[管理番号:283]
性別:女性
年齢:45歳
胸の谷間に近い場所に4センチ越えのしこりがあります。先日、しこりの生検と胸骨近くのリンパ腺の針生検をしました。
乳房からの生検は麻酔のおかげで痛みはほとんどなかったのですが、リンパ腺の針生検の際、激しい痛みに襲われました。
針を刺して、ポンプのようなもので素早く吸引しているような感じでしたが、その時の痛みがあまりにも強く驚きました。
検査の後、冷や汗が出て、血圧も下がり、吐き気がしました。
検査後は痛みは取れました。
医師はこの検査は痛みがあまりないものだと言われていたので、心配です。
検査後、2日ほ ど経ちますが、針を刺した左側の鎖骨あたりに違和感を感じています。
リンパ腺の針生検でこのような強い痛みが出ることはあるのでしょうか?
あるいは、病状が原因でこのような痛みにつながったのでしょうか?
生検の日はさらに造影剤を使ったCTを撮りました。
来週は骨シンチとMRIの予定です。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
メール内容からすると、「乳腺の内側にある腫瘍」と「胸骨傍リンパ節:parasternal lymph node:PS(以下PSと略します)」の針生検ということですね。
それでは回答します。
回答
「リンパ腺の針生検でこのような強い痛みが出ることはあるのでしょうか?」
⇒本当に針生検でしょうか?
「乳腺の腫瘍」は当然「針生検」だと思いますが、「PS」はかなり危険な場所(血管や肺の側)なので、細胞診ではないでしょうか?
針生検の場合には「針も太い」ので、合併症のリスクを考えて「針生検」は選択しないのではないかと思います。
「細胞診」であれば、原則麻酔をしないので、(それでいて、かなりグリグリしないと細胞が取りにくいので)そのグリグリが痛かったのではないかと想像します。
「病状が原因でこのような痛みにつながったのでしょうか?」
⇒病状とは全く関係ありません。
上述したように、(細胞診の場合には、麻酔なしで「グリグリ」するので痛かったのだと思います。)
◎腫瘍が内側にあるので、PSが腫れているのだと思います。
PSは手術では摘出しない部位なので、「術後に」放射線照射の対象となります。
※但しPSの照射は「心臓に近いため」不完全となりやすく、その際には「通常のリニアックによる照射」ではなく、「トモセラピー」による照射を是非勧めます。
質問者様から 【質問2】
先日の質問への回答、ありがとうございました。
リンパの検査は、胸骨傍穿刺吸引細胞診でした。
吸引の際、かなり強い痛みに襲われましたが、今は落ち着いています。
1月下旬にインフルエンザにかかり、治って落ち着いたかなぁと思った2月上旬ころ、胸の谷間に近く真ん中より下あたりに2-3センチのしこりを見つけました。
その時は弾力がある感じでウズラの卵のような印象でした。
不安になったものの、感染したのが原因で何かできたのかも、と言い訳し、しばらく放置していました。3月になり大きくなっているのを感じました。
3月末、生理の2日前くらいに、しこりが急にパンとはった感じになり、多少痛みも出てきました。明らかに大きく、固くなっていました。
4月2日に初めて受診しました。その日のうちに超音波検査、血液検査、尿検査をしました。
しこりの大きさは4.3センチで大きな黒い影になっていて、その中に1センチちょっとくらいの白っぽい丸いものがあり、その白っぽい丸い中に、小さめの黒い丸が2個ほどありました。
先生は、私のしこりは複雑な構造をしている、と言われておりました。
小さい部分が、がんの疑いのある腫瘍で、周りの大きな部分は出血かなにかで液体のようなものだろうとのことでした。
4月9日に2度目の受診で、マンモトーム生検と胸骨傍穿刺吸引細胞診をしました。
1度目の超音波の際、リンパがはれていたそうで、でも2度目の受診の際ははれていなかったので女医の先生は細胞診を止める判断をしたのですが、上の先生がやる、との判断で行いました。同じ日の午後には、造影剤を入れたCT画像撮影をしました。
そして、14日の今日、骨シンチと造影剤を入れたMRI検査をしました。
検査のフルコースです。この間にもしこりは少し大きくなったような、はって固くなったような気もします。じんわりとですが痛みもあります。
17日にすべての結果について先生からお話がある予定です。
一度、悪性を疑っている、と言われてはいるものの、自分では受け止められずにおります。
万が一、リンパや骨に転移していたりしたらと思うと、そんな告知を受け止められるのかと不安でいっぱいです。
8月には中学生になった娘と一緒にフロリダ旅行を計画しています。乳がんだったとして、8月に海外旅行へ行くことは可能なのでしょうか。医師に相談し、旅行に行けるように治療計画をお願いしてもよいものでしょうか。
(2015年4月の質問)
田澤先生から 【回答2】
おはようございます。田澤です。
再度のメールありがとうございます。
状況が随分はっきりしてきました。
腫瘍が「出血・壊死」したようですね。
そのような状況は「腫瘍が急速に増大する」際や(今回は当てはまりませんが)「術前化学療法などで抗癌剤の効果で腫瘍内部が崩壊」した際に、しばしば経験します。
それでは回答します。
回答
「しこりが急にパンとはった感じになり、多少痛みも出てきました。明らかに大きく、固くなっていました」
⇒この際に、腫瘍が「出血、壊死」をしたと思います。腫瘍は増殖の過程で壊死を起こし崩れ「出血、壊死」を起こす事があります。この際には、「急に大きくなり、張り感が増強」します。
その際の「固さ」は「腫瘍による硬さ」ではなく、「液体の緊満した硬さ」です。
「胸骨傍穿刺吸引細胞診をしました。1度目の超音波の際、リンパがはれていたそうで、でも2度目の受診の際ははれていなかったので女医の先生は細胞診を止める判断をしたのですが、上の先生がやる、との判断で行いました」
⇒腫瘍が内側にあり、(メール内容からすると、胸骨傍リンパ節:parasternal lymphnode:以下PSと略します)に近いようなので、「PS転移の有無」については「今後の治療をする上で」重要なこととなります。
- 「2度目の受診の際には腫れていなかった」
:初回よりは小さくなっていたのであれば、「PSの腫大は(非転移性)反応性」の可能性が十分にあります。
(ただし、その後の治療方針に影響するため)そこをはっきりさせるために「小さくなっていた」とは言え、細胞診に踏み切ったのでしょう。
※ただ(場所的に危険な部位であるため、思い切った操作が困難なため)細胞診結果が「検体不適性(細胞採取不良)」となるかもしれません。
『(PSに転移が見つかった場合に)治療方針にどう影響するか?」』(N2以上となり、自動的にステージが3となるのですが、通常のステージ3とは随分意味合いが異なってきます。:腫瘍がPSに近い事が考慮されます)
- PSは手術の摘出範囲からは外れます。
- PSが有る場合には(全身療法も大事ですが)「術後の放射線治療」の重要性が際立ってきます。
⇒PSは(心臓に近い部位にあり)通常の「リニアック照射」では線量が不十分となります。
そのためIMRT(ピンポイント照射)である「トモセラピー」を推奨します。
「乳がんだったとして、8月に海外旅行へ行くことは可能なのでしょうか。医師に相談し、旅行に行けるように治療計画をお願いしてもよいものでしょうか。」
⇒全く問題はありません。
局所療法である「手術(もしPSに転移があれば)+術後照射」をしてしまえば、後に続く全身療法(ホルモン療法にしろ、抗癌剤にしろ)は再発予防目的となり、(どのようにでも)スケジュール調整はできます。
※「ご本人の症状・経過」からすると、「遠隔転移:骨や肝、肺など」は無いと思いますが、万が一あったとしても「十分に調整のできる範囲」となります。
私の考え方(参考までに)
検査結果が出てない状態で「もし、PSが転移だったら…」みたいな「仮定の話」をするのは(本来、良くはないですが)敢えて参考までに記載します。
(PSが転移だったら)術前化学療法の話がでるかもしれません。
⇒(PS転移を全身療法の対象として、まず抗癌剤をやって)そして手術という考え方です。
間違ってはいませんが、「術前化学療法の絶対的適応は(乳房温存)目的であることを忘れてはいけません」
私であれば、(PSはあくまでも局所治療の対象の一つ」と捉え、(あくまでも手術先行とし)術後にトモセラピーで治療します。
全身療法は(腫瘍のサブタイプによっては、ホルモン療法か化学療法、あるいは両方)となりますが、それはあくまでも「再発予防」目的との位置づけとなります。
(「目に見えない全身に広がっているかもしれない癌細胞」はあくまでも仮説にすぎません)
◎つまり局所療法をしてしまえば、(その後に続く)「全身療法」は「十分融通の効く」ものであり、「海外旅行」も全く問題ないのです。
★ひとつ私が気になる点は、「初診時に(明らかに癌を疑っておきながら)組織検査を1週間も先に行っている」ところです。
また、「(若い?)女医さんが担当医で、もうひとり上の先生が診療に出てくる様子」を見ると、「大学病院か大病院」らしい様子がうかがわれます。
今後の診療が「スピード感に欠けない、責任を持った正しい」診療となる事を願っています。