[管理番号:2112]
性別:女性
年齢:31歳
江戸川病院 乳腺外科
田澤 篤 先生 御侍史
東京からは遠く北の地、○○にございます、○○○○○○・医師の○○と申します。
このような場で、突然のご連絡を差し上げる非礼をお許し下さい。
この度、私の婚約者が若年性乳癌と診断され、ファーストオピニオンとセカンドオピニオンとで一部の治療方針が異なってしまい、私自身の専門とは懸け離れた専門的問題であるために判断しがたく、また、当院や知り合いには乳腺外科医はいないた
め、途方に暮れていることから、ご無礼は承知の上でご相談させて頂きたく、ご連絡させて頂きました。
本来であれば、サードオピニオンとして直接貴院外来に参るべき所とは存じますが、何分、地理的・時間的制約が多いため、非常に長文となってしまいますが、ご容赦頂けますと幸甚です。
症例は31歳女性、25歳時子宮ポリープ手術以外は生来健康な当院の病棟看護師です。
2013年健診Xpで異常を指摘され、8月に当院でCTを撮像し、異常なしとされています(私と放射線科医で改めて確認しましたが、異常はありませんでした)。
2014年春頃より左腋窩痛を自覚し、○○駅前○○乳腺外科クリニックを受診し、マンモグラフィ、乳房・腋窩超音波検査では異常を指摘されませんでした。
本年12月(中旬)日夕に左胸側の下着(ブラジャー)に血液が付着していたことから乳頭異常分泌に気付きました。
月経中でしたが、左胸乳頭から右上方向にしこりが感じられたこともあり、12月(下旬)日に○○乳腺外科クリニック(副院長・○○先生)を受診し同日にマンモグラフィ、乳房・腋窩エコー、穿刺細胞診を施行されました
マンモグラフィでは右はびまん性~1ヶ所のみ3ヶ程度の集簇性、左は線状~区域性で、エコーでは右は乳頭すぐ右側に辺縁不整で不明瞭な小腫瘤影、左は乳頭すぐ右に1.8mm大、そのすぐ右上に1.8mm大の腫瘤影、乳頭から少し離れた左上にも小腫瘤影を認め、腋窩も彼女曰く「かなり時間をかけて検査されたものの何もないと言われた」とのことです。
細胞診では左はClass 3b(札医大方式だそうで、グレーゾーンの内、かなり悪性に近いもの)、右は当初若年で癌は考えにくいだろうと思ってClかなり悪性に近いもの)、右は当初若年で癌は考えにくいだろうと思ってClass 2としたが、左がClass 3bだったのでもう一度詳しく見てClass 3a(正常ではない)にしたと仰っていました。
翌22日に左乳房造影MRIを施行され、MRIはエコーの結果とほぼ同じで、左乳頭の右側とその右上の病変はおそらく繋がっているものと思われ、マンモグラフィ、細胞診の所見と合わせ、悪性が疑わしいとのことでコア針生検を施行されました。
右は病変が小さ過ぎるために、コア針生検は困難とのことで、仮に良性であった場合に乳腺炎が起こる可能性が高いとICされた上で、後日(2016年1月(上旬)日)に組織診が予定されました。
左乳頭右の病変で5ヶ所から生検され、非浸潤性乳管癌の疑いと診断されました。
病理結果は以下の通りです。
【病理組織学的診断】
ⅰ)Ductal carcinoma with infectious change of left breast
ⅱ)See comments
【組織所見】
14G 5本
Tumorは5本中2本に認められます。
Tumor cellは中型で、主にDCISからなります。
浸潤の有無については、強い炎症が背景にあるため不明確です。
主治医からは、針生検の結果は非浸潤であるが、炎症性背景が強いために不明確であり、一般には比較的広範なDCISもあるが、生検範囲に明らかな浸潤がなかっただけで、浸潤性乳管癌である可能性もある。
いずれにせよ、手術が勧められるが、繋がっていると思われる乳頭右~右上の病変はどちらも悪性と思われ、離れた部位にある
乳頭からやや離れた左上の病変も悪性が考えられ、乳房全摘+再建術の適応。
仮に組織診の結果が右も悪性であった場合は、転移の可能性はかなり低く、primaryの両側多発乳癌と考えられ、若年性乳癌であることも考えると、手技的には乳房温存手術も可能であるが、残存乳房に新たな病変が出現する可能性が高く、そちらも全摘した方が良いのではないか、その場合は両側乳房全摘+インプラントによる一期的乳房再建術(皮弁移植でも良いが、両側の場合は持ってくる組織の量が多く、術後の引き攣れた感じや整容性も悪く、インプラントの方が良いのでは。
一期的再建では、人工物を入れるため、化学療法や放射線療法での感染症リスクがあるが、おそらくは大丈夫だろう)、と勧められました。
また、一般に、DCIS(Stage 0)では5生率98%、浸潤性乳管癌(Stage 1)では同95%で、本来、真にDCISであれば切除し切れていれば5生率は100%の筈であるが、乳癌では早期から微小転移を来す全身病であり、亡くなる2%は病理でも捉えられなかった浸潤・転移を認めたことによるものと説明されました。
その上で、内分泌療法を勧められ、病理組織次第で化学療法も検討するとのことでした。
挙児希望があるため、凍結卵子等の生殖補助医療(ART)を行っている婦人科の早急な受診を勧められ、
本当であればホルモン療法を早めに始めたい所ではあるが、ARTが終了するまでは行えないとのことで、まずは手術を先行することとなりました。
○○では非常に人気のある病院で、患者数も多く、手術は2016年2月(上旬)日まで予定を入れられないとのことで、私自身が○○医大卒の医師であること、主治医が○○大卒で後輩が医大で診療を行っていることから、医大等、他の病院に問い合わせることは出来るとのことでしたが、まずは上記日程で仮予約を入れて頂きました。
しかしながら、私自身が医師であるため、ガイドラインやその他の書籍に目を通した所、治療開始までどれだけ待てるかという明確なevidenceはないものの「15歳~39歳までの若年性乳癌患者において、診断から治療開始までの期間が6週を超
えると有意に予後不良」との報告(Smith EC et al. JAMA Surg. 2013;148(6):516-523)があるとの記載があり、2月(上旬)日=診断から8週後の手術ではやや遅いのではないかという不安が生じました。
主治医にその点について問い合わせた所、確かにそのような報告はあるが確立したevidenceはなく一般にはdoubling timeはそれ程早くないため、8週後でも大丈夫だとは思うが、若年性乳癌で、1年前には認めなかったものが比較的広範に出現していることからも考えると心配は解るとのこと、理想的には明日にでも手術してあげたい所ではあるが、そういう訳にはいかないからということで、医大に問い合わせて頂き、医大での1月(下旬)日の手術を組んで頂けました。
かなり無理を言ってお引き受け頂いたことから、両院、両先生には非常に感謝しているのですが、その際、セカンドオピニオン的にお話を伺った医大の先生(第一外科・○○先生)のお話では、左は手術が必要であるが、非浸潤性乳管癌であれば取り切れれば普通は経過観察で良い=内分泌療法・化学療法は不要、右も組織診ではなくまずは針生検を試みたい、仮に右も悪性であったとしても乳房温存できるのではないか、と言われました。
しかしながら、医大初診時に先生が自ら行った乳房エコーでは、右の病変の描出が出来ず、本当に針生検が出来るのか、疑問が残りました。
検査当日はより高性能のエコーを使用するとして、1月(上旬)日に両側乳房造影エコー、1月(中旬)日に針生検が予約されました。
また、再建方式についても、医大の形成外科の先生は皮弁移植が得意とのことで、再建方法について1月(上旬)日に形成外科受診し、相談することとなりました(当院の形成外科医師が○医大からの派遣で、同日の外来も担当していたことから、予め相談した所、医大でのインプラントは少なく、これまで数件程度であること、しかしながら、若年であり、インプラントが勧められることをお聞きしております)。
両院・両先生共に早めの手術が望ましいということは一致しており、このまま1月(下旬)日に左乳房の手術だけでも医大でお願いしようとは考えておりますが、ファーストオピニオンとセカンドオピニオンで判断が分かれた問題、すなわち、①乳房全摘出後
の病理でも非浸潤性乳管癌であった場合、内分泌療法や化学療法は行った方が良いのか、②仮に右も悪性だった場合、全摘にすべきか温存にすべきか、更に言えば、③エコーでの描出が困難であっても、針生検をすべきか、最初から組織診をお願いすべきか、④皮弁移植とすべきかインプラントとすべきかについて、比較的進行が早いと思われる両側多発が疑われる若年性乳癌の上記経過を踏まえて頂いた上で、先生のご意見を仰ぎたい所存です。
なお、組織学的グレードや核グレード、intrinsic subtypeの結果はまだ出ておらず(あるいは、まだ教えてもらっておらず)、PET/CTも撮像はしましたが結果報告は未受診です。
ご多忙の所、このような長文なご相談を、しかも突然に送らせて頂くというご無礼で大変恐縮ですが、ご回答頂けますと幸甚です。
ご高配の程、何卒宜しくお願い申し上げます。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
メール拝見しました。
婚約者の事であり、大変ご心配なことと思います。
ただ、幸い早期(仮に非浸潤癌でないとしても微小浸潤など)と考えられますので「早期で見つかったことを幸い」と考え、前向きに行きましょう。
私が、このメールを見て一番最初に感じたのは
・血性分泌なのに、「乳管造影」していない。
・マンモグラフィー所見で「左は線状~区域性」とあるのは「石灰化」のことですよね。
○私が、通常に診療すれば、
「拡がり診断」としては「乳管造影して、この乳管系の拡がりを把握」、更に「石灰化の拡がりと一致していることを確認」
その上で、「石灰化に対するステレオガイド下マンモトーム生検」施行し、組織診断を得る。
○「乳頭右~右上の病変はどちらも悪性と思われ、離れた部位にある乳頭からやや離れた左上の病変も悪性が考えられ、乳房全摘+再建術の適応」とありますが、そもそも「多発乳癌と捉えている」ことに無理があると思います。
質問者が医師であることより、詳細しますが、
「多発乳癌は乳房温存術の適応ではない」⇒これは「正しい」のですが、これは「あくまでも、全く異なる乳管系での多発の場合」です。
今回は(実際に診療している訳ではないので、想像の域ですが、「血性乳頭分泌」と「線状・区域性石灰化」とエコー上の「腫瘍の位置関係」からは)『非浸潤癌として、乳管内を進展し、複数個所でマスを形成』しているにすぎないと見えています。
つまり、「この乳管系をマージンをつけた乳房温存術」を私は(自分の患者さんであれば)提案します。
★ただ、「非浸潤癌であれば、乳房全摘をすることで根治(乳癌では早期から微小転移を来す全身病であり、亡くなる2%は病理でも捉えられなかった浸潤・転移を認めたことによるものというスタンスには賛成しません)である」ことを重視し、「乳房全摘を選択すること」を否定するつもりはありません。
『(本当の「乳房内多発」ではない』とすれば、担当医らの「乳房温存の適応ではないという姿勢」に?を持つわけです。
回答
「①乳房全摘出後の病理でも非浸潤性乳管癌であった場合、内分泌療法や化学療法は行った方が良いのか、」
⇒不要です。
○化学療法
「化学療法」は「非浸潤性乳管癌」では全く適応はありません。(術式にかかわらず)
○内分泌療法
「温存術の場合」には適応はあります。 (ただし効果は極めて限定的なので「効果」と「副作用」のバランスからは私は行いません)
「全摘の場合」には「根治となるので全く不要」です。
「②仮に右も悪性だった場合、全摘にすべきか温存にすべきか、」
⇒正直なところ、「悪性と決めつける必要は無い」と思います。
(もしも、悪性の場合でも)「温存」でいいと思います。
まずは「31歳での非浸潤癌」ですが、これを「若年性乳癌」として「遺伝性乳癌と結び付ける必要」を私はあまり感じません。
「右は右」として「独立して対処」するべきです。
「③エコーでの描出が困難であっても、針生検をすべきか、最初から組織診をお願いすべきか」
⇒「針生検でいい」と思います。
「小さすぎて針生検できない」なんて「とんでもない話」だし、もしも「超音波で同定しずらい病変」であれば尚更「切開生検」すべきではありません。
「④皮弁移植とすべきかインプラントとすべきかについて、比較的進行が早いと思われる両側多発が疑われる若年性乳癌の上記経過を踏まえ」
⇒まず、「進行が早い」という点は「割り引いて考える」必要があります。
「乳管内を(浸潤することなく)比較的に広範囲に拡がる」状況は「CTでもわからない」し、「石灰化を起こさない」限り発見できない状態です。
おそらく、「乳管内を有る程度広範囲に進展した後に、(一斉に)壊死型石灰化及び腫瘤形成」したものであり、「ゼロから急激に拡がった」という考え方は不要です。
⇒上記のように、「乳房切除が本当に必要か?」という問題はありますが、(これから、妊娠出産授乳を超えて乳房の大きさが変化することを考えると)「インプラント」がいいのではないでしょうか?
質問者様から 【質問2】
○○○○○センター神経内科 ○○です。
先日は婚約者のことで、丁寧なご回答を頂き、誠にありがとうございました。
早めの報告をと思いながら、結果が出揃わなければ仮定でのお話は却って失礼かと思い、お返事しておりませんでした。
お返事が遅れまして、大変失礼致しました。
あの質問の後、本当は春頃の入籍を考えていたのですが、これから色々大変になるだろうことが容易に予想され、婚約者の立場よりも夫の方が支えられることも多いだろうと考え、ご質問の後、入籍しました。
ですので、以降は婚約者→妻と表記させて頂きます。
経過をまとめた分、長文になってしまいますが、ご容赦下さい。
結論から申しますと、妻は両側浸潤性乳管癌Stage Ⅰ、BRCA2陽性のHBOCでした。
父が膵癌で死亡しており、遺伝性膵癌症候群にも入るようです。
最初に、前回の質問での記載漏れについて、主治医の先生の名誉のために記載しておきますが、田澤先生が疑問を持たれた乳管造影についても、初診時に行って頂いておりました。
記載が漏れ、本来は不要の余計な心配をお掛けしてしまい、大変申し訳ありません。
また、乳房温存術の可能性についてですが、左は後で述べますように腫瘍の範囲がかなり広範で残す部位が殆どないこと、また、左右共に乳頭直下の病変で、将来の乳腺炎の可能性等を説明されました。
右については温存も可能とのお話もされましたが、将来の再発リスクを考えて、また、片側は全摘出であり、美容上も温存より両側インプラント再建の方が望ましいだろうとの形成外科の先生のお話もあり、両側乳房切除術を選択致しました。
結果的には、BRCA2が判明し、残存乳腺組織からの再発リスクが通常よりも高いことが判明したことから、乳房全摘を選択して良かったと安堵しております。
あの後、医大で行って頂いた針生検で左だけでなく右も非浸潤性乳管癌の所見となり、1月(下旬)日に両側乳房全摘術+センチネルリンパ節生検を施行されました。
手術直前に病理より追加報告があり、「主にDCISからなる」とされていた針生検で「ただし浸潤と思われる小部分」があり免疫染色を施行されていたことから、advanced(一断面の横断で評価)ではなく、複数の詳細な切片(左は61断面)を作成して頂いた所、両側共に浸潤部があり、浸潤性乳管癌の診断となりました。
以下、病理レポートです。
1. Invasive ductal carcinoma, see comment, papillotubular carcinoma with predominant intraductal component, left breast, resection 2. No metastasis of carcinoma, lymph node(0/2),
sentinel lymph node, resection
左乳腺切除検体。
添付図のように標本を作製し検討を行いました(61切片作製)。
肉眼的に腫瘍の範囲は明らかではありません。
組織学的に乳頭直下を中心に広い領域で比較的均一な類円形核と弱好酸細胞体を有する多稜細胞が乳管内で増殖し、時にRoman Bridge様の篩状構造を形成する像を認めます。
また、面疱状壊死および石灰化が散見されます。
大部分が非浸潤性乳管癌ですが、一部では浸潤を伴っています(切片33、37、38のみで浸潤像が見られます、T分類は浸潤が認められる部分の範囲で測定)。
したがって乳管内病変が主体の浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)に分類されると考えます。
脈管侵襲は認められません。
切除断端に腫瘍は認められませんが、胸筋側の剥離面までの距離に余裕がありません。
免疫染色においてAllred ScoreではER:PS+IS=5+2=7、
PgR:PS+IS=5+2=7、HER2 score 1です(浸潤部)。
Ki-67標識率
は30%程度(腫瘍全体における標識率の高い部分)と考えます。
背景の乳腺には強い炎症性変化を伴います。
センチネルリンパ節は迅速標本を
もって転移陰性と報告しています。
検体:乳腺 乳癌病巣数:1病巣
切除術:Bt+SNB, 全乳腺領域
組織分類:invasive ductal carcinoma, papillotubular carcinoma with predominant intraductal component
核異型スコア:2, 核分裂スコア:1(2/10HPF), 核グレード:1
ER:Allred PS5 IS2 TS7, PgR:Allred PS5 IS2 TS7
HER2:score 1, 強陽性:0%, 中等度陽性:0%, 弱陽性:100%
(浸潤部での評価)
波及度:g, リンパ管侵襲:ly0, 静脈侵襲:v0
断端:皮膚側-, 深部側-, 0.5mm in situ, 側方:-
リンパ節転移:合計(0/2) SNB
UICC 7版:pT1a pN0 pM0 Stage ⅠA, 規約17版:pT1a pN0
pM0 Stage Ⅰ
1. Invasive ductal carcinoma, see comment, papillotubular carcinoma with predominant intraductal component, right breast, resection 2. No metastasis of carcinoma, lymph node(0/3),
sentinel lymph node, resection
右乳腺切除検体。
添付図のように切り出し、検討しました。
乳頭直下を中心に左側と同様の所見を示す乳管内病変を認めます。
わずかにリンパ管侵襲が認められることから、左側と同様、乳管内病変が主体の浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)に分類されると考えます。
静脈侵襲は明らかではありません。
核異型スコアは2相当、核分裂像は3個/10HPFです(核グレード1)。
切除断端に腫瘍は認められませんが、距離に余裕がありません。
免疫染色においてAllred ScoreではER:PS+IS=5+1=6、
PgR:PS+IS=4+2=6、HER2 score 2です(浸潤部が少なく病変全体での評価のため参考値です)。
Ki-67標識率は20%程度(腫瘍全体における標識率の高い部分)と考えます。
背景の乳腺には強い炎症性変化を伴います。
センチネルリンパ節は迅速標本をもって転移陰性と報告しています(0/3)。
【追加報告】
HER2 FISH施行しました。
HER2/CEN-17 ratio=1.1、HER2
signal/nucleus ratio=2.2でnegativeと判断されます。
検体:乳腺 乳癌病巣数:1病巣
切除術:Bt+SNB
組織分類:invasive ductal carcinoma, papillotubular carcinoma with predominant intraductal component
核異型スコア:2, 核分裂スコア:1(3/10HPF), 核グレード:1
ER:Allred PS5 IS1 TS6 PgR:Allred PS4 IS2 TS6
HER2:score 2, 強陽性:0%, 中等度陽性:30%, 弱陽性70%
波及度:g-in situ, リンパ管侵襲:ly1, 静脈侵襲:v0
断端:皮膚側:-, 深部側:-, 側方:-
UICC 7版:pT1mic pN0 pM0 Stage ⅠA, 規約17版:pT1mic
pN0 pM0 Stage Ⅰ
・針生検でのHER2は3+でしたが、DCISのために参考値とされ、切除標本で浸潤部での評価はHER2 2+でFISHでも-であったことからハーセプチンの適応はなく、
・特に左側については癌全体で見るとかなりの範囲に広がっていましたが、腫瘍径は左<5mm、右<2mmで、浸潤部はいずれも<1mmとかなり小さいこと、
・以前は若年性乳癌はリスク因子とされていたものの、ザンクトガレンコンセンサスの最新版ではリスク因子から外されたとのことで、リスク因子にも当てはまらず、
・Ki 20~30%はそれ程高くはなく、核グレードも両側共に大人しいとのことで、
・Adjuvant Onlineが現在使えないとのことで、代わりに提示されたBreast Cancer treatment Outcome Calculatorの結果で、ホルモン治療単独で予測される5年全生存率が98.6%、10年全生存率が96.5%、15年癌死亡率が1.6%で、弱い方の治療(FE(100)C*6)で15年癌死亡率が0.9%、強い方の治療(FE(100)C*3+D*3)で15年癌死亡率が0.7%と、寄与率は0.7%程度しかないとのこと(但し、両側乳癌のデータではないため、それによる影響・リスクは評価できないことも説明されています)で、化学療法によるadverse effectのことも考えると、ホルモン療法単独が良いのではないかと説明され、その方向で治療を受ける予定です。
当初、膵癌は乳癌とは無関係と説明されておりましたが、3親等(妻の曾祖母)に乳癌がいたため、念のため遺伝カウンセリングを受けると、検査前確率は米国のデータでは20%程度でしたが、韓国のビッグデータでは検査前確率が55%と高率であり、遺伝子検査の結果、先に述べましたように、BRCA2が判明しました。
若年性であること、両側乳癌であること、父に膵癌があること、3親等(日本や米国では通常3親等までは考慮しないようですね)に乳癌があることが検査前確率を押し上げたようです。
BRCA1とは異なり、BRCA2では卵巣癌リスクはそれ程高くはないようですが、それでも70歳までに20%と無視できない率であり、将来の予防的卵巣・卵管切除術を検討しております。
また、BRCA2では膵癌・前立腺癌・男性乳癌のリスクもそれぞれ7~30%程度と高めるとのことで、家族への告知・検査、今後の定期検診の予定も進めております(私の科で遺伝子検査をする場合は、根治出来ない疾患が多いために、家族には「知らないでいる権利」もあると思っていましたが、癌の場合は対処すれば根治出来る可能性がある病気であり、知らせないでいる方が医療倫理に反すると遺伝外来の先生に言われ、新鮮でした)。
挙児希望があり、現在は、凍結胚移植のための準備を進めている所です。
1回目の採卵に失敗してしまいましたが、昨日採卵に成功しました。
ホルモン療法開始のタイミングについてevidenceはないものの、化学療法については「乳がん患者の妊娠出産と生殖医療に関する診療の手引き」で、術後8~遅くとも12週以内の治療開始が推奨されていることから、それに準じて12週以内を目安に、採卵後早期の治療開始を予定しております。
現在、妻は、手術や遺伝子検査の結果を知って、安心したり落ち込んだりを繰り返しておりますが、結果を前向きに捉えて、2人でやるべきことをやっていこうとしております。
インターネット上とは言え、丁寧かつ親身に相談に乗って頂き、大変感謝しております。
先生の精力的なご活動には、非常に頭が下がる思いです。
担当する科は異なりますが、私もこれからも常に患者さんのことを真剣に考えて診療に臨んでいきたいと存じます。
この度は、誠にありがとうございました。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
病理結果が随分良くて、よかったです。
pT1aやpT1miでは「抗ガン剤は、どんなサブタイプであれ不要」です。
むしろ「挙児希望」であれば「ホルモン療法はしない」という選択肢も「現実的」だとは思います。
ただ、さすがにご主人が医師であるだけに「十分な理解」の上での治療法の選択のようですので「頑張ってください」
質問者様から 【質問3】
大変ご無沙汰しております。
その節は大変お世話になり、心より感謝申し上げます。
その後、妻は大学に通院し、タモキシフェン+リュープリンによるホルモン療法を継続しており、時に更年期様症状(ホットフラッシュや抑うつ状態)が強く出て苦しんでおりますが、全体的には変わりなく、元気に過ごしております。
With YouやHBOCコンソーシアム、当事者会等にも参加し、情報収集に努努めています。
病気のことやそれ以外のことでも色々なことがありましたが、結婚して、そして手術が終わって、何とか1年無事に過ごすことが出来ました。
私は昨年4月より○○に転勤となり、妻と一緒に引っ越しております。
本年4月からは再び○○に戻る予定です。
この度は、今後の妻の術後フォローについて、調べても答えが出ない悩みがありみがあり、質問させて頂きました。
既にご報告させて頂いた通り、妻はBRCA2陽性の両側浸潤性乳管癌StageⅠで、両側乳房全摘出術+二期的インプラント再建を受けたのですが、主治医より術後フォローとして1年に1回の全身CT(またはPET)と骨シンチを強く勧められています。
私自身は、様々なガイドライン(乳癌診療ガイドライン2015、NCCN乳癌ガイドライン2015、NCCNガイドライン、卵巣がん治療ガイドライン
2015、膵癌診療ガイドライン2016、乳がん患者の妊娠出産と生殖医療に関する診療の手引き2014)や書籍(遺伝性乳がん・卵巣がんの基礎と臨床、乳癌診療アプリケーションノート)等にも目を通しましたが、
そのような画像フォローについては推奨されておらず、放射線感受性が強いとされるBRCA2の遺伝子変異が判明している状況での二次性発癌のリスクを考えると、過剰な検査ではないかと危惧しており、再びこの場でご質問に伺った次第です。
ご承知の通り、NCCNガイドラインでは、フォローアップは年1~4回の病歴聴取及び身体診察と年1回のマンモグラフィが推奨されており、再発を示唆する臨床的な徴候及び症状を認めない場合、転移に対するスクリーニングのための臨床検査および画像検査は適応とならない」とされています。
乳癌診療ガイドラインでは、初期治療後フォローアップの項で、胸腹部CTについては、前向き研究は存在せず、2つの後ろ向き研究だけですが、いずれも有用性は認めず、「無症状患者に対する定期的なCTの有用性を示した研究は存在しない」とされています。
骨シンチについても、「初期治療後の定期的骨シンチグラフィによる予後改善効果は証明されていない」、「骨シンチグラフィを含む定期検査によって無症状の骨転移を発見、治療しても、生存期間延長効果は認めなかった」、「無症状の骨転移は0.65%」、腋窩リンパ節転移陽性乳癌であっても骨シンチで「初発の骨転移を早期発見できた割合は2.4%と、その頻度も低い」、「現時点では、無症状の患者に対する定期的な骨シンチグラフィを勧める確かな根拠は認められない」とされています。
乳癌診療アプリケーションノート(2014年発刊)でも、「定期的な乳房フォローアップとしての乳腺超音波検査やFDG-PETは原則施行しない」「術後のフォローアップとして、無症状の患者に対して下記(血液検査、腫瘍マーカー、胸部X線、胸腹部CT、骨シンチグラフィ、FDG-PET/CT
PET/CT肝臓超音波検査、乳房MRI、頭部MRI)を行う有用性を示した研究はない」「下記の検査(同上)は再発が疑われる場合に適宜実施する」「国内外に存在するガイドライン(乳癌診療ガイドライン、
ASCO、cancer Care Ontario、European Society for Medical Oncology(ESMO)など)では、問診、視触診、マンモグラフィ以外の採血や画像検査を無症状の患者に定期的に行うことは推奨されていない」「国内外で乳癌の根治術後にインテンシブなフォローアップを行っている施設も多くみられる。
だが、インテンシブなフォローアップを行うことによるメリット(予後の延長の可能性)やデメリット(偽陽性であった場合の検査の増加による費用の問題、侵襲の強い検査による体へのダメージ、被曝の問題など)がはっきりしないため、無症状の乳癌根治術後の患者に対するインテンシブなフォローには慎重にならなければならない」と記載されています。
HBOCの放射線感受性については、Li-Fraumeni症候群程はっきりとしたことは言われていないにせよ、DNA修復機構に関与する遺伝子であることは明らかで、検査レベルの放射線被曝では影響がないという報告がある一方で、
医原性被曝は明らかに有害で、若年での頻回の被曝が発癌のトリガーとなっているとの報告も見られます。
これらのことから、私自身は線量の高い放射線被曝を伴う検査(CTはXpの約500倍の線量)や内部被曝を伴う検査は出来るだけ受けさせたくはないと考えています。
実際に、私自身が医師として診療する上では、若年(生殖年齢)女性のCT検査については、必要最小限にしています。
勿論、肺炎や虫垂炎等、必要と思われる検査については、その都度説明し、納得して頂いた上で行っていますし、患者家族の立場からも、必要と思われる検査まで全てを拒否するつもりは全くありませんので、有症状時や必要時には検査を行ってほしいとも考えています。
個々の状況に応じて異なる診療をするオーダーメイド医療は必要と考えておりますし、必ずしもガイドラインは主治医を拘束するものではなく、主治医の裁量に任されている部分が大きいことも承知しています。
ただ、患者家族としては、出来るだけガイドラインに沿った標準治療を受けることを希望しており、ガイドラインから外れた診療を行うのであれば、相応の根拠を提示して頂き、納得した上で、その診療を受けたいと考えているのです。
しかしながら、主治医に上述のことを説明しても、「定期検査は必要だから」の一点張りで、1年毎の画像検査(全身CTまたはPET、骨シンチ)を勧めてきます。
「Oncologistとして、(自分の勧めたことをしないという)患者の選択で悲劇的な結末となるのを見たくない」、「どこでも皆同じことを行っている(※1)」、「肝転移・肺転移は予後が悪く、早期発見して早期介入すれば予後が異なるので、早期発見するための定期検査が必要(※2)」「Stage Ⅰであっても、転移が判明する場合もある」というのが主治医の意見です。
私も、同じStage Ⅳでも、既に全身に複数の転移が存在する状態と、
画像上1ヶ所だけ存在する状態では、介入の有無によって予後が異なるだろうことは感覚的に理解できます。
医師としても、自分の患者が、自分が必要と考えて勧める検査・治療を拒否したことで悲劇的な結末を迎えるのを見たくないという気持ちは理解できます。
しかしながら、現時点では、少なくともガイドラインでは転移巣を早期にに見つけて早期介入したからと言って予後が変わらないとされていて、
妻にだけ関して言っても、Stage Ⅰで15年癌死亡率が1.6%とされており、(Li-Fraumeni症候群程ではないとしても)BRCAで放射線感受性が高く、医原性被曝による二次性発癌のリスクがあるとされている状況では、1年に1回の定期CT+骨シンチによるベネフィットの期待値よりも、二次性発癌のリスクの方が大きく、有症状時の検査のみでよいのではないかと考えています(主治医は、Li-Fraumeni症候群であれば、放射線検査も考えると話していました)。
With Youでお話を伺った他院の乳腺外科の先生にも、主治医から1年にに1回のCT+骨シンチを勧められていることを話すと、「多いと思う。自分であればせめて3年に1回で良いのではないか」というお話でした((※3)。
また、当事者会の患者さんから聞いた話では、がん県有明病院系の先生ははintensiveに術後検査を組むが、聖路加では殆ど検査が組まれない等、病院等、病院・医師によって様々との話でした(※4。
勿論、伝聞の話ですし、個々の患者の状況によって検査スケジュールが異なるだろうことは承知しています。
実際、話を伺った患者さんはTriple negativeの進行癌で、毎年PETを受けているとのことで、リスクと、転移がないことを確認したいという患者希望のベネフィットも考えると、理に適ったスケジュールであると私も思います)。
主治医の妥協点としては、「せめて1年半に1回」「全身が嫌なら、胸~上腹部だけで、骨場は遮蔽してもよい」「胸部だけでも良い」と話していますが、「有症状時の検査を希望で、定期検査は不要」「父が膵癌で死亡していることもあり、上腹部の被曝も受けたくはない。
もっと言えば、胸部も不要」という私達の希望とは平行線です。
妻も、私の話を聞いた上で、検査を受けたくないということは主治医に伝伝えているのですが、
私のいない所で「術後1年のフォローで必要だから」と検査を入れられてしまい、妻では断り切れず、電話でキャンセルした経緯もあります。
今回は結論を出すのはpendingとなりましたが、このままでは、次回受診時に検査を強行されそうで、その場合はセカンドオピニオンも検討しておりますが、妻はそこまではしたくはないとのことです。
前置きが長くなり、申し訳ありません。
田澤先生にお聞きしたいのは、妻のようなStage ⅠのBRCA2陽性、両側乳房全摘出術後の患者に、
① 1年に1回の全身または胸~上腹部または胸部CT(またはPET) + 骨シンチという定期検査は適切なのか。
② 適切でなければ、どのようなスケジュールが適切か、また、田澤先生であればどのようなスケジュールを組まれるか。
③ ※1、3、4の状況について、実際はどうなのか。
④ ※2について、そのようなエビデンスがあるのか。
について、ご助言を頂戴したいと思います。
また、コラム等も拝見しておりますが、非常にご多忙な生活を送られておられますようですので、お身体には十分ご自愛下さい。
そのようなご多忙を承知の上でのお願いであり、誠に恐縮ですが、何卒宜しくお願い申し上げます。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「① 1年に1回の全身または胸~上腹部または胸部CT(またはPET) + 骨シンチという定期検査は適切なのか。」
⇒全く不適切です。
32歳の女性に、それを定期で行うなど、(私には)「犯罪行為」にさえ思えます。
「② 適切でなければ、どのようなスケジュールが適切か、また、田澤先生であればどのようなスケジュールを組まれるか。」
⇒これは、結構よくQandAでも聞かれることなので、しばしばコメントしていますが…
3カ月に1回の採血、診察エコーと1年に1回のマンモグラフィーです。
♯ただし、「3カ月に1回」というのはホルモン療法の3カ月処方で通院する場合であり、(ホルモン療法のない方)では「半年に1回」としています。
また、採血に関しては「年齢や進行度」によっては、最初から半年に1回としている事も多いです。(いずれ、1年を過ぎると、採血は半年に1回にします)
「③ ※1、3、4の状況について、実際はどうなのか。」
⇒私がここ東京に来て感じたのは、
「自分で診察しない(エコーや診察)」かわりに[1年に1回の定期画像診断はやりたがる(CTやPET)]
私は、(自分で診察していないことへの)「心理的代償(これで、自分はきちんと患者さんを診ていると安心するため)」が働いているのではないかと疑って(思って)います。
「④ ※2について、そのようなエビデンスがあるのか。」
⇒これはありません。
術後の再発を早く見つけることは「lead time bias」で説明されてしまいます。
ただ、(私も含めて)多くの乳腺外科医は(生命予後は変わらないかもしれないが)「早期に介入することでQOLは改善させられる筈」と考えています。
更に、少数例かもしれませんが、それにより「根治(もしくは長期予後)へつなげられる」症例もあると私は考えています。