[管理番号:5675]
性別:女性
年齢:51歳
田澤先生
このような場を設けてくださっていることに、感謝しております。
有難うございます。
妻が乳がんになりました。
51歳閉経前です。
皮下乳腺全摘出後の病理検査結果が、「癌は存在せず」で釈然とせず、不安に思っております。
質問させていただきたく、よろしくお願いいたします。
【経緯】
昨年6月 職場の検診で再検査
昨年7月 細胞診→問題なし→経過観察
1月 問題なし
7月 細胞診→悪いものがあった
8月(上旬)日 バネ式針生検での組織診
8月(中旬)日 告知 大きさ約1センチ
その後手術に向け、造影剤CT、造影剤MRI検査
8月中旬から約1か月 術前タモキシフェン服用(手術迄無治療だと不安なので、エビデンスが少ないことを了承した上で服用)
9月(中旬)日 乳頭乳輪切除皮下乳腺全摘出術+センチネルリンパ節生検+エキスパンダーによる一次一期再建
(主治医からは腫瘍が小さいので、部分切除で可と言われましたが、自ら全摘を選択しました。)
10月(中旬)日 術後病理検査結果
【針生検結果】
Adequate, malignant, invasive ductal carcinoma, papillotubular, of the breast, biopsy.
Allred score:ER :TS=5+3=8
PgR :TS=5+3=8
Hercep score=0
Ki67 index=13%
Luminal A
4/4:異形細胞が管状、乳頭状に増殖、浸潤している。
乳管内成分はごく少量である。
nuclear grade=1(score=1+1)
【造影剤MRI結果】
左乳房BD境界部、6時の方向、nippleから34ミリの距離に6×8×7ミリ大
(→後に6×7.5ミリという表記あり)の不整形腫瘤が認められます。
造影早期層でリング状に濃染され、造影後期層で内部の増強効果が減弱しています。
辺縁は一部で微細鋸歯状です。
DCIS~乳頭腺管癌、硬癌が疑われます。
広範囲な乳管内進展や嬢結節を疑う所見は認められません。
【術後病理結果】
No residual carcinoma
マークされた部位を中心に出血部位を標本作製しましたが、癌は存在せず。
出血部を再切り出ししましたが、やはり癌は見つかりませんでした。
(別の何かがあった等との記載はなく、これ以上の情報はありません。)
これにより、確定診断は針生検の結果となり、今後の治療はタモキシフェン5年間となりました。
尚、民間療法、食事療法はしておりません。
主治医からは、腫瘍が小さかったので、針生検(バネ式)の時に取り切れたのであろうと説明を受けております。
【質問】
①田澤先生はこのような結果を経験されたことはありますか?
②なぜ全摘で、術前と術後の結果がこのようになるのでしょうか?
1か月のタモキシフェン服用で消失することはないと思っています。
やはり、針生検で取り切れたと思われますか?
③針生検から数日後の造影剤MRI画像では、白い小さなものがはっきりと写っていました。
針生検で取り切れたとしたら、この白いものは何で、どこに行ってしまったのでしょうか?
所見の「造影早期層でリング状に濃染され」たのは、何でしょうか?
④手術前日に、エコーを受け、マジックで腫瘍の位置をマーキングしていましたが、その際、腫瘍がないのはわからず、マークしてしまうものでしょうか?
今後も定期検査でにエコー検査を受けるようですが、腫瘍の有無はどの程度わかるのか、心配です。
⑤術前の針生検、もしくは術後の病理検査のどちらかが誤っていた可能性はありますか?
術後は4ミリにスライスした画像のデータを、主治医が見せてくれ、悪いものは何もないとの説明であったとのことです。
⑥病理検査のセカンドオピニオンはまだあまり一般的でない印象ですが、もし、受ける場合、病院はプレパラートの提供等応じてくれるものですか?
⑦摘出した組織、生体はどれくらいの期間保管されているものですか?
⑧良性であった可能性はないですか?
⑨このような結果での治療方針として、タモキシフェン5年ですが、妥当ですか?
関節痛他の副作用を感じているようですが、無治療は不安なので、服用しています。
たくさんの質問で申し訳ありません。
主治医は経験豊富で、丁寧に対応してくださり、妻は信頼しております。
ただ、あまりに予想外の病理結果であったので、動揺しております。
術後抗がん剤をしなくて良いとの診断に喜んでいる一方、術後の病理検査結果は術前と乖離する方も少なくない中で、術後の結果がなく不安でもあるようです。
また、癌は存在せずの乳腺を全摘出してしまったことに、自らの判断ではありますが、今更ながら正しかったのかと思い始めています。
再建後の痛みと違和感を感じながら生活しています。
手術をしない選択肢はなかったし、結果論を言ったところでどうにもならないのはわかっておりますが、気持ちの整理が付いておりません。
標準治療としてはこれで良かったのでしょうか。
田澤先生のご回答で、妻が気持ちに区切りを付けて、今後の長い治療に向き合っていければと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
状況は解りました。
「①田澤先生はこのような結果を経験されたことはありますか?」
⇒あります。
凄く珍しいケースではありません。
現在のように「マンモトーム生検を多くやる」ようになると、しばしば経験します。
有る程度の診療経験の有る医師であれば、誰しも経験していると思います。
☆こういうケースでは「組織診をして、大部分が採取され(更に)残存部分が壊死した(栄養血管も破壊されるので)」という解釈が多くなります。
「針生検で取り切れたと思われますか?」
⇒ その可能性も無いとは言いませんが(バネ式針生検では)物理的に採りきれない様に思います。
やはり、残存部分が壊死したのでは?
「針生検で取り切れたとしたら、この白いものは何で、どこに行ってしまったのでしょうか?」
⇒(その時点では)残存部分が壊死していなかったのかもしれません。(想像ですが…)
もしくは、瘢痕組織が造影されたのかもしれません。
「所見の「造影早期層でリング状に濃染され」たのは、何でしょうか?」
⇒上記コメント通りです。
「腫瘍がないのはわからず、マークしてしまうものでしょうか?」
⇒(壊死しているかどうかは別として)必ず「瘢痕」として認識できます。
それをマーキングしたのかもしれません。
「⑤術前の針生検、もしくは術後の病理検査のどちらかが誤っていた可能性はありますか?」
⇒それは無いと思います。
「⑥病理検査のセカンドオピニオンはまだあまり一般的でない印象ですが、もし、受ける場合、病院はプレパラートの提供等応じてくれるものですか?」
⇒病理のセカンドオピニオンは珍しくはありません。
ただし、(今回のケースのような)「ある。ない。」ではあまり意味がなさそうです。
♯通常は「良性か悪性かという微妙なレベルの解釈」が対象となります。
「⑦摘出した組織、生体はどれくらいの期間保管されているものですか?」
⇒5年くらいは有る筈です。
「⑧良性であった可能性はないですか?」
⇒無いと思います。
☆今回の場合は「良性か悪性か?」ではなく「あるか?ないか?」なのです。
論点が異なるように思います。
「⑨このような結果での治療方針として、タモキシフェン5年ですが、妥当ですか?」
⇒私だったら…
迷わず「無治療」です。
♯「針生検で取り切れてしまう程度の病変だから」という解釈です。
「標準治療としてはこれで良かったのでしょうか。」
⇒ホルモン療法は要らないと思いますし、(もし患者さん側から)「やりたくない」と言われたら、それでも無理に(ホルモン療法を)行おうとはしないでしょう。