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術後の治療について

[管理番号:2731]
性別:女性
年齢:41歳
右乳房を乳頭温存で皮下乳腺全摘をしました。
術後の病理組織検査では
Invasive ductal carcinoma of the right breast in extensive DCIS lesions ACE area,0.8×0.5cm,pT1b
硬癌ly0,v0
核グレード2
組織学的グレード2
DCIS,high grade with comedo necrosis,7.5×2.5×6.2cm
pNO(sentinel:0/2,Level I:0/5)
pT1bNOMO,pStage IA
HER2(3+)
ER(10-20%)(score3a)
PgR(20-30%)(score3a)
ki67(less than10% invasive lesion)(40-50% in DCIS)
という結果でした。
結果の見方と今後の治療の見通しを教えて頂きたく思います。
少し調べましたが、HER2(3+)だと抗HER2療法の適応か、そうなると抗がん剤を組み合わせるとか?
また、ホルモン受容体の値のER10-20%PgR20-30%は数値が高くないようですがホルモン療法が効きにくいとかという事はありますか?
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT1b, pN0
心配ありません。超早期癌です。
「センチネルリンパ節生検で陰性なのに、腋窩郭清をおこなっている」とことが、非常に気になります。
○術前に「センチネルリンパ節生検が陰性ならば、郭清省略」という話し合いは無かったのですか?
「結果の見方」
Invasive ductal carcinoma of the right breast in extensive DCIS lesions ACE area,0.8×0.5cm,pT1b」
⇒①広範な非浸潤癌を伴った8mmの浸潤癌(pT1b)
 
「硬癌ly0,v0」
⇒組織型は「硬癌」、「脈管侵襲なし」
 ♯ ly0はリンパ管侵襲なし、v0は血管侵襲なし を意味しています。
 つまり「血管やリンパ管などに入り込んでいる癌細胞が無かった」ことを意味しています。
 
「核グレード2組織学的グレード2」
⇒核グレードは「核異型(癌細胞の顔つき)」と「核分裂(癌細胞が分裂している)」の組み合わせで点数化しています。「1,2,3」あり、「2は中間」です。
 (参考に)
 「核グレード」は「核異型の点数」+「核分裂の点数」です。
 核異型 弱い:1点
    中間:2点
    強い:3点
 核分裂 5個未満(10視野で):1点
    5~10個  〃   :2点
    11個以上  〃  :3点
 核グレード(NG) 核異型の点数+核分裂の点数
    2点、3点 :核グレード1 
    4点    ;核グレード2
    5点、6点 :核グレード3 
⇒組織学的グレードも同様に「1,2,3」あり、「2は中間」です。
「DCIS,high grade with comedo necrosis,7.5×2.5×6.2cm」
⇒DCIS部分(非浸潤癌の部分)は7.5cmの範囲であり、コメド壊死を呈したグレードの高いタイプです。
 
「pNO(sentinel:0/2,Level I:0/5)」
⇒リンパ節転移なし(センチネルリンパ節は2個とって、2個とも転移無し、 レベル1は5個とって、5個とも転移無し)
 
「pT1bNOMO,pStage IA」
⇒pT1b(5mm<腫瘍径≦10mm)
pN0(リンパ節転移なし)
 M0(遠隔転移なし)
 これらを総合してステージ1Aです。
 
「HER2(3+)ER(10-20%)(score3a)PgR(20-30%)(score3a)」
⇒luminalB(HER2陽性)といいます。
 一般的にはtriple positiveと呼ばれます。
 
「ki67(less than10% invasive lesion)(40-50% in DCIS)」
⇒(浸潤部分では)「Ki67値が10%未満」(かなり低い値
 ♯(非浸潤部分では40-50%という値ですが)これは、あくまでも参考値(非浸潤癌ではKi67の測定は適応外です)
 
「今後の治療の見通し」
⇒luminalB(HER2陽性)であれば、
 ①抗HER2療法(ハーセプチン+化学療法)
 ②ホルモン療法
 上記①②の適応となりますが、質問者の場合にはpT1b(8mm)なのでNCCNのガイドラインでは①は考慮する(必須ではない)という表現となっています。
 因みに抗HER2療法は「腫瘍径」に応じて以下のような推奨となっています。
 pT1a(腫瘍径≦5mm):適応なし
 pT1b(5mm<腫瘍径≦10mm):考慮する   pT1c(10mm<腫瘍径)以上:必ず行う   「少し調べましたが、HER2(3+)だと抗HER2療法の適応か、そうなると抗がん剤を組み合わせるとか?」
⇒上記です。
 ただし、pT1bでは「絶対ではない」のです。
 
「また、ホルモン受容体の値のER10-20%PgR20-30%は数値が高くないようですがホルモン療法が効きにくいとかという事はありますか?」
⇒十分高値です。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

2731で質問したものです。
田澤先生からお返事を頂き状況を飲み込む事ができました。
前回の回答にあったリンパ節郭清の事ですが、センチネルリンパ節生検をするが、
CTで気になる所見のあるリンパ節があり、それは取ったほうが良いとの事でした。
引き続きの質問で恐縮ですが、luminalB(HER2陽性)、pT1b(8mm)の結果で
NCCNでは8mmのため抗HER2療法は考慮するということを
先生は教えてくださいましたが、するか、しないかの判断で迷っています。
再発率や生存率に治療をした場合の上乗せ効果を
質問されている方をサイトでみますが、自身の場合にはどのような状況でしょうか。
また、判断をする際に検査結果の何を基準にしたらよろしいでしょうか。
また、田澤先生でしたらどのような選択をなさいますか。
あと1点、抗HER2療法は化学療法とするので妊娠の希望があれば
卵子の凍結になりますが、ハーセプチンそのものも卵子に及ぼす影響は大きいのでしょうか。
宜しくお願いします。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「前回の回答にあったリンパ節郭清の事ですが、センチネルリンパ節生検をするが、
CTで気になる所見のあるリンパ節があり、それは取ったほうが良いとの事でした。」
⇒結局「転移が無かった」わけですが、「術前に、ご本人が納得の上」であれば全く問題はありません。
 
「再発率や生存率に治療をした場合の上乗せ効果を質問されている方をサイトでみますが、
自身の場合にはどのような状況でしょうか。」
⇒今までの回答でもしばしば触れていますが、「抗HER2療法が術後補助療法となってから、日本ではまだ8年」と日が浅いので、当然ながら「長期の予後データは無い」ことをご了承ください。

3年再発率 抗HER2療法なし 7% 抗HER2療法をすると 3%(4%の上乗せ効果)
3年死亡率 抗HER2療法なし 1% 抗HER2療法をすると 0%(1%の上乗せ効果)

 
「また、判断をする際に検査結果の何を基準にしたらよろしいでしょうか。」
⇒pT1bはもともと「低リスク」なのでご本人の考え方を基準にしましょう。
 「やれることはやりたい」ならば抗HER2療法
 「できるだけ副作用は避けたい」ならばホルモン療法単独
 
「また、田澤先生でしたらどのような選択をなさいますか。」
⇒ご本人次第です(無理には勧めません)
 
「ハーセプチンそのものも卵子に及ぼす影響は大きいのでしょうか。」
⇒大きくはありません。
 おそらく何ら問題は無い筈です。