[管理番号:2290]
性別:女性
年齢:52歳
乳がんと診断されてから不安や疑問に思うことが尽きず
その度に読ませていただいております。
過去のQ&Aも参考にさせていただいておりますが中々決断できません。
ぜひアドバイスを頂きたく、宜しくお願いいたします。
健康診断で乳がんが見つかり、昨年12月に温存手術をしました。
術後療法として抗がん剤治療を行うかどうか悩んでいます。
病理検査の結果は次の通りです。
invasive lobular ca.(pleomorphic type)
腫瘤の大きさ:20×9×8mm
核グレード:1(異型:2, 核分裂:1)
リンパ節転移なし(センチネル0/3)
断端陰性 ly- v-
ER++ PR+++ Her2++(Fish陰性)
Ki67:38.9%
Ki67が高値のため、抗がん剤+放射線+ホルモン剤での治療を提案されました。
腫瘍内科の先生の説明は、抗がん剤はFEC×3回+ドセタキセル×3回。
B型肝炎ウイルスキャリア(未発症)のため、抗ウイルス薬も投与するとのことです。
私としては、一般的な副作用に加えて肝炎の発症も心配で、抗がん剤を使うことに抵抗があります。
でも再発の危険性が高まる不安もぬぐえません。
手術をしてくださった主治医は、(順序を変えて)先に放射線を始めるので、その間にもう少し考えてみてはとおっしゃいます。
検診でお世話になった別病院のドクターは、ホルモン感受性が高いのでホルモン治療が効果的(放射線も必須)。
小葉癌の場合は抗がん剤の効果を見込むより、今後の検査をまめに行い再発を早期で見つけることに努める方がいいとおっしゃっています。
自分なりにいろいろ調べていると、再発防止のためには抗がん剤もした方がいいのかもしれないと感じてもくるのですが、メリットの方が大きいという確信が持てません。
夫には、副作用が怖くて避ける言い訳を探しているようにも見えると言われました。
確かに怖いです・・・。
また、どの先生も積極的には(抗がん剤の使用を)お勧めにならないのは、本当は必要性が低いからではないのか。
いや、必要だけれど、私が積極的でないので無理強いできないと考えていらっしゃるのか・・・などなど、思いがぐるぐる廻っています。
田澤先生でしたら、この場合、どのような術後療法が最適だと御判断されますか。
たくさんの患者さんを治療され、いろいろな症例を見ていらっしゃる先生の御考えをお聞かせください。
お忙しいところお手数をお掛け致しますが、宜しくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
pT1c(20mm), pN0, luminal, NG1
「Ki67が高値のため、抗がん剤+放射線+ホルモン剤での治療を提案」
⇒luminal Bの範疇なので「妥当」だとは思います。
「腫瘍内科の先生の説明は、抗がん剤はFEC×3回+ドセタキセル×3回。」
⇒聞き間違いでは?
FECx4+DTXx4ではないでしょうか?(3回ずつなど聞いたことがありません)
○ただし、私なら(抗癌剤をやるとしたら)ルミナールタイプに対するレジメンは「TC」とします。
「B型肝炎ウイルスキャリア(未発症)のため、抗ウイルス薬も投与するとのことです。」
⇒勿論です。
更に(肝炎ウイルスの)「DNA量」も監視することになります。
「手術をしてくださった主治医は、(順序を変えて)先に放射線を始めるので、その間にもう少し考えてみてはとおっしゃいます。」
⇒良く使う手です。
「田澤先生でしたら、この場合、どのような術後療法が最適だと御判断されますか。」
⇒質問者は「核グレードが1、かつ、リンパ節転移無」なので「抗がん剤による上乗せ効果が僅か1%」にしかなりません。
この数字から「ホルモン療法単剤」とします。
○質問者のケースでは「ルミナールBであるから、(一応は)抗がん剤の適応」とはなるのですが、「核グレードが低い」ことから「実際の有効性は低い」のです。
質問者様から 【質問2】
小葉癌・ルミナールB・肝炎キャリアでの抗がん剤
おはようございます。
昨日はお忙しいところ早々にお返事をいただき、ありがとうございました。
明確な根拠を示してのアドバイスを頂くことができて、とても心強いです。
放射線+ホルモン療法での治療を希望することを主治医に伝えたいと思います。
御回答を読ませていただき、いくつか新たな疑問な点が出てきてしまったのですが追加でお伺いしても宜しいでしょうか?
○「DNA量の監視」ということを初めて聞いたのですが、それは抗がん剤を使わなくても行っていく必要があるものなのでしょうか。
今後の治療を受けていく際、肝炎キャリアであることで特に気を付けるべき点はありますか。
○「ホルモン療法単剤」が最適とのことですが、具体的には何が最適とお考えでしょうか。
(現在閉経前していません。)
○別の先生から、小葉癌(は再発しやすく多発性)なので今後さらに‘まめ’に検診をするように言われましたが、先生もそうお考えですか。
その場合はマンモ・超音波をどのくらいの頻度でするのがいいと思われますか。
全身的な検査も必要でしょうか。
○(これは治療とは直接関係ない疑問になりますが、気になるので・・・。)
主治医の行動が‘よく使う手’という表現がありましたがどういう意味でしょうか。
主治医は何を意図していると思われますか。
お忙しいところ恐縮ですが、お返事を頂ければ幸いです。
宜しくお願いいたします。
追記:
抗がん剤のレジメンの件ですが、腫瘍内科の先生の治療方針説明書には、やはり
「FEC/3週に1回×3コース + ドセタキセル/3週に1回×3コース」と書かれています・・・。
次回の診察の際、確認してみます。
ただ、これが‘書き間違い’だと、いろいろな面で不安になりますが・・・。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
『○「DNA量の監視」ということを初めて聞いたのですが、それは抗がん剤を使わなくても行っていく必要があるものなのでしょうか。』
⇒「抗がん剤使用時以外には必要ありません」
前の病院では「肝炎専門の消化器内科医」がいたので「DNA定量」を細かくチェックしていました。
「今後の治療を受けていく際、肝炎キャリアであることで特に気を付けるべき点はありますか。」
⇒定量していれば問題ありません。
「○「ホルモン療法単剤」が最適とのことですが、具体的には何が最適とお考えでしょうか。」
⇒タモキシフェン単剤です。
それ以外の選択肢はありません。
「○別の先生から、小葉癌(は再発しやすく多発性)なので今後さらに‘まめ’に検診をするように言われましたが、先生もそうお考えですか。」
⇒術後は「普通に3カ月に1回程度の超音波」をしますが、特に変わりはありません。
「その場合はマンモ・超音波をどのくらいの頻度でするのがいいと思われますか。」
⇒マンモは1年、超音波は3カ月(もしくは半年)でしょう。
「全身的な検査も必要でしょうか。」
⇒不要です。
これも私は「通常通り、3カ月に1回のマーカー採血をします」それで十分です。
「主治医の行動が‘よく使う手’という表現がありましたがどういう意味でしょうか。主治医は何を意図していると思われますか。」
⇒私の表現が誤解を生んだ可能性がありますね。
単に「我々乳腺外科医」がしばしば遭遇する場面として、(病理を説明し、治療方針をお話した際に「化学療法の相談となると、患者さん自身が決心付かない」ことがよくあります。
その場合(どうせ、放射線治療は必須なのだから)「先に放射線照射をして、その間にゆっくり考えてもらおう」と考える訳です。
このようなケースも多いので「患者さんが迷ってしまった際には」『良く使う方法』なのです。
質問者様から 【質問3】
こんばんは。
先日も即日でご回答して頂き本当にありがとうございました。
些細なことに不安になったり疑問に思う患者の気持ちに応えていただき本当に感謝しております。
先週から放射線治療が始まりました。
抗がん剤についての主治医との話し合いはまだなのですが、
田澤先生の御判断も支えに、放射線+ホルモン治療でいこうと考えています。
ただ、正直、副作用が怖いために間違った選択をしようとしているのではないかという不安が今でも全くないわけではありません。
他の選択もあったけれど私はこちらを選んだのだ、という自覚が必要な気がしています。
改めて自分の状況をきちんと把握しておきたいので、度々で申し訳ありませんが質問をさせてください。
○現在の私に適した術後療法は、ガイドライン的には抗がん剤の適応であるが、
検査結果から見ると放射線+ホルモン療法でも大きな差がないと思われると理解していますが間違いないでしょうか。
○オンコタイプDXを薦めてくださる方もいるのですが、これは遺伝子レベルで再発リスクを調べる検査ですよね。
高リスクと出た場合は抗がん剤治療の適応という判断になると思いますが、それは‘≒抗がん剤が効きやすい’という意味でもあるのでしょうか。
○ターゲット療法の考え方からすると、ki67が40%近いというのは抗がん剤の効き目が出やすい
(再発予防効果が高い)ということなのでしょうか。
○前回御回答いただいた‘上乗せ1パーセント’というのは、
‘ホルモンのみ’と‘ホルモン+抗がん剤’の10年生存率の差ですよね。
再発率(無発生生存率?)でみるとどうなるのでしょうか。
先日、医師でなくても使える「PREDICT」という計算サイトを見つけたのですが、
再発率はわかりませんでした。
お手数をお掛け致しますが教えて下さい。
お忙しいところ度々申し訳ありませんが、宜しくお願いいたします。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「○現在の私に適した術後療法は、ガイドライン的には抗がん剤の適応であるが、検査結果から見ると放射線+ホルモン療法でも大きな差がないと思われると理解していますが間違いないでしょうか。」
⇒その通りです。
その乖離の原因は「核グレードが1(特に核分裂が1)」なのにKi67=38.9%と乖離していることと考えられます。
どちらも「細胞分裂をみている」訳ですがアプローチが異なるのです。
ザックリ言うと「Ki67を重視」すると「luminalBとして化学療法の適応」
「核グレードを重視」すると「化学療法の上乗せ効果は低い」となるのです。
「○オンコタイプDXを薦めてくださる方もいるのですが、これは遺伝子レベルで再発リスクを調べる検査ですよね。」
⇒その通りです。
「高リスクと出た場合は抗がん剤治療の適応という判断になると思いますが、それは‘≒抗がん剤が効きやすい’という意味でもあるのでしょうか。」
⇒そのようなデータがあるのです。
それは、「オンコタイプDXでRS(recurrence score)が高値で化学療法の上乗せ効果が高かった(RS低値~中間では上乗せ効果が証明されなかったのに対し)」という統計学的な証明があるのです。
「○ターゲット療法の考え方からすると、ki67が40%近いというのは抗がん剤の効き目が出やすい(再発予防効果が高い)ということなのでしょうか。」
⇒イメージとしてはそうです(証明されていませんが)
「○前回御回答いただいた‘上乗せ1パーセント’というのは、‘ホルモンのみ’と‘ホルモン+抗がん剤’の10年生存率の差ですよね。 再発率(無発生生存率?)でみるとどうなるのでしょうか。」
⇒違います。 再発率の差です。
生存率でみると「化学療法による上乗せ効果はゼロ」です。