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術前薬物療法について

[管理番号:2361]
性別:女性
年齢:57歳
はじめまして、母が乳がんと診断されましてとても不安なので質問させてください。
母は2014年に会社の集団検診で乳がんは見つからなかったのですが、今年の1月に地元のクリニックでマンモグラフィーとエコー、針生検の結果1.3から1.5センチの乳がんだと診断され手術のできる大きな病院を紹介されました。
先日太い針で生検し、肺活量の検査と血液検査を行い来週またPETCTとMRIの検査の予定が入っています。
質問なのですが、
1,最初のクリニックで術前薬物療法は必要ないだろうと言われていたのですが紹介先の主治医は、もちろん手術はするが薬物療法が最近の主流で術前薬物療法をするかもしれないと言われました。
先生によって意見が違い、少し混乱しています。
検査結果によっては2センチ以下の癌でも術前薬物療法は必要なのでしょうか。
2,2014年の検診のときに見逃された可能性と進行の早い癌の可能性があると言われたのですが、進行の早い癌の場合予後が悪かったりするのでしょうか。
また、手術までの待機の間に転移や癌が大きくなったりすることはないのでしょうか。
3,また、ステージIIIの癌だと癌の大きさというより癒着しているかどうか転移しているかどうか、というのが調べて分かったのですが手術する前の段階の、エコーなどで分かったりするのでしょうか。
また癌が1.5センチでもステージIII以上の確率はどれくらいあるのでしょうか。
4,また主治医からの説明がさ来週あるのですがその時に聞いておいたほうが良いことはありますか。
沢山質問してしまってすみません。
よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
「先日太い針で生検し、肺活量の検査と血液検査を行い来週またPETCTとMRIの検査の予定が入っています。」
⇒PETは無駄な検査です。
 無駄どころか有害です。 
 ♯ トップページの 今週のコラム 6回目 「無駄どころか有害なのです」 を参照してください。
「1,最初のクリニックで術前薬物療法は必要ないだろうと言われていたのですが紹介先の主治医は、もちろん手術はするが薬物療法が最近の主流で術前薬物療法をするかもしれないと言われました。」
⇒「紹介先の主治医」が誤っています。
 何でもかんでも「術前化学療法しよう」というタイプの医師なのでしょう。
 「術前化学療法」とは本来は(腫瘍が大きくて、しかも患者さんが温存術を望む際に)「小さくして温存」という目的でのみ行われるべきなのです。
 
「先生によって意見が違い」
⇒何でもかんでも(1.5cm程度でも)PETをするような病院の医師の意見は(私には)信頼できません。
 
「検査結果によっては2センチ以下の癌でも術前薬物療法は必要なのでしょうか。」
⇒不要です。
 術前化学療法の適応は「小さくして温存」のみなのです。
 それを「術前に行えば、効果が解る」とか「全身に散らばっているかもしれない見えない癌を叩く」みたいな『いい加減な理由』をつけて曲解しているのです。
 
「2,2014年の検診のときに見逃された可能性と進行の早い癌の可能性があると言われたのですが、進行の早い癌の場合予後が悪かったりするのでしょうか。」
⇒「2014年の検診」からは1年以上経っていますよね?
 それであれば「1.5cm」で見つかっても、特に「進行が早い」など考える必要は全くありません。
 
「また、手術までの待機の間に転移や癌が大きくなったりすることはないのでしょうか。」
⇒大丈夫です。
 
「手術する前の段階の、エコーなどで分かったりするのでしょうか。」
⇒エコーで「腫瘍径とリンパ節転移の(画像診断上の)有無」は解ります。
 
「また癌が1.5センチでもステージIII以上の確率はどれくらいあるのでしょうか。」
⇒殆どありません。
 余計な心配はしないようにしましょう。
 
「4,また主治医からの説明がさ来週あるのですがその時に聞いておいたほうが良いことはありますか。」
⇒現時点(1.5cm)では、「そのまま温存できる」ことを確認した上で、「小さくして温存」が唯一の術前化学療法の適応であることを確認してください。
 
 担当医の好みで「正しい診療がされない」ことは、あってはならないと思います。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
お久しぶりです。
前回、お忙しいなか先生の貴重なお時間を頂いてご回答いただきまして
ありがとうございました。
大変心強かったです。
質問させて頂いた日から、先生のQ&Aやコラムを読んで勉強させていた
だいております。
先日、病理検査の結果が出たのですがいくつかまた田澤先生に質問致し
たく、よろしければご回答頂けるとありがたいです。
病理検査の結果ですが、
所見
adequate maligrant
断片化した材料ですが、充実性に浸潤増殖する異型上皮を認めます
invasive
ductal carcinomaの像です。
取り扱い規約に基づく組織型はsolid-
tubular carcinomaを推定します。
microscopic grading
tubular formation 3
nuclear plemorphism 2
mitotic counting 3
Grade 3
免疫組織化学(J-scopeによる評価)
ER.>90% score 3b
PgR.0% score 0
HER2 score 0
MIB(ki67)53.7%
MRIではコロッとした形でだいたい1.5cmの大きさでした。
PETで見る限りだとリンパ節転移や遠位転移はなさそうとのことでした。
主治医の先生からは増殖能力が非常に高いルミナールBタイプの癌であり手術を先行し、センチネルリンパ節生検の検査結果でリンパ節への転移がない場合は
TC療法×4→ホルモン療法+放射線照射
リンパ節転移がある場合は
腋下リンパ節郭清→ddEc×4→weekly paclitaxel×12→ホルモン療法+放射線照射
というお話がありました。
田澤先生から手術先行というアドバイスをいただいていたので、主治医の先生も手術先行の考えで ほっとしました。
田澤先生に質問させていただきたいことは、
①この病理検査では予後はあまりよくないと予想されますか?増殖能力
が高く核グレード3で顔つきが悪いと言われたのですが・・・
?抗ガン剤を使用するのが不安なのですが、田澤先生ならどういった治療をされるでしょうか。
④手術まで1ヶ月あいてしまうのですが、大丈夫でしょうか?増殖能力が高いということで不安です。
田澤先生のご意見をどうかお聞かせいただければと思います。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
cT1c(15mm), cN0, luminal B(Ki67=53.7%), NG3
「PETで見る限りだとリンパ節転移や遠位転移はなさそうとのことでした。」
⇒前回もコメントしましたが…
 「1.5cmの癌」で「遠隔転移の可能性がある」と本気で思って「PETをオーダー」しているのでしょうか?
 無駄な検査は無駄な時間とお金と、医療被曝をもたらすだけです。
 もう少し学んで欲しいと思います。
 
「主治医の先生からは増殖能力が非常に高いルミナールBタイプの癌」
⇒ルミナールBですが、「増殖能力が非常に高い」と言うほどではありません。(明らかに、考え過ぎです)
 
「リンパ節への転移がない場合はTC療法×4→ホルモン療法+放射線照射」
⇒これには同意しますが、
 
「リンパ節転移がある場合は腋下リンパ節郭清→ddEc×4→weekly paclitaxel×12→ホルモン療法+放射線照射」
⇒dose desnse までは「やり過ぎ」でしょう。
 しかも「リンパ節転移1個」だけでも行うとしたら「過剰」です。
 
「①この病理検査では予後はあまりよくないと予想されますか?増殖能力が高く核グレード3で顔つきが悪いと言われたのですが・・・」
⇒「考え過ぎ」です。
 最も大事なことはステージ(cT1c, cN0)です。
 しかもルミナールタイプなのに「増殖能力が高く核グレード3で顔つきが悪い」などと脅かす必要がどこにあるのか?全く理解できません。
 
「?抗ガン剤を使用するのが不安なのですが、田澤先生ならどういった治療をされるでしょうか。」
⇒ルミナールBだから「抗がん剤は勧めます」
 ただ、基本は「TC」です。
 「リンパ節転移多数」などであれば、EC(dose denseではありません)+DTXとします。
 
「④手術まで1ヶ月あいてしまうのですが、大丈夫でしょうか?増殖能力が高いということで不安です」
⇒大丈夫です。
 「増殖能力が高い」という「変な呪縛」から放たれるべきです。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

田澤先生
お忙しいなか、前回も質問に答えて下さりありがとうございます。
いつも先生のQ&Aを拝見して母と一緒に勇気をもらっています。
先月乳がんの乳房温存治療の手術を行い、今は病理結果待ちです。
少し不安なことがあるので、質問させていただければと思います。
乳房温存治療で、センチネルリンパ節には転移はなく、
乳がんから周りの三箇所から2センチずつ切り取って病理に出したところ
一箇所怪しいところがあったのでプラス1センチ切除したそうです。
この場合は、乳がんの大きさが追加で切り取った部分も合わせると、
2センチ以上と大きくなるため、ステージは2になるのでしょうか?
ステージ2になった場合でもTC療法でいいのでしょうか?
お忙しいところ、すみませんがよろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答3】

こんにちは。田澤です。
「一箇所怪しいところがあったのでプラス1センチ切除したそうです。この場合は、
乳がんの大きさが追加で切り取った部分も合わせると、2センチ以上と大きくなるため、ステージは2になるのでしょうか?」
⇒これは解りません。
 断端を追加したのは「非浸潤癌の可能性が高い」とすれば、(病理学的)「浸潤径は変わらない」可能性も十分にあります。
 
「ステージ2になった場合でもTC療法でいいのでしょうか?」
⇒センチネルリンパ節が陰性だったのだから、全く問題ありません。
 
 

 

質問者様から 【質問4】

田澤先生 こんにちは
先日、母の病理結果が出たので治療方針について質問させてください。
浸潤径 1.5×1.1
波及度f ly0 v0 EIC-
粗大な索状構造充実性胞巣を形成して浸潤増殖する異型上皮を認めます。
invasive ductal carcinomaと考えます。
規約分類ではsolid tubular carcinomaと考えます。
切断された材料の中には浸潤部から非連続的に腫瘍の乳管内進展が見られます。
切断面に腫瘍の露出は認めません。
microscopic grading
tubular formation 3
nuclear plemorphism 2
mitotic counting 3
grade Ⅲ
免疫組織化学
ER>90% score3b
pgr 0% score0
HER2 score 2 fishによる検索を行います
MIB-1 26.5%
上記のような結果になりました。
術前の生検では、HER2ではないとのことだったので少し驚いております。
fishの結果次第でまた治療方針が変わってしまうのですが、
HER2陰性ならTC療法4回して放射線治療、ホルモン剤
HER2陽性ならddec4回→weeklypaclitaxel12回とハーセプチン→放射線
治療、ホルモン剤という治療方針で、主治医からはHER2陽性のときのddecはスキップしてもいいかもしれないと言われました。
田澤先生ならHER2陽性だった場合どのような治療方針をされますでしょうか。
母はあまり体力がないので、もししなくてもいいならddecをスキップしたいのですが、ddecをスキップしてweeklypaclitaxelとハーセプチン、ホルモン剤、放射線治療のみで再発率、生存率はどれくらい変わるのでしょうか。
やはりHER2陽性ならddecをした方がよいのでしょうか。
また、この病理結果で母の再発率と10年健存率はどれくらいになるのでしょうか。
adjuvant onlineではどうなるでしょうか。
お忙しいところ、大変申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
 

田澤先生から 【回答4】

こんにちは。田澤です。
「術前の生検では、HER2ではないとのことだったので少し驚いております。」
⇒それ程珍しくはありません。
 HER2 2+の75%はFISH陰性となります。
 
「HER2陰性ならTC療法4回して放射線治療、ホルモン剤」
⇒ルミナールAかBのグレーゾーンなので「化学療法が必要なのか?」検討すべきですが…
 (もしも化学療法を選択するとすれば)レジメンとしてTCは妥当だとは思います。
 
「HER2陽性ならddec4回→weeklypaclitaxel12回とハーセプチン→放射線治療、ホルモン剤」
⇒ここで、いきなりdose denseが出てくる事に「大変な違和感」があります。
 「ddecはスキップ」すべきだと思います。
 
「田澤先生ならHER2陽性だった場合どのような治療方針をされますでしょうか。」
⇒TC+HERもしくはweekly PTX+HERです。(後者は質問者がdose dense ECをスキップしたレジメンとなります)
 
「ddecをスキップしてweeklypaclitaxelとハーセプチン、ホルモン剤、放射線治療のみで再発率、生存率はどれくらい変わるのでしょうか。」
⇒「アンスラサイクリンレジメン(スキップしない方)」と「非アンスラサイクリンレジメン(スキップした方)」の直接比較はありません。
 
「やはりHER2陽性ならddecをした方がよいのでしょうか。」
⇒現在では質問者のような低リスクには「非アンスラサイクリンレジメンが推奨される」ようになっています。
 しかもdose denseなど全く無用です。
 
「また、この病理結果で母の再発率と10年健存率はどれくらいになるのでしょうか。
adjuvant onlineではどうなるでしょうか。」
⇒①HER2陰性の場合
 担当医の言う様にTCをすると 10年再発率13%
 ホルモン療法単独だと     10年再発率16%
 ②HER2陽性の場合
 抗HER2療法をすることで 3年再発率 6%となります。(術前術後療法として抗HER2療法を行った場合の長期予後は、現時点では不明です)
 
 

 

質問者様から 【質問5】

田澤先生、こんちには
いつもお世話になっております。
FISH検査の結果、2.6と出まして、HER2陽性でした。
なので、luminalB HER2陽性ということになりますよね。
そこで、いくつかまた質問をさせてください。
①HER2 2でFISH検査2.6で陽性という結果は、HER2強陽性の方よりハーセプチンが効きにくかったりするのでしょうか。
また、ルミナールタイプだと抗がん剤も効きにくかったりするのでしょうか。
②治療はウィークリーパクリタキセル+ハーセプチン、ホルモン剤放射線になりました。
パクリタキセルは末梢神経障害が起きて治るまでに数年かかると聞いたのですが、歩けなくなるほど悩まされる方は結構いるのでしょうか。
母は体力がないので、副作用が心配です。
③HER2陽性はハーセプチンが誕生してから予後が劇的によくなったとよく目にするのですが、完治するまでには至らない、と書いてあるサイトも目にしました。
抗HER2療法をしても完治することは望めないのでしょうか。
luminalAなどの他の乳がんのタイプと比べてどれくらい再発率が違うのでしょうか。
④予後はステージによると思うのですが、母はステージⅠでいいのでしょうか。
⑤HER2陽性タイプとトリプルポジティブではまた予後は変わってくるのでしょうか。
⑥前回、田澤先生が抗HER2療法をして3年再発率は6%と教えて下さったのですが、それは抗HER2療法ののちにホルモン治療をして6%なのでしょうか。
沢山質問をしてしまってすみません。
グレードも3だったのでHER2陽性かもしれないと心の準備はしていたのですが、実際HER2陽性だと聞くとやはりショックで不安でたまりません。
よろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答5】

こんにちは。田澤です。
「FISH検査の結果、2.6と出まして、HER2陽性でした。なので、luminalB HER2陽性ということになりますよね。」
⇒そうです。
 抗HER2療法は再発率を半分にします。
 
「①HER2 2でFISH検査2.6で陽性という結果は、HER2強陽性の方よりハーセプチンが効きにくかったりするのでしょうか。」
「また、ルミナールタイプだと抗がん剤も効きにくかったりするのでしょうか。」
⇒無関係です。
 
「②治療はウィークリーパクリタキセル+ハーセプチン、ホルモン剤放射線になりました。パクリタキセルは末梢神経障害が起きて治るまでに数年かかると聞いたのですが、歩けなくなるほど悩まされる方は結構いるのでしょうか。」
⇒痺れは「半年」くらいですね。
 (3週間に1回投与の)ドセタキセルの場合には「副作用の極期には足の裏のしもやけの様な痛みで歩けない」と言う方はいらっしゃいますが、(毎週投与の)「パクリタキセルで歩けない」と聞いた事はありません。
 Weekly PTXは最も副作用の少ない抗ガン剤であることは間違いありません。
 
「③HER2陽性はハーセプチンが誕生してから予後が劇的によくなったとよく目にするのですが、完治するまでには至らない、と書いてあるサイトも目にしました。」
⇒くだらないサイトを見るのは今すぐ止めましょう(それか、それらを見る事を選択するのであれば、このサイトは見ない様にするか、どちらかにしましょう)
 
「抗HER2療法をしても完治することは望めないのでしょうか。」
⇒本気で「そう思って」いますか?
 
 「HER2陽性乳癌の人が100%再発する」と本気で思っているのですか?
 
「luminalAなどの他の乳がんのタイプと比べてどれくらい再発率が違うのでしょうか。」
⇒抗HER2療法を行う事で「HER2陽性乳癌は最も予後の良いサブタイプ」となりました。
 
「④予後はステージによると思うのですが、母はステージⅠでいいのでしょうか。」
⇒その通りです。
 
「⑤HER2陽性タイプとトリプルポジティブではまた予後は変わってくるのでしょうか。」
⇒ホルモン療法が効く分、有利だと思います。
 
「⑥前回、田澤先生が抗HER2療法をして3年再発率は6%と教えて下さったのですが、それは抗HER2療法ののちにホルモン治療をして6%なのでしょうか。」
⇒その数字は「ホルモン療法は度外視」した数字です。
 HER2陽性乳癌に対して「抗HER2療法を術後補助療法として行った場合」のデータはまだ(年が浅く)それ程無いので、そこまで細かく見る事はできないのです。