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非浸潤がんと病理診断について

[管理番号:6409]
性別:女性
年齢:42歳
 
はじめまして
右乳房のしこりを非浸潤がん診断され5月末に手術。
左乳房はFEAと診断され無治療(経過観察)
右乳房の手術と左乳房の病理診断について田澤先生のご意見を伺いたくメールさせて頂きました。
よろしくお願いいたします。
 
【右乳房】
5~6年前にしこりに気づき5年前と2年前に検査(マンモグラフィ+エコー)し、良性。
今年1月に検査を受けた際、細胞診を受け、クラスⅢ紹介された大学病院にて吸引生検を受け、非浸潤がんと診断。
診断の詳細は次のとおりです。
 
「臨床診断」
右乳腺腫瘤
 
「経過、所見」
10時に低エコー腫瘤像(16×10×6mm)を認めます。
境界は不明瞭で、内部にencasement patternの血流信号を検出します。
鑑別に乳管内病変を考えます。
10時に吸引生検を施行しました。
 
「病理診断」
右乳腺生検(吸引生検)
Epithelial Tumor,malignant.Ductal carcinoma in situ(DCIS,comedo type).VAB
 
「所見」
ホルモン受容体
ER 約99%
PgR 約90%
ki-67 約20%
HercepTest 2+(ただしin suitでの評価です)
 
治療に関しての自分の希望
乳房切除術
(妊娠の可能性を残しておきたいので、ホルモン療法は行いたくない。)
 
主治医の意見
乳房温存術+放射線+ホルモン療法
(非浸潤がんでも悪性が高いほうなので左側の予防とともにホルモン療法をしたほうが良い)
 
カンファレンスでの意見
乳房温存術+放射線
(しこりが小さいので、本人が希望すればホルモン療法は省略してもよいのではないか。
乳房切除は過剰)
 
質問
乳房切除術は過剰な治療なのでしょうか。
主治医の意見とカンファレンスでの意見が違うので、悩んでいます。
(ホルモン療法は行いたくないのですが、手術直前に乳房温存術でホルモン療法を省略してもよいのではという意見を聞き、戸惑っています。
ホルモン療法を省略しても大丈夫なのでしょうか。)
放射線を受けるためにがん切除後の乳腺組織にチタン製のクリップをつけ、治療後取り除かないとあり、体にクリップが残ることに不安があります。
 
【左乳房】
右乳房のしこりの検査のため、MRIとCTを受けたところ左乳房に小さい多数のしこりが見つかる。
再度エコーを受けたところエコーでも確認できた。
(エコーは技師が行い、1回目と2回目は別の技師が行う。)
吸引生検を受けましたが、確定診断できず、切除生検を受ける。
切除生検では治療のためではなく検査のための生検なので、怪しい部分の一部を取りますと言われる。
(吸引生検での診断)
 
「臨床診断」
左乳腺腫瘤
 
「経過、所見」
MRIで左B領域全体に造影所見あり、2nd look USを施行しました。
USではB領域の広範囲に内部エコーを有する嚢胞像を多数描出できます。
血流信号は比較的乏しいですが、いずれも境界は不明瞭で区域性に存在しています。
乳腺症が背景にある可能性もありますが、乳管内成分優位の乳癌が鑑別にあがります。
左6-7時の低エコー域、吸引生検をしました。
 
「病理診断」
左乳腺生検(吸引生検)
「AIDEP」、「FEA」.US-VAB
 
「所見」
鑑別困難
推定組織型
DCIS,ductal hyperplasia
拡張した腺管内に上皮の造成病変を認めます。
AIDEP、
FEAと考えられます。
 
免疫組織化学
ER homocenous,99%
Synaptophysin negative
CK14 negative
(切除生検での診断)
「診断」
Flat epithelial atypia. tm.
「所見」
乳腺の部分切除検体として提出されました。
組織学的には拡張乳管が散見され、裏装する細胞にわずかですが異形があります。
FEAの所見です。
断端にもFEA
がみられます。
 
主治医の意見
右のしこりの手術と一緒に取りたかったが、悪性の診断が出なかったので、無治療
カンファレンスでの意見
悪性の診断ではないので、無治療
 
質問
切除生検を担当された先生(主治医ではない)に良性、
悪性の区別がつかない時点ですでに良性ではないと言われました。
良性ではないものを無治療のまま、経過観察のような対応でよいのでしょうか。
以上です。
 
報告書の文面を転記した部分が多く、わからない単語を調べきれず、わからないまま載せてしまった部分があります。
申し訳ありません。
 
お忙しいところ、大変申し訳ございませんが、ご意見何卒よろしくお願いいたします。

 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
 
メールを読んで感じたのは「患者さん(の意志)不在の医療」です。
非浸潤癌であれば全摘することで根治であり、それ(全摘)を患者さん自身が希望しているのに「過剰(どこが?)」という判断をカンファランス(という「錦の御旗」のもと)で強引に決められているのです。
そこには実際に患者さんと向き合っていない(カンファレンスに出席していた)医師達の意見が(実際に診療していた)その担当医の意見より重要視されるという大問題があるのです。
患者さん自身が(ホルモン療法をしたくないので)全摘を望んでいるのに、「全摘は過剰。だけどホルモン療法はしてね!」とは…
 
全くバランスを欠いた医療であり、本来「患者さんの意志を尊重すべき」事案なのです。
 
「乳房切除術は過剰な治療なのでしょうか。」
⇒全く、そうは思いません。
診療の場で「腫瘍も小さいし、温存も可能です」と医師としての判断を患者さんにお話しするのは当然のことですが、
それを理解された上で、患者さん自身が「可能な限りの不安(乳房内再発や放射線したくないなど)を避けるために、全摘を希望」した場合に、我々が『それを拒否するなど、全くありえない』
 
○冒頭でもコメントしたように、(実際に患者さんと向き合っていない)カンファレンスに参加しているだけの「無関係(無責任)な医師たち」の意見が通るシステムに問題があるのです。
 
「ホルモン療法を省略しても大丈夫なのでしょうか。」
⇒非浸潤癌にホルモン療法は不要です。
 
「放射線を受けるためにがん切除後の乳腺組織にチタン製のクリップをつけ、治療後取り除かないとあり、体にクリップが残ることに不安があります。」
⇒実質的な問題は起こりません。
ただ、いまだに、(断端がわかるように)クリップを入れているとは!
 
○歴史的に、温存手術が始まった20年位前は全例クリップをしていましたが(推奨されていたと思います)、現在ではクリップをいれる施設は少ないのでは?(私自身は入れません)
 
「治療のためではなく検査のための生検なので、怪しい部分の一部を取ります」
⇒外科的生検は、たしかに「病変の一部」を採取するものですが…
この場合は、右のついでに(全身麻酔で)行うのだから、incisional biopsy(病変に切り込んで一部を採取)ではなく、excisional biopsy(病変に切り込まずに、病変全体を採取)も選択肢にいれても良かったのではないか?
(参考図)

 
 
 
 
 
 
 
 

質問者は事前に、上記(excisional biopsy)の選択肢を示されましたか?
♯ 担当医がそう考えたとしても、その「カンファランス」なるもので潰された(excisional は許さない、incisionalにしなさいなど)かもしれませんが…
 
「良性ではないものを無治療のまま、経過観察のような対応でよいのでしょうか。」
⇒問題は、「断端にもFEA」という点です。
あくまでも「incisional biopsy」だから、病変の一部しか評価されていないわけです。
本来ADH(atypical ductal hyperplasia)やFEA(flat epithelial atypia)のような「異型病変」は病変全体で評価された時に「異型どまり(癌まではいかない)」と診断されるべきものであり、『病変の一部だけで癌を否定する事はできない』(トップページの『ADH』を参照のこと)
 
☆結論として…
そもそも(incisional biopsyを選択した時点で)、せっかく切除しても、このような「グレーゾーンとなる可能性は十分に予知できた」と言えます。
 
大学側としては、(そこまで厳密な診断を求めてはおらず)「incisionalで癌でなければ経過観察」というスタンスだったのでしょう。(実際、そうなったわけです。)
 
質問者ご本人が、
1.全てを理解した上で(一部とはいえ)病変の採取で癌が出なかった以上、経過観察にしたい(これ以上乳腺を切られたくない)と思うのであれば、このままで良い。
2.   〃     「病変の全体で評価しないと不安」と感じるならば、追加で「病変全体の評価(excisinal biopsy)」を求めるべき。

 
 

 

質問者様から 【質問2 非浸潤がんと病理診断について】

性別:女性
年齢:42歳

先日、管理番号6409で質問させて頂きました。

長文にもかかわらず、丁寧なご回答を頂きまして、本当にありがとうございました。

その後の対応について再度ご意見を伺いたくメールさせて頂きました。

よろしくお願いいたします。

【右乳房】

非浸潤癌と診断され、主治医から乳房温存術+放射線+ホルモン療法を進められましたが、乳房切除術を希望し、
乳房切除術の手術を受けました。

病理結果は非浸潤性乳管癌
切除断端の状態は陰性
センチネルリンパ節生検は転移無し
大きさは1.2×1.5×0.5センチ
6カ月毎の経過観察となりました。

病理結果を聞いた際、
「手術をしたら、癌の近くにもう一つ小さい癌がありました」と報告を受けました。

術前の検査では、もう一つ癌があるとは言われませんでした。

小さいほうの癌も非浸潤癌だったと言われました。

大きさは教えてもらえませんでしたが、
病理結果の時に見せてもらった、切除した乳房の画像に写っていたものはメインの癌より小さかったです。

主治医からはエコーにもマンモグラフィにもMRIにも写っていなかったと言われました。

「質問」
エコーでも、マンモグラフィにも、MRIにも写らない癌があり、
手術してみて初めて見つかるということはよくあることなのでしょうか。

【左乳房】

B領域に多数の小さい腫瘤があり、吸引生検、切除生検を受けFEAと診断されました。

残っている腫瘤をすべて取って再度生検することはできないか主治医に質問したところ、

「小さい腫瘤が広範囲に散らばりすぎていて、全て取るには乳房を全摘するしかないが、癌の診断が出なければ乳房切除はできない。」
「MRIで見ると腫瘤の染まり方がすべて同じ染まり方をしているので、残った腫瘤も癌ではないと思います。」
「6カ月毎にエコーとマンモグラフィをし、前回と比較して変化があったら、変化があった部分を吸引生検をします。」
と言われました。

癌になるまでそのままにしておかなければならないのかと質問したところ、

「癌の診断が出なければ切ることはできない。癌にならないかもしれません。」
と言われました。

「質問」
主治医に病変全体の評価をお願いしたのですが、6カ月毎の経過観察となっています。

多数の小さい腫瘤が広範囲に散らばりすぎて取り切れない場合の対応として妥当な対応なのでしょうか。

他の対応はないのでしょうか。

以上です。

お忙しいところ、申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。

「エコーでも、マンモグラフィにも、MRIにも写らない癌があり、手術してみて初めて見つかるということはよくあることなのでしょうか。」
→勿論です。
 画像診断で解らない(たまたま存在していた)癌はあります。
 温存術後の乳房内再発のリスクは断端陽性だけではないのです。(決して確率は高くありませんが)

「多数の小さい腫瘤が広範囲に散らばりすぎて取り切れない場合の対応として妥当な対応なのでしょうか。」「他の対応はないのでしょうか。」
→診断精度の問題です。

 「多数が…」ということに言い訳せず、「可能性のある病変はきちんと生検する」ことも当然できます。(患者さんの希望があれば)