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局所的非対称陰影で再検査

[管理番号:126]
性別:女性
年齢:35歳
3歳子ども1人あり。2011年冬に出産し、
去年の7月か8月まで授乳してました。
(当時、子供2歳8ヵ月で遊び飲み、絞れば母乳はチョロチョロ出てました)
 
今月、乳腺外科のある病院で乳ガン検診を受けました。マンモ、触診のみ。
以下の結果が2週間後に届きました。
 

局所的非対称陰影、再検査必要。
触診、所見なし。

 
慌てて診察予約をとり、乳腺外科にてエコーをしました。
 
先生のお話しでは、正常な乳房の方と比べると濃度が濃い部分があり、乳房の上の内側(谷間の方)に6㎜位の影があるとのこと。
ちょっと硬いところがあるけど授乳後のうっ滞かなあと。
おそらく乳房の筋肉の変化だと思う。
今すぐ切開して細胞取ってまでする必要はないので、6ヶ月経過観察して検診のつもりで、
再度マンモとエコーを外来診察でやって様子をみていきましょうと。
 
6ヶ月も待てない、白黒はっきりさせたいのであれば、MRIで撮る方法も提案されましたが、
ビックリしすぎて、即答できず、
結局先生の方から、6ヶ月経過観察して、検診のつもりで診察してみましょうかと言われ承諾して帰宅しました。
 
先生に、もし悪いものだった場合、6ヶ月後から治療して間に合うのか聞くと、もし大きくなってくれば触ってすぐわかります。その時は受診して下さいと言われたことを思い出し、段々不安になり、こちらで質問させて頂きました。

(質問)

  1. 6㎜カゲ6ヶ月経過観察の診断はよくあることですか?
  2. カゲは何ですか?しこりとは違うのですか?
  3. ハッキリさせる方法は、MRIしかないのですか?MRIで良悪わかるものですか?

2010年に乳腺クリニックでマンモ、エコー異常なし、のうほうによる良性石灰化あり。
2014年同じ乳腺クリニックでエコーと触診のみで異常なし。
2015年2月に近所の総合病院乳腺外科で上記結果で、授乳期のせいで病変が隠れてた?
妊娠も少しは考えていますし、ガンではないのか、このまま6ヶ月待ってていいのか心配です。ご意見お伺いしたいです。よろしくお願いします。

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 「局所的非対称性陰影 focal asymmetric density:FADともいいます」
 これは、乳癌検診では「要精査となる、最も多い所見」であり、そして「精査の結果、異常なしとなる事が最も多い所見」です。
 まずは、局所的非対称性陰影(以下FADと略します)の説明をした上で、回答します。

FADとは何か?

 質問者が医師より説明された「正常な乳房の方と比べると濃度が濃い部分」
 正にその通りです。
 しかし、説明に足りない部分があります。
 それは「何故、濃度が濃くなるのか?」です。
⇒その原因は大きく、以下の2つに分けられます。

  1. 乳腺の中に(周りよりも)「密度が高い=硬い」部分が存在している場合
    本物の「腫瘍」の可能性あり(但し良性、悪性は不明)
     
  2. (実はこちらの方が圧倒的に多いのですが)マンモグラフィーは乳房を圧迫するので乳腺が重なります。「正常乳腺の重なりが、(たまたま)周囲より厚くなった」場合
    この場合は、「正常乳腺の重なり」ですから病変でも何でもありません。
    もともと「立体的な」構造を無理やり圧迫、潰して「平面」として写しているので、どうしても避けられないのです。
     

状況の確認

「正常な乳房の方と比べると濃度が濃い部分があり、乳房の上の内側(谷間の方)に6㎜位の影がある」
⇒これはマンモグラフィーでのFADの説明ですね。
 この「6mm位の影」というのは超音波所見ではなくて、マンモグラフィー所見(FAD)と思います。
 この時点では「本当に6mmの密度が高い=硬い病変」があるのか、「重なり具合で(周囲の乳腺や脂肪よりも)たまたま濃くでている正常乳腺」であるのかは不明です。
 
「ちょっと硬いところがあるけど授乳後のうっ滞かなあ。おそらく乳房の筋肉の変化」
⇒これは超音波をしての感想でしょう。
 その上で「乳汁鬱滞による硬い変化」所見があったが、「明らかな異常所見を認めなかった」ために、
 FAD所見を(その医師なりに)解釈して「乳房の筋肉の変化」と結論づけた。と思われます。
 
※「乳房の筋肉の変化」と解釈している理由は、我々乳腺外科医なら「その光景」を容易に想像できます。
 ほぼ間違いなく、マンモグラフィーのMLO(縦やや斜め方向)で「大胸筋陰影に重なった陰影=カゲ」なのでしょう。
 (マンモグラフィーを撮影する際に)乳房を圧迫しますが、その際に大胸筋も引き延ばされます。この際に「大胸筋が捩れて、一部重なった」状況を想像しての発言のようです。
 

回答

「質問1. 6㎜カゲ6ヶ月経過観察の診断はよくあることですか?」
⇒かなりよくあります。
 (私のように)小さな病変でも白黒決着をつける方針の医師は非常に少ないのが現状です。その場合には「6ヵ月で様子をみましょう」とされる事が圧倒的に多いです。
 たいがいの医師は「小さい病変は、針生検をするのも大変(的が小さくて狙いにくいし、技術が無いとsampling errorとなり易い)」として1cm以上(針生検で狙い易い:的が大きいから)としてから精査をする傾向にあります。
※この背景には「例え癌でも、6mm も1cmも生命予後は一緒だから」みたいな医師の安易な考えが根底にあります。
 間違いではないと思いますが、当人(患者さん)からすれば納得いかないと私は思います。私であれば「より小さいうちに診断=早期発見早期治療」を望みます。
 
「質問2. カゲは何ですか?しこりとは違うのですか?」
⇒ここでいう「カゲ」は(状況の確認で述べたように)FAD所見の事です。
 「FADとは何か?」で述べたとおり、「本物の腫瘍」か「ただの重なり」か(今回の担当医の意見では)「大胸筋の捻じれ」のいずれかです。
 
 ●私自身が「マンモグラフィーを見て」その上で、私自身が、「超音波をすれば」今回の「カゲ」が「しこり」なのか?「正常乳腺の重なりなのか?」は判断できますが、今回はそれはできません。
 
 今回の担当医の意見では「カゲはしこりではありません。ただの大胸筋の捻じれです」という結論です。(ただ完全な自身が無いために6ヵ月フォローとしているのでしょう)
 
「質問3. ハッキリさせる方法は、MRIしかないのですか?MRIで良悪わかるものですか?」
⇒一番いい(というか、唯一正しいのは)怪しい病変を針生検することです。
 「マンモグラフィーでしか見えない(超音波で、はっきりしない)所見」の究極の検査は「ステレオガイド下マンモトーム生検(ST-MMT):マンモトームガイド下マンモトーム生検」です。
※ST-MMTについてはトップページの「乳癌の検査」の「マンモトーム生検」を参照してください。
 巷ではMRIを撮りたがる傾向にあるようですが、MRIはただの画像検査なので「良悪」はわかりません。
   
 ◎通常ST-MMTは「石灰化」の精査に使うことが圧倒的に多いのですが、このような「FAD」所見も対象となります。私は「FAD」をST-MMTした経験が何度もあります。
 但し、今回のケースでは「大胸筋の陰影に重なる位置」だとすると、ST-MMTの対象とはなりません。(乳腺から外れる位置の場合には針は刺せないのです)
 
「ガンではないのか、このまま6ヶ月待ってていいのか?」
⇒癌の可能性は低いでしょう。 超音波検査では(勿論医師の技量にもよりますが)5mm以上の病変を見逃すことは考えられません。
つまり(マンモグラフィーで6mmの所見を)超音波で見逃す事は無いと思います。
 
 ※もしも(超音波で見逃されるとしたら)3mm程度の病変でしょう。その場合には「6ヵ月後」でも4~5mm程度でみつかります。(この程度なら問題ありません)