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非浸潤癌について

[管理番号:118]
性別:女性
年齢:45歳
はじめまして!
1~2年ほど前から左胸にしこりがあり、マンモ・エコー・MRI・針生検と検査をしてほぼ非浸潤癌と診断されました。
MRIでそのしこりの横に小さなしこりらしきものがあるので針生検するよりも手術でどちらのしこりもとって調べたほうがよいと言われました。
温存もできるが2か所となると傷が大きくなるので形はどうなるか分からないと・・・術前では確定診断が難しいのでしょうか?
その横の小さなしこりはもしかして浸潤癌である可能性が大きいのでしょうか?
とりあえず手術はしないといけないのは分かっているのですが、温存か全摘か?
どうしたらいいのか困っています。どうぞよいアドバイスお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 「病巣の多発が疑われた場合、温存か全摘か?」
 これは実臨床の場でもしばしば、経験する事です。
 少々、内容が難しくなってしまいますが重要な事なので、じっくり読んでください。
 その上で、「具体的に、どうしたらいいのか?」を提案します。
 

状況確認

  1. 主病巣(1~2年前よりある)しこりに対して針生検を行い「非浸潤性乳管癌」の診断
  2. 「病巣の広がり診断目的」でのMRIで、主病巣の横に「小さなしこり」が指摘された。
     ⇒こちらは針生検せず(どうせ、こちらも手術で取るのだから、検査は不要という理由)
  3. 両方(主病巣と横の小さなしこり)を切除するとなると、温存後の乳房の形(整容性といいます)が保たれないかもしれない
  4. リスクを冒してまで(このメールでは触れられていませんが、整容性の他に乳房内再発のリスクもあります)温存術にこだわらずに、乳房切除(全摘)も選択肢として勧められた

回答

「術前では確定診断が難しいのでしょうか?」
⇒そのような事はありません。
 MRI画像を参照すれば、超音波で検出できるはずです。
 超音波で検出できれば(例え、それが2~3mmだろうと)針生検で確定診断はできます。
 
「横の小さなしこりはもしかして浸潤癌である可能性が大きいのでしょうか?」
⇒浸潤癌の可能性は低いと考えます。 
 今回の経過からすると「触診、マンモ、超音波では」主病巣しか検出できなかった。その後「乳房MRIを撮影して初めて」横に小病変(癌疑い)の存在が明らかとなった。
 (その小病変が小さすぎたために)MRIでしか検出できなかったかもしれませんが、「主病変以上の病変ではないだろう」という印象を持ちます。
 
「温存か全摘か?どうしたらいいのか困っています。」
⇒「絶対的な答え」はありません。
 「温存するかどうか?」は2つの点を考えなくてはなりません。「(温存後の)乳房の形=整容性が保たれるか?」と「根治性(術後の乳房内再発を含めた)」の両面です。

整容性の面 メール内容からは2つの病巣が(どの程度離れているかは、判断不能ですが)、2か所となると形はどうなるか分からない」というコメントからすると担当医は「2つの病巣を安全に(切除マージンを取りながら)切除すると整容性が悪くなる」と考えているようです。
◎せっかく温存しても整容性が悪くては、あまり意味がありません。その場合には「全摘⇒乳房再建」という方法もあります。
根治性の面 病巣が多発していると単発よりは「術後の乳房内再発」のリスクが上昇します。
(病巣が2か所の場合)多中心性発生といって、他にも(MRIで捉えられていないだけで)病巣が潜んでいる可能性も考えられるからです。
※その場合には、(目で見える2か所をせっかく切除しても)全く別の部位から出てくる(乳房内再発)可能性があります。
そのために「術後放射線」の存在意義があるのですが、「単発に比較して多発の場合には、そのリスクはどうしても高くなります」
◎厳密に言うと、「多発」といっても「同じ乳管系」の場合には病変は連続と考えられ、「多中心性発生とは異なり」安全に温存手術が行えます。
⇒「多中心性発生」なのか「同じ乳管系」なのかは、通常「画像上の近さ、位置関係」で判断されます。
 今回のメール内容からすると、「横」と記載されていますので「同じ乳管系の可能性」もありそうですが。

 

私であれば(参考にしてください)

 まず乳房MRIで横に小病巣を認めた時点で画像上「同じ乳管系」か「別の乳管系」なのか判断します。

同じ乳管系 (2つの病巣は近接しており)両病巣を切除範囲とする「温存術」に何ら問題はありません。
整容性も根治性も保たれます。
別の乳管系 その病巣の針生検を行います。(通常、MRIを参考にすれば、超音波で小病巣を検出することができるはずです)

  • 針生検の結果、多発と確認された場合には基本的に乳房切除(±再建)を勧めます。非浸潤癌で乳房を全切除すれば、「理論上、癌は根治され(全身を含めて)再発のリスクは無くなる」というメリットもあります。
    ※但し、「整容性と根治性」を了承の上で(それでも)患者さんが望めば、「大きめの」温存術を行います。
     
  • もし針生検の結果「癌では無かった」と確認されれば「単発として」温存術を行います。

具体的な提案

(MRIの画像所見から)2つの病変が「同じ乳管系」と考えられるのか?「別の乳管系」と考えられるのか?担当医に確認してください。
 ⇒「別の乳管系」と考えられる場合には、是非その小病変を針生検してもらってください。
 ※(同じ乳管系か別の乳管系か?)その区別がつかない場合には、やはり針生検してもらった方がいいでしょう。
◎温存か全摘かは、その結果を見てから決めては如何でしょうか?