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術前化学療法について

[管理番号:2582]
性別:女性
年齢:67歳
田澤先生
はじめまして。
母がわきのしこりに気がつき受診したところ乳がんと診察され、こちらのサイトにたどり着き色々勉強させていただきました。
母の治療方針について先生のご意見をお聞かせ下さい。
浸潤性乳がん
ステージ3
トリプルネガティブ
ki67=50%
乳房の腫瘍2cm程度
リンパ節転移あり
腫瘍の大きさに対してリンパ節の腫れが大きく、PETの画像で見せていただいたところ、自分で外から触れるしこりを含め4~5個、かなり上の方まで見えました。
幸い今のところ他の内臓には転移は見えないそうですが、元の腫瘍よりも他臓器への転移を押さえる方が先だとのことで、術前化学療法を始めたところです(アブラキサンを3週連続で1週休み、を4クール、FECを3クールで7ヶ月)。
その後手術と言われたのですが、
こちらのQ&Aを拝見していると、先生は術前化学療法にはあまりご賛成でないようにお見受けし、手術を7ヶ月も延ばしていいものか心配になりました。
7ヶ月待っている間の転移の可能性や、化学療法の副作用等のせいで手術不可能になることはほとんどないとは言われていますが…。
また、乳房自体は現段階では温存できると思うと言われました。
管理番号51「トモセラピー」の方のように、リンパ節への転移が進んでいる場合には先生も術前化学療法を勧められるのでしょうか。
また、アブラキサンについても、主治医からはパクリタキセルと同様の効き目で1週間ごとに分けて投与することで更に副作用が少なくなり、結果多くの薬を入れられることが多いとの話だったのですが、こちらのサイトではアブラキサンは再発がんへの適応と拝見しました。
お忙しい中恐縮ですが、不安が多く問い合わせさせていただきました。
どうぞよろしくお願いします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
cT1c, cN2, cStageⅢA, luminalB(HER2陽性)ですね。
「元の腫瘍よりも他臓器への転移を押さえる方が先だとのことで、術前化学療法を始めたところ」
⇒これは「術前化学療法を勧める理由としては正しくありません」
 術前化学療法の目的は「小さくして温存」です。
 ○このように「全身に散らばっている(かもしれない)見えない癌細胞を先にたたく」という、『適当な理由』をつけて、無闇に術前化学療法を行う事は厳に慎むべきです。
 実際には化学療法は「術前に行っても、術後に行っても」予後は同じです。
 ○抗がん剤が効かない間に(手術をしないことで)「長期間、腫瘍やリンパ節を体に置いておく」ことが「災いする」事もあるのです。
「(アブラキサンを3週連続で1週休み、を4クール、FECを3クールで7ヶ月)。」
⇒これは、完全に「適応外使用」です。
 添付文章上は「3週間に1回の投与法」しか「乳癌では認められていません」
 
「こちらのQ&Aを拝見していると、先生は術前化学療法にはあまりご賛成でないようにお見受け」
⇒これは誤解です。
 私は「術前化学療法の正しい理由」である、「小さくして温存」しか認めないということです。
 実際に、その目的で術前化学療法をしている患者さんは当院にもいます。
 ○私が「声を大にして」いいたいのは、
 ①「見えない癌細胞を先に叩く」とか、②(術前術後に使用できる薬剤は決まっているのに)「効く抗ガン剤が解るから」などという誤った理由をつけて「術前化学療法を勧める」医師が多い事に辟易しているのです。
 無闇やたらと「術前化学療法」をすることで、「本当に必要な郭清手技」ができない乳腺外科医が増えている現状に辟易しているのです。(リンパ節は手術できちんと郭清すればいいのです)
 
「7ヶ月待っている間の転移の可能性や、化学療法の副作用等のせいで手術不可能になることはほとんどないとは言われていますが…。」
⇒確率は低くても「抗ガン剤不応により、手術不能に追い込まれるケース」は存在するのです。
 
「管理番号51「トモセラピー」の方のように、リンパ節への転移が進んでいる場合には先生も術前化学療法を勧められるのでしょうか。」
⇒勧めません。
 私が術前化学療法を勧めるケースは「小さくして温存」だけです。
 リンパ節は(術前化学療法をしたとしても)「手術の際には、その範囲まで郭清しなくてはならない」のです。術前化学療法をする理由にはなりません。
 ○あとは、初診の時点で「手術不能な状態(皮膚に広範囲に拡がっている。 リンパ節が大血管に浸潤している)」の場合には、「術前化学療法」しか選択肢はありません。
「アブラキサンについても、主治医からはパクリタキセルと同様の効き目で1週間ごとに分けて投与することで更に副作用が少なくなり、結果多くの薬を入れられることが多いとの話だったのですが、こちらのサイトではアブラキサンは再発がんへの適応と拝見しました。」
⇒その通りです。
 適応外診療です。
 アブラキサンではなく、普通に「パクリタキセル」を使用すべきです。
☆重要なことは、「抗ガン剤が必ず効果がある」という前提は誤りだということです。
 質問者のようにluminalB(HER2陽性)所謂「トリプルポジティブ」は抗ガン剤が効く可能性が高いグループであることは否定しません。
 ただし、「一歩誤れば、手術不能」となってしまい、一度「手術不能」となると「根治の可能性が断たれてしまう」ことが「確率的には少数ながら存在する」ことを、良く理解しておくことです。
 術前化学療法は(一歩誤れば、手術不能としてしまう)「リスクのある治療」であることを常に意識し、「もしもの際には、手遅れにならないうちに、迅速に手術へ施行する」準備を常に怠らない姿勢が必要なのです。