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今後の治療法について

[管理番号:3557]
性別:女性
年齢:66歳
はじめまして。
この度は大変、お世話になります。
66歳母親の右乳房の乳癌の、今後の治療法の件でご相談させてください。
昨年11月に大学病院にて乳癌と診断されました。
その時点で、
手術不可、
(ただし、皮膚表面のただれが悪化した場合のみ、悪臭等を無くすため
の切除はするかもとの事)
肺転移あり、
骨転移なし、
でした。
12月より以下の抗がん剤の点滴治療を始めました。
アブラキサン 199.12mg
ジェムザール 1593mg
1週1回×2 1週休み の3週サイクルの繰返し
1月末から熱(37~37.5℃)がひと月ほど続いたため、
2月に肺炎の検査として胸部CTを撮った結果、
肺炎は起こしておらず、
肺に転移していた癌は小さくなっていました。
2サイクル目以降は
副作用(脱毛、だるさ、手足のしびれ、等)が
辛くなりました。
通院時間もつらくなり、
5月に自宅近くの病院(現在通院中)に転院しました。
抗がん剤点滴治療は4月末までです。
再度、現病院でひととおり検査をしました。
肺に転移していた癌ははっきりと映らなくなっていましたが、
腰骨に転移がありました。
治療法として、
抗がん剤ではなく、ホルモン剤の効くタイプなので、アリミデックス錠の服用に変更になりました。
現在の医師曰く、
治療の第一段階で抗がん剤点滴を選択するのは稀であること、
また、前病院で点滴していた、アブラキサンとジェムザールを組み合わせるという事は一般的ではないとのこと。
大学病院だからこその、治験的治療であったのではないか、
との事でした。
効果の出ていた抗がん剤治療をやめる事への不安はありましたが、
抗がん剤治療が心身ともにつらくなっていたので、
6月よりアリミデックス錠の服用を始めました。
副作用としては関節痛、爪異常、手足のしびれ・違和感(抗がん剤点滴の副作用?掌蹠膿疱症の悪化?)があります。
併せて、骨転移の治療として、月1回のランマーク注射と、デノタス
チュアブル配合錠の服用が始まりました。
ランマーク注射2回目診察時の血液検査で、血液中のカルシウム値が基準値以下(8.3)となり、
ランマーク注射はせずに、3週間あける事になりました。
3週間後の、血液検査でも、基準値までは戻りませんでしたが、
カルシウムを補う服用薬を追加処方され、ランマーク注射を打ちました。
また、手術に関しては、前病院と同じお考えでしたが、
今現在、がんが小さくなってきているので、今、手術をするという手もある、
どうしますか?
と言われましたが、「治す」ための手術でないならば、やめますとお答えしました。
そして、先日、
アリミデックス治療から3ケ月後の治療効果をみるため胸部CTを撮りましたが、
肺転移がはっきりと映ってしまい、
腫瘍マーカーの数値も数倍に上がってしまいました。
アリミデックス錠では、治療効果が出ないという事で
今後の治療法を医師より3つ、提示され
選択するように言われました。
1つ目は、フェソロデックス 注射 2週間毎→4週間毎
2つ目は、ゼローダ 服用薬 3週服用1週休み
3つ目は、アブラキサン 点滴 3週間毎 
(前大学病院ではジェムザールも一緒に点滴をしていたが、現病院では、治験的な治療はできないとのこと)
本人は、前回の抗がん剤の点滴治療が辛かったので
もうやりたくないとの事、
抗がん剤点滴をやめて、髪が生えてきて喜んでいたので
脱毛もしたくないようです。
家族としては、
抗がん剤点滴治療をやめて元気に明るくなった母親をみると、
いちばんは本人の意思を尊重したい、
でも、やっぱり出来るなら少しでも長生きしてほしい、
そんな思いがあります。
今、本人と家族での話し合いでは、副作用の少ない事を優先し、
フェソロデックス→効果なしならゼローダ→効果なしならアブラキサン、
もしくは抗がん剤点滴治療はもうしない、
という考えになっていますが、
今後の治療法について、アドバイスをお願いしたいのです。
また、今後、皮膚が更にただれてくる事を考慮して、
出来るうちに手術をした方がよいのでしょうか?
上記以外にも、良案があれば、是非教えて頂きたいのです。
どうか、よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
「現在の医師曰く、治療の第一段階で抗がん剤点滴を選択するのは稀であること、」
⇒これには異議があります。
 病状が酷くないうちはホルモン療法で可能な限り粘り、「いよいよ病勢が激しくなった」場合に化学療法へ変更するという考え方だとは思いますが…
 私のように、まず「効果の期待できる抗癌剤できちんと叩いて」非常にいい状態を作ってから、その状態の維持を図る(この維持療法の中にホルモン療法が含まれるという考え方)方法もあります。
「また、前病院で点滴していた、アブラキサンとジェムザールを組み合わせるという事は一般的ではないとのこと。」
⇒これはその通りです。
 GT療法という「ジェムザールとパクリタキセル」の組み合わせを「パクリタキセルの替りにアブラキサンをもってきた」ようです。
 
「大学病院だからこその、治験的治療であったのではないか、との事でした。」
⇒そういうことですね。
「今、本人と家族での話し合いでは、副作用の少ない事を優先し、フェソロデックス→効果なしならゼローダ→効果なしならアブラキサン、もしくは抗がん剤点滴治療はもうしない、という考えになっていますが、今後の治療法について、アドバイスをお願いしたいのです。」
⇒この考え方も(勿論)間違いではありません。
 但し、この治療では「あとは下り坂」となることの覚悟が必要です。
 現時点で「肺転移が顕在化」しているわけですから、上記方法では「肺転移が(いったん)消える」ということもなく「徐々に悪化」して病状の進行とともに「強い治療へ変えていく」となります。
 ○私の考えでは
 化学療法を先行して「肺転移を(いったんは)消して(腫瘍マーカーも下げて)」、『良い状態で維持療法(経口抗がん剤やホルモン療法)へ変えていく』というものです。
 こちらの方が「希望が見える」様に思うのですが、どう思いますか?
 勿論、肝心の「抗ガン剤の副作用がきつすぎる」ようでは上手くいきません。
 そのバランスをとったものがbevacizumab+paclitaxel です。
 副作用が軽い割に、効果は抜群で一気に「転移巣を駆逐」することも可能です。
 そして、いったん「肺転移が消えた」後に、維持療法として「ホルモン療法や経口抗がん剤」へ変更します。
 勿論、永遠に効くわけではありませんが、いったん病状を改善させた後に「軽い治療(維持療法)に変える」方が、「病気が良くなった」という実感もあり、周りも安心して見ていられると(私は)思います。
「また、今後、皮膚が更にただれてくる事を考慮して、出来るうちに手術をした方がよいのでしょうか?」
⇒その方がいいと思います。
 私であれば、「長期コントロールを視野に入れて」局所の手術を行います。
 
 ♯いろいろなケースがありますが、「せっかく抗癌剤やホルモン療法で遠隔転移を長期コントロールできても、局所から浸出液がでたり出血したりする」ケースも考えられます。(そうなるとQOLが著しく低下するのです)
「上記以外にも、良案があれば、是非教えて頂きたいのです。」
⇒質問者(の母)が「抗ガン剤は、もうたくさん」だと感じているとしても「bevacizumab+paclitaxel」であれば、きっと『もうひと頑張り』できます。
 家族の「良くなってほしい」という気持ちを患者さんへ、きちんと伝えましょう。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

管理番号:3557
田澤先生、
この度はお答えいただきまして、
どうもありがとうございます。
田澤先生のおっしゃるとおりだと思いました。
病状の進行とともに「強い治療へ変えていく」のはよりつらい事だと思いました。
前病院での治療により、病状がよくなった時には本人も家族もとっても嬉しかったです。
田澤先生からいただいたお返事通りに
治療をしていきたいと思います。
本人ともよく話したいと思います。
お手数をお掛けして申し訳ありませんが
また幾つか質問をさせてください。
勉強不足の質問でしたら
大変申し訳ありません。
①「bevacizumab+paclitaxel」とは
下記の認識でよろしいのでしょうか?
パクリタキセル+ベバシズマブの抗がん剤点滴。
投与方法は、28日1クールで、パクリタキセルは
90mg/m2 divをday 1, 8, 15、ベバシズマブは10mg/kg divをday 1, 15にそれぞれ90分で投与する。
ベバシズマブによる有害事象として高血圧、うっ血性心不全、出血、蛋白尿、血栓塞栓症、パクリタキセルによる有害事象としてアレルギー症状、脱毛、骨髄抑制、末梢神経障害などがある。
②この治療をどれくらいの期間続けるイメージでいれば良いのでしょうか?
③医師からはアブラキサンの点滴という説明でしたが、パクリタキセル+ベバシズマブにして欲しいと、患者より薬剤の指定をお願いする事は可能なのでしょうか?
(以前、医師より、当院にも一般的な薬剤はあります。とのお話を聞きました。
パクリタキセル+ベバシズマブは一般的な薬剤なのでしょうか?)
④パクリタキセル+ベバシズマブは、どちらかひとつでは効果がうすいものなのでしょうか?
⑤今回ご教示いただきました、治療をして、快方に向かい、ホルモン剤注射や経口抗がん剤で治療をし、また悪化した場合には、また同じように抗がん剤の点滴をし、良くなったら、ホルモン剤注射や経口抗がん剤というように、繰り返して行う事は、非常識なのでしょうか?
また、繰り返す事により、デメリットがあったり、効果が薄れたりするものなのでしょうか?
⑥以前、アブラキサン+ジェムザールで効果が出ましたが、パクリタキセル+ベバシズマブでは効果が出ないという事も考えられるのでしょうか?
⑦田澤先生がおっしゃられた、「抗癌剤やホルモン療法で遠隔転移を長期コントロールできても、局所から浸出液がでたり出血したりするとQOLが著しく低下する」という事が、よく理解できませんでした。
いわゆる、普通の怪我ではないので、局所から侵出液や出血があった場合には、外用薬をつけても治らない、悪化していくだけ、という事なのでしょうか?また、傷口からの感染症も重症化しやすく危惧しなければならないという事なのでしょうか?
⑧もしも、パクリタキセル+ベバシズマブの治療をして、副作用がつらくなったら、その時は、抗がん剤を点滴した量だけの効果は受けられている、と考え、治療予定サイクルの途中でも、中止して構わないでしょうか?
たくさん、質問してしまい、申し訳ありません。
でも、こうやって質問できる場をいただき、本当に感謝しています。
どうもありがとうございます。
今、お問い合わせページを再度確認したところ、
再質問には1週間空けるように、との文言に気づきました。
ごめんなさい。
9月(上旬)日に診察予約があり、その際に、今後の治療法の返事をするため、急いでおり見落としました。
質問フォームを開いてしまい、申し訳ありません。
今回はこのまま質問フォームを送らせてください。
もし可能であればお返事をお願い致します。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
病状が軽く(治療に心身ともに疲れきっていない時に)きっちり、やるべきことをやっておく。
(やることをやった)その後は、できるだけ楽な治療で「いい状態をキープ」するようにする。
そして維持しきれなくなって病状が進行しても、(やることをやったのだから)苦しい治療はもうやらない。できるだけ楽に過ごさせてあげる。
○上手く表現できているか解りませんが、私が経験上辿りついた答えです。
「①「bevacizumab+paclitaxel」とは下記の認識でよろしいのでしょうか?」
⇒その通りです。
 ただし、(薬の副作用にはいろいろ書いてありますが)とても認容性の高い治療です。
 私が経験してきた治療の中で「効果と副作用のバランスがダントツで高い」ものです。
 ①治療効果が目に見える
  (例えば画像上キープするというレベルではなく)目に見えて腫瘍が小さくなります。これは非常に大事なことで、モチベーション高く治療が継続できます。
 ②副作用が小さい
  まず、bevacizumabの副作用として実際に問題となるのはタンパク尿位で、これも治療中止となる程ではありません。(鼻血もありますが、気になる程度にはなりませんし、高血圧も大したことはありません)
  Paclitaxelは蓄積する副作用として「痺れ」がありますが、アブラキサンほどではありません。(抗癌剤はもう嫌!という方にでも十分認容性があります)
「②この治療をどれくらいの期間続けるイメージでいれば良いのでしょうか?」
⇒私の過去の経験からは…
 3クールをまず目標とします。(3クール行えば、通常画像上CRも十分に狙えます)
 その後はday8のpaclitaxelを抜いて、day1-day15として更に3クール(ここまでできたら、言うことありません)
「③医師からはアブラキサンの点滴という説明でしたが、パクリタキセル+ベバシズマブにして欲しいと、患者より薬剤の指定をお願いする事は可能なのでしょうか?」
⇒勿論できます。
 「ネットで…」というよりも、「知り合いの医師(乳腺外科医もしくは腫瘍内科医)からアドバイスされた」と言う方がいいかもしれません。
「パクリタキセル+ベバシズマブは一般的な薬剤なのでしょうか?)」
⇒勿論です。
 その存在は「知る人は知る」のですが、「使いこなせていない医師も多い」ことには注意が必要です。
「④パクリタキセル+ベバシズマブは、どちらかひとつでは効果がうすいものなのでしょうか?」
⇒bevacizumab自体には殆ど副作用がありません(ご本人が自覚するのは、たまに鼻血が出る程度です)ので、bevacizumab単剤にしたいところですが…
 実際には単剤では期待薄です(その点は、同じ分子標的薬であるハーセプチンと似ています)
 ○paclitaxel単独ではもったいないので、副作用を抑えて継続させるために
 (最初) day1 bev+PTX day8 PTX day15 bev+PTX ⇒ (次の段階) day1 bev+PTX day15 bev+PTX ⇒ (更に次の段階) day1 bev+PTX day15 bev単独
 などのように(できるだけ副作用のあるPTXを抜いて)効果を持続させようという方針となります。(PTXの1回当りの減量という方法も併用しつつ…)
「悪化した場合には、また同じように抗がん剤の点滴をし、良くなったら、ホルモン剤注射や経口抗がん剤というように、繰り返して行う事は、非常識なのでしょうか?」
⇒それでいいのです(これが drug holidayという考え方です)
 ただし、これをやるためにも「最初に、病勢をできるだけ改善させることが鍵となる」のです。(軽い治療で、できるだけ維持するためには、最初に抑え込めないと、そもそも難しいことなのです)
「繰り返す事により、デメリットがあったり、効果が薄れたりするものなのでしょうか?」
⇒薬剤には必ず抵抗性という問題があるので、いずれは「効果が薄れます」
 それで、「効くうちに、きっちりと効かせる」ことも大事なのです。
「パクリタキセル+ベバシズマブでは効果が出ないという事も考えられるのでしょうか?」
⇒非常に奏功率の高い治療です。
 効果が無い事は殆どありません。(ただし、懸念材料があるとすれば、全治療としてアブラキサンを用いている事です。抵抗性ができている可能性があります)
「いわゆる、普通の怪我ではないので、局所から侵出液や出血があった場合には、外用薬をつけても治らない、悪化していくだけ、という事なのでしょうか?」
⇒その通りです。
 酷い場合には、1日何回もガーゼを交換しなくてはならなくなります。
 また、その皮膚症状自体が「痒み」などQOLを著しく阻害します。
「また、傷口からの感染症も重症化しやすく危惧しなければならないという事なのでしょうか?」
⇒そういうことではありません。
  毎日毎日暮らしていく中で、「決して治癒しない傷口、常に浸出液や悪臭に悩まされる傷口」を持っていることのストレスは実際に(家族の立場として)体験してみないと実感できないかもしれません。
  正直な話として、医師として診療していく中で「大変かわいそう。何とかしてあげたい」と強く感じるのです。
  その点では(腫瘍)「内科医」と我々(乳腺)「外科医」の感じ方の違いがあります。
  腫瘍内科の先生は、患者さんに「それは仕方がないから、ガーゼあてるしかないよ」と簡単に言いますが、我々は「何とか、処置しないで済むように手術できないか?」という視点を常に持っています。
「⑧もしも、パクリタキセル+ベバシズマブの治療をして、副作用がつらくなったら、その時は、抗がん剤を点滴した量だけの効果は受けられている、と考え、治療予定サイクルの途中でも、中止して構わないでしょうか?」
⇒そのようになります。
 ④で回答したように、(すぐに止めるのではなく)「間のPTXを抜いたり、減量したり」副作用に応じていろいろなやり方があります。