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非浸潤がんにおける術後のホルモン療法について

[管理番号:1345]
性別:女性
年齢:53歳
田澤先生、初めまして。
このQ&Aで勉強させていただくことが出来、本当に感謝しております。ありがとうご
ざいます!
マンモで石灰化が見つかり、乳腺外科を受診。
針生検の結果、非浸潤がんとの事でしたが、広がりがあるため、全摘になりますとの事。
更に、トリプルポジティブで悪性度の高いがん(ki67 50%)なので、もし浸潤してお
り、抗がん剤になった場合を考え、希望していた同時再建は出来ない、抗がん剤は1
年を予定━ このタイプのがんが非浸潤がんで見つかる事は珍しい(浸潤の疑い濃
厚ってこと?と受け取りました。)
など、次々に宣告を受け、何をどう聞けばいいかも分からないまま、手術日が決まっ
てしまいました。
0期なのに何で全摘?という納得のいく説明もなく、理解できないものの、色々
ショックで主治医には その場では、あまり質問もできないままでした。
でもその後、こちらのQ&Aを読ませていただき、疑問点がすっきり納得でき、田澤先
生にはとても感謝しております。
お忙しい中、丁寧に何度も何度も解説してくださっている事、本当にありがとうござ
います。
過去に同じような質問があったかもと思うのですが、改めて質問させていただくこと
をお許し下さい。
非浸潤がんにおける術後のホルモン療法についてです。
幸い術後の病理検査の結果、非浸潤がんでした。
対側乳がんの予防のため、ホルモン療法のタモキシフェンを勧められています。
片側にがんが見つかった場合、対側乳がんの可能性は、どれくらいあるのでしょう
か?自分でも調べてはみたのですが、色々な数字があり、どれが正しいのか分かりません。
もし可能なら、その根拠となるものも教えていただけますでしょうか?
また、タモキシフェン5年服用によってそのリスクはどれくらい低くなるのでしょうか?
主治医からは、2割程度減らせると伺いましたが、この数字も色々あるようで、困っています。
私は血栓リスクがやや高いため、ホルモン療法のプラス面とマイナス面で悩んでいます。
どう考えれば良いか ご教示お願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
質問者が「非浸潤癌なのに、(おかしな理由をつけられて)希望していた同時再建が
できなかった」ことに、残念な気持ちです。
『トリプルポジティブで悪性度の高いがん(ki67 50%)なので、もし浸潤しており、抗
がん剤になった場合を考え、希望していた同時再建は出来ない』
⇒非常に「問題点の多いコメント」です。
 問題点を挙げると
 ①非浸潤癌で「トリプルポジティブで悪性度の高いがん(ki67 50%)」というのは誤
り(まるで浸潤癌かのような、不安を駆り立てるだけの無意味なコメント) ♯そも
そもKi67の測定は適応外(測定すべきではない)
 ★核グレードが高い「非浸潤癌」は「浸潤癌になり易い」という意味だけで、
「現状、単なる非浸潤癌」です。
②抗がん剤は「同時再建の適応とは無関係」
 抗がん剤をするから「同時再建はできない」というのは誤った考え方です。
 しかも今回は「術前診断が非浸潤癌だった」わけですから、「術後の化学療法
を想定する事自体、完全な誤り」であり、『2重に誤った考え方』といえます。
 ★放射線照射と「エキスパンダーによる同時再建」は問題にはなります。
     
 ○今回の「質問者のケース」では術前診断が「非浸潤癌」だったわけですから「リ
ンパ節転移の可能性は、そもそも低く(つまり照射の適応はほぼ無く)、同時再建の
理想的な条件」だったと言えます。
 おかしな理由で「同時再建の意思を退けられた」ことには、「質問者に同情」します。

回答

「対側乳がんの予防のため、ホルモン療法のタモキシフェンを勧められています。」
⇒「誤り」とは言えませんが、「子宮体癌のリスク」については「きちんと説明」さ
れていますか?
 私は「効果と有害事象(ほてりや、子宮体癌のリスク)のバランス」で考えて、
「非浸潤癌の方にはホルモン療法を勧めていません」
 
「片側にがんが見つかった場合、対側乳がんの可能性は、どれくらいあるのでしょうか?」
⇒6.8%です。(HBOCのパンフレットに載っています)
 
「タモキシフェン5年服用によってそのリスクはどれくらい低くなるのでしょうか?」
⇒ほぼ半減させます。
 つまり、6.8%⇒3.4%程度になるということです。
 
「私は血栓リスクがやや高いため、ホルモン療法のプラス面とマイナス面で悩んでいます」
⇒それであれば、「なおの事」ホルモン療法は「やるべきではない」と思いますが…
 私と「質問者の担当医」とは「真逆」の考え方をしているようです。
 ○私の意見も参考にしていただければ幸いです。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生、お忙しい中、丁寧なご返答ありがとうございました!
主治医の先生には、肝心な所で説明不足だなぁーとは感じていましたが、基本的には
信頼しておりましたので、実は同時再建が可能だったことをうかがい、とても残念です。
②抗がん剤は「同時再建の適応とは無関係」
 抗がん剤をするから「同時再建はできない」 というのは誤った考え方です。
これは乳腺外科の先生にとっては常識的なことなのでしょうか?
そこはあまり疑問に思ってなかったものですから、あまり調べもせず、せっかくこの
ような質問の機会もいただいていたのに、もっと早くお聞きしていれば、と残念です。
①非浸潤癌で「トリプルポジティブで悪性度の高いがん(ki67 50%)」というのは誤
り(まるで浸潤癌かのような、不安を駆り立てるだけの無意味なコメント)
針生検の結果を聞いた際には、広い病変の中のほんのわずかな部分を検査したに過ぎ
ないので、本当に非浸潤がんかどうかは、まだ分からないというようなニュアンス
だったと思います。
田澤先生は、マンモトーム生検の精度が大変高いため、非浸潤がんと自信を持って診
断されているのだと思いますが、主治医からは、残念ながら非浸潤がんを確信できる
感触はありませんでした。
ステレオガイド下のマンモトームはその病院では行っておりませんし、超音波での針
生検でしたので、そんなものなのでしょうか。
「片側にがんが見つかった場合、対側乳がんの可能性は、どれくらいあるのでしょうか?」
⇒6.8%です。(HBOCのパンフレットに載っています)
ということは 普通でも12人に1人(8%)は乳がんになるらしいので、これって普通の確
率と同じと思って良いのでしょうか?
ホルモン療法は必要ないとのこと、明快なお返事がいただけて心強いです!
本当にありがとうございました。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「これは乳腺外科の先生にとっては常識的なことなのでしょうか?」
⇒「形成外科とコミュニケーションを取っている」乳腺外科医にとっては常識と言えます。
 常に「インプラントによる同時再建で問題となる」のは「術後照射」なのです。
 「化学療法が話題」となることはありません。
 
「超音波での針生検でしたので、そんなものなのでしょうか」
⇒(私に言わせれば)それが、超音波ガイド下での針生検であろうと一緒です。
 「病変の中心部での診断」という自信があれば、「もしも(術後病理で、浸潤部分
があったとしても)微小浸潤程度」というような感覚はあります。
 しかも今回問題なのは「悪性度の高い非浸潤癌という術前診断」で「術後病理で抗
がん剤の可能性がある」と考えていることです。
 何のための「術前診断」なのか?
 私は『術前針生検で非浸潤癌という診断』の場合「非浸潤癌で良かったですね」と
お話しますが、まさか「悪性度の高い非浸潤癌だから、抗がん剤の可能性がありま
す」などと説明する医師がいることに驚いています。
 
「普通でも12人に1人(8%)は乳がんになるらしいので、これって普通の確率と同じと
思って良いのでしょうか?」
⇒一概にはそのように言えません。
 「生涯の発生率」と「術後の発生率」では「対象となる年数が異なる」ことには注
意が必要です。
 例えば「60歳代で乳癌に罹患した人」にとっては「わずか30年での発生率」となり
ますが、一方で「生涯発生率」では「90年での発生率」となるわけです。
 本当に比較するためには「60歳までに乳癌に罹患した」60歳の患者さん群と「乳癌
に罹患した事が無い」60歳の患者さん群を「前向き比較(その後30年の発症率)」し
なくてはなりません。それであれば、「もう少し差がでる」と思います。