[管理番号:172]
性別:女性
年齢:43歳
いつもお世話になります。
まだCTとMRIはこれからですが、細胞を取ったところ、リンパ転移もあり、ステージ2b、遠隔転移があればステージ4と診断されました。
毎日ネットにかじりついてしまいます。先生は三大療法が大事であるとおっしゃっていますが、オ○コ○ジ○はどうですか?最先端医療と聞きますが、これも代替療法ですか?
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
ステージ2bの乳癌と診断(CTはこれからとの事ですが、ステージ4の可能性は決して高くはありません)されたとの事
情報が溢れる中で、「切らない方法、独自の放射線治療」に魅力を感じたのかもしれません。
質問者からは「追加のメールで、ある特定の施設・団体」を名指しされていますが、ここでは「私がそれを承知の上で」一般論として回答します。
少々、長くなりますが辛抱して読んでください。
回答
「切らない方法、独自の放射線治療」となっていますが、要は「放射線療法」です。「ピンポイント照射」と言う意味では(詳細は不明ですが)当院でも行っている「トモセラピー」に近いのかもしれません。
放射線科医が「ピンポイント照射」を用いて、○○癌に有効である。
⇒当たり前の話です。「乳癌が放射線感受性が高い」事は、我々にとって「常識」です。
問題は、本当に「(ピンポイントの)放射線治療単独が、標準治療(手術や放射線、薬物療法)と同等、もしくは優れているのか?」という事です。
乳がんでも「脳転移」や「縦隔リンパ節転移」などには以前から(ピンポイント照射である)「γナイフやサイバーナイフ」が有効であることは解っています。
以下、これらを「ピンポイント照射」と総称してお話しします。
(乳腺にある)「乳がん原発巣そのもの」にも「ピンポイント照射」は有効でしょうか?
⇒私自身、試した事はありませんが(放射線感受性の高い)乳がん原発巣にも有効なことは予想できます。
「乳がん原発巣そのもの」に有効だとして、「手術よりも優れている。または手術と同等」と言えるのでしょうか?
⇒そうではありません。
「放射線照射は手術より優れている。もしくは同等」という証拠は全くありません。
「ピンポイント照射はどう思われますか?」
⇒手術より優れているとは思いません。
手術で病巣を「確実に」切除することに匹敵するとは思いません。
ただ、(何もしないよりは)有効な治療だとも推測できます。
もし、あなたが「どうしても手術をしたくない」けど(手術に劣ることは承知の上で)「病巣にも(手術以外の何か)治療をしたい」と望むなら、(他の代替療法よりは)推奨できます。
ただ、あなたが「手術と同等以上の効果を期待」しているとしたら、それは誤りだと思います。
もし私の家族であれば、「手術の傷と命どちらを優先するか?」として「当然、手術を選択」してもらいたいと思います。
代替療法について
「胸に傷をつける事を避けたい」これは女性にとって大事なことであることは解ります。
当然、そこを狙って(手術に替わる)「代替療法」が試みられてきました。
「RFA:ラジオ波熱凝固療法」「凍結療法」「MRgFUS:MRガイド下集束超音波療法」など、今でも行われています。
ただ、「再発が多い」ことや「有効性が証明されていない」ことなどから、乳癌学会ガイドラインでは推奨度はC2(基本的には勧められない)となっています。
それでも、「どうしても手術がしたくない人たち」にとっての「受け皿」となっている現状があります。(それでも非科学的なキノコなどよりはマシだとは思いますが…)
結果、多くの(手術をしていれば、避けられただろう)悲劇に会っていることもまた想像できます。(全員ではないでしょうが…)
◎手術をしないで「ピンポイント照射」することも、これら「代替療法」と何ら変わりません。(ある程度有効だとは思いますが、手術より根治性の面で優れている証拠がありません)
◎「どうしても手術をしたくない」という女性がいる事は私も承知しています。
その方たちのニーズが「これら代替療法」にある事も理解できます。
「(RFAにしろ、凍結療法にしろ、MRgFUSにしろ、今回のピンポイント照射にしろ)何もしないよりは有効」である事も事実でしょう。
私の感想 (特定の施設に対するものではありません)
「手術をしなくても癌は抑えられる」「抗癌剤をしない方が、免疫力の低下がなく、むしろ癌の根治に有利かもしれない」「独自の(ピンポイント)放射線技術だ」
これらは、患者さんにとって「耳にここちよく響き、(すがりたい)信じたい甘い蜜」なのだと想像できます。
「標準治療よりも、愛する放射線治療」に絶対の信頼をおいている放射線科医もいるでしょう。(商売を別にしても)悪気はないのかもしれません。
しかし「本当に患者さんに責任を持てるのでしょうか?」
「自分が信じているからと言って、本当に患者さんを不幸にしないか?」と疑問に思わないのでしょうか?
(私をはじめとして)乳腺外科医は皆、「標準治療」を行います。
それは「自分の思い込みで」患者さんを不幸にすることを恐れているからです。
「標準治療」を無視してはいけません。
「耳に心地よい。(できれば)信じたい」という「誘惑」に負けてはいけません。
標準治療は、あくまでも「治療に有効であることを証明しながら作られてきた世界標準の」人類の英知なのです。
「乳癌」を甘く見てはいけません。
私は「本当に沢山の悲劇」を見てきました。
「ある程度有効」ではない、「最善の」治療を是非勧めたい。
それが「標準治療」です。
そんな標準治療が、「(保険制度によって)誰にでも享受できる(世界でも類をみない)」素晴らしい日本に住んでいるのですから。