Site Overlay

抗がん剤をやるべきかどうか

[管理番号:765]
性別:女性
年齢:35歳
初めて相談させて頂きます。
2014年9月に左乳房C領域にしこりを自己発見し、
2015年4月に乳腺科を受診したところ乳癌と診断されました。
7月6日に温存術で手術を受け、先日病理検査の結果が出ました。
[結果の詳細]
診断:浸潤性乳管癌
浸潤径:1.6×1.0㎝
病変の拡がり:小さな浸潤巣
核グレード:3
脈管侵襲:リンパ管にあり
リンパ節転移:なし(0/2)
切除断端:陰性
ホルモン受容体:陽性
HER2:陰性
Ki-67:中~やや高め
今後の治療として放射線療法とホルモン療法を受ける予定です。
放射線療法:5~6週間、
ホルモン療法:タモキシフェンを1日1回×5~10年 & LHRHアゴニスト×2年
それに加え、抗がん剤を行うかどうかを選択するように言われていますが、
強く勧められているわけではない為、決断しかねています。
診断結果(グレードやKi-67の数値、脈管侵襲)を考慮したら抗がん剤を行うべきでしょうか?
先生ならこのような患者に抗がん剤治療をお勧めされますか?
抗がん剤を行うことになった際の選択肢は以下の2種類です。
3週ごとに1回点滴×4回の抗がん剤(タキサン系)
4週ごとに2回点滴×6回
また、4月に超音波検査の結果「0.8㎜のmassがある」と言われ
針生検を行った結果ガンが発見されました。
そちらの病院には手術を行う施設が無いため、
別の紹介され紹介先の病院で手術を受けました。
紹介先の病院で手術前の検査を5月に受けた時点で「1.5㎜~2㎝の腫瘍」と言われました。
7月に摘出した腫瘍は1.6㎝でしたが、1ヶ月という短期間で0.8㎜から1.6㎝に増大したのは
Ki-67が高めということやグレードが3ということが関係していますか?
長くなって申し訳ありません。
以上よろしくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
pT1c(16mm), pN0, luminal typeですね。
「Ki-67:中~やや高め」というのは、悩ましい表現です。
病理側で「自分たちが行う細胞数のカウントをよりどころとして」「抗がん剤の適応を決められては困る」という意志表示のようにも思えます。
 
「先生ならこのような患者に抗がん剤治療をお勧めされますか?」
⇒結構難しいですね。
 Adjuvant Onlineでは「化学療法の上乗せ効果」は7.5%程度となります。
 ここでSOFT試験の結果より「35歳以下なのでLH-RHも有効」となると、(敢えて化学療法を加えるよりも)『タモキシフェン+LH-RHにしましょう』となりそうです。
 
「3週ごとに1回点滴×4回の抗がん剤(タキサン系)」
⇒これはTC療法(ドセタキセル+エンドキサン)でしょう。
 
「4週ごとに2回点滴×6回」
⇒聞き間違いでしょうか?
 4週ごとの投与など聞いたことがありません。
 
「7月に摘出した腫瘍は1.6㎝でしたが、1ヶ月という短期間で0.8㎜から1.6㎝に増大したのはKi-67が高めということやグレードが3ということが関係していますか?」
⇒「Ki67やグレード3」は関係ありません。
 これは4月の時点で「0.8cm」ではなく、「1.6cm」だったのだと思います。
 実際は「計測の仕方」の違いであり、決して短期間でそんなに大きくなる事はありません。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

お忙しい中、ご回答下さりありがとうございました。
化学療法の上乗せ効果が7.5%との具体的な数字をご教示頂き、大変助かりました。
ちなみにグレードが3、脈管侵襲あり、Ki-67が高め(ルミナールB?!)
という悪条件の人が再発する確率は何%だと思われますか?
化学療法を行った場合、その確立から7.5%低くなるという認識でよろしいですか?
腫瘍サイズの誤差は単に計測の仕方の違いで、
ガンの性質による短期間での進行ではないとのご回答に安心致しました。
おそらく気のせいですが、針生検を行った後、
シコリに針が通った部分が少し削れた様な気がして、
その数週間後に削れた部分が無くなった様な気がしたので、
進行が早いものと心配しておりました。
また、シコリの下に大きな物ができた様な気がしていたのですが、
仮にシコリの下に血腫が出来ていた場合、手術時に血腫も「腫瘍径」として
含まれるものですか?
 

田澤先生から 【回答2】

 こんにちは。田澤です。
 インターネットでの情報では「核グレード」とか「サブタイプ」とか「Ki67」などの「刺激的な内容」が持て囃されているようです。
 このQandAを回答していると、如何に皆さんが「情報に踊らされているか」が解ります。
 実際に診療をしている者から言わせると「馬鹿馬鹿しい」話なのです。
 サブタイプが「治療方針決定に有用」であることは間違いありません。
 これは、「ここ20年で勝ち取った、乳がん領域の輝かしい勝利」です。
 但し、予後との関係でいえば「やはり、ステージ」なのです。
★「原点回帰」ではないですが、「早期発見に勝る治療はない」のです。

回答

「グレードが3、脈管侵襲あり、Ki-67が高め(ルミナールB?!)という悪条件の人が再発する確率は何%」
⇒Adjuvant!Onlineを使うと、20%(ホルモン療法による効果を含めて)となります。
 「悪条件の人」という表現が使われていますが、これは「グレード3とかKi67が高め?」のようなものを指していいると推測します。
 因みに、質問者と同条件で「グレード2」の場合には、16%となります。(僅か4%の違いです)
 
「シコリの下に血腫が出来ていた場合、手術時に血腫も「腫瘍径」として含まれるものですか?」
⇒含まれません。
 術後の病理結果による「最大浸潤径」では「顕微鏡で確認」しているので、「血腫との区別」はつきます。
 
 

 

質問者様から 【質問3】

何度も恐れ入ります。
グレードが3、脈管侵襲あり、Ki-67が高め
のような再発リスクの高い人が術後に化学療法を行わないことで
局所再発率も上がりますか?
 

田澤先生から 【回答3】

 こんにちは。田澤です。
 「局所再発」ですか。
 局所再発には2通りあります。
①手術時の「取り残し」
 術後数年して「腋窩リンパ節だけが大きくなってっ来る」ようなケース
 もともと「転移していたリンパ節が残っていた⇒徐々に増大」と推測されます。
 乳房内再発も同様であり、もともと「温存乳房に潜んでいた」と考えます。
②「全身再発の一つ」としての局所再発
 これは「全身再発」を起こして病勢悪化の際に現れるもの
 ♯ 全身再発(遠隔転移)が起きなければ、出現しなかったと思われるタイプです。

回答

「局所再発率も上がりますか?」
⇒「局所再発」は、そもそも低率なので「殆ど起こりません」
 特に質問者のような 「腫瘍径1.6cm リンパ節転移無」というような状況では「まず起きない」と思います。
 
 

 

質問者様から 【質問4】

何度も申し訳ありません。
先程の追記ですが、
現在の病院ではKi-67が中~やや高めと言われていますが、
紹介元の病院ではKi-67が50%と言われました。
グレードが3、脈管侵襲あり、Ki-67が50%
の人が再発する確率はどれくらいだと思われますか?
科学療法を行った場合はその確率から7.5%確率が下がると言うことでしょうか?
 

田澤先生から 【回答4】

 こんにちは。田澤です。
 Ki67の数値が「中~やや高め」でも「50%」でも Adjuvant!Onlineでは「核グレード3」として全く変わりありません。
 Ki67の数値はluminal typeを便宜的に「AとBにわける」だけであり、それ単独で「再発率を評価」するものではありません。

回答

「グレードが3、脈管侵襲あり、Ki-67が50%の人が再発する確率はどれくらいだと思われますか?」
⇒「グレードが3、脈管侵襲あり、Ki-67が高め(ルミナールB?!)という悪条件の人が再発する確率」と全く同様です。
 Adjuvant!Onlineを使うと、20%(ホルモン療法による効果を含めて)となります。
 
 

 

質問者様から 【質問5 抗がん剤をやるべきかどうか】

お忙しい中、ご丁寧に回答して下さり誠にありがとうございました。
具体的な数字を教えて下さった事、とても助かりました。
化学療法の上乗せ効果と再発率の具体的な数字が分らなかった事で
抗がん剤をやるか否かの選択にとても苦しんでいました。
背中を押してくれる存在を必要としていたので今回ご回答頂いた事で
本当に救われました。
もちろん自己責任の上ですが、多分抗がん剤はやらないと思います。
本当に本当にありがとうございました!
乳がんになってから毎日毎日病気についてインターネットで調べ、
溢れる情報に惑わされ一喜一憂している中、
知りたい情報が全て掲示されているQ&Aにいつも救われています。
もはやバイブルとなっている Q&A、これからもずっと拝読させて頂きます。
お会いした事はありませんが、勝手に尊敬している田澤先生からご回答頂けて
夢のようですし、感激しています。心から感謝申し上げます。
 

田澤先生から 【回答5】

 こんにちは。田澤です。
 とても丁寧なお返事ありがとうございます。
 QandAをこれからも参考にしてください。
 
 

 

質問者様から 【質問6 抗がん剤をやるべきかどうか】

いつもご回答下さり、ありがとうございます。
先生はいつも頼りにしている大きな存在です。
明日までに化学療法を行うか否か最終決断をしなければなりません。
個人的には化学療法を強く勧められない限りはなるべく避けたいので
田澤先生がアドバイスして下さった通り、化学療法は受けずに
タモキシフェンとLHRH-アゴニストだけでいこうと決めています。
とは言うものの、再発はやはり怖いので自分の再発率が分かると
今後の生活の質を高める為にも気持ち的にもとても助かります。
化学療法を行わない場合、私の再発率はどれくらいでしょうか?
他の方の質問で「早期の場合の再発率は低い」との事だったので、
私の場合も例え化学療法を行わなくても再発率は低いと考えて差し支えありませんか?
先日グレードが3の再発率は20%と教えて頂きましたが、
ステージ1という事が大事という事ですし、
リンパ節転移なしという事を含めても、再発率は20%のままですか?
乳癌は何年経っても再発する可能性があるそうですが、再発率も年々下がりますか?
ちなみにしこりを発見した時は34歳で、もしその時すぐに病院に行っていたら
若年性でしたが、年齢は関係ないとQ&Aで知りました。
遺伝性でもないですし、TNでもないので
化学療法を無理して行う必要はないという他の質問者と
重ね合わせて考えても問題ありませんか?
MRI検査の時点では主治医に病変の拡がりは無いと言われていましたが、
病理検査の結果、メインの腫瘍の横に小さな浸潤巣がありました。
検査後に進行したものと考えられますか?それとも腫瘍がMRIに写らなかっただけでしょうか?
腫瘍がMRIに写らないという事は有り得ますか?有り得る場合、
他にも小さな腫瘍が散在している可能性があるという事でしょうか?
それは放射線治療で死滅するものでしょうか?
数年後に局所再発として増大する可能性はありませんか?
お忙しい所大変恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答6】

 こんにちは。田澤です。
 質問者に回答する際に(意図的ではないのですが)情報を(結果的に)小出しにしたために、質問者に混乱をあたえてしまっているようです。
 ここで、解り易く全体像を示します。

回答

「化学療法を行わない場合、私の再発率はどれくらいでしょうか?」
「例え化学療法を行わなくても再発率は低いと考えて差し支えありませんか?」
「リンパ節転移なしという事を含めても、再発率は20%のままですか?」
⇒まず、今回のデータは
 ①年齢35歳、②腫瘍径1.6cm、③グレード3、④リンパ節転移なし
 以上①~④を用いて調べています。
 ★補助療法なし(再発率31%)⇒ホルモン療法のみ(再発率20%)⇒更に化学療法を追加すると(再発率13%)
 
「乳癌は何年経っても再発する可能性があるそうですが、再発率も年々下がりますか?」
⇒確かに乳癌は大人しいので10年以上してから再発するケースもあります。
 ただ、頻度としては「極めて低頻度」となります。
 更に20年以上してから再発するケースもありますが、ここまでくるとかなり「レアケース」となります。
 30年以上となると、「殆どゼロ」となります。
 ○きっと、ネットでは「乳癌は10年経っても再発が沢山ある。私は20年過ぎて再発した」みたいなページが多いのかもしれません。(私は見ませんが…)
 それは、「あくまでもレアケース」であり、「私は20年過ぎても再発していない」なんて(当たり前の)ブログを書く人が居ないだけの話です。
 
「遺伝性でもないですし、TNでもないので化学療法を無理して行う必要はないという他の質問者と重ね合わせて考えても問題ありませんか?」
⇒その通りです。
 ご自分の事を良く理解していると思います。
 
「検査後に進行したものと考えられますか?それとも腫瘍がMRIに写らなかっただけでしょうか?」
⇒間違いなく、MRIに写らなかっただけです。
 
「腫瘍がMRIに写らないという事は有り得ますか?」
⇒あります。
 というか、MRIを信用しすぎです。
 私に言わせれば「超音波の方が」よっぽど「感度が高い」です。
 
「他にも小さな腫瘍が散在している可能性があるという事でしょうか?」
⇒可能性はあります。
 そのために、乳房温存術では「術後放射線」をかけるのです。
 
「それは放射線治療で死滅するものでしょうか?」
⇒放射線治療で占めるするものもあれば、生き残って再増大(乳房内再発)するものもあります。
 
「数年後に局所再発として増大する可能性はありませんか?」
⇒まさに、これが「乳房内再発」なのです。
 主治医から「部分切除して放射線照射」をしても、ある確率で「乳房内再発」が起こることは(術前に)聞いていますよね?
 それが、まさにこれなのです。
 
 

 

質問者様から 【感想7】

田澤先生、ご回答ありがとうございました。
お忙しいところ何度も質問をしてしまい大変申し訳ありませんでした。
連日にわたる質問でご迷惑をおかけしてしまったのにも関わらず
一つ一つ丁寧にご回答下さったお陰でとても救われました。
先日の診察で正式に抗がん剤をやらない方向で確定しました。
具体的にご教示下さったお陰で決断することができた事に
何とお礼を言ったら良いか、感謝の言葉が見つかりません。
もしも田澤先生がQandAをされていなかったら…と思うととても怖いです。
このご恩は一生忘れません。心より御礼申し上げます。
先生の存在は偉大です!
とても頼りになる「第二の主治医」との巡り会わせに感謝します。
このQandAで救われている患者が他にも大勢いらっしゃると思います。
是非ずっとずっと続けていただけると嬉しいです。
いつも心の拠り所にしているQandAをこれからも拝読させて頂きます。
この度は本当に本当にありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。