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リンパ節転移数3での放射線治療の必要性

[管理番号:553]
性別:女性
年齢:66歳
66歳の妻が5月中旬に乳房内しこりと腋下しこりの症状で乳腺外科外来を受診し、その際両方とも直径2cm程度のエコーが検出され、そのうち乳房内しこりの組織診断で6月上旬に充実腺管癌と診断されました。
6月10日に乳房切除術を行い、その際のセンチネルリンパ節生検で1/3の転移が認められ、レベル1の腋窩リンパ節郭清を行いましたが、術後顕微鏡検査で新たに2個の転移が認められました。
現在手術で切除したがん細胞の病理結果待ちです。
 
ここで質問です。
1.腋窩リンパ節の局所転移が気になりますが、レベル2までの郭清は必要ないのでしょうか?
2.標準治療では転移が3個以下の場合は放射線治療無しと聞いていますが昨年春に英国グラスゴー開催された第9回European Breast Cancer Conference(EBCC2014)で、リンパ節転移数1個から3個の乳癌患者への術後放射線治療は再発と乳癌死のリスクを低減させたとの報告があったと新聞記事にありました。とすれば積極的に主治医に放射線治療を申し出た方がいいいのでしょうか?メリットデメリットについて教えてください。
3.遠隔転移が気になっていますが、化学治療に入ってからか、あるいは経過観察の時でもいいのでしょうか?
4.化学治療では病理検査・年齢などの条件でとるべきコースが標準治療として一義的に推奨されるのでしょうか?
5.しかし「自分の乳がんの病理結果と再発の危険性を踏まえ、主治医の推奨する治療についてよく吟味し、あなた自身で自分の治療を選びましょう。」といわれると何を基準に判断したらいいか悩みます。「再発の危険性と治療の副作用のトレードオフ。(苦い薬ほどよく効く)」などのように、判断材料として患者や家族として考慮すべきものになにがあるか教えてください。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 術後まだ1週間以内ですね。
 「サブタイプの記載」がありませんが、「化学療法をやる事を前提」とした文面からすると「luminal Bか、トリプルネガティブ」でしょうか?
 ♯もしも「ハーセプチンの予定についての言及がありませんのでHER2陽性の可能性は除外」しました。
 
「1.腋窩リンパ節の局所転移が気になりますが、レベル2までの郭清は必要ないのでしょうか?」
⇒術前画像診断所見によります。
 術前画像診断で「明らかなリンパ節転移所見:N1」を認める場合には、最初から(センチネルリンパ節生検をせずに)腋窩郭清(レベル2まで)行います。
 今回は「センチネルリンパ節生検を施行」しているところからすると「術前画像診断で明らかなリンパ節転移所見をみとめなかった」と考えられます。
 「level 2は超音波やCTで転移があるかないか解る部位」であるため、今回の場合はレベル1でいいと思います。
 
 (参考までに)
 ♯日本での臨床試験で(術前評価)「N0-N1」症例での「level1までの郭清」と「level3までの郭清」で『局所再発も生存率にも差が無かった』ことが示されており、『術前N0, N1症例ではレベル1までの郭清で十分』とされています。
 「術前及び術中に明らかな腋窩リンパ節転移陽性の場合にはレベル2までの郭清が必要」とされています。
 
「2.標準治療では転移が3個以下の場合は放射線治療無しと聞いていますが昨年春に英国グラスゴー開催された第9回European Breast Cancer Conference(EBCC2014)で、リンパ節転移数1個から3個の乳癌患者への術後放射線治療は再発と乳癌死のリスクを低減させたとの報告があったと新聞記事にありました。とすれば積極的に主治医に放射線治療を申し出た方がいいいのでしょうか?メリットデメリットについて教えてください。」
⇒標準治療(乳癌診療ガイドライン)では、乳房切除術後照射は
 リンパ節転移4個以上では『推奨度A』であり、リンパ節転移1~3個では『推奨度B』(科学的根拠があり、推奨される)となっています。
 ♯担当医がもしも、「リンパ節転移4個以上でなければ照射しない」としているとしたら、それは誤りです。「NCCNガイドライン」でも術後照射を行う事を強く考慮すべきとしています。
  4個以上ほど「絶対的適応」はありませんが、(1~3個でも)「十分以上に考慮すべき」なのです。
 メリット:局所再発率及び、生存率の改善
 デメリット:通常の胸壁及び鎖骨上照射であれば、短期的には「皮膚炎、放射線肺臓炎」晩期障害では「心毒性、肋骨骨折」など(照射技術の進歩により著しく改善しています)
 
「3.遠隔転移が気になっていますが、化学治療に入ってからか、あるいは経過観察の時でもいいのでしょうか?」
⇒これは「CTとかPETの時期」についての言及でしょうか?
 術前にCTを撮っていると思いますが、「化学療法後、経過観察となってから」でも十分です。
 乳癌は「初期治療の段階で遠隔転移していることは極めて少ない」事は私の経験で明らかです。
 
「4.化学治療では病理検査・年齢などの条件でとるべきコースが標準治療として一義的に推奨されるのでしょうか?」
⇒術後の補助化学療法として使用できる薬剤は限られています(HER2陰性だとすると、アンスラサイクリンとタキサンの何れか、もしくは両方しかありません)
 その中で、サブタイプとリスクにより、自然とメニューは決まってきます。(ただ、細かい選択には施設による自由度が大きいです)
 詳細は割愛しますが
 例えば)トリプルネガティブである程度ハイリスクならば 「anthracycline followed by taxane」計8クールとしますし、luminal Bであれば「TC療法」4クールとしたりします。
 
『「自分の乳がんの病理結果と再発の危険性を踏まえ、主治医の推奨する治療についてよく吟味し、あなた自身で自分の治療を選びましょう。」といわれると何を基準に判断したらいいか悩みます。「再発の危険性と治療の副作用のトレードオフ。(苦い薬ほどよく効く)」などのように、判断材料として患者や家族として考慮すべきものになにがあるか教えてください。』
⇒化学療法の選択は「ある程度、(主治医の勧める)標準治療」とするべきだと思います。
 患者さん側として「化学療法の効果は理解したけど、(しない事のリスクを承知した上で)化学療法はしない」という選択も尊重しますよ。という事だと思います。
 
 ◎乳癌の「術後補助療法で用いる」薬剤は「十分、認容性がある」と思います。
 どうしても「化学療法はしたくない」という強い意志がない限りは、行う事をお勧めします。