[管理番号:221]
性別:女性
年齢:40歳
田澤先生
はじめまして。
私の妻が乳がんの要精密検査(石灰化 カテゴリー4)の診断を受けて以来、何度も何度もここを訪れ、拝読しております。
針生検、その後のMRIの結果、非浸潤がんとの結果でした。
グレード 1
エストロゲンレセプター(+)
プロゲステロン(+)
HER2 スコア3
との結果です。
場所は左胸の乳輪に近い上部外側、範囲は2.8cmとのことで、医師には「ギリギリ温存はできるが形が崩れる可能性が高い」と言われております。
妻も私も、全摘の方向で考えております。
少ない情報ではありますが、田澤先生のアドバイスを頂戴したく、メールさせていただきました。
何卒アドバイスのほど、よろしくお願い申し上げます。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
御心配なことと思います。
「何度も何度もここを訪れ」というのを拝見しますと、「しっかり現状に向き合って、自ら理解し前にすすむ」という姿勢に頭がさがります。
こちらこそ「乳がんプラザ」がお役にたてれば幸いに思います。
それでは回答(私の考え方)します。
回答(私の考え方)
「非浸潤癌で範囲が2.8cm」
⇒(実際に私が診療しているとしたら)まずは「温存ができる」という話から入ります。
「乳輪に近い上部外側、範囲は2.8cm」
(私が推測するに)石灰化を伴う非浸潤癌であれば、(乳管に沿って)「末梢の方向への2.8cmの拡がり」だと思います。
これだと、(末梢部分は乳腺が薄くなってくるので)温存術をしても変形は意外と目立ちません。(しかも非浸潤癌なので皮下脂肪を取る必要が無いので皮膚を厚く残せるのも有利です)
※何が言いたいのかというと、「同じ2.8cm」でも「乳腺の中央付近の腫瘤だった場合」、(乳頭付近の)乳腺の厚みのある部分の切除⇒かなりのvolume loss⇒(温存後の)変形となります。
★「乳腺」をイメージする時には「富士山」を想像するといいでしょう。
「山の頂上=乳頭部」から「末梢=山の裾野」にかけて、どんどん乳腺は薄くなり、volumeは小さくなっていきます。
◎ただし、「妻も私も、全摘の方向で考えて」
⇒これが間違っているかというと、そんなことはありません。「正しい」判断だと思います。
非浸潤癌で乳腺全摘出をすると「根治」となり、その後(理論上)再発のリスクはありません。
「治療を優先」するのであれば、「これ以上無い、最上の治療」です。
●「癌が治った」と言える、数少ないチャンスでもあります。
非浸潤癌で「温存術⇒術後照射」しても「再発率は極端に低い」ので、一般には「温存術を選択」する方が多いですが、「きちんと勉強」して「自分が何を望んでいるのか? 形なのか、根治性なのか?」まで理解した上で「自らの意思で治療法を選択」する方は「乳房全摘」を選択するケースも結構多いです。
乳房(同時)再建のいい適応ではありますが、「今回は治療だけ」と割り切って(後日の)「2次再建」という方法もあります。(そこは本質的な問題ではありません)
「組織型について」
グレード 1
エストロゲンレセプター(+)
プロゲステロン(+)
HER2 スコア3
という記載がありますが、通常「コメド壊死を伴う」非浸潤性乳管癌であれば、グレード(核グレードだと思いますが…)は2か3が多いのですが「核グレード1」は意外に感じました。
※「HER2 スコア3+(非浸潤癌なので参考値)」であれば、尚更「グレード3」が多いと思います。
◎「非浸潤癌」というのは「大人しい癌」ではなくて「早期の癌」です。
治療が不完全だと、「浸潤癌として再発」するリスクは当然あります。(癌細胞の性格が大人しい訳ではないのです)
↓
「早期発見に勝る治療はない」
質問者の「全摘の方向で考えて」という方針を私は支持します。
質問者様から 【感想】
田澤先生
早速のご回答、誠にありがとうございます。
妻共々、勇気が湧きました。
ここは日本で唯一の「乳がん駆け込み寺」ですね。
取り急ぎ、御礼まで。感謝いたします。
質問者様から 【質問3】
田澤先生
以前、「温存か全摘か・・・」でアドバイスいただいた者でございます。
妻共々、勇気をいただき、何と救われたことか。
妻の手術は無事に全摘・再建が終わり、病理検査の結果が出てまいりました。
当初は非浸潤癌とのことでしたが、浸潤性乳管癌との結果でした。
私どもにはまだ幼い子供が居り、「温存も可能」との医師からの診断も、
「この子のために不安を残す訳にはいかない。全摘して癌とは綺麗さっぱりおさらばしたい」
との決意で全摘を選択した妻の勇気を私は誇りに思いますし、またそれだけに妻のショックたるや計り知れません。
何としても再発せぬよう、最善を尽くす所存です。
再度アドバイスを頂戴いたしたく、お願い申し上げます。
以下、検査結果でございます。
浸潤性乳管癌
リンパ節転移 陰性
大きさ(浸潤型)0.8cm
範囲 4.2cm
核異型度 1
組織異形度 1
リンパ管・脈管侵襲 あり
Ki67 18.7%
ホルモン感受性 あり
HER2 あり
断端 陰性
以上が現在頂いている結果です。
主治医からは、「ハーセプチン&抗癌剤は避けてホルモン療法だけでよいのでは。」と言われております。
HER2陽性でもをハーセプチンを推奨されないケースもあるのでしょうか?
田澤先生でしたら、どのような治療を推薦いただけますでしょうか。
アドバイスのほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「術前に非浸潤癌との診断」⇒「術後に浸潤部分が見つかった」がっかりされる気持ちは良く解ります。
ただ、pT1b(8mm), pN0, NG1
非浸潤癌と同等とはいいませんが、「限り無く再発低リスク」である事も間違いありません。
回答
『主治医からは、「ハーセプチン&抗癌剤は避けてホルモン療法だけでよいのでは。」と言われておりす。』
⇒これは十分に理解できます。
NCCNのガイドラインにもあるように「例えHER2陽性」でも
×浸潤径5mm以下では適応なし
△浸潤径6-10mmでは「効果と副作用を天瓶にかけるべき」となり
○浸潤径10mm超では「抗HER2療法をするべき」となります。
なぜ、この様になっているかは
①HER2陽性でも10mm以下の腫瘍径では『非常に予後良好』である事が解っている
②『10mm以下という腫瘍径』は「抗HER2療法(化学療法+ハーセプチン)の有効性」が証明された集団には殆ど無い腫瘍径である
という理由からです。
「HER2陽性でもをハーセプチンを推奨されないケースもあるのでしょうか?」
⇒まさに上記のとおりであり、「浸潤径5mm以下では行わない」し「6-10mm」では要検討なのです。
「田澤先生でしたら、どのような治療を推薦いただけますでしょうか。」
⇒私であれば、「質問者達の希望」が「再発リスクを極限まで減らしたい」点にあることを考慮します。
年齢も若いので、ハーセプチンや化学療法などの副作用に対する認容性も期待できます。
私であればTCx4⇒ハーセプチン1年を推奨します。 (ハーセプチンは必ず通常の化学療法を併用すべきであり、ハーセプチン単独は厳に慎むべきです)
○HER2陽性に対する「抗HER2療法」は「トリプルネガティブやルミナールBに対する化学療法」とは全く意味が異なります。
有効性が「十分証明されている」ターゲット療法なのです。