響は無い筈です。
 私の方針は2)ホルモン療法単剤 当然タモキシフェン5年です。 SOFT試験より「35歳未満はLH-RHagonistの併用が有効である」ことが解っているので、「質問者は36歳ですが、LH-RHagonist併用」します。
 
「それぞれの治療方法での再発率低下はどれぐらい」
⇒ホルモン療法単剤で9%
 化学療法の上乗せは5%
 
 

 

質問者様から 【質問2】

先日はお返事ありがとうございました。
大変悩んでいたので、お答えいただいたことに感謝しております。
最近、Ki67計測結果もしまして、平均16.6%(11.5%~21.8%の幅。
Hot spot5視野の平均)でした。
私情で手術後、術後治療にすぐには入れなかったのですが、間もなく術後治療を開始するところです。
もう少し先生のお知恵を貸していただければ幸いです。
●前回の回答で、再発率低下を「ホルモン療法単剤で9%、化学療法の上乗せは5%」と教えて頂き、LuminalAなので、ホルモン単独をお勧め頂きました。
抗がん剤の再発率低下の5%ありますが、これは、抗がん剤をする副作用のデメリットの方が大きいから、ホルモン単独の方が良いということでしょうか?
●5%の再発率を下げるために、抗がん剤をやる方向も考えております。
そこで以下助言の方も頂けるとありがたいです。
もし抗がん剤を使うなら先生は、どの種類をお勧めでしょうか?今のところ病院ではAC+T(各3か月づつで、計6カ月)を一番勧められており、もしくはCEF(3か月)が案に挙がっています。
他にAC(3か月)だけという案も外科の先生から挙がりました。
私はこの中なら、副作用から考えて、ACのみ(3か月)を希望していますが、これに関してはどうお考えでしょうか?
●放射線に関しては、抗がん剤をした後にした方が良いとお考えでしょうか?(しかし、全摘で再建したのでエキスパンダーが入っています)
●なお、前回の先生の回答の中にありました、
「質問者の施設では「(肉眼的)転移1個までは省略」としているようですが、他に「適切な基準」というものがあるのでしょうか?」に関してのお返事ですが、郭清自体は、うちの病院は適切な基準が設けられているわけではないです。
センチネルリンパに1-2個転移だと奥のリンパまで転移していることが非常に稀であると説明を受け、また郭清の浮腫リスクを踏まえ、郭清省略しました。
ただ、LiminalAでも、リンパ転移1個有り(センチネルリンパのみも含む)は抗がん剤をするというのがうちの病院の基本方針のようです。
●前回の回答で、それぞれの治療方法での再発率低下を「ホルモン療法単剤で9%、化学療法の上乗せは5%」と教えて頂きましたが、これは元の再発率がどれぐらいだとお考えの上でしょうか?また、解釈として、例えば、手術のみ術後のお薬をしない場合の再発率が30%ならば、ホルモン単独で、再発率は21%、抗がん剤をすると16%という理解で良いでしょうか?
お忙しいところ恐縮ですが、ご助言頂ければ幸いです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「抗がん剤の再発率低下の5%ありますが、これは、抗がん剤をする副作用のデメリットの方が大きいから、ホルモン単独の方が良いということでしょうか?」
⇒その通りです。
 
「●5%の再発率を下げるために、抗がん剤をやる方向も考えております。」
⇒そのように考えるのであれば、問題ありません。
 
「もし抗がん剤を使うなら先生は、どの種類をお勧めでしょうか?今のところ病院ではAC+T(各3か月づつで、計6カ月)を一番勧められており、もしくはCEF(3か月)が案に挙がっています。他にAC(3か月)だけという案も外科の先生から挙がりました。私はこの中なら、副作用から考えて、ACのみ(3か月)を希望していますが、これに関してはどうお考えでしょうか?」
⇒TCです。
 Luminal type(しかもA)のlow risk で 「アンスラサイクリン+タキサン(AC+T)」は過剰治療と思います。
 更に「アンスラサイクリン単剤よりもタキサン単剤の方が良い(TC > AC)」というデータがあるのに「アンスラサイクリン単剤を勧める」意味が(私には)解りません。
 
「●放射線に関しては、抗がん剤をした後にした方が良いとお考えでしょうか?(しかし、全摘で再建したのでエキスパンダーが入っています)」
⇒私は「全摘後の放射線治療」はリンパ節転移4個以上としています 推奨度A
 
「LiminalAでも、リンパ転移1個有り(センチネルリンパのみも含む)は抗がん剤をするというのがうちの病院の基本方針のようです。」
⇒St.Gallen 2015のvoting 結果は気にしていないようですね。
 
「●前回の回答で、それぞれの治療方法での再発率低下を「ホルモン療法単剤で9%、化学療法の上乗せは5%」と教えて頂きましたが、これは元の再発率がどれぐらいだとお考えの上でしょうか?また、解釈として、例えば、手術のみ術後のお薬をしない場合の再発率が30%ならば、ホルモン単独で、再発率は21%、抗がん剤をすると16%という理解で良いでしょうか?」
⇒無治療で再発率24%⇒ホルモン療法単剤で15%⇒ホルモン療法+化学療法で10%ということです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

田澤先生、お忙しい中お返事どうもありがとうございます。
間もなく術後治療を開始する予定なので、お返事が本当にありがたいです。
度重なり質問で大変申し訳ありませんが、非常に迷っておりまして、もう少しだけ教えて頂ければ幸いです。
TCをご提案頂きましたが、それに関しまして。
1.TCについて知識がなかったので、インターネットで調べ、その素人の印象としてですが、これは新しい方法で病院によってはまだやってないようなものにかんじました。
そういった面で、副作用への対応や未知の副作用などないか少し不安を感じますが、CEFやACなどの他の抗がん剤に比べて、副作用が強いということはありそうでしょうか?(AC+Tの場合、Tは他の抗がん剤と併用せず、単独で処方してることから考え、Cと併用すると強くなるのではと、イメージをしました)
2.AC単独を、病院で勧められたのは、もしかしたら私が数年の痺れが残る副作用を嫌った面があるかもしれません。
TCは痺れの副作用に関してはどうでしょうか?
3.Tはアレルギーを起こしやすいという文を見たのですが、アトピーもちなら、TCは避けた方が良いなどありそうでしょうか?
4.抗がん剤をする場合で、卵巣技能維持(妊よう性)を、できる限り残すことを考えるのであれば、AC(3ヶ月)とTC(3ヶ月)なら、どちらが良いでしょうか?アンスラサイクリン系の抗がん剤(AC)にくわえて、タキサンをおこなうと抗がん剤の影響で閉経をおこすリスクが高くなるという文章も読んだことがあり気になります。
(一応、ACでも、TCでも、卵巣保護のためにGnRhアゴニストを併用検討中です)
5.術後ですが、万が一、体内に癌細胞が残っていたとして、抗がん剤が自分には合わず、抗がん剤で癌が大きくなるようなことは怖いですが、それ以外では、数年にわたる副作用や、投与の数年後や10年後にでてくる後期副作用・障害を一番恐れています。
それを含めて考えても、
TC(3ヶ月)の方がAC(3ヶ月)よりも良さそうでしょうか?そもそもTをせず、AC(3か月)という方法は、一般的にやられているものなのでしょうか?
6.「全摘後の放射線治療」はリンパ節転移4個以上としています 
推奨度A>リンパ節(センチネルリンパ節)1個転移あり、リンパ郭清省略で、抗がん剤をした場合はどのようにお考えでしょうか?
7.抗がん剤の再発率低下の5%程度で、抗がん剤をすることの副作用のデメリットの方が大きいので、抗がん剤無も一案としてお勧めをして頂きましたが、抗がん剤をした場合のデメリットとなる副作用として、先生はどういったものを特に考えますでしょうか?
質問が多くなり恐縮です
教えて頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
「1.TCについて知識がなかったので、インターネットで調べ、その素人の印象としてですが、これは新しい方法で病院によってはまだやってないようなものにかんじました。」
⇒TC>ACがサンアントニオで衝撃を与えたのが2007であり、その後急速に「TC療法が始まり」ました。
 余程の「昔堅気の医師」でないかぎり、普通にやられています。
 
「そういった面で、副作用への対応や未知の副作用などないか少し不安を感じますが、CEFやACなどの他の抗がん剤に比べて、副作用が強いということはありそうでしょうか?」
⇒副作用の面では「タキサンが全身倦怠感や浮腫み、筋肉痛」に対し「アンスラサイクリンが吐き気」という「事なるベクトルにある」と思います。
 その「ベクトルの異なる」2者を敢えて比較すると、「TCの方が楽」なような印象です。(ステロイドをがっちり使用すれば)
 
「2.TCは痺れの副作用に関してはどうでしょうか?」
⇒短期間(4回)だけのドセタキセルなので「長期間は続かない」印象です。
 
「3.Tはアレルギーを起こしやすいという文を見たのですが、アトピーもちなら、TCは避けた方が良いなどありそうでしょうか?」
⇒薬疹は出ない人は出ないし、「ステロイドと抗アレルギー剤の併用」で問題無いと思います。
 
「4.抗がん剤をする場合で、卵巣技能維持(妊よう性)を、できる限り残すことを考えるのであれば、AC(3ヶ月)とTC(3ヶ月)なら、どちらが良いでしょうか?」
⇒エンドキサンは共通なので、あまり変わりはないでしょう。
 
「TC(3ヶ月)の方がAC(3ヶ月)よりも良さそうでしょうか?」
⇒以前コメントしたように、TC>ACが証明されているのです。
 
「そもそもTをせず、AC(3か月)という方法は、一般的にやられているものなのでしょうか?」
⇒TC>ACの時代に、一般的に行われているとは『考えたくない』です。
 
「6.「全摘後の放射線治療」はリンパ節転移4個以上としています 推奨度A>リンパ節(センチネルリンパ節)1個転移あり、リンパ郭清省略で、抗がん剤をした場合はどのようにお考えでしょうか?」
⇒「放射線照射の適応」についてですか?
 「肉眼的転移1個で郭清省略」は、あくまでも「その施設基準」にすぎません。
 その施設でのやり方(肉眼的転移1個では郭清省略するが、その場合には術後照射するなどがあれば)に従うべきでしょう。
 抗がん剤は「あくまでも全身治療」なので、この場合の「放射線照射の適応基準」とは切り離して考えるべきです。
 
「抗がん剤をした場合のデメリットとなる副作用として、先生はどういったものを特に考えますでしょうか?」
⇒特に「これ」と言ったものはありません。
 「3カ月間の全身倦怠感や脱毛、浮腫み」が許容できればデメリットとはなりません。