[管理番号:1014]
性別:女性
年齢:42歳
質問者様の別の質問質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。 |
田澤先生、先日は診察していただきありがとうございました。
マンモトーム生検も安心して受けることができました。
超音波画像などからがんである可能性が2~3割と聞き、思ったより高いな…と結構ショックでしたが、もしがんだった場合の心構えとして、日本乳癌学会のガイドラインやこちらのQ&Aを何度も何度も読んでいます。
そのなかで質問したいことがたくさん出てきてしまったので、あらかじめまとめてみました。細かすぎる質問で申し訳ありませんが、次回の診察のときにでも教えていただけたら、と思っております。
1.非浸潤がんかどうかは病理検査でも診断をつけるのが難しく、手術標本の検索が5ミリ幅の場合、5ミリ以下の浸潤があってもわからない。非浸潤がんなら(全摘の場合)乳房切除術のみで全身療法は必要ないそうだが、5ミリ以下の浸潤が存在している可能性が捨てきれない以上、全身療法もしたほうがよいか?また対側乳がん発生を防ぐ目的では、全身療法はしたほうがよいか?
2.全摘のメリット→乳房内再発率が減る・リンパ節転移がなければ放射線療法が不要。
全摘のデメリット→見た目が損なわれることのみ、と思っているが、ほかにメリット・デメリットはあるか?
3.「皮膚温存乳房切除術」は「胸筋温存乳房全摘術」にくらべて、局所再発率がどのくらい高くなるのか?また皮膚を温存するメリット・デメリットは何か?
4.リンパ節転移があれば、個数にかかわらず(4個未満でも)、乳房切除術後は胸壁への放射線療法が必要か?
5.センチネルリンパ節生検で、最初にがん細胞が到達するセンチネルリンパ節は、確実に特定できるのか?
6.センチネルリンパ節生検は、ラジオアイソトープ法と色素法の併用か?OSNA法は併用しているか?
7.センチネルリンパ節生検で摘出するのは1個だが、その1個のみに2ミリ以上の集団が存在していれば、腋窩リンパ節郭清が必要という認識でよいか?
8.センチネルリンパ節生検で、2ミリ未満の集団が存在していた場合は腋窩リンパ節郭清は不要だが、たとえば1.9ミリの集団が存在していた場合、すでに次のリンパ節に転移している可能性はないのか?
9.センチネルリンパ節生検に偽陰性があるとすれば、リンパ節転移陰性で腋窩リンパ節郭清を行わなかった場合、領域リンパ節再発の可能性はどのくらいあるのか?
10.領域リンパ節再発は、乳房内再発より予後が良くないのか?領域リンパ節再発でも、リンパ節摘出と全身療法の追加で根治する可能性は高いか?
11.日本乳癌学会のガイドラインで、「再発のリスクを予測する因子」で低リスク群の人でも再発する人がいると書かれているが、低リスク・早期乳がんで局所治療+全身療法をしっかり受けていたとしても根治せず、局所再発・遠隔転移することもあるのか?
12.内分泌療法で服用するタモキシフェンは、下肢静脈に血栓ができたり肺動脈塞栓症を起こしたりすることがまれにあるため静脈血栓症のある患者は使えないとあるが、すでに下肢静脈瘤(無治療)がある場合は、他の薬で代用することになるのか?代用した場合、再発予防効果にまったく差はないか?
13.手術後に行われている定期検査の内容と、その頻度は?
14.人工乳房による再建で使用されているのはコヒーシブシリコン?長期間使用の安全性は確立されているか?
15.人工乳房で再建した場合、10年、20年たつにつれ健側の乳房と高さがずれてきたり、見た目が気になるからと再手術する人は多いのか?
16.エキスパンダーやインプラントは感染に弱いというが、実際に感染する割合はどのくらいあるのか(今までに感染した人はいたか)?
17.インプラントに被膜拘縮が起こる割合はどのくらいあるのか?予防するためにはマッサージを毎日行わなければならないか?
18.週に1時間程度の有酸素運動(閉経後では週に5時間の有酸素運動)で、再発リスクや死亡リスクは減らせるのか?
長くなってしまってすみません。お忙しいところ恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
質問者は「癌の可能性の方が低い」にも関わらず、「多くを勉強」し「疑問点を整理した」訳ですね。
凄いことだと思います。
再建に関しては、「形成外科医」程は詳しくないのでご容赦ください。
回答
「5ミリ以下の浸潤が存在している可能性が捨てきれない以上、全身療法もしたほうがよいか?」
⇒5mmスライスでの検索なので、「理屈」ではそうなりますが…
実際のところ、「浸潤巣が3mm以上あれば」病理の先生が肉眼的に認識できるので「あったとしても、2mm以下」となると思います。
それでは「1mm程度の浸潤癌」で全身療法が必要かというと、「必要ない」場合が多いです。
「対側乳がん発生を防ぐ目的では、全身療法はしたほうがよいか?」
⇒これは確かにその通りです。
ただ、確率的に低いので「治療効果が、副作用や経済的負担などに見合うのか」ということになります。
♯純粋な「対側予防効果」だけでは「釣り合わない」のではないでしょうか?
「術側の再発予防効果を狙って」たまたま「対側予防効果もついてくる」みたいなものであれば「お得」となりますが…
「全摘でほかにメリット・デメリットはあるか?」
⇒無いと思います。
ただし、全摘では「乳房内再発」は起こりません(乳房は残っていないのです)
ただ、全摘でも「局所再発(胸壁皮膚や筋肉、リンパ節など)」はあります。
『「皮膚温存乳房切除術」は「胸筋温存乳房全摘術」にくらべて、局所再発率がどのくらい高くなるのか?』
⇒データ上は「再発率」に差はありません。
ただ症例を選ばなくてはなりません。
・十分早期であり、乳頭から離れている
「また皮膚を温存するメリット・デメリットは何か?」
⇒メリットは(再建時に)「皮膚を伸ばさなくても良い」点や、「乳頭乳輪を残す」ことは「見た目の満足度」が高い。
デメリットは「乳管が連続している」乳頭を残す事は、「厳密な意味での全摘ではない=乳腺が残っている」事となり「局所再発のリスクを高める」
♯但し、この点は「症例を十分選択」すれば、「数字としての差」はでないのです。
「リンパ節転移があれば、個数にかかわらず(4個未満でも)、乳房切除術後は胸壁への放射線療法が必要か?」
⇒1~3個の場合には推奨グレードはBに落ちます。(4個以上はA)
1~3個は「状況次第」となると思います。
再建している場合は「どちらかと言えばかけたくない」となるし、再建無しで「できるだけ、リスクを減らす」と考えれば「かけてもいい」と思います。
「センチネルリンパ節生検で、最初にがん細胞が到達するセンチネルリンパ節は、確実に特定できるのか?」
⇒これは「リンパ管を追っていく」ので確実に同定できます。
データ上も「センチネルリンパ節が正しい」事は立証されています。
「センチネルリンパ節生検は、ラジオアイソトープ法と色素法の併用か?OSNA法は併用しているか?」
⇒これは「当院での話」ですね?
当院では「色素法」単独です。
経験上「色素法で十分、アイソトープ法は無駄」と考えています。
「微小転移で郭清省略」する以上は「OSNAは無用」と思っています。
しかも当院では「病理医が2名も常勤」なのです。
「センチネルリンパ節生検で摘出するのは1個だが、その1個のみに2ミリ以上の集団が存在していれば、腋窩リンパ節郭清が必要という認識でよいか?」
⇒その通りです。
(参考までに)
SLNに微小転移(2mm以下)を認めた場合
これについても「腋窩郭清は省略する」でほぼ意思統一されている。と考えて結構です。
IBCSG 23-01(臨床試験)で934症例での「微小転移症例の非郭清と郭清群との比較」で「生存率も再発率も差がない」ことが証明されています。
これを受けて「乳癌診療ガイドライン」でも「腋窩郭清が勧められる」乳癌ガイドライン推奨グレードBとなっています。
♯Bとはなっていますが、内容的にはAと思います。
「センチネルリンパ節生検で、2ミリ未満の集団が存在していた場合は腋窩リンパ節郭清は不要だが、たとえば1.9ミリの集団が存在していた場合、すでに次のリンパ節に転移している可能性はないのか?」
⇒これは当然、誰しも考えるところです。
これについては、「可能性がゼロでは無いですが」上記の臨床試験の結果、「統計学的に無視できるレベル」とコンセンサスが得られています。
「センチネルリンパ節生検に偽陰性があるとすれば、リンパ節転移陰性で腋窩リンパ節郭清を行わなかった場合、領域リンパ節再発の可能性はどのくらいあるのか?」
⇒そもそも偽陰性は殆どありません。
術中迅速診断で「肉眼的転移2mm以上が見逃される=偽陰性」とすると「ほぼ無い」と思います。
仮に「微小転移(2mm以下)が見逃される=偽陰性」とすると「少数ありますが、これらは(どっちみち)郭清省略だから問題無い」のです。
○私の経験では「センチネルリンパ節生検症例=臨床的N0症例」での「領域リンパ節再発は殆どない」です。
「領域リンパ節再発は、乳房内再発より予後が良くないのか?領域リンパ節再発でも、リンパ節摘出と全身療法の追加で根治する可能性は高いか?」
⇒どちらも局所再発なので、予後には影響しません。
領域リンパ節再発は「局所再発」なので「局所治療=リンパ節郭清±放射線治療」を行えば根治する可能性は高い(全身療法は必ずしも必要ない)
「早期乳がんで局所治療+全身療法をしっかり受けていたとしても根治せず、局所再発・遠隔転移することもあるのか?」
⇒癌である以上「100%」根治するわけではありません。
浸潤癌であれば(どんなに浸潤径が小さくても)数パーセントの再発はあります。
また、非浸潤癌でも(微小浸潤の可能性が残る訳ですから…)同様の事(確率は更に低くなりますが…)です。
「すでに下肢静脈瘤(無治療)がある場合は、他の薬で代用することになるのか?代用した場合、再発予防効果にまったく差はないか?」
⇒下肢静脈瘤がある場合は治療します。
静脈血栓がある訳ではないので、治療すれば「タモキシフェン投与」できます。
閉経前の内分泌療法は「タモキシフェンに替るもの」はありません。
LH-RHagonistは「あくまでもタモキシフェンに上乗せするかどうか」という位置づけです。
「手術後に行われている定期検査の内容と、その頻度は?」
⇒3カ月に1回の診察と超音波、採血(腫瘍マーカー含む)、1年に1回のマンモグラフィーです。
但し、早期で無治療の場合は6ヵ月に1回となります。
「人工乳房による再建で使用されているのはコヒーシブシリコン?長期間使用の安全性は確立されているか?」
⇒その通りです。
発売して2年程度ですので「確立されている」とは言えません。
但し、アメリカで厳格な検査がされている様です。
「人工乳房で再建した場合、10年、20年たつにつれ健側の乳房と高さがずれてきたり、見た目が気になるからと再手術する人は多いのか?」
⇒その位の長期再建例は、まだ珍しい筈です。
しかも、その位の長期患者さんは「乳腺外科に通院しなくなる」ので現状は「形成外科」でないとわかりません。
「エキスパンダーやインプラントは感染に弱いというが、実際に感染する割合はどのくらいあるのか(今までに感染した人はいたか)?」
⇒10%前後だと思います。
感染した方はいらっしゃいます。
大概は「抗生剤内服で改善」する事が多いですが、「抜去した方」も1例経験があります。(そのあたりは形成外科で処置しているのですが)
「インプラントに被膜拘縮が起こる割合はどのくらいあるのか?予防するためにはマッサージを毎日行わなければならないか?」
⇒これは程度の差があるので一概には言えません。
マッサージは毎日行う必要があります。
「週に1時間程度の有酸素運動(閉経後では週に5時間の有酸素運動)で、再発リスクや死亡リスクは減らせるのか?」
⇒運動が有効であることは間違いありません。
体脂肪低下にも貢献するので、推奨されます。
質問者様から 【感想2】
田澤先生、細かい質問に丁寧に回答していただき、ありがとうございました。
マンモトーム生検の結果、がんではなかったということで、ほっとしました。
父と姉の手術が控えているので、確定診断まで最短距離で進めていただけたこと、とても感謝しています。
不安な中、乳がんプラザのQ&Aにたどりつき、田澤先生の真摯な回答を読んですぐに受診を決めましたが、それはわたしにとって幸運なことだったと思います。
がんについて勉強するときも、この乳がんプラザはとてもわかりやすい参考書のようでした。
お忙しい中、Q&Aを運営していくのはとても大変なことだと思いますが、質問者のためにいつもわかりやすく丁寧な回答をしてくださる先生に、心からお礼を申し上げます。
どうもありがとうございました。