[管理番号:3073]
性別:女性
年齢:45歳
妻が乳がんと診察されてから、本Q&Aをずっと参考にさせていただいておりました。
今回初めて相談させていただきます。
よろしくお願いします。
【状況】
2月の人間ドック(マンモ&エコー)で要精密検査、針生検の結果、3月に両側乳癌と診察され、5月初旬に両側全摘出&一次再建(ティッシュエキスパンダー挿入)
【手術後病理結果】
左)乳頭腺管癌>硬癌>管状癌
腫瘍径(pT):50×24mm(広がり64×24mm)
核グレード:3
センチネルリンパ生検:陽性(1/1)大きさ4.5mm→追加郭清 Level1
(0/7)、Level2(0/1)
ER:陽性 7(5+2)
PgR:陽性 7(5+2)
HER2:陰性(1+)
Ki67:11%
手術前の画像診断(エコー、MRI、PET-CT)、針生検では、管状癌28×14mm、リンパ節転移無し、グレード1と言われてたので、結果にショックを受けています。
右)非浸潤性乳管癌
腫瘍径(広がり):22×15mm
核グレード:2
センチネルリンパ生検:陰性
ER:陽性 8(5+3)
PgR:陽性 7(5+2)
HER2:陰性(1+)参考値
Ki67:1% 参考値
手術前は、大きさ7mmと言われてましたが、3倍の大きさに少し驚いています。
【質問】
左側について、ルミナールA(Ki67で判断する場合)かルミナールB(核グレードで判断する場合)と言われ、リンパ節転移有り、腫瘍径50mm、グレード3ということで化学療法を検討するように言われました(積極的には勧められていません)。
特にグレード3が気になるのですが、本人は、術前の結果のこともあり「抗がん剤は使いたくない」と言うので、私も尊重しようと考えていますが、問題ないでしょうか?
化学療法を追加することで10年生存率、再発率はどの程度の上昇が期待できますか?
大きさについて、検査から手術までの2か月で、急に2~3倍になることは考えられないと思うのですが、手術後の結果のほうが正しいとみるべきでしょうか?
手術後の核グレードの検査の方法について、何カ所か検査した中でグレード3の箇所が最も多かったということでしょうか、たまたま見た場所がそうだったということもありますか?
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
「乳頭腺管癌>硬癌>管状癌」ということから読み解くと…
針生検では、「腫瘍全体の中でも、(乳頭腺管癌や硬癌よりも占める割合が小さい)管状癌の部分」を採取したようです。
それで(管状癌は極めて大人しいので)「術前のグレード1」となったのだと思います。
しかし、実際は(管状癌よりはグレードの高い)「乳頭腺管癌や硬癌の方が占有面積が大きい」ため「術後標本(病変全体)では(針生検よりも)グレードが高くなった」と解釈できます。
pT2(50mm), pN1, pStage2B, luminalA(Ki67=11%)
○ルミナールAは(リンパ節転移が陽性でも、腫瘍径が大きくても)化学療法によるベネフィットがない(SABCS 2015)
このことからすると、「化学療法の適応外」だと思います。
おそらく、このKi67の数値ではOncotypeDXをしても「RSは低値」となりそうです。
「左側について、ルミナールA(Ki67で判断する場合)かルミナールB(核グレードで判断する場合)と言われ」
⇒このKi67値で(核グレードが3だからといっても)「ルミナールB」という判断は誤りです。
「リンパ節転移有り、腫瘍径50mm、グレード3ということで化学療法を検討するように言われました」
⇒冒頭でコメントしたように「化学療法の適応外」だと思います。
「特にグレード3が気になるのですが、本人は、術前の結果のこともあり「抗がん剤は使いたくない」と言うので、私も尊重しようと考えていますが、問題ないでしょうか?」
⇒化学療法無しでいいと思います。
このKi67値では「抗ガン剤の上乗せはない」でしょう。
OncotypeDXを行うと「核グレード3のうち、RSが高リスク(=化学療法によるベネフィットがある)となるのは40%なのです。
○質問者のケースこそ、まさに私が「今週のコラム30回目 実際はかなり多くのルミナールAがBと判定され無駄な化学療法をされている」に当て嵌まるケースと言えます。
「化学療法を追加することで10年生存率、再発率はどの程度の上昇が期待できますか?」
⇒Neoadjuvant.comを用いると「10年生存率は8%、再発率は14%の上乗せ」となりますが…
Neoadjuant.comでは「Ki67値は無関係」なので、上の数値は「実態を表していない」ように思います。
「大きさについて、検査から手術までの2か月で、急に2~3倍になることは考えられないと思うのですが、手術後の結果のほうが正しいとみるべきでしょうか?」
⇒勿論、「病理結果が正しい」のです。
それは「画像診断から手術までに大きくなった」訳では無論なく、「画像所見と病理学的浸潤径の乖離にすぎない」と思います。
「手術後の核グレードの検査の方法について、何カ所か検査した中でグレード3の箇所が最も多かったということでしょうか、たまたま見た場所がそうだったということもありますか?」
⇒病変の代表的な部分です。
○冒頭でコメントしたように、針生検で(たまたま)「最も占有面積が小さいのに、最も大人しい管状癌の部分」に「あたってしまった」となりそうです。