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術前化学療法か術後か

[管理番号:531]
性別:女性
年齢:41歳
こんにちは、初めてお問い合わせいたします。
乳癌との診断がでたのですが、術前化学療法(抗がん剤)は副作用の割に効果が期待できないので、術後に病理データから化学療法が必要なら行いましょうと言われました。
手術は3か月後先の順番待ちで、それまでホルモン療法で待ちましょうとの事でした。
■しこり1.6cm(右胸に大きなしこりと米粒程度のガンが合計4個)
■グレード2
■ホルモン感受性 ER86% PgR54%
■Ki67 40%
■HER-2 1+(陰性)
■画像ではリンパ節への転移は見られない(手術しないとはっきりしない)
■ルミナールB
※手術は3か月後の順番待ち
1.今なら皮下乳腺全摘出が出来そうだが、ホルモン療法のみでこれ以上ガンが広がるのが心配です。乳房の皮膚も残せなくなるのが心配です。
2.主治医を紹介してくれた乳腺の医師は術前化学療法は抗がん剤の効き目が分かるが、術後だと効いているのかわからないと言われました。主治医は術後に病理結果で分かると仰せで話が違うため、実際はどうなのでしょうか。(本では術前なら効果が目に見えるが術後はわからないとあります。)
3.手術を待つ3か月間に術前化学治療を行い、その後手術する方法はありでしょうか?
 6か月きっちり化学療法してから手術の方が良いでしょうか?
 ホルモン療法のみで3か月後に手術をまず行うのが良いでしょうか?
ご意見をお聞かせください。
よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 手術が3カ月待ちとは、「不安になる気持ち」は解ります。

回答

「1.今なら皮下乳腺全摘出が出来そうだが、ホルモン療法のみでこれ以上ガンが広がるのが心配です。乳房の皮膚も残せなくなるのが心配です。」
⇒「皮下乳腺全摘」というのが「乳頭乳輪温存乳房切除」なのか「皮膚温存乳房切除」なのかによります。
 乳頭部分を切除する「皮膚温存乳房切除」ならば、(ホルモン療法のみで腫瘍が乳腺内に増殖しても)『皮膚浸潤おこすとは思えないので大丈夫』でしょう。
 ただ「乳頭乳輪温存乳房切除」の場合は、(乳腺内に拡がり)場合によっては『乳頭部分の乳腺まで進展するリスク』があるので、大丈夫とは言えません。
 
「術前化学療法は抗がん剤の効き目が分かるが、術後だと効いているのかわからないと言われました。主治医は術後に病理結果で分かると仰せで話が違う」
⇒この2つの話の内容自体は『実は矛盾していません』
○「術前化学療法は抗がん剤の効き目が解るので、お勧めです」
 これは「術前化学療法を勧めるための」常套句です。
 たしかに、「腫瘍を残した状態で化学療法をする」と「腫瘍が小さくなるのか?はたまた(化学療法が無効で)小さくなるのか?」目で見えます。
 その理屈は確かに「正しい側面」はあります。(実際は、この理屈を術後補助療法に用いるのには無理があります)
 ★あくまでも術前化学療法の絶対的適応は『小さくして温存を狙う』なのです。
 
○「術後だと効いているのかわからない」
 腫瘍は摘出してしまっているので、抗癌剤を投与しても「効いているのか、効いていないのか」の指標が無いのです。
 ただ、「術後の補助化学療法」は、もともと「再発予防目的」なので、「効果を目で見て確認する」というたぐいのものではありません。
 
○「化学療法の適応については、術後の病理検査結果で解る」
 これは「術後の病理結果で、再度Ki67値をカウントして、化学療法の適応を決める」という意味です。
♯術前の針生検でのKi67値は「あくまでも、仮」であって、『病変全体で評価している訳ではない』ことに注意が必要です。
 これに対して「手術標本では、病変全体での代表的な部分でのKi67値(真のKi67値)を測定できる」のです。
   
 ★術後、摘出した病変全体を代表した「真のKi67値」によるluminal AとBの判定結果を行った上で
 Luminal A⇒ホルモン療法のみ
 Luminal B⇒ホルモン療法+化学療法併用
 を判断するのです。
 
「3.手術を待つ3か月間に術前化学治療を行い、その後手術する方法はありでしょうか?」
⇒それは困難です。
 まず、化学療法終了直後に手術をすることはできません。(最低3週間、4週間程度はインターバルが必要なのです。)
 つまり、現実には2カ月間しか「化学療法ができない」という事態となります。
 回数的に「中途半端」となります。
 もともと「Luminal type」は(AにしろBにしろ)化学療法の「劇的な効果は期待できない」わけですから「何とも中途半端な治療」となってしまいます。
 
「6か月きっちり化学療法してから手術の方が良いでしょうか?」
⇒「化学療法は効果がある筈」という誤った認識です。
 術前化学療法の絶対的適応は、あくまでも「小さくして温存」目的なのです。
 質問者のケースでは当てはまりません。
 
◎術前ホルモン療法は、本来「ガイドラインでは認められていない」(推奨度C2 基本的に勧められない)
 『閉経前乳癌に対する術前内分泌療法は化学療法禁忌例や拒否例以外では臨床試験でのみ行われるべきである』
 ただ、今回のケースでは「手術まで3カ月間というやむを得ない事情」に対する緊急処置として行っている意識が、その担当医には求められます。
 
★以上、私の正直な感想は(本来推奨されていない)「閉経前の術前内分泌療法」でもなく(適応外である)「術前化学療法」でもなく、『手術先行』すべきです。
 しかし現実に「3カ月待ち」という不利益が生じていますが、それはご本人の「ブランド病院を選択したことによる自己責任」と(厳しいようですが)考えるしかありません。
 
 

 

質問者様から 【質問2 抗がん剤の効果について】

こんにちは、質問に対して詳細のご意見をいただきありがとうございます。
とてもわかりやすかったです。
ご意見をいただいたうえで、ご質問させてください。
1.乳頭乳輪温存&皮膚温存切除術と一期同時再建を望んでいます。
 術前に抗がん剤をすれば、もしそれが効き目があるならば乳管へのこれ以上の広がりを防げる、リンパ節への転移を防げるつまり癌の進行を遅らせられませんでしょうか?3月にしこりを感じてからしこりがだんだん大きくなっているのを感じます。何より恐れているのはガンの転移、乳管への進行です。抗がん剤にはガンの進行を止める効果はないのでしょうか?
2.自家組織による同時再建をできる病院は、住んでいる市内にはないと言われ、県外の病院へ行きましたが、再建の形成外科が混雑しているとの事でした。病院から紹介状をいただけのに1週間ほどかかりますが、それでもすぐに手術をしてくれる病院を別途探してみるのもひとつということですね?
3.乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘出&自家組織の同時再建をしている病院を探すのにおすすめの方法はありますか?(今の病院は図書館で読んだ本に載っていた病院で、癌支援センターに手術について問い合わせして伺いました。)皆さんはどうやって病院とめぐりあっているのでしょうか。
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘+自家組織による同時再建ですか。
 それでは、施設も限られるでしょう。
 ただ、「乳房再建」と「乳癌の根治性」はどうしても「手術までの期間を含めて」両立しない場面があります。
 そこは、ある程度「覚悟の上」で考えるべきです。
 ご自分で選択された結果なのであり、「誰のせいにもできない」事は(厳しいようですが)後悔しない様に考えておくべきです(勿論、そんな事を言われるまでも無く葛藤があったとは思いますが…)
 我々乳腺外科医からすると、「美容的な面を求めることで」癌の根治性が損なわれるならば、それは『本末転倒』と思っています。

回答

「術前に抗がん剤をすれば、もしそれが効き目があるならば乳管へのこれ以上の広がりを防げる、リンパ節への転移を防げるつまり癌の進行を遅らせられませんでしょうか?」
⇒もちろん、質問者が術前化学療法を選択した場合には「本来の適応」ではなく、それ(癌の進行を止める、もしくは消退させる)が目的となります。
 
「抗がん剤にはガンの進行を止める効果はないのでしょうか?」
⇒質問者は「何か勘違い」をしているような気がします。
 抗がん剤は「効果があれば」癌の進行を止めますし、「効果が無ければ」癌は進行します。それは「やってみないと解らない」のです。
⇒抗がん剤は「必ず効く筈という誤解」があるのでしょうか?
 Luminal typeであれば、「劇的な効果」は期待できません。
  
「すぐに手術をしてくれる病院を別途探してみるのもひとつということですね?」
⇒その通りです。
 明らかに「術前化学療法の本来の適応外」であり、「手術先行」な訳ですから、手術は早いに越したことは無いのです。
 
「乳頭乳輪温存皮下乳腺全摘出&自家組織の同時再建をしている病院を探すのにおすすめの方法はありますか?」
⇒ホームページから探すしか無いとはおもうのですが…
 質問者がどちらにお住まいかわかりませんが、一応東京と埼玉で「乳頭乳輪損損皮下乳腺全摘」を行っている施設一覧です。(更に自家組織で対応可能かどうかは、直接問い合わせるしかないでしょう)
 
【東京】
日本医科大学付属病院
http://hosp.nms.ac.jp/
東京医科歯科大学医学部付属病院
http://www.tmd.ac.jp/medhospital/
公益財団法人 佐々木研究所付属 杏雲堂病院
http://www.kyoundo.jp/
順天堂大学医学部付属順天堂医院 乳腺センター
http://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/mammary_glands/treatment.html
聖路加国際病院 /ブレストセンター
http://www.luke-bc.net/index.html
虎の門病院 /乳腺内分泌外科
http://www.toranomon2.com/
ナグモクリニック 東京
http://www.nagumo.or.jp/tokyo
日本赤十字社 武蔵野赤十字病院
http://www.musashino.jrc.or.jp/
 
【埼玉】
埼玉医科大学国際医療センター /形成外科乳腺腫瘍科
http://nyuubousaiken.sakura.ne.jp/
北里大学 北里研究所病院 /ブレストセンター
http://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/section/center/breast/peculiarity.html