[管理番号:4471]
性別:女性
年齢:40歳
田澤先生
先生が本当に様々な質問にお答えしておられることで、多くの患者さんが心救われていることと思います。
私も多くのことを教えていただき非常に感謝しています。
自分の手術についてお聞きします。
センチネルリンパ節を郭清しても、生存率に影響しないとエビデンスがあることを知っています。
私は8㎜早期癌で画像所見からは、転移の可能性はないと言われています。
それでも、3本はセンチネルリンパ節を取って、2本転移があれば郭清すると言われました。
担当医に転移がないことを願うしかないと言われ不安でいっぱいです。
1番お聞きしたいことなのですが、私の腫瘍形で転移の可能性はどのくらいあるものでしょうか。
先生のコラムを読んだのですが、先生なら、最初の関所に転移があっても、次の関所に転移が無ければリンパ節を取るのは2本ですか。
それとも、3本とも取るのでしょうか。
それから、郭清とは何本リンパ節を取ることなのでしょうか。
先生が郭清手術をした場合浮腫になる可能性はどのくらいですか。
担当医は、リンパ節生検だけでも3割浮腫、郭清すれば一生気をつけたり浮腫の可能性が非常に高いと話していました。
転移も怖いですが、浮腫も同じくらい怖いです。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
まずリンパ節を「本」と数えているのは「リンパ節⇒リンパ腺⇒リンパ線(line)」という誤った認識があるのではないかとご指摘します。
「線(line)」ではなくリンパ節は(大豆のようなイメージで)「個」として数えてください。
○実際は「リンパ管」という(血管のような)「管状のもの」に連続して「節のよう
に」存在します。
「それでも、3本はセンチネルリンパ節を取って、2本転移があれば郭清する」
⇒まずは「3本」ではなく「3個」と訂正させてください。(「2本」は「2個」と…)
これは「センチネルリンパ節は2個以内」なら郭清省略しても「生存率も再発率も変わらない」という臨床試験結果(ACOSOG Z0011)に基づくものです。
「私の腫瘍形で転移の可能性はどのくらいあるものでしょうか。」
⇒「腫瘍径8mm」だけで、「それを予測」することは無理ですが…
かなり可能性は低い(10%以下)でしょう。
「先生なら、最初の関所に転移があっても、次の関所に転移が無ければリンパ節を取るのは2本ですか。それとも、3本とも取るのでしょうか。」
⇒私の基準では「1つでも肉眼的転移があれば、追加郭清」します。
追加郭清とは「ある範囲(通常レベル2まで)」のリンパ節を全部取ることです。
「それから、郭清とは何本リンパ節を取ることなのでしょうか。」
⇒何本(個ですが…)取るというのではなく、「ある範囲」を取ることを言います。
腋窩のリンパ節は「外側」~「内側」へ向けて深く入っていくに従い、「レベル1」「レベル2」「レベル3」と区別します。
レベル1とは「小胸筋(膜)の外側まで」の領域
レベル2とは「小胸筋の裏側」の領域
レベル3とは「小胸筋よりも内側」の領域
「先生が郭清手術をした場合浮腫になる可能性はどのくらいですか。」
⇒手術が原因で浮腫になるという概念は(私には)ありません。
リンパ節転移が(そもそも)「多く、そして大きい」場合には、(通常より)「深く入らざるを得ない」ことになり、この場合には(もしも術後浮腫となったとしても)仕方が無いと考えます。
♯ここでいう「深く」とは「レベル3まで」という意味では無く(レベル3まで郭清すれば浮腫になるという考えは誤りです)、「本来のリンパ節がある層よりも背中側まで手を付けた場合」となります。
「担当医は、リンパ節生検だけでも3割浮腫」
⇒これは、異常に高い数値です。
余計なリンパ管(網)を損傷しているとしか考えられません。
もしも3割もいたら(私の患者さんは)「年間100人も浮腫になる」ことになりますが…
実際には「殆ど居ない」のが現状です。
♯前述したような「本来より背中側まで深く郭清せざる得ない程のリンパ節転移」の患者さんは、全体の5%以下なのです。(それでも、それらの患者さんで実際に浮腫となるのは、更に少ないですが…)
質問者様から 【質問2】
田澤先生、先日はご回答ありがとうございました。
リンパ節は◯個と数えるのですね。
勉強不足ですいません。
胸部MRI、エコーなどでは転移の可能性はありません。
転移が見つかり郭清をしても生存率に関係ないのであれば、どうしても郭清しないといけないものなのでしょうか。
リンパ節の転移を局所的なものと考えても、郭清は必要なのですか。
田澤先生が手術をしてくださった場合、センチネルリンパ節生検やさらに郭清をしても浮腫になる可能性が低いのであれば、患者にとっては全く不利益はないのですね。
日常生活も普通にできるのですね。
なぜ、私の主治医や看護師は浮腫になる可能性を必死に伝えるのでしょうか。
センチネルリンパ節生検と温存手術後は郭清しなくても、一生術側の腕を庇って、重いものを持たないこと、日焼けをしないこと、蚊に刺されないことと言われました。
これは、田澤先生の手術とあまりに差がありませんか。
手術を任せるのが心配でたまりません。
センチネルリンパ節生検をしないとどのようなことが考えられますか。
田澤先生は、センチネルリンパ節生検の重要性をどのように受け止めておられますか。
日常生活に支障が出るのであれば、センチネルリンパ節生検を省略したいと考えています。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「リンパ節の転移を局所的なものと考えても、郭清は必要なのですか。」
⇒ご本人が、(転移したリンパ節が)「腫れてきたら、その際に摘出する」と腹を括るのならばそれでもいいのでしょう。
♯転移増大したリンパ節は「そのままでもいい」というわけではありません。
「なぜ、私の主治医や看護師は浮腫になる可能性を必死に伝えるのでしょうか。」
⇒それは私にコメントできることではありません。
「センチネルリンパ節生検をしないとどのようなことが考えられますか。」
⇒極めてシンプルな話です。
下記のどちらかとなります。
1.もしも転移が潜んでいたら…
⇒いずれ増大「局所再発(この場合は手を付けていないのだから、厳密には再発と言わないかもしれません)」するので、いずれ「摘出が必要」となります。
2.(結局)転移していなかったのであれば…
⇒何事も起こらないでしょう。
「田澤先生は、センチネルリンパ節生検の重要性をどのように受け止めておられますか。」
⇒大前提として「ガイドライン」があります。
我々(保険診療で行っている)医師には「ガイドラインを遵守する。(もしくは)
ガイドラインを患者さんへ提示する」義務と責任があります。(我々医師自身の身を守らなくてはなりません)
♯ガイドラインで「センチネルリンパ節生検が推奨されている」のに、それを「実践(もしくは提示した上での合意の上での省略であれば許容される)」しなくてはいけないのです。
そして、意外と重要なのは…
「外科医としてのプライド」があります。
簡単に言えば、「自分が手術した患者さんで(局所)再発を起こしたくない」というものです。
♯(全身の)遠隔転移再発は、ある意味(外科医の手の届かない)領域と言えますが、「局所だけは、自分の手術で何とかしたい」というものです。
自分が手術した患者さんが将来的に(センチネルリンパ節生検の有無にかかわらず)「腋窩再発」することは避けたいのです。
「日常生活に支障が出るのであれば、センチネルリンパ節生検を省略したいと考えています。」
⇒支障がでるとは思いませんが…(そのためのセンチネルリンパ節生検です)
ガイドラインを了解した上で(自己責任で)省略することは許容されると考えます。
♯但し、もしも再発したら「その際には郭清」しなくてはなりません。