[管理番号:2994]
性別:女性
年齢:53歳
田澤先生、はじめまして。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い致します。
今年3月初旬に右胸乳頭下に自分で触わりしこりを発見しました。
すぐに近くの病院にかかりエコーと針生検を行いました。
結果は以下の通りになります。
超音波エコーの結果(3月初旬):
乳腺:右乳E域に17.2×18.0×13.0mmと
その4時方向に14.0×7.9×8.8mmの低エコー腫瘤。
両腫瘤とも形状不整形、境界明瞭粗造、内部に高エコースポット、血流信号認める。
腋窩リンパ節:右腋窩に最大6×7mm大の腫脹したリンパ節を数ヶ認める。
針生検の結果(3月初旬):
1.E領域(3小片を含む)
間質の繊維化と炎症細胞浸潤を伴いながら、索状主体の浸潤性増殖を示す乳管癌を認める。
硬癌が示唆される。
HER2: 3+ 陽性、 ER: 10%以上,中等度、 PgR: 陰性
2.EB領域(2小片を含む)
微小乳頭状の増殖パターンを示す乳管癌が、空虚なスペースに浮遊するように密に観察される。
浸潤癌の像である。
浸潤性微小乳頭癌の可能性を考える。
HER2: 3+ 陽性、 ER: 陰性、 PgR: 境界域1~5%未満,軽度
上記のような検査結果でした。
医師からはステージⅡbの乳癌で、大きなしこりから手が伸びて娘結節を造り、更にその娘結節から手が伸びようとしている状態であるとの説明を受けました。
4月中旬に右乳房切除、右腋窩リンパ節隔清の手術を受けました。
病理検査の結果は下記のとおりです。
Location ABE, ca.=28×15mm
Invasive ductal carcinoma, scirrhous carcinoma (sci>pap), with an invasive micropapillary carcinoma component, nuclear grade=3, f, ly2, v0, pN1a(2/13), surgical margin(-)
組織学的にはinvasive ductal carcinoma, papillotubular carcinoma由来の
広義の scioohous carcinoma が見られる。
周囲にはinvasive
micropapillary carcinoma (IMPC)のcomponentも見られる。
核異型度は核異型がやや高度でscore3、核分裂像の数は38個/10HPFs(対物SWH10/26.5)で、score3で、unclear grade=3
浸潤は脂肪織におよんでいる。
腋窩リンパ節に転移を認める(2/13)。
転移巣にはIMPC成分が見られる。
ER: 3(PS)+3(IS)=6(TS) J-score=3a 陽性 15%程度
PgR: 0(PS)+0(IS)=0(TS) J-score=0 陰性 0%
HER2: 3+ 陽性
Ki67:68%
そこで質問です。
1.手術後の病理結果からどのステージに分類されますか。
手術前と同様にⅡbで良いのですか。
2.(浸潤性微小乳頭癌を含む癌であることを踏まえて)5年及び10年生存率は何%になりますか。
3.今後の治療は以下の順序で進めると説明されました。
・FEC(5-FU+ファルモルビシン+エンドキサン)…3週間毎に4回
・ドセタキセル+ハーセプチン…3週間毎に4回
・放射線
・ハーセプチン…(9ヶ月)
・ホルモン剤
(浸潤性微小乳頭癌を含む癌であることを踏まえて)標準的な治療の範囲内で、他に候補として考えうる抗がん剤があれば教えていただきたいです。
また、そうした候補がある場合、適用予定の抗がん剤との効用や副作用の違いが少しでもあれば教えていただきたいです。
加えて、臨床段階の抗がん剤の中でリスクを問わず少しでも効果が期待できるものがあれば教えていただきたいです。
最後に、田澤先生でしたらどのような治療方針をたてられますか。
4.放射線治療は行った方が良いのでしょうか。
放射線治療を行う場合はリニアック、トモセラピー等のうちどのような機器を用いるのが効果的ですか。
5.ホルモンレセプターはERのみ15%しか陽性ではないのですが、それでもホルモン剤は用いた方が良いのですか。
6.たとえ浸潤性微小乳頭癌が一部しか含まれていなくても、分類上は浸潤性微小乳頭癌になるのでしょうか。
7.「転移巣にはIMPC成分が見られる」としか記載がありませんでしたが、リンパ節の癌は100%IMPCで構成されているということなのでしょうか。
リンパ節にIMPCが転移しているということは、すでにIMPCが体中に微小転移している可能性が極めて高いということなのでしょうか。
8.浸潤性微小乳頭癌を含む癌であり、リンパ節転移が2個、リンパ管侵襲ly2、HER2が3+、ki67が68という事実を鑑みるに遠隔転移をきたす可能性が極めて高いと思われてしまうのですが、将来遠隔転移をきたす可能性は何%程度だと考えられますか。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
私は「きちんとしたエビデンスが無いのに」特殊型(微小乳頭癌やmatrix producing
tumorや扁平上皮癌など)を悪者にする考え方には全く同意していません。
通常の組織型と同等に扱ってください。(治療法も勿論一緒です)
「1.手術後の病理結果からどのステージに分類されますか。手術前と同様にⅡbで良いのですか。」
⇒pT2(28mm), pN1, pStage2B
その通りです。
「2.(浸潤性微小乳頭癌を含む癌であることを踏まえて)5年及び10年生存率は何%になりますか。」
⇒微小乳頭癌を含んでいる事など無関係です。今すぐ忘れましょう。
抗HER2療法は2008年から術後補助療法の適応となったので長期予後は判明していません。
3年生存率は92%となります。
「(浸潤性微小乳頭癌を含む癌であることを踏まえて)標準的な治療の範囲内で、
他に候補として考えうる抗がん剤があれば教えていただきたいです。」
⇒微小乳頭癌は無関係ですが…
他には「非アンスラサイクリンレジメン」です。
①パクリタキセルとハーセプチンを毎週投与(12回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
これは、ハンドブックにあるスタンダードレジメンとは異なり「AC療法を行わない」やり方です。
「最初の12回の毎週通院」は「通院は大変」ですが、「副作用は格段に楽」です。
その後のハーセプチン単剤には副作用はありません。
②ドセタキセル+エンドキサン+ハーセプチン(4回)⇒ハーセプチン単剤(14回)
これは、「全て3週毎通院」となります。
①と比較すると「通院回数が少ない」ことが利点ですが、「副作用は①よりは、やや強い」と言えます。
効果に関しては①との直接比較はありませんが、「パクリタキセル(毎週12回)=ドセタキセル(3週投毎投与4回)」と考えると②の方が「エンドキサン分」上乗せされると思います。
③ドセタキセル+カルボプラチン+ハーセプチン(6回)⇒ハーセプチン単剤(12回)
これも「全て3週毎通院」となります。
カルボプラチンが唯一乳癌の適応を通る使い方です。
「また、そうした候補がある場合、適用予定の抗がん剤との効用や副作用の違いが少しでもあれば教えていただきたいです。」
⇒アンスラサイクリンレジメンよりは副作用は少ない(特に①はかなり楽に感じられます)し、有害事象としての「心毒性」もないのが利点です。
効果にかんしては「直接比較」はありません。
「加えて、臨床段階の抗がん剤の中でリスクを問わず少しでも効果が期待できるものがあれば教えていただきたいです。」
⇒適応のある薬剤で治療は行うべきです。(決して、適応外治療は考えない事です)
「 最後に、田澤先生でしたらどのような治療方針をたてられますか。」
⇒効果を確実に狙いたいのなら、(現状の)アンスラサイクリンレジメンです。
副作用を避けたいのならば①
その中間ならば②です。
「4.放射線治療は行った方が良いのでしょうか。」
⇒リンパ節転移2個ならば私なら行いません(4個以上だと推奨度A)
「放射線治療を行う場合はリニアック、トモセラピー等のうちどのような機器を用いるのが効果的ですか。」
⇒完全な「予防照射」なのでリニアックでも十分です。
「5.ホルモンレセプターはERのみ15%しか陽性ではないのですが、それでもホルモン剤は用いた方が良いのですか。」
⇒当然です。
1%でもあれば当然行います。
「6.たとえ浸潤性微小乳頭癌が一部しか含まれていなくても、分類上は浸潤性微小乳頭癌になるのでしょうか。」
⇒違います。
優勢の組織型(硬癌)です。
「7.「転移巣にはIMPC成分が見られる」としか記載がありませんでしたが、リンパ節の癌は100%IMPCで構成されているということなのでしょうか。」
⇒違うでしょう。
「リンパ節にIMPCが転移しているということは、すでにIMPCが体中に微小転移している可能性が極めて高いということなのでしょうか。」
⇒馬鹿馬鹿しい想像は止めましょう。
「8.浸潤性微小乳頭癌を含む癌であり、リンパ節転移が2個、リンパ管侵襲ly2、HER2が3+、ki67が68という事実を鑑みるに遠隔転移をきたす可能性が極めて高いと思われてしまうのですが」
⇒考え過ぎです。
微小乳頭癌などの特殊型を「馬鹿馬鹿しい、小規模の症例報告で判断」するのは止めましょう。
特殊型なので「大規模臨床試験はできません」
「将来遠隔転移をきたす可能性は何%程度だと考えられますか。」
⇒3年再発率は17%です。
それ以降については、「抗HER2療法の術後補助療法適応移行の患者さんの」データの集積を待たなくてはなりません。