[管理番号:2513]
性別:女性
年齢:45歳
田澤先生
いつもQ&A拝見し勉強しています。
お疲れのところ本当に有り難いHPです。
私も質問させてください。
左乳がんにてC領域の部分切除を受けましたが断端陽性と診断されました。
検体の大きさ 12.5×7.5×4.3cm
肉眼的な腫瘍の大きさ 1.6×1.4×1.0cm
浸潤癌の大きさ:多中心性 最大16mm大
PT分類:pT1c
乳腺外脂肪浸潤:f(+) 乳管内病変の程度(+++) 乳管内病変のcomedo necrosisの有無(-) リンパ管侵襲:ly
0 静脈侵襲:v0 核異型スコア:(2)
核分裂像スコア(1) 側方断端:頭側で露出している 浸潤癌及び非浸潤癌 深部断端:露出していない 5mm以内 非浸潤癌 皮膚側断端:露出している 非浸潤癌
腫瘍の大部分はlobular carcinomaで多数個所で浸潤巣が認められる。
DCISは4mmまでのものが散在性にみられる。
#57には
invasive ductal carcinomaがあり、浸潤巣の大きさは8×5mm程度 #57にはlobular carcinoma in situとDCISが衝突しているところが見られる。
免疫染色
・Invasive lobular carcinoma
HER2 (2+)→FISHにて増幅なし
ER(7)PR(8)Ki67 hot spotで30%程度
・Invasive ductal carcinoma
HER2( 1+) ER(7)PR(8) Ki67 7%程度
以上の経過で再部分切除を受け今病理の結果待ちですが、管理番号558「浸潤性小葉ガンについて」を読み、似たようなケースなので質問させていただきます。
多中心性の話や乳房内再発、腹腔内再発の話は一切なく、小葉癌でも一般的な治療と同じで、画像から十分再切除で対応可能との事でした。
質問1;浸潤性小葉癌の腫瘍径が8×5mmでも、3種類の癌が混在することになります。
これでも再部分切除+放射線治療で本当に安全なのか疑問です。
質問2;これはガイドラインCQ2の浸潤性乳がんの局所療法として乳房温存療法は勧められるか の適応除外である1.多発癌が異なる乳腺腺葉領域に認められる に該当しないのでしょうか 3種の癌を多発と捉えるのかが疑問です。
質問3;再部分切除でも断端陽性だったら全摘にしようと思いますが、陰性でも検討した方が良いのでしょうか?
質問4:左右差が著しく脂肪注入をしようか、再発にハラハラするなら皮膚乳頭温存で再建しようか迷っています。
いずれにしても放射線が間もなく始まるので、その前に結論を出さねばならず悩んでいます。
以上よろしくお願いします
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
小葉癌の考え方ですね。
管理番号558「浸潤性小葉ガンについて」を久しぶりに読み返してみました。
似ている部分もありますが、決定的に異なる部分もあります。
それは(質問者の場合には)「異なる乳管系での多発」ではないという事です。
質問者のケースでは、あくまでも「同一病巣内の多発浸潤」となります。
質問者のケースでは
・小葉癌 「多中心性 最大16mm大」pT1c(16mm), pN0(記載がありませんが、おそらくリンパ節転移なしでしょう), luminal(Ki67=30%)
・浸潤性乳管癌 「8mm」pT1b(8mm), luminal(Ki67=7%)
○全体としては「小葉癌が大部分で多数か所で浸潤」そこに(非浸潤癌を伴う)「浸潤性乳管癌(最大浸潤径8mm)]も併存しているようです。
病期としてはpT1c, pN0, luminal typeとなります(最大病変を採用します)
「質問1;浸潤性小葉癌の腫瘍径が8×5mmでも、3種類の癌が混在」
⇒3種類とは「浸潤性小葉癌」と「非浸潤性乳管癌」と「浸潤性乳管癌」の事を言っていますか?
その理解は誤りであり、それを言うなら「浸潤性小葉癌」と「浸潤性乳管癌」の2種類の癌の混在が正しいです(非浸潤性乳管癌は浸潤性乳管癌と連続しています)
「これでも再部分切除+放射線治療で本当に安全なのか疑問です。」
⇒冒頭でもコメントした通り、「異なる腺葉系」に発生した訳では無く、非浸潤性小葉癌の病変の中に「多中心性に浸潤」となるので、厳密な意味では「温存の適応外」とはなりません。
ただ、結果として「浸潤巣が多発」して(おまけに)「浸潤性乳管癌も存在」しているとなると、「局所再発(というか、温存乳房内新規病巣)のリスクに注意が必要」とは思います。
「質問2;これはガイドラインCQ2の浸潤性乳がんの局所療法として乳房温存療法は勧められるか の適応除外である1.多発癌が異なる乳腺腺葉領域に認められるに該当しないのでしょうか」
⇒冒頭にコメントした通りです。
「異なる腺葉系」ではないと思います。
「3種の癌を多発と捉えるのかが疑問です。」
⇒「種類」ではなく、「浸潤巣の数」を「多発」と捉えます。
「質問3;再部分切除でも断端陽性だったら全摘にしようと思いますが、陰性でも検討した方が良いのでしょうか?」
⇒追加切除標本内にも「多発浸潤」があれば考えてもいいと思います。
「質問4:左右差が著しく脂肪注入をしようか、再発にハラハラするなら皮膚乳頭温存で再建しようか迷っています。」
⇒脂肪など注入しても「脂肪壊死して硬くなるだけ」だと思います。(個人的には)
質問者様から 【質問2】
田澤先生
詳細な回答ありがとうございました
追加でいくつか質問させてください(センチネルは陰性でした)
質問1
異なる腺葉系と、浸潤巣の多発の区別はMRIで診断されているのですか?
質問2
腹腔内転移は自覚症状が出にくいと思いますが、どのように早期発見につとめれば良いのでしょうか?
質問3
放射線照射後のエキスパンダーでの皮膚拡張は不可能ではないが、皮膚が伸びにくかったりするとの事ですが、部分切除後皮膚乳頭温存全摘の場合はどうですか?大胸筋の拡張にも放射線は影響するのでしょうか?
質問4
乳房部分切除後の左右差の再建の脂肪注入は壊死して硬くなるだけとの
事でしたが他に方法はありますか?
間もなく追加切除の病理結果が出るのですが、放射線で良いとなった場合も再発リスクや再建を考えるなら全摘の方がいいのか悩んでいます。
一度画像を持ってご相談に伺いたいのですが可能ですか?
よろしくお願いします
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
「質問1
異なる腺葉系と、浸潤巣の多発の区別はMRIで診断されているのですか?」
⇒(MRIを含めた)画像診断による「位置関係」で類推します。
「質問2
腹腔内転移は自覚症状が出にくいと思いますが、どのように早期発見につとめれば良いのでしょうか?」
⇒極めて低頻度なので、気にしない事です。
定期的な採血腫瘍マーカーで十分です。
「質問3
放射線照射後のエキスパンダーでの皮膚拡張は不可能ではないが、皮膚が伸びにくかったりするとの事ですが、部分切除後皮膚乳頭温存全摘の場合はどうですか?
大胸筋の拡張にも放射線は影響するのでしょうか?」
⇒大胸筋は無関係です。
あくまでも皮膚の進展が重要となります。
「質問4
乳房部分切除後の左右差の再建の脂肪注入は壊死して硬くなるだけとの事でしたが他に方法はありますか?」
⇒残念ながら、ありません。
「一度画像を持ってご相談に伺いたいのですが可能ですか?」
⇒可能です。
ただし、まずは(画像診断や手術所見など、全てを把握している筈の)担当医に
「とことん」聞いてみてください。
手術時の状況については「執刀医にしかわからない」のです。
質問者様から 【質問3】
田澤先生
いつも丁寧な回答本当にありがとうございます。
今回もお世話になります
質問1 2回目の手術でも断端陽性が出てしまいました。
乳頭もかなり引きつれてしまい、見るのがつらいです。
できれば乳頭は残したいのですが、もう全摘か3回目の
部分切除か、悩んでいます。
私は最初から皮膚乳頭を残した
全摘を望んでいました。
先生のご意見をお願いします。
質問2 乳房部分切除なので術前のエコーしながらの切除部位決定が一切ありませんでした。
手術室でしているとも思えません。
かなり不安です。
一般的にはどうですか?
質問3
ホルモン治療、抗がん剤を上乗せした場合の再発率と生存率を5年、10年で教えてください
タモキシフェン5年でいいですか?
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「2回目の手術でも断端陽性が出てしまいました。乳頭もかなり引きつれてしまい、見るのがつらいです。できれば乳頭は残したいのですが、もう全摘か3回目の部分切除か、悩んでいます。私は最初から皮膚乳頭を残した全摘を望んでいました。先生のご意見をお願いします。」
⇒こうなってしまうと「小葉癌でもある」し温存に拘りつづけるのはいかがなものか?と思います。
ただし、「乳頭温存すべきか?」となると「乳頭と腫瘍との距離」が問題となりま
す。
「温存術での乳頭を残す事(術後照射を行う)」と「乳頭温存全摘(術後照射を行わない)」とでは「乳頭をのこすことによる再発リスク」は異なるのです。
「質問2 乳房部分切除なので術前のエコーしながらの切除部位決定が一切ありませんでした。手術室でしているとも思えません。かなり不安です。一般的にはどうですか?」
⇒ちょっと「信じがたい」ですね。
もしかして、その施設では「エコーは技師任せ」という習慣なのかもしれません。
「質問3ホルモン治療、抗がん剤を上乗せした場合の再発率と生存率を5年、10年で教えてくださいタモキシフェン5年でいいですか?」
⇒グレードの記載が無いので不明です。
タモキシフェン5年でいいと思います。
質問者様から 【質問4】
田澤先生
何度も申し訳ありません
核グレード1でした
再発率、生存率よろしくお願いします
田澤先生から 【回答4】
こんにちは。田澤です。
pT1c(16mm), pN0, luminal, NG1ですね。
「核グレード1でした 再発率、生存率よろしくお願いします」
⇒
再発率 | 10年生存率 | |
ホルモン療法のみ | 11% | 96% |
ホルモン療法+化学療法 | 7% | 97% |