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抗がん剤の有効性について

[管理番号:4120]
性別:女性
年齢:47歳
1か月前に、乳房部分切除とセンチネルリンパ生検手術を行いました。
現在は病理検査待ちで、現時点では以下の中途報告を受けています。
===
Scirrhous carcinoma,
3.5*1.9*1.6cm,f,ly(+),v(+),LN(1/5)
Surgical margin positive,suspected
<NSAS-BC>
Nuclear atypia 2, Number of mitotic figures 1:Nuclear grade 1 <Modified Bloom-Richardson> Tubule formation 2, Nuclear polymorphism 2, Mitotic count 1:Grade 1
<ホルモンレセプター>
ER(+):J-score 3b
PrR(+):J-score 3b
<HER2>
Score1+
<MIB-1>
陽性率17%
<センチネルリンパ節>
5個中1個に転移を認める(2mmを超える)
===
年末までに、治療方法を確定させ、年始から治療開始することになっています。
担当医より、病理の診断医から断片陽性の疑いが出ていること、センチネルリンパ節転移(1個)の大きさが2mm
超であることを踏まえて、
①追加切除(全摘の可能性あり)→ 抗がん剤(TCを4
回)→ホルモン剤5年
あるいは
②抗がん剤(TCを4回)→ 放射線 → ホルモン剤5年
のどちらかを選んで下さい、との説明を受けました。
どちらも抗がん剤は必須で、約5%の生存率upになり、センチネルリンパ節転移0のケースと同等になるとのことでした。
大きさが2mm以下か2mm超かの線引きで、抗がん剤治療が標準になるのでしょうか。
MIB-1が17%で、田澤先生がご指摘されている30%以下のため、抗がん剤について悩んでいます。
また、放射線とホルモン剤のみの治療にしたいと医師に申し出ることも可能でしょうか。
今後の治療に際して医師との関係がぎくしゃくしないか、心配になります。
田澤先生は、この場合どのような治療をお考えになりますか。
いわゆる「ルミナール」の診断は受けていません。
アドバイスをいただければ幸いです。
宜しくお願い致します。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
このメール内容を読んでいて感じるのは「多くの医師が、治療に対する(考え方の)進歩についていけていない」ということです。
情報が断片的なうちは、それをどう実臨床に応用するのかは、医師にゆだねられているのが現状です。
「ルミナールAとBの考え方」「Oncotype DXの考え方」「ルミナールAではリンパ節転移や腫瘍径に拘わらず化学療法は無効である」「全例でOncotype DXをするわけにもいかないのでKi67で代用している」
大抵の医師は上記情報自体は知っている(?)と思いますが、それが「頭の中で統合されていない」状態であり、それが「乳癌診療ガイドライン」に掲載されないかぎり、(その情報を統合して)頭を整理して診療方針を明確にすることができていないのです。
○そのような医師達は、昔からの「刷り込み」である「リンパ節転移があれば、化学療法を行う。理由?そんなものはありません。」という診療を行いがちなのです。
 その診療が「ルミナールAではリンパ節転移や腫瘍径に拘わらず化学療法は無効である」や「(リンパ節転移に拘わらず)Oncotype DXでRSが高値でなければ化学療法は無効である」という事実と矛盾していることに気付いていないようです。
「どちらも抗がん剤は必須で、約5%の生存率upになり」
⇒全く馬鹿げています。
 Ki67=17%はほぼ確実にルミナールAでしょう。
 もしも担当医が納得しないのであれば、「OncotypeDXをして、動かぬ証拠」を示す必要があります。
 ○効果がないのであれば、敢えて「身体に負担のかかる治療を行う」ことは全くナンセンスです。
「大きさが2mm以下か2mm超かの線引きで、抗がん剤治療が標準になるのでしょうか。」
⇒全くナンセンスです。
「MIB-1が17%で、田澤先生がご指摘されている30%以下のため、抗がん剤について悩んでいます。」
⇒質問者も(文面から察するに)見ているであろう「今週のコラム53回目 Ki67が「30未満」ならホルモン療法単独、Ki67が「30以上なら、Oncotype DXを推奨」しています。」の表
 (以下に、掲載します)

 ○質問者が「high risk = 化学療法による上乗せがある」となる可能性が殆どないことが解りますよね?
  これで「化学療法を勧めている」ことには耐えがたい思いです。
「また、放射線とホルモン剤のみの治療にしたいと医師に申し出ることも可能でしょうか。」
⇒勿論です。
 説得するため(勿論、自分自身にも化学療法が必要ないことを確認することにもなります)にOncotypeDXを、(必要なら)お勧めします。
「田澤先生は、この場合どのような治療をお考えになりますか。」
⇒「断端陽性」について「再切除なのか、放射線照射によるBoostなのか」は置いておいて(実際の「切り出し」図がないとわかりません)
 化学療法は不要です。
 ホルモン療法(この場合にはASCOのガイドラインを基に)タモキシフェン+Lh-RHagonistを行います。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

田澤先生
3週間前に、抗がん剤の有効性について相談させていただいた者です。
迅速に分かりやすくご回答下さり、本当に有難うございました。
田澤先生のアドバイスを受けて、自信を持って「抗がん剤治療を受けない決断」をし、主治医に伝え了承を得ることが出来ました。
追加切除はせず、来週から放射線+ホルモン剤治療に入ります。
今回はそのホルモン剤治療の進め方について、先生のご意見を伺わせて下さい。
年末に主治医から、タモキシフェン5年+リュープリン2年の併用を行う旨を説明されました。
リュープリンは、6カ月製剤が入荷予定なので、当院では最初から6カ月製剤注射にします、とのこと。
今月下旬になるそうです。
田澤先生は、最初は1か月分で様子を見る、というご意見でいらっしゃいますし、私もそうなるのだろう、と思い込んでいたので、かなり不安に感じています。
万が一重篤な副作用が出た場合、それは文字通り6ケ月間も続くことになるのでしょうか。
最初は1か月製剤で、と個別にお願いすることも出来るのでしょうか。
その一方で、副作用をあれこれ調べているうちに、先生のQ&A上で、閉経前のタモキシフェンとリュープリンの併用効果については、SOFT実験結果により
①化学療法が適用となるハイリスクグループ
②35歳以下の2グループに有効と発表されている、との記載を発見しました。
つまり、私は現在47歳で、化学療法も適用でないため、そもそも注射は不要と捉えても良いのでしょうか。
それとも、センチネルリンパ節転移がある(5個中1個)こと自体がリスクで、①に準じた扱いとなり併用必須となるでしょうか。
前回の中途報告がそのまま最終報告となり、ルミナールについては診断がありませんでした。
更に調べを進めると、閉経前でタモキシフェン単独の場合、血中ホルモン濃度が高くなるケースもあり、その際にはタモキシフェンを中止しリュープリン注射に切り替えるそうですが、先生の感覚では、実際のところ何割くらいの患者さんでそうなっていると思われますか。
タモキシフェン単独で進める場合、どれくらいの期間で
ホルモン濃度検査を行っていくのが望ましいでしょうか。
長くなり申し訳ございません。
以上、2回目のアドバイスを頂戴したく、どうぞ宜しくお願い致します。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。
「リュープリンは、6カ月製剤が入荷予定なので、当院では最初から6カ月製剤注射にします」
⇒一般的な使用法ではありません。
 
 実際は問題は無さそうに「経験的には」思いますが…
「万が一重篤な副作用が出た場合、それは文字通り6ケ月間も続くことになるのでしょうか」
⇒「重篤な副作用」とは「アナフィラキシーショック」のようなものだとすれば…
 それは、投与直後に起こるものであり、それが「6ヵ月も続く」ことはありません。
 ただ、「のぼせ、ホットフラッシュ」のような症状は「継続する」ことになります。
「最初は1か月製剤で、と個別にお願いすることも出来るのでしょうか。」
⇒もしかすると、その病院では(コストや在庫の面で)「1カ月製剤自体、置いていない」可能性があります。
「私は現在47歳で、化学療法も適用でないため、そもそも注射は不要と捉えても良いのでしょうか。それとも、センチネルリンパ節転移がある(5個中1個)こと自体がリスクで、①に準じた扱いとなり併用必須となるでしょうか。」
⇒是非『今週のコラム 24回目 自分自身をアップデートしなくてはなりません』を参照ください。
 ASCO(2016)では、「明らかな低リスク(ステージ1を指す)以外は(年齢の記載なく)LH-RHagonistを併用すべき」となっているのです。
 その意味で、質問者にもLH-RHagonistの適応があります。
「閉経前でタモキシフェン単独の場合、血中ホルモン濃度が高くなるケースもあり、
その際にはタモキシフェンを中止しリュープリン注射に切り替える」
「タキシフェン単独で進める場合、どれくらいの期間でホルモン濃度検査を行っていくのが望ましいでしょうか。」

⇒そんなことはしません。
 全く根拠(エビデンス)のない話です。